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「とりあえず前から言ってるように彼女はただの侍従で、僕たちの間に君が考えているようなことはなんにもないって何度言えば分かるんだい? まったく、女の嫉妬は見苦しいよ? こうやってわざわざ呼び出したりまでして、一体僕のなにが不満だと言うんだ。君の命の恩人だというのに」
女の嫉妬、嫉妬ねぇ。
確かにそれはあるかもしれない。だけど当然の話ではないだろうか。
婚約者を蔑ろにして、自分は平気で他の女性とスキンシップ。
変に勘繰ってしまうからそういう行為はやめてほしいと訴えれば逆にこちらが悪者扱い。
これでは不満だって抱くに決まっている。
ええそうよ、それもこれもすべて貴方の意志がはっきりしないからいけないの。
だから聞かせてマッディ、貴方の本音を。
「その彼女が言っていたわよ。マッディの本命はあくまでも自分であり、私は政略結婚の相手に過ぎないって。あとはそうね、私との婚約解消も実は望んでいるとまで言っていたわね」
「ロアンナが……?」
彼女の名前を出した途端、マッディの顔が今度こそこわばった。
「いや違うんだよアンティーラ、そんなのは本人が勝手にそう思い込んでいるだけで僕には別れるつもりはないし、本当に好きなのは君だけだよ。これまでに目にしてきたどんな宝石よりも綺麗でどこの貴金属よりも輝いていてどのビスクドールよりも愛らしい。だからそんな君と婚約した幸せを毎日噛み締めている僕に水を差すようなことは言わないでおくれよ」
お飾りのように言葉を取り繕って、その証拠と言わんばかりに慌てて私を抱きしめるマッディ。
いくら婚約者とはいえ、許可なく体に触れないでと突き飛ばすことはもちろん可能だが、あえてそのままの状態でそっと彼に耳打ちをする。
「でも、浮気していたのは事実なのでしょう?」
「それは――、うん、正直否定はできない。君が仕事ばっかりで僕に構ってくれなかったからつい寂しくて。不安にさせてしまってごめんよ。けど僕の本命は君だけだ、これだけは信じてほしい」
……ずいぶんあっさりと認めるのね。
かねてから口で不貞こそを疑いつつも、心の底では貴方のことを信じていたのに。
浮気性の男が言う『これだけは信じてほしい』にいかほどの信憑性があると思っているのか。
もちろん有責はマッディ側にあるから慰謝料の支払いを含めて婚約破棄を申し込めば、すぐさま受理されることだろう。
しかし後にはどうしても婚約者に浮気をされた伯爵令嬢という醜聞がついて回る。どんなに私に否がないとしてもだ。
ただでさえ女性当主に対する世間の風当たりは好ましいものではなく、少しでも不安要素は取り除いておきたい。
よってこの際辛いけれど、マッディの火遊びは見なかったことにして関係を修復するのが双方にとって最善の方法ではあった。
「なら、ロアンナは貴方の家に送り返して改めて男性の侍従を呼んでくれるわね? それなら一度限りの過ちとして貴方の不貞行為を水に流すのもやぶさかではないわ」
私としては最大限譲歩したつもりだった。正直気軽に許せるような彼の裏切りではないものの、簡単に切り捨ててしまえない程度には恩や愛情もまだいくらか残っている。
侍従に手を出した理由はともかくとして、仕事にかまけて彼を蔑ろにしていた部分も少なからずあって居心地の悪さを感じさせてしまったことも原因の一つかもしれない。
反省する必要はないが、この点に関しては考慮すべき部分ではあるし、だからこそこちらも歩み寄る努力を見せようと思っての提案だったが。
女の嫉妬、嫉妬ねぇ。
確かにそれはあるかもしれない。だけど当然の話ではないだろうか。
婚約者を蔑ろにして、自分は平気で他の女性とスキンシップ。
変に勘繰ってしまうからそういう行為はやめてほしいと訴えれば逆にこちらが悪者扱い。
これでは不満だって抱くに決まっている。
ええそうよ、それもこれもすべて貴方の意志がはっきりしないからいけないの。
だから聞かせてマッディ、貴方の本音を。
「その彼女が言っていたわよ。マッディの本命はあくまでも自分であり、私は政略結婚の相手に過ぎないって。あとはそうね、私との婚約解消も実は望んでいるとまで言っていたわね」
「ロアンナが……?」
彼女の名前を出した途端、マッディの顔が今度こそこわばった。
「いや違うんだよアンティーラ、そんなのは本人が勝手にそう思い込んでいるだけで僕には別れるつもりはないし、本当に好きなのは君だけだよ。これまでに目にしてきたどんな宝石よりも綺麗でどこの貴金属よりも輝いていてどのビスクドールよりも愛らしい。だからそんな君と婚約した幸せを毎日噛み締めている僕に水を差すようなことは言わないでおくれよ」
お飾りのように言葉を取り繕って、その証拠と言わんばかりに慌てて私を抱きしめるマッディ。
いくら婚約者とはいえ、許可なく体に触れないでと突き飛ばすことはもちろん可能だが、あえてそのままの状態でそっと彼に耳打ちをする。
「でも、浮気していたのは事実なのでしょう?」
「それは――、うん、正直否定はできない。君が仕事ばっかりで僕に構ってくれなかったからつい寂しくて。不安にさせてしまってごめんよ。けど僕の本命は君だけだ、これだけは信じてほしい」
……ずいぶんあっさりと認めるのね。
かねてから口で不貞こそを疑いつつも、心の底では貴方のことを信じていたのに。
浮気性の男が言う『これだけは信じてほしい』にいかほどの信憑性があると思っているのか。
もちろん有責はマッディ側にあるから慰謝料の支払いを含めて婚約破棄を申し込めば、すぐさま受理されることだろう。
しかし後にはどうしても婚約者に浮気をされた伯爵令嬢という醜聞がついて回る。どんなに私に否がないとしてもだ。
ただでさえ女性当主に対する世間の風当たりは好ましいものではなく、少しでも不安要素は取り除いておきたい。
よってこの際辛いけれど、マッディの火遊びは見なかったことにして関係を修復するのが双方にとって最善の方法ではあった。
「なら、ロアンナは貴方の家に送り返して改めて男性の侍従を呼んでくれるわね? それなら一度限りの過ちとして貴方の不貞行為を水に流すのもやぶさかではないわ」
私としては最大限譲歩したつもりだった。正直気軽に許せるような彼の裏切りではないものの、簡単に切り捨ててしまえない程度には恩や愛情もまだいくらか残っている。
侍従に手を出した理由はともかくとして、仕事にかまけて彼を蔑ろにしていた部分も少なからずあって居心地の悪さを感じさせてしまったことも原因の一つかもしれない。
反省する必要はないが、この点に関しては考慮すべき部分ではあるし、だからこそこちらも歩み寄る努力を見せようと思っての提案だったが。
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