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しおりを挟む 僕はひざ丈ぐらいの短い患者衣を着せられて、救急車に乗せられた。
そのあとを親父が4WDでついてくる。
親父の車の中にはお袋と次兄、それから結衣が乗る。
救急病院から10分ほどでその病院についた。
海沿いの森の中にあって、どこか建物自体を隠しているように見えた。
目の前には老人ホームとラブホテル。
簡易的な手術は終わったものの、僕の左腕は血で赤く染まっている。
救急病院では太く短い糸で縫われただけで、きれいにしてもらえなかった。
血も固まりだして、腕をまげるのが困難だった。
救急隊員は冷たいほどに冷静だった。
僕に優しい言葉をくれるわけでもなく、ただ運転に注意しているだけ。
病院につくとそこからは歩かされた。
スリッパに患者衣で、なんとも情けない格好だった。
すぐに医師の診察室に誘導された。
部屋の中にいたのは中年の痩せた女医。
喋り方はとてもさばさばしているが、僕の話を真面目に聞いてくれる姿から信頼できるのかもしれない。
いや、今はとにかくこの人に頼るしかない……とか思っていたかもしれない。
あとから家族と結衣が部屋に入ってくる。
この時はすでにみんな冷静さを取り戻していた。
女医は僕に細かい話はとにかくしないで、「危険だから」と理由で入院をすすめられた。
程なくして、僕は閉鎖病棟に入れられた。
いや、半ば強制的にぶち込まれたというのが本音。
本当は結衣と一緒にいたかった。
けど自分で切ったとはいえ腕が痛む。
その治療も兼ねて、入院することにした。
大きなエレベーターに入るとがたいの良い看護師たちが僕を見張っている。
まるで僕が暴れ出すのを抑える護衛というより看守のようだった。
エレベーターから降りると、分厚いガラスで出来た二枚の自動ドアが見えた。
一枚目の隣りにインターホンがあって、奥のナースステーションから看護師が応答する。
「あ、どうぞ」
慣れた手つきで一枚目のドアを手動で開く。
一枚目と二枚目の間は人が10人以上は入れる余裕があった。
担架も二台ぐらい入りそう。
そこで奥から若い男の看護師がやってきて、病棟側から鍵を回す。
するとやっと二枚目のドアが開き、閉鎖病棟に入ることができた。
血だらけで真っ赤にそまった僕を見ても、誰も驚く様子はしなかった。
むしろ鋭い目で睨まれているようだった。
中に入るとちょうどL字の形で部屋が分かれていて、Lの角にあたるところが食堂。
それから左右に大部屋が複数あった。
異様な雰囲気だった。
よだれを流しながら、僕をじーっと見る人。
奇声をあげて暴れる人。
「誰だ、お前!」と突っかかってくる人。
僕が今まで入院した病院とは全然違って、健常な人間がいない……まるで、そうまるで動物園のようだと思った。
言い方が悪いけど、本当にそう思った。
二重ドアが閉まるとと共に僕は恐怖を覚え、安易に入院を選択したことを後悔した。
血だらけの僕に若い看護婦がこういった。
「もうすぐお昼ご飯だからね。食堂で待っててね」
僕は「この人バカなんじゃないの?」と思った。
さっきまで救急病院で手術を受けた人間がなんで自発的に食事をとろうと思うんだ?
しかも僕の左腕は未だに血だらけだ。
仕方ないと思った僕は「バカらしい」と思いつつ、食堂に入る。
普通の病院だったら自室でベッドの上で食べるのに……。
しかも僕は精神だけでなく、見たらわかる通りケガ人なのに、なんで食堂にまで足を運ばないといけないんだ。
食堂に大きなカーゴが現れた。
すると他の患者たちが無言で群がりだす。
みんな食事の入ったトレーを各々取ると、四角形のテーブルに座る。
ちょうど対面式で4人座れるボロボロのテーブルだ。
僕は片手が動かないので、黙って見ていた。
それに気がついた看護師が「空いている席に座りなよ」とぶっきらぼうに言う。
仕方ないので空いている席を見つけ、腰を下ろした。
見るからにまずそうな食事だった。
僕はさっき結衣とハンバーグを食べるって約束したのに……。
その結衣と家族たちは今、先ほどの女医から説明を受けている。
僕が箸を取ろうとしたその時だった。
「おいお前! そこの席は俺のだぞ! 勝手に座るな!」
髪が真っ白で坊主の初老の男が叫んだ。
すごく怒っている様子だった。
僕もイラっとした。
さっき入ったばかりでルールなんて知らないし、看護師に言われてすわっただけなのに。
そのおじさんを少し睨んでいると、近くにいたおじいちゃんが僕に声をかけた。
「ぼく、こっちおいで」
一番まともそうな人ですごく優しそうだった。
「ここはね、席が決まっているの。私の隣りはいつも空いているから今日から君の席だね」
そう笑顔で答えてくれた。
今日初めて見たひとの笑顔だった。
その優しさが少し辛かった。
さっきまで自殺願望があった僕なのに、今は必死に生きようとしている。
血で固まった左腕をブランと下ろして反対の腕でまずし飯を泣きながら食べた。
生きたくないって思っていたのに、どうしてこんな格好悪いことまでして生きなきゃいけないんだ。
僕は一年前までただの普通の健康な大学生だったのに……。
そのあとを親父が4WDでついてくる。
親父の車の中にはお袋と次兄、それから結衣が乗る。
救急病院から10分ほどでその病院についた。
海沿いの森の中にあって、どこか建物自体を隠しているように見えた。
目の前には老人ホームとラブホテル。
簡易的な手術は終わったものの、僕の左腕は血で赤く染まっている。
救急病院では太く短い糸で縫われただけで、きれいにしてもらえなかった。
血も固まりだして、腕をまげるのが困難だった。
救急隊員は冷たいほどに冷静だった。
僕に優しい言葉をくれるわけでもなく、ただ運転に注意しているだけ。
病院につくとそこからは歩かされた。
スリッパに患者衣で、なんとも情けない格好だった。
すぐに医師の診察室に誘導された。
部屋の中にいたのは中年の痩せた女医。
喋り方はとてもさばさばしているが、僕の話を真面目に聞いてくれる姿から信頼できるのかもしれない。
いや、今はとにかくこの人に頼るしかない……とか思っていたかもしれない。
あとから家族と結衣が部屋に入ってくる。
この時はすでにみんな冷静さを取り戻していた。
女医は僕に細かい話はとにかくしないで、「危険だから」と理由で入院をすすめられた。
程なくして、僕は閉鎖病棟に入れられた。
いや、半ば強制的にぶち込まれたというのが本音。
本当は結衣と一緒にいたかった。
けど自分で切ったとはいえ腕が痛む。
その治療も兼ねて、入院することにした。
大きなエレベーターに入るとがたいの良い看護師たちが僕を見張っている。
まるで僕が暴れ出すのを抑える護衛というより看守のようだった。
エレベーターから降りると、分厚いガラスで出来た二枚の自動ドアが見えた。
一枚目の隣りにインターホンがあって、奥のナースステーションから看護師が応答する。
「あ、どうぞ」
慣れた手つきで一枚目のドアを手動で開く。
一枚目と二枚目の間は人が10人以上は入れる余裕があった。
担架も二台ぐらい入りそう。
そこで奥から若い男の看護師がやってきて、病棟側から鍵を回す。
するとやっと二枚目のドアが開き、閉鎖病棟に入ることができた。
血だらけで真っ赤にそまった僕を見ても、誰も驚く様子はしなかった。
むしろ鋭い目で睨まれているようだった。
中に入るとちょうどL字の形で部屋が分かれていて、Lの角にあたるところが食堂。
それから左右に大部屋が複数あった。
異様な雰囲気だった。
よだれを流しながら、僕をじーっと見る人。
奇声をあげて暴れる人。
「誰だ、お前!」と突っかかってくる人。
僕が今まで入院した病院とは全然違って、健常な人間がいない……まるで、そうまるで動物園のようだと思った。
言い方が悪いけど、本当にそう思った。
二重ドアが閉まるとと共に僕は恐怖を覚え、安易に入院を選択したことを後悔した。
血だらけの僕に若い看護婦がこういった。
「もうすぐお昼ご飯だからね。食堂で待っててね」
僕は「この人バカなんじゃないの?」と思った。
さっきまで救急病院で手術を受けた人間がなんで自発的に食事をとろうと思うんだ?
しかも僕の左腕は未だに血だらけだ。
仕方ないと思った僕は「バカらしい」と思いつつ、食堂に入る。
普通の病院だったら自室でベッドの上で食べるのに……。
しかも僕は精神だけでなく、見たらわかる通りケガ人なのに、なんで食堂にまで足を運ばないといけないんだ。
食堂に大きなカーゴが現れた。
すると他の患者たちが無言で群がりだす。
みんな食事の入ったトレーを各々取ると、四角形のテーブルに座る。
ちょうど対面式で4人座れるボロボロのテーブルだ。
僕は片手が動かないので、黙って見ていた。
それに気がついた看護師が「空いている席に座りなよ」とぶっきらぼうに言う。
仕方ないので空いている席を見つけ、腰を下ろした。
見るからにまずそうな食事だった。
僕はさっき結衣とハンバーグを食べるって約束したのに……。
その結衣と家族たちは今、先ほどの女医から説明を受けている。
僕が箸を取ろうとしたその時だった。
「おいお前! そこの席は俺のだぞ! 勝手に座るな!」
髪が真っ白で坊主の初老の男が叫んだ。
すごく怒っている様子だった。
僕もイラっとした。
さっき入ったばかりでルールなんて知らないし、看護師に言われてすわっただけなのに。
そのおじさんを少し睨んでいると、近くにいたおじいちゃんが僕に声をかけた。
「ぼく、こっちおいで」
一番まともそうな人ですごく優しそうだった。
「ここはね、席が決まっているの。私の隣りはいつも空いているから今日から君の席だね」
そう笑顔で答えてくれた。
今日初めて見たひとの笑顔だった。
その優しさが少し辛かった。
さっきまで自殺願望があった僕なのに、今は必死に生きようとしている。
血で固まった左腕をブランと下ろして反対の腕でまずし飯を泣きながら食べた。
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