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 マッディと初めて出会ったその湖を訪れるのはかれこれ十年ぶりになる。

 マッディたってのお願いでもなければこうして再びこの地に足を運ぶこともなかったのかもしれない。

 もっともここでそのきっかけを作った彼に別れを告げることになるのだが……。

「どうして彼女までいるのかしら? 別に文句があるわけではないけれど」

 目線の先にはロアンナがいた。いつものようにフリルの付いたメイド衣装を身にまといながら、涼しげな微笑みを口元に浮かべていた。

 私やマッディに対し腹に据えかねている様子は見受けられず、波の立たない水面のように静か。

 てっきり本日の行楽の目的を聞かされて怒りを覚えているのかと思っていたが、まさかマッディは彼女になんの説明もしていないのだろうか?

「すまないアンティーラ、今日のことを話したらロアンナが自分もついていくってしつこくてさ。だけど安心して、僕が全部終わらせるから」  

 果たしてなにをどう終わらせるつもりなのか。

 ただ、それを彼に尋ねることは憚られた。

 こちらはこちらで、二人に気を揉んでいる場合ではない。

 マッディとの関係を整理し、昨日今日意図せず開けてしまった仕事の穴埋めを早々にしなければならないのだから。

 ◆

 その後これといって特になにかあったわけでもなく、表面上は穏やかな時間が流れた。

 水辺に飛来する野鳥を観察したり、自然の音に耳を澄ませたりと、どうせならこの機会とばかりに心身のリフレッシュにあてさせてもらった。

 まあ体はともかく、心の方まで休めるかどうか心配だったが、それも杞憂に終わった。

 その間のマッディといえば、これまた不思議なことに来る前と違い今度は落ち着いた様子で私とコルダータの後ろをロアンナと一緒にカルガモの親子よろしく付いてくるだけで、あとはほとんど言葉数もなかった。

 そんな彼らも今は「二人だけで話がしたい」と席を外しており、コルダータが昼食の用意をしている音だけがひっそりと響いている。

 心地よい風に揺られながらこのまま何事もなく済めばいいと考えていた矢先、林の先にある湖のほとりから突然叫び声が聞こえてきた。

 コルダータと目が合うと過去を思い出したのか一瞬だけ不安の表情を覗かせたものの、すぐに唇を引き結んで平静を装う。

 おかげで私も取り乱さないで冷静さを保つことができた。

「今の悲鳴、もしやお二人の身になにかあったのでしょうか? わたくしが確認して参ります」

「待ってコルダータ、私も行くわ。もしもの事態にあっても一人でも人の手があればできることは増えるでしょ?」

「……分かりましたアンティーラ様、ですが無茶だけは決してしないでください」

「ええもちろん、それより急ぐわよ!」

 コルダータを連れ立って急いで声のした方向に走っていく。

 幸い距離はそう遠くなく、走り始めてから数分も経たないうちに現場が見えてきた。

 その先にいたのは――マッディだけ? 一緒にいるはずのロアンナはどこに?
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