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救済ルート
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ある秘め事? まさかそれって……。
「……っ⁉ おい待てお前、なにを口にする気だ。僕の名誉に関わることだって? これ以上面倒を招く発言は許さないぞ!」
「口を閉じなさいマッディ。反論があるのなら、まずは彼女の話を聞いてからにして。コルダータも私たちに遠慮することはないわ」
突然慌て始めた彼を右手で制し、コルダータに発言を促す。
「お心遣い痛み入ります。――わたくしが今から申し上げることは、十年前のことについてです」
それにしても、このタイミングでコルダータがあの日のことについて語り始めるだなんて。
「ロアンナと同じように十年前にこの場所で水難事故に遭われたアンティーラ様のことを想うと、今でも胸が締めつけられます。わたくしが近くにいながら、どうしてあのような怖い目に遭わせてしまったのかと。主を放置するなど侍女失格だと言われれば返す言葉もありません。ですが……」
そこまで話したところで、コルダータの疑念のまなざしがマッディに向けられる。
「あの時わたくしはたまたまその場に居合わせたマッディ様からアンティーラ様と二人きりにするように申し付けられたのです」
コルダータの言うようにマッディと二人きりで遊んだ記憶はあるけど、まさか裏でそんな事情があったとはね。
「当時侍女としての経験が浅かったわたくしは、貴族のご子息様からのお申し付けに反することはできませんでした。そして言われるがまま指示に従った直後、あの忌まわしい事故が起きました」
「うっ……!」
横目でマッディの目が泳ぐのを確認する。
告発の内容に明らかに動揺しているみたい。
「た、確かに二人きりにしろとは言ったが……、まさかお前、僕がやったとでも言うのか?」
「いえ、実際にその瞬間を目撃したわけではないので断言は出来かねます。……しかし、この状況はロアンナのそれとあまりに酷似していると思いませんか? そして彼女は貴方様に湖に突き飛ばされたと言っています。ですから疑う余地は十分あるかと」
カチリとパズルのピースがはまる感覚に陥る。
コルダータの言うように私とロアンナで色々と似通っている部分が多い。
直前までで現場での目撃者はおらず、いずれもマッディと二人きりの時に溺れているのは偶然と呼ぶにはあまりに都合が良すぎる。
「ふ、ふざけるな! お前、ロアンナの話に便乗して僕を陥れるつもりだろう⁉ 自分のミスを僕に責任転嫁しようたってそうはいかないぞ! ねえアンティーラ、君なら分かってくれるだろう⁉ 僕はやってないって、無実だって!」
悪いけど、嘘つきな貴方とコルダータなら自分の侍女のことを信じるわマッディ。
でもそれ以上に、コルダータとロアンナの証言のおかげで私の中に一つの答えが産まれるのよ。
「……あの時のことは今でもたまに夢に見るわ。そしてずっと疑問に思っていた、どうして私は足を滑らせてしまったのかと」
「だからそれはただの不幸な事故で――」
「いいえマッディ、貴方が私を事故に見せかけて湖に突き飛ばしたのよね? 水の中へ落ちる直前に私は両手を前に突き出している貴方の姿を見たわ。これまではずっと自分の記憶違いだと思っていたけど、そうじゃなかったのね」
本音を言えば彼には否定してほしかった。
そうじゃない、あれは本当にただの不幸な事故だったと。
これまでずっと嘘をつかれていたものの、唯一そこだけは嘘であってほしかった。
けれどもマッディの返答は残念ながら私が期待していたものではなく。
「――ああそうだよアンティーラ、君を湖に突き飛ばしたのは僕だ。まったく、気づかない振りをしていればいいものの」
とうとう、己の行為を認めた。
憎々しげに顔を歪めながら、私を――正確には私の両側に視線を左右させながら吐き捨てる。
「それもこれもロアンナ、お前がさっさと死んでいれば良かったんだ。……いや、それを言ったらそこのお喋りな使用人もいなけりゃ秘密がバレずに済んだのに。ちっ、ああもうクソが! これで僕の計画が全部水の泡だ!」
これまで見せたことのない醜悪な表情で二人を罵る様は、私がこれまで抱いていたマッディへの人物像を完全に崩壊させるに十分過ぎた。
「お前も黙って騙されていればよかったんだよ、アンティーラ! そうすればお互いに幸せだったのに!」
「ふざけないで! 貴方の身勝手な行いのせいで私だけでなくコルダータがどんな目に遭ったのか理解しているの⁉」
「は? そんなの僕が知るかよ!」
言わずにはいられなかった。
こんな酷い男のせいでコルダータはいたずらに信用を傷つけられ、それから消せない傷まで負う羽目になるだなんて彼女からしてみればあまりに理不尽過ぎる。
「……貴方、絶対に許さないわ」
「……っ⁉ おい待てお前、なにを口にする気だ。僕の名誉に関わることだって? これ以上面倒を招く発言は許さないぞ!」
「口を閉じなさいマッディ。反論があるのなら、まずは彼女の話を聞いてからにして。コルダータも私たちに遠慮することはないわ」
突然慌て始めた彼を右手で制し、コルダータに発言を促す。
「お心遣い痛み入ります。――わたくしが今から申し上げることは、十年前のことについてです」
それにしても、このタイミングでコルダータがあの日のことについて語り始めるだなんて。
「ロアンナと同じように十年前にこの場所で水難事故に遭われたアンティーラ様のことを想うと、今でも胸が締めつけられます。わたくしが近くにいながら、どうしてあのような怖い目に遭わせてしまったのかと。主を放置するなど侍女失格だと言われれば返す言葉もありません。ですが……」
そこまで話したところで、コルダータの疑念のまなざしがマッディに向けられる。
「あの時わたくしはたまたまその場に居合わせたマッディ様からアンティーラ様と二人きりにするように申し付けられたのです」
コルダータの言うようにマッディと二人きりで遊んだ記憶はあるけど、まさか裏でそんな事情があったとはね。
「当時侍女としての経験が浅かったわたくしは、貴族のご子息様からのお申し付けに反することはできませんでした。そして言われるがまま指示に従った直後、あの忌まわしい事故が起きました」
「うっ……!」
横目でマッディの目が泳ぐのを確認する。
告発の内容に明らかに動揺しているみたい。
「た、確かに二人きりにしろとは言ったが……、まさかお前、僕がやったとでも言うのか?」
「いえ、実際にその瞬間を目撃したわけではないので断言は出来かねます。……しかし、この状況はロアンナのそれとあまりに酷似していると思いませんか? そして彼女は貴方様に湖に突き飛ばされたと言っています。ですから疑う余地は十分あるかと」
カチリとパズルのピースがはまる感覚に陥る。
コルダータの言うように私とロアンナで色々と似通っている部分が多い。
直前までで現場での目撃者はおらず、いずれもマッディと二人きりの時に溺れているのは偶然と呼ぶにはあまりに都合が良すぎる。
「ふ、ふざけるな! お前、ロアンナの話に便乗して僕を陥れるつもりだろう⁉ 自分のミスを僕に責任転嫁しようたってそうはいかないぞ! ねえアンティーラ、君なら分かってくれるだろう⁉ 僕はやってないって、無実だって!」
悪いけど、嘘つきな貴方とコルダータなら自分の侍女のことを信じるわマッディ。
でもそれ以上に、コルダータとロアンナの証言のおかげで私の中に一つの答えが産まれるのよ。
「……あの時のことは今でもたまに夢に見るわ。そしてずっと疑問に思っていた、どうして私は足を滑らせてしまったのかと」
「だからそれはただの不幸な事故で――」
「いいえマッディ、貴方が私を事故に見せかけて湖に突き飛ばしたのよね? 水の中へ落ちる直前に私は両手を前に突き出している貴方の姿を見たわ。これまではずっと自分の記憶違いだと思っていたけど、そうじゃなかったのね」
本音を言えば彼には否定してほしかった。
そうじゃない、あれは本当にただの不幸な事故だったと。
これまでずっと嘘をつかれていたものの、唯一そこだけは嘘であってほしかった。
けれどもマッディの返答は残念ながら私が期待していたものではなく。
「――ああそうだよアンティーラ、君を湖に突き飛ばしたのは僕だ。まったく、気づかない振りをしていればいいものの」
とうとう、己の行為を認めた。
憎々しげに顔を歪めながら、私を――正確には私の両側に視線を左右させながら吐き捨てる。
「それもこれもロアンナ、お前がさっさと死んでいれば良かったんだ。……いや、それを言ったらそこのお喋りな使用人もいなけりゃ秘密がバレずに済んだのに。ちっ、ああもうクソが! これで僕の計画が全部水の泡だ!」
これまで見せたことのない醜悪な表情で二人を罵る様は、私がこれまで抱いていたマッディへの人物像を完全に崩壊させるに十分過ぎた。
「お前も黙って騙されていればよかったんだよ、アンティーラ! そうすればお互いに幸せだったのに!」
「ふざけないで! 貴方の身勝手な行いのせいで私だけでなくコルダータがどんな目に遭ったのか理解しているの⁉」
「は? そんなの僕が知るかよ!」
言わずにはいられなかった。
こんな酷い男のせいでコルダータはいたずらに信用を傷つけられ、それから消せない傷まで負う羽目になるだなんて彼女からしてみればあまりに理不尽過ぎる。
「……貴方、絶対に許さないわ」
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