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「お願いたすけっ、助けてリディア……リディアお姉様! このままじゃあたしはころされっ」

 男らによって乱暴に床に組み敷かれながらも、縋るような目つきで豚がそう懇願してくる。
 調子にのって人の物をさんざん奪った挙げ句に大事な婚約者にまで手を出そうとした卑しい豚に対し、もちろん私の取る選択は――。

 ◆◆◆

「パンおかわり!」

「……また? ねえアリス、ご飯の食べすぎは体によくないわ。今日はもうそのぐらいにしてこれ以上は控えなさい」
 
「うるさいわね、そんなのあたしの勝手でしょ。ちょっと痩せてるからって調子にのらないで! あんたの小言でせっかくの食事がマズくなるわ」

「そうだぞリディア、本人がもっとたくさん食べたいと言うんだから好きにさせなさい」

「でもよーく噛んで食べるのよ、アリスちゃん。お姉ちゃんに遠慮なんてしなくていいからね」

「お父様お母様、お二人は妹に甘すぎます……」

 一家揃っての食事の際にはこのようなやり取りが毎回行われる。
 その度に悪者にされるのはいつだって自分だ。

 はぁ。
 心の中でため息をつく。

 幼い頃からヴァンディール公爵家の嫡女として厳しく育てられて私とは対象的に、二つ年下の妹は両親からたいそう甘やかされて育った。
 かつて十にも満たなかった私が血豆を作り膝を擦りむきながら習った剣の代わりに、同じ年齢を迎えた妹が必死に握ったのはナイフとフォーク。

 両親の行き過ぎた愛情表現の賜物まじか、はたまた本人の生まれ持った素養なのか、とりわけ食事をすることに並々ならぬ意欲と執着心を見せていた妹は暇さえあれば口に食物を運び、食べては寝、起きては食べての日々。

 その上ひどく運動をいとったこともあり、小さい頃は細く可愛らしかった容姿も月日の経過とともにどこかへ消え失せ、今ではぶくぶくと肥え太り豚の化物オークまごうほどにまでなってしまった。

 ――このままではいけない。

 一人の女としても、由緒正しきヴァンディール家の人間としても、今のうちに矯正しなければ。
 かつての天使のような見た目までとは言わないが、せめてもう少し痩せて社交界でドレスを着て意中の殿方とダンスを踊れるようにはさせたい。

 だからこそ甘やかすばかりで妹の健啖家ぶりを咎めない両親に代わって、姉の私が口をすっぱくしてたしなめるものの結果は先の通り。
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