6 / 13
06
しおりを挟む
「国王陛下並びに王妃殿下、この度は私のような身分の者にも拝見の機会を設けていただきまして心より感謝申し上げます」
お二人に傅いて挨拶を済ませたメイドはすっと立ち上がると、続けて今度は私の方に体を向けてふわりと、まったく不自然さを感じさせない所作でカーテシーを行った。
「そしてアースター侯爵家のご令嬢イーリス様におかれましてはお初にお目にかかります。私は、流れのメイドを一人名乗らさせていただいているメリーヌタと申します」
メリーヌタと名乗った女性は、とてもメイドにしておくには勿体ないほどの気品と美貌の持ち主だった。
ただその表情は喜怒哀楽に乏しく、まるで氷の彫像をそのまま削ったかのような印象を受ける。
しかし私がそれよりも気になったのは、彼女が発したこの一言。
「流れのメイド? 聞いたことのない呼称ね」
「はい、特定の主を持たず、ご依頼があればどこにでも赴いてその都度ご契約をさせていただいている出張版使用人のような者とお考えください」
ということは炊事や客人の応対といった一通りの雑務をすべて一人で行う、いわば万能型メイドということか。
「イーリス、そなたは隣国のカドニスタフ王女を知っておるか?」
「ええ、存じております。直接お会いしたことはもちろんございませんが」
カドニスタフ王女といえばこの国でも悪い意味で有名なお方だ。
まるでバイドル様を女性にしたような性格で、数々の貴族ご子息と浮名を流したあげくに父親も分からない子供を身ごもったという。
にも関わらず男遊びはやめなかったというから驚きだ。
それでついたあだ名が国傾きのお転婆王女。
「あれもなかなかの親不孝者であってな、今なら懇意にしている隣国の王の気苦労もよく分かる。なにせ前に顔を合わせた時はやつれておったからなあ」
うわあ、よく感情がこもっておられる。
「しかし、最近では以前の姿とは見違えるように落ち着かれたとお聞きしましたが……」
「そうなのだ。そしてカドニスタフ王女を見事に更生させたのが彼女の教育係を務めあげたそこのメリーヌタなのだ」
「まあそれはすごい!」
「お褒めにあずかりまして恐悦至極に存じます」
私が素直に感心するとメリーヌタも表情はそのままに声だけを弾ませた。
「儂たちも隣国の王女を更生させた腕にあやかりたくてな、こうしてその者にバイドルの教育係を依頼したというわけだ」
なるほど、メリーヌタがここに呼ばれた事情と目的は理解できた。
ただ、そうなると一つだけ生じる懸念がある。
お二人に傅いて挨拶を済ませたメイドはすっと立ち上がると、続けて今度は私の方に体を向けてふわりと、まったく不自然さを感じさせない所作でカーテシーを行った。
「そしてアースター侯爵家のご令嬢イーリス様におかれましてはお初にお目にかかります。私は、流れのメイドを一人名乗らさせていただいているメリーヌタと申します」
メリーヌタと名乗った女性は、とてもメイドにしておくには勿体ないほどの気品と美貌の持ち主だった。
ただその表情は喜怒哀楽に乏しく、まるで氷の彫像をそのまま削ったかのような印象を受ける。
しかし私がそれよりも気になったのは、彼女が発したこの一言。
「流れのメイド? 聞いたことのない呼称ね」
「はい、特定の主を持たず、ご依頼があればどこにでも赴いてその都度ご契約をさせていただいている出張版使用人のような者とお考えください」
ということは炊事や客人の応対といった一通りの雑務をすべて一人で行う、いわば万能型メイドということか。
「イーリス、そなたは隣国のカドニスタフ王女を知っておるか?」
「ええ、存じております。直接お会いしたことはもちろんございませんが」
カドニスタフ王女といえばこの国でも悪い意味で有名なお方だ。
まるでバイドル様を女性にしたような性格で、数々の貴族ご子息と浮名を流したあげくに父親も分からない子供を身ごもったという。
にも関わらず男遊びはやめなかったというから驚きだ。
それでついたあだ名が国傾きのお転婆王女。
「あれもなかなかの親不孝者であってな、今なら懇意にしている隣国の王の気苦労もよく分かる。なにせ前に顔を合わせた時はやつれておったからなあ」
うわあ、よく感情がこもっておられる。
「しかし、最近では以前の姿とは見違えるように落ち着かれたとお聞きしましたが……」
「そうなのだ。そしてカドニスタフ王女を見事に更生させたのが彼女の教育係を務めあげたそこのメリーヌタなのだ」
「まあそれはすごい!」
「お褒めにあずかりまして恐悦至極に存じます」
私が素直に感心するとメリーヌタも表情はそのままに声だけを弾ませた。
「儂たちも隣国の王女を更生させた腕にあやかりたくてな、こうしてその者にバイドルの教育係を依頼したというわけだ」
なるほど、メリーヌタがここに呼ばれた事情と目的は理解できた。
ただ、そうなると一つだけ生じる懸念がある。
68
お気に入りに追加
143
あなたにおすすめの小説
乙女ゲームの正しい進め方
みおな
恋愛
乙女ゲームの世界に転生しました。
目の前には、ヒロインや攻略対象たちがいます。
私はこの乙女ゲームが大好きでした。
心優しいヒロイン。そのヒロインが出会う王子様たち攻略対象。
だから、彼らが今流行りのザマァされるラノベ展開にならないように、キッチリと指導してあげるつもりです。
彼らには幸せになってもらいたいですから。


骸骨と呼ばれ、生贄になった王妃のカタの付け方
ウサギテイマーTK
恋愛
骸骨娘と揶揄され、家で酷い扱いを受けていたマリーヌは、国王の正妃として嫁いだ。だが結婚後、国王に愛されることなく、ここでも幽閉に近い扱いを受ける。側妃はマリーヌの義姉で、公式行事も側妃が請け負っている。マリーヌに与えられた最後の役割は、海の神への生贄だった。
注意:地震や津波の描写があります。ご注意を。やや残酷な描写もあります。

そのご令嬢、婚約破棄されました。
玉響なつめ
恋愛
学校内で呼び出されたアルシャンティ・バーナード侯爵令嬢は婚約者の姿を見て「きたな」と思った。
婚約者であるレオナルド・ディルファはただ頭を下げ、「すまない」といった。
その傍らには見るも愛らしい男爵令嬢の姿がある。
よくある婚約破棄の、一幕。
※小説家になろう にも掲載しています。

正妃である私を追い出し、王子は平民の女性と結婚してしまいました。…ですが、後になって後悔してももう遅いですよ?
久遠りも
恋愛
正妃である私を追い出し、王子は平民の女性と結婚してしまいました。…ですが、後になって後悔してももう遅いですよ?
※一話完結です。
ゆるゆる設定です。
悪役令嬢と言われ冤罪で追放されたけど、実力でざまぁしてしまった。
三谷朱花
恋愛
レナ・フルサールは元公爵令嬢。何もしていないはずなのに、気が付けば悪役令嬢と呼ばれ、公爵家を追放されるはめに。それまで高スペックと魔力の強さから王太子妃として望まれたはずなのに、スペックも低い魔力もほとんどないマリアンヌ・ゴッセ男爵令嬢が、王太子妃になることに。
何度も断罪を回避しようとしたのに!
では、こんな国など出ていきます!

【完結】望んだのは、私ではなくあなたです
灰銀猫
恋愛
婚約者が中々決まらなかったジゼルは父親らに地味な者同士ちょうどいいと言われ、同じ境遇のフィルマンと学園入学前に婚約した。
それから3年。成長期を経たフィルマンは背が伸びて好青年に育ち人気者になり、順調だと思えた二人の関係が変わってしまった。フィルマンに思う相手が出来たのだ。
その令嬢は三年前に伯爵家に引き取られた庶子で、物怖じしない可憐な姿は多くの令息を虜にした。その後令嬢は第二王子と恋仲になり、王子は婚約者に解消を願い出て、二人は真実の愛と持て囃される。
この二人の騒動は政略で婚約を結んだ者たちに大きな動揺を与えた。多感な時期もあって婚約を考え直したいと思う者が続出したのだ。
フィルマンもまた一人になって考えたいと言い出し、婚約の解消を望んでいるのだと思ったジゼルは白紙を提案。フィルマンはそれに二もなく同意して二人の関係は呆気なく終わりを告げた。
それから2年。ジゼルは結婚を諦め、第三王子妃付きの文官となっていた。そんな中、仕事で隣国に行っていたフィルマンが帰って来て、復縁を申し出るが……
ご都合主義の創作物ですので、広いお心でお読みください。
他サイトでも掲載しています。

いつまでも変わらない愛情を与えてもらえるのだと思っていた
奏千歌
恋愛
[ディエム家の双子姉妹]
どうして、こんな事になってしまったのか。
妻から向けられる愛情を、どうして疎ましいと思ってしまっていたのか。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる