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救済ルート
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あの日からいくつか月日が経った。
案の定無事生還を果たしたマッディだったが、コルダータのおかげで提示できた証拠品によって私とロアンナ殺害未遂の容疑で逮捕された。
その際、真相を知って怒り心頭の私の父による連座を恐れたマッディの家族からあっさりと廃嫡されたことで、彼は平民扱いで投獄された。
だからこそ平民による貴族殺害未遂という重罪に罪状が変わり、現在の彼は断首刑の執行を待つ死刑囚だ。
それにともない、マッディのせいでかけられた冤罪によるコルダータの名誉も回復した。
あの状況的に勘違いしてもおかしくはないとはいえ父には彼女に対する謝罪を求めるとともに、その背中に刻まれた傷の皮膚治療費援助の約束を取り付けさせることにも成功した。
ただこれに関して本人は「名誉の負傷ですのでお気になさらずに」なんて辞退しようとするものだから、ついお互い意地の押し付け合いになってしまったことはここだけの話。
そしてロアンナのその後だけど――。
「おはようございますアンティーラ様、気持ちの良い朝ですよ」
ひとまず我が家専属の使用人として改めて雇用している。
どうせマッディの元実家に返したところで彼の共犯者として今回の事件の責任を押し付けられ、分かりやすい形で処分されるであろうことは想像に難くないからだ。
行き場のない彼女に同情したわけでもないが、せっかく我が身を賭して助けた命をわざわざ蔑ろにすることはできなかった。
ゆえに被害者の私が見受け人に名乗りを上げたことでしぶしぶ向こうもロアンナの処分を諦めたらしく、その恩義も感じてか彼女もまた以前とは態度を改めて私に仕えてくれている。
ただ、それはいいのだが……。
「ああ、今日も変わらずアンティーラ様は最高に素敵ですね! そんなお方に仕えられてわたしはなんて幸せなのでしょう! というわけで本日もわたしの方でアンティーラ様に近づく蛆虫どもの縁談は断っておきましたので、これで心置きなく二人でイチャイ……お仕事ができますね!」
花の咲いたような笑顔でとんでもないことを口にするロアンナ。
「ちょっと貴方いい加減にしなさいな、私に内緒で何勝手に縁談を断っているのよ。婚約が破談になった以上、次の相手を探さないと」
「だってだってぇ、わたしとアンティーラ様との甘いひとときを邪魔する男なんていりません!」
「はあ……」
どうやら溺れていたロアンナを命がけで助ける私の姿に当てられたようで、彼女に新たな世界の扉を開かせてしまったらしい。
だからってこちらを巻き込むのはやめてほしいが、まあ正直私もマッディとの一件を引きずっているらしく、口で言うほど新たな出会いを求めているわけではない。
「わたしは真実の愛に目覚めたんですっ! でも今にして思えば婚約者同士の仲を引き裂くつもりだったとはいえ、どうして妊娠した振りまでしてマッディなんかとの関係を続けようとしていたんでしょう。わたしの本当の居場所はアンティーラ様のところにあったというのに! そして運命の相手もまた同じところにいました。ですからさあアンティーラ様、こちらの愛の巣でわたしと一緒に禁断の愛を育みましょう――」
とりあえず暴走、もとい妄想を垂れ流しながらベッドを指し示すロアンナを無視して、呼び出し用の鈴を鳴らす。
するとパタパタと足音が廊下から聞こえ、すぐにコルダータがやって来た。
「お呼びですかアンティーラ様」
「そこの倒錯メイドを連れ出して頂戴。どうやら私の邪魔をしたくてたまらないらしいから」
「了解いたしました。ではロアンナ参りますよ。先輩メイドとしてアナタには我が家にふさわしい立ち振舞いができるように再教育してあげます」
「いやーっコルダータお姉様の顔が怖い、さてはわたしとアンティーラ様の仲に嫉妬して……」
犬の散歩のように引きずられていくロアンナは追いすがる目を私に向けていたが、最後には観念したように去っていった。
「やれやれ……」
同居していた人間が一人減って少し広くなった我が家は、けれどその穴を埋めるようにちょっとだけ騒がしくもなった。
以前にはなかった活気に満ちあふれ、弛緩した雰囲気によってようやく伸び伸びと当主としての仕事に邁進できるようになった。
そこに至るまでの道すがらは残念だったが最後に手にしたこの結末は、きっと幸せで正解の道に違いない。
だから今なら胸を張って言えることだろう。
私たちを取巻く物語の決着はこれで良かったのだと。
(了)
________
というわけでこれにて救済ルートの方も終了となります。
終わってみると、断罪ルートに比べてもっとも救済されたのはロアンナであることはまず間違いありません。
作者自身、最初はその予定がなかったのですが途中からマッディに虐げられる彼女があまりにも不憫に思い、なんとか別の形でハッピーエンドを迎えさせることになりました。
最後になりますが、ここまで本作にお付きあいくださった読者の皆様、ありがとうございます。
……最後と言いつつちょっとだけ本当の最後に登場人物の補足をして終わりたいと思います。
アンティーラがかつてマッディに抱いた初恋はたんに危ない所を彼に助けられたことによる所謂吊り橋効果(つまり勘違い)。
マッディはイタズラのつもりでアンティーラを突き飛ばしたらそのまま目の前で溺れてしまい、ガチで焦って助けたら感謝されたので後に今回の計画を思いついた(自作自演)。
ロアンナから勝手に婚約解消を申し出たのは、アンティーラとマッディが正式に結婚したら自分は邪魔になって追い出されると思ったから。断罪ルートの妊娠は実は想像妊娠だった。
コルダータはずっとマッディに対して不信感を抱いていたが、アンティーラのこともあり隠していた。ただ正直マッディには恨みを抱いており、ひそかに復讐の機会を伺っていた。
――以上です。この辺りを頭に入れてからもう本作を読み返してもらえれば幸いです。
それではまた、別の作品で皆様と会えることを願って。
日々埋没。
案の定無事生還を果たしたマッディだったが、コルダータのおかげで提示できた証拠品によって私とロアンナ殺害未遂の容疑で逮捕された。
その際、真相を知って怒り心頭の私の父による連座を恐れたマッディの家族からあっさりと廃嫡されたことで、彼は平民扱いで投獄された。
だからこそ平民による貴族殺害未遂という重罪に罪状が変わり、現在の彼は断首刑の執行を待つ死刑囚だ。
それにともない、マッディのせいでかけられた冤罪によるコルダータの名誉も回復した。
あの状況的に勘違いしてもおかしくはないとはいえ父には彼女に対する謝罪を求めるとともに、その背中に刻まれた傷の皮膚治療費援助の約束を取り付けさせることにも成功した。
ただこれに関して本人は「名誉の負傷ですのでお気になさらずに」なんて辞退しようとするものだから、ついお互い意地の押し付け合いになってしまったことはここだけの話。
そしてロアンナのその後だけど――。
「おはようございますアンティーラ様、気持ちの良い朝ですよ」
ひとまず我が家専属の使用人として改めて雇用している。
どうせマッディの元実家に返したところで彼の共犯者として今回の事件の責任を押し付けられ、分かりやすい形で処分されるであろうことは想像に難くないからだ。
行き場のない彼女に同情したわけでもないが、せっかく我が身を賭して助けた命をわざわざ蔑ろにすることはできなかった。
ゆえに被害者の私が見受け人に名乗りを上げたことでしぶしぶ向こうもロアンナの処分を諦めたらしく、その恩義も感じてか彼女もまた以前とは態度を改めて私に仕えてくれている。
ただ、それはいいのだが……。
「ああ、今日も変わらずアンティーラ様は最高に素敵ですね! そんなお方に仕えられてわたしはなんて幸せなのでしょう! というわけで本日もわたしの方でアンティーラ様に近づく蛆虫どもの縁談は断っておきましたので、これで心置きなく二人でイチャイ……お仕事ができますね!」
花の咲いたような笑顔でとんでもないことを口にするロアンナ。
「ちょっと貴方いい加減にしなさいな、私に内緒で何勝手に縁談を断っているのよ。婚約が破談になった以上、次の相手を探さないと」
「だってだってぇ、わたしとアンティーラ様との甘いひとときを邪魔する男なんていりません!」
「はあ……」
どうやら溺れていたロアンナを命がけで助ける私の姿に当てられたようで、彼女に新たな世界の扉を開かせてしまったらしい。
だからってこちらを巻き込むのはやめてほしいが、まあ正直私もマッディとの一件を引きずっているらしく、口で言うほど新たな出会いを求めているわけではない。
「わたしは真実の愛に目覚めたんですっ! でも今にして思えば婚約者同士の仲を引き裂くつもりだったとはいえ、どうして妊娠した振りまでしてマッディなんかとの関係を続けようとしていたんでしょう。わたしの本当の居場所はアンティーラ様のところにあったというのに! そして運命の相手もまた同じところにいました。ですからさあアンティーラ様、こちらの愛の巣でわたしと一緒に禁断の愛を育みましょう――」
とりあえず暴走、もとい妄想を垂れ流しながらベッドを指し示すロアンナを無視して、呼び出し用の鈴を鳴らす。
するとパタパタと足音が廊下から聞こえ、すぐにコルダータがやって来た。
「お呼びですかアンティーラ様」
「そこの倒錯メイドを連れ出して頂戴。どうやら私の邪魔をしたくてたまらないらしいから」
「了解いたしました。ではロアンナ参りますよ。先輩メイドとしてアナタには我が家にふさわしい立ち振舞いができるように再教育してあげます」
「いやーっコルダータお姉様の顔が怖い、さてはわたしとアンティーラ様の仲に嫉妬して……」
犬の散歩のように引きずられていくロアンナは追いすがる目を私に向けていたが、最後には観念したように去っていった。
「やれやれ……」
同居していた人間が一人減って少し広くなった我が家は、けれどその穴を埋めるようにちょっとだけ騒がしくもなった。
以前にはなかった活気に満ちあふれ、弛緩した雰囲気によってようやく伸び伸びと当主としての仕事に邁進できるようになった。
そこに至るまでの道すがらは残念だったが最後に手にしたこの結末は、きっと幸せで正解の道に違いない。
だから今なら胸を張って言えることだろう。
私たちを取巻く物語の決着はこれで良かったのだと。
(了)
________
というわけでこれにて救済ルートの方も終了となります。
終わってみると、断罪ルートに比べてもっとも救済されたのはロアンナであることはまず間違いありません。
作者自身、最初はその予定がなかったのですが途中からマッディに虐げられる彼女があまりにも不憫に思い、なんとか別の形でハッピーエンドを迎えさせることになりました。
最後になりますが、ここまで本作にお付きあいくださった読者の皆様、ありがとうございます。
……最後と言いつつちょっとだけ本当の最後に登場人物の補足をして終わりたいと思います。
アンティーラがかつてマッディに抱いた初恋はたんに危ない所を彼に助けられたことによる所謂吊り橋効果(つまり勘違い)。
マッディはイタズラのつもりでアンティーラを突き飛ばしたらそのまま目の前で溺れてしまい、ガチで焦って助けたら感謝されたので後に今回の計画を思いついた(自作自演)。
ロアンナから勝手に婚約解消を申し出たのは、アンティーラとマッディが正式に結婚したら自分は邪魔になって追い出されると思ったから。断罪ルートの妊娠は実は想像妊娠だった。
コルダータはずっとマッディに対して不信感を抱いていたが、アンティーラのこともあり隠していた。ただ正直マッディには恨みを抱いており、ひそかに復讐の機会を伺っていた。
――以上です。この辺りを頭に入れてからもう本作を読み返してもらえれば幸いです。
それではまた、別の作品で皆様と会えることを願って。
日々埋没。
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