1 / 13
01
しおりを挟む
「またですか……」
見慣れた背中に見慣れぬ背中が寄り添っているのを見て、私は大きなため息をついた。
まず初めに見慣れた背中、あれはこの国の第一王子、バイドル様のものだろう。
続いて見慣れぬ背中は、おそらく新たな囲いの女性だと思われる。
私の婚約者であるバイドル様はまったくもって女癖が悪い。
頭ではなく下半身で物事を考えるいわゆる色男で、これまでに浮気をした女性は数しれず。
当然清い交際であるはずもないから、いずれの女性とも肉体関係をもってはすぐに飽きて捨てるということを何度も繰り返し、王族という立場を傘に幾人もの女性を泣き寝入りさせてきた真正の屑である。
……なんて無礼かもしれないが、こうも堂々と浮気をされるのであれば彼に対する評価も相応のものになるのも当然。
確かに見てくれはいい。さすが絶世の美男子と呼ばれるだけのことはある。
残念なことに中身は性欲の塊だけども。
まあそれはそれとして、見つけてしまった以上は嫌でもあれに挨拶せざるを得ない。
元々本日は王妃教育の一環で王宮を訪れただけなのだが、一応目の前にいる浮気相手にも警告はしておかなければならないだろうし。
「お待ちくださいバヵイドル様!」
こっそりと蔑称を交えつつお呼びたてすると、バイドル様は「あん?」と気だるげそうにこちらに振り返った。
「なんだイーリスか、ちょうどよかった。お前に話があったんだ。お前、俺と婚約破棄な?」
突然のお申し付けに思わず「はい、喜んで!」と口にしてしまいそうになったが、慌てて言葉を飲み込む。
「んじゃ、話も終わったしお前帰っていいよ」
「申しわけございませんがいくらなんでもお話が急すぎます。仮に婚約破棄を受け入れるにしてもせめてその理由だけでもお聞かせください」
バイドル様には未練も好意もさらさらないし、婚約破棄の件に関しても向こうがその気なら断るつもりはないが、周りが納得してくれる理由さえあれば面倒ごとにならないと思っていたのに。
「あ? だってお前、ヤラせてくれねーじゃん。セ◯クスできない女なんか別れるだろ、フツー」
「は?」
バイドル様から聞かされたあんまりな理由に、私も空いた口が塞がらない。
ヤラせてくれない――つまり身持ちが固いから婚約破棄されるとは前代未聞の話だ。
こんなことを双方の家に説明して回らなければならないの? ちょっと勘弁願いたい。
見慣れた背中に見慣れぬ背中が寄り添っているのを見て、私は大きなため息をついた。
まず初めに見慣れた背中、あれはこの国の第一王子、バイドル様のものだろう。
続いて見慣れぬ背中は、おそらく新たな囲いの女性だと思われる。
私の婚約者であるバイドル様はまったくもって女癖が悪い。
頭ではなく下半身で物事を考えるいわゆる色男で、これまでに浮気をした女性は数しれず。
当然清い交際であるはずもないから、いずれの女性とも肉体関係をもってはすぐに飽きて捨てるということを何度も繰り返し、王族という立場を傘に幾人もの女性を泣き寝入りさせてきた真正の屑である。
……なんて無礼かもしれないが、こうも堂々と浮気をされるのであれば彼に対する評価も相応のものになるのも当然。
確かに見てくれはいい。さすが絶世の美男子と呼ばれるだけのことはある。
残念なことに中身は性欲の塊だけども。
まあそれはそれとして、見つけてしまった以上は嫌でもあれに挨拶せざるを得ない。
元々本日は王妃教育の一環で王宮を訪れただけなのだが、一応目の前にいる浮気相手にも警告はしておかなければならないだろうし。
「お待ちくださいバヵイドル様!」
こっそりと蔑称を交えつつお呼びたてすると、バイドル様は「あん?」と気だるげそうにこちらに振り返った。
「なんだイーリスか、ちょうどよかった。お前に話があったんだ。お前、俺と婚約破棄な?」
突然のお申し付けに思わず「はい、喜んで!」と口にしてしまいそうになったが、慌てて言葉を飲み込む。
「んじゃ、話も終わったしお前帰っていいよ」
「申しわけございませんがいくらなんでもお話が急すぎます。仮に婚約破棄を受け入れるにしてもせめてその理由だけでもお聞かせください」
バイドル様には未練も好意もさらさらないし、婚約破棄の件に関しても向こうがその気なら断るつもりはないが、周りが納得してくれる理由さえあれば面倒ごとにならないと思っていたのに。
「あ? だってお前、ヤラせてくれねーじゃん。セ◯クスできない女なんか別れるだろ、フツー」
「は?」
バイドル様から聞かされたあんまりな理由に、私も空いた口が塞がらない。
ヤラせてくれない――つまり身持ちが固いから婚約破棄されるとは前代未聞の話だ。
こんなことを双方の家に説明して回らなければならないの? ちょっと勘弁願いたい。
60
お気に入りに追加
144
あなたにおすすめの小説

幼い頃に魔境に捨てたくせに、今更戻れと言われて戻るはずがないでしょ!
克全
恋愛
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。
ニルラル公爵の令嬢カチュアは、僅か3才の時に大魔境に捨てられた。ニルラル公爵を誑かした悪女、ビエンナの仕業だった。普通なら獣に喰われて死にはずなのだが、カチュアは大陸一の強国ミルバル皇国の次期聖女で、聖獣に護られ生きていた。一方の皇国では、次期聖女を見つけることができず、当代の聖女も役目の負担で病み衰え、次期聖女発見に皇国の存亡がかかっていた。

婚約破棄で見限られたもの
志位斗 茂家波
恋愛
‥‥‥ミアス・フォン・レーラ侯爵令嬢は、パスタリアン王国の王子から婚約破棄を言い渡され、ありもしない冤罪を言われ、彼女は国外へ追放されてしまう。
すでにその国を見限っていた彼女は、これ幸いとばかりに別の国でやりたかったことを始めるのだが‥‥‥
よくある婚約破棄ざまぁもの?思い付きと勢いだけでなぜか出来上がってしまった。

妹に婚約者を奪われ、聖女の座まで譲れと言ってきたので潔く譲る事にしました。〜あなたに聖女が務まるといいですね?〜
雪島 由
恋愛
聖女として国を守ってきたマリア。
だが、突然妹ミアとともに現れた婚約者である第一王子に婚約を破棄され、ミアに聖女の座まで譲れと言われてしまう。
国を頑張って守ってきたことが馬鹿馬鹿しくなったマリアは潔くミアに聖女の座を譲って国を離れることを決意した。
「あ、そういえばミアの魔力量じゃ国を守護するの難しそうだけど……まぁなんとかするよね、きっと」
*この作品はなろうでも連載しています。

婚約者の命令により魔法で醜くなっていた私は、婚約破棄を言い渡されたので魔法を解きました
天宮有
恋愛
「貴様のような醜い者とは婚約を破棄する!」
婚約者バハムスにそんなことを言われて、侯爵令嬢の私ルーミエは唖然としていた。
婚約が決まった際に、バハムスは「お前の見た目は弱々しい。なんとかしろ」と私に言っていた。
私は独自に作成した魔法により太ることで解決したのに、その後バハムスは婚約破棄を言い渡してくる。
もう太る魔法を使い続ける必要はないと考えた私は――魔法を解くことにしていた。


冷遇された王妃は自由を望む
空橋彩
恋愛
父を亡くした幼き王子クランに頼まれて王妃として召し上げられたオーラリア。
流行病と戦い、王に、国民に尽くしてきた。
異世界から現れた聖女のおかげで流行病は終息に向かい、王宮に戻ってきてみれば、納得していない者たちから軽んじられ、冷遇された。
夫であるクランは表情があまり変わらず、女性に対してもあまり興味を示さなかった。厳しい所もあり、臣下からは『氷の貴公子』と呼ばれているほどに冷たいところがあった。
そんな彼が聖女を大切にしているようで、オーラリアの待遇がどんどん悪くなっていった。
自分の人生よりも、クランを優先していたオーラリアはある日気づいてしまった。
[もう、彼に私は必要ないんだ]と
数人の信頼できる仲間たちと協力しあい、『離婚』して、自分の人生を取り戻そうとするお話。
貴族設定、病気の治療設定など出てきますが全てフィクションです。私の世界ではこうなのだな、という方向でお楽しみいただけたらと思います。

婚約破棄……そちらの方が新しい聖女……ですか。ところで殿下、その方は聖女検定をお持ちで?
Ryo-k
ファンタジー
「アイリス・フローリア! 貴様との婚約を破棄する!」
私の婚約者のレオナルド・シュワルツ王太子殿下から、突然婚約破棄されてしまいました。
さらには隣の男爵令嬢が新しい聖女……ですか。
ところでその男爵令嬢……聖女検定はお持ちで?

婚約破棄?とっくにしてますけど笑
蘧饗礪
ファンタジー
ウクリナ王国の公爵令嬢アリア・ラミーリアの婚約者は、見た目完璧、中身最悪の第2王子エディヤ・ウクリナである。彼の10人目の愛人は最近男爵になったマリハス家の令嬢ディアナだ。
さて、そろそろ婚約破棄をしましょうか。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる