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「どういうことなの、アリス……?」

 たまらず、妹の方を見る。
 心臓の音が早金を打つように激しくなり、喉が嫌に渇いた。

 自分でも気づいているはずなのに。
 だってこれはまた、例のアレだから。
 人の物を、……わたしの物を奪っていくあの悪い癖。

「あ……っ」

 アルフレッドの横で酷薄な笑みを浮かべている妹は無言のままこちらを見据え、私に見せつけるかのように彼の腕を取った。
 なにも語らずともその所作だけで理解した。

 ――。

 あの日の発言はそういう意味だったのだと。

「あーあ、空気の読めないリディアのせいで気が削がれたわ。行きましょアル」

「そうだね、今度こそ二人きりになれるところに行こうか。このまま雨も降りそうだし、僕の自室がいいかな」

 待って。
 行かないで。
 私を捨てないで。
 
 ……妹なんか貴方の部屋に入れないで。

 アルフレッドに向かって片手を伸ばすも、彼はこちらに物悲しそうな表情で一瞥いちべつをくれただけで結局は立ち去ることなく去っていった。

「なん……で……」
 
 目の前が真っ暗になる。
 妹にすべて奪われていく。
 両親の愛情も、気のおけない親友も、学園での立場も、そして愛しい婚約者でさえも。
 全部、全部全部全部全部!

「許さない……」

 涙の代わりに、ふと口を突いて出たのはそんな言葉。
 胸の中にドス黒い負の感情が逆巻いているのをはっきりと自覚した。

「絶対に許さない……あの豚!」

 ポツポツと降り始めた雨の音にかき消されないように一人叫ぶ。
 この時私は生まれて初めて妹に、殺意にも似た憎悪を抱いたのだった。
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