殿下へ。貴方が連れてきた相談女はどう考えても◯◯からの◯◯ですが、私は邪魔な悪女のようなので黙っておきますね

日々埋没。

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「ふはははは」
 
 王太子ルブランテは傍から見ても分かるほどに浮かれていた。
 理由は単純にして明快。
 かねてより熱を上げて入れ込んでいた男爵令嬢ロゼッタをようやっと手にすることが出来たからである。

 爵位自体はいささか低級だが、隣国出身の絶世の美女ともなれば他の子息を押しのけて根回しをし、何度も口説いた甲斐もあったというもの。

 その上、いけ好かない元婚約者カムシールに婚約の解消を取り付けることに成功し、もうこれで誰に文句を言われる筋合いもない。
 つまり、自分の完全勝利だ。

 思えば昔から彼女は忌々しい存在だった。
 王族である自分よりも物事に聡く、上流階級はおろか下民どもの世情にも精通し男女問わず人々に広く好かれていた。

 しかしそれに比べて自分は王太子としては未熟かつ短絡的で、おおよそ次代の王の器ではないと常に陰口を叩かれてきた。

 他にも王位継承権を持つ第二王子がいるものの順位と体が弱く、次期国王に指名される可能性が限りなく低いことは残念な限りであるとは、はてどの臣下が口にしていたのであったか。

『カムシール様がわたくしだけ無視をなされるのです……』

 そんな折、ロゼッタの方から例のイジメ被害の相談が持ちかけられた。
 正直ルブランテとて、まさかあのカムシールがそんな低俗なことをしていたとは思えなかった。

 だが心を奪われた女からの訴えと、その瞳から流れる涙を見てしまった瞬間、それはルブランテの中で確証なき事実となった。
 灼熱のように滾る義憤の炎と、それから少しの打算が胸中に浮かぶ。

 ――これをネタにあいつに詰め寄れば、公然とロゼッタと交際することができるのではないか?

 かつて馬鹿王子と揶揄されたルブランテは愚かにもそんなことを考えてしまった。
 そして実際に行動へと移した。だが結果は全部想像していた通りには事が運ばなかった。

 あろうことかカムシールは平然と自分との婚約破棄を受け入れたのだ。
 そのことでプライドが傷つけられすこぶる腹が立ったが、同時にこれはチャンスでもあった。

 すべての原因をカムシールに押し付け、相手に対する不信感から此度の婚約解消は妥当だという筋書きにすることができそうだったからだ――と思った矢先、残念ことにカムシールの方からそれを言われてしまった。 

 だからこそつい声を荒げ、結局は勢いに任せて責任の所在をはっきりさせる前に話を切り上げる形となったのは反省すべきところではある。

 だが、まあいい。
 過程はどうであれ、もはやカムシールとは一切の関係性を断ち切ったのだから。

 それよりも、これからのことに思考を巡らせるとしよう。
 もちろんその内容は、『どうやってロゼッタに自然な性交渉の誘いを切り出すか』であるはず、だったのだが。
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