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「イーラ!」
背後から声がした瞬間、ヴィンスが疾風の如く現れ剣を構えると、マリカであったものは後ずさった。その様子を見たイライジャは、彼女に理性が残っていると感じた。恋した男に変わり果てた姿を見られたせいか、マリカは震えながらギィギィと鳴いた。
「おやおや……やれないのか? 役立たずめ。まぁ仕方ない。生まれたてだから今回は見逃してやるか。僕は子供達には優しいんだ」
「村を燃やしたのはお前かっ!」
ヴィンスはビュリナダの態度にイライラと怒鳴りつける。
「はははっ! まぁね。その子が手伝ってくれたよ~」
ビュリナダがイライジャを指さすと、ヴィンスは驚愕しながらもビュリナダを睨みつけた。
「嘘をつくなっ!」
ヴィンスが剣を構えると、剣は魔力を帯びて光り始めた。
「ヴィンセント様、先走らないでください!」
後から駆けつけてきた騎士は、彼の盾になるように立ちはだかった。その背後で、ヴィンスの剣は魔力を帯びて光り始めていた。
「はぁ……目覚めちゃったのか。面倒だなぁ」
「ハーピーが風で火を広げていた……それもお前の眷属だな!」
ヴィンスがマリカに剣を向けたので、イライジャは思わずマリカの前に飛び出していた。マリカを守ったのだが、その行動はハーピーを守ったように見えただろう。
「だ、だめだ」
「イライジャ?! なぜだ! それはハーピーだろうっ?!」
「違う! 俺は……」
イライジャにとって、どんな姿でもあれは妹なのだ。それに、ヴィンスを見て攻撃をやめたところを見ると、まだ理性が残っているかもしれない。それなら、人間に戻る可能性があるのではと思った。
そんなイライジャをビュリナダはケラケラと甲高い声をあげて嘲笑った。
「いいねぇ。しっかり守ってくれよ、青年。お礼にいいものをあげよう」
「誰がお前なんっ、ぐあっ! ぐぅっ……」
イライジャの胸に激痛が走り、そこを通り道にするように苦鳴と悲憤の数々が流れ込んでいた。それは顔見知りの村人達の声によく似ていた。
気が狂いそうなほどの感情が彼の体中を満たしていく。耐えきれずにうずくまり、激しい頭痛と吐き気に悶絶する。
「ふふふ……君のこれからが楽しみだ。これから君は長生きできるよ! 嬉しいだろう?」
「イーラに何をしたっ!」
ぐったりとして気を失うイライジャを庇うように、ヴィンスはビュリナダに雷撃を落とす。しかし、まだコントロールが効かないのか、軽々と攻撃を躱されてしまった。ビュリナダは別のハーピーを呼んで背中に乗り飛び立つと、余裕の笑みで見下ろした。
「魔王城で待ってるよ。来れるものならね」
哄笑はあっという間に掻き消えて、燃え盛る炎と彼らだけが残された。
「ヴィンセント様、今は消火と救助を優先しますよ!」
「くっ……わかった」
ヴィンスはイライジャを安全な場所に移動させ、駆けながら水魔法を発動する。騎士は、ヴィンスが習いたての魔法をうまく操れるのか不安があったが、コツを教わった彼は驚異的なスピードで魔力コントロールを覚えていた。
どうにか鎮火したものの、被害は甚大で村人のほとんどが死に、片手ほどしか生き残れなかった。
「もっと、俺がうまく力を使えていたら……」
「それを言っても仕方ありません。奴はあちこちの村や町を焼き払っていました。遅かれ早かれ、これは起きたことでしょう。今は、できなかったことではなく、何をなすべきか考える時です」
ヴィンスの父に仕えていたという騎士アキリは、ヴィンスが失踪した主人メルクルオ王子に生写しであることに気が付き、ほんの数日前に元主人と再会を果たしたばかりだった。
そこへ一人息子のヴィンスが勇者候補として認められたため、彼の剣術指南や討伐隊に同行すると心に決めていた。
だが、隣町にいる司教へヴィンスを引き合わせて戻ってくる間に、村は襲撃されていた。メルクルオ王子と妻ノエミは、二人を暖かく受け入れてくれた村を守り儚くも命を落とした。メルクルオは王宮から一本だけ剣を持ち出しており、それを手に勇敢にハーピーと戦ったのだった。
「父さん……母さん……」
母のノエミは包丁を握りしめていた。彼女はメルクルオの侍女だったが、彼に見初められて恋に落ちた。しかし、当然ながら禁断の恋だった。それでも貫いた激しい愛に、母は殉じたのだ。
ヴィンスは涙が溢れるままに血で汚れた両親の顔を清めた。それに、二人はまだマシだ。周囲をみれば、誰が誰かもわからない焼け焦げた状態であったり、ハーピーに引き裂かれ、みるも無惨な有様の遺体も多数だった。
その後意識を取り戻したイライジャも数人の生き残りと力を合わせ、誰かもわからぬままに墓穴を掘り埋葬した。
死後焼かれた遺体がほとんどだったが、火をつけてしまったせいで悲劇を増やしたと彼は自分を責め続けた。ヴィンスにマリカについて聞かれたが、ハーピーになったとはどうしても言えずにいたら、死んだと判断したようだった。
だが、イライジャは必ずマリカを見つけると心に決めた。見つけてどうするのかわからないが、その道のりがどんなに地獄であっても、今以上の地獄はないと思った。
だから、ビュリナダのスパイと疑われても、断固として旅に同行すると言い張った。
ヴィンスも同じだ。自分が勇者でなければ村は襲われなかったのではと考え己の運命を呪った。
もしくは、魔法も剣も実戦経験があれば、もっとできることがあるのではないか……後めたさが厳しい訓練に耐える理由であり、打倒魔王への原動力となっていった。
これが、彼らが生まれて初めて知った怒りと絶望、そして憎悪だった。
背後から声がした瞬間、ヴィンスが疾風の如く現れ剣を構えると、マリカであったものは後ずさった。その様子を見たイライジャは、彼女に理性が残っていると感じた。恋した男に変わり果てた姿を見られたせいか、マリカは震えながらギィギィと鳴いた。
「おやおや……やれないのか? 役立たずめ。まぁ仕方ない。生まれたてだから今回は見逃してやるか。僕は子供達には優しいんだ」
「村を燃やしたのはお前かっ!」
ヴィンスはビュリナダの態度にイライラと怒鳴りつける。
「はははっ! まぁね。その子が手伝ってくれたよ~」
ビュリナダがイライジャを指さすと、ヴィンスは驚愕しながらもビュリナダを睨みつけた。
「嘘をつくなっ!」
ヴィンスが剣を構えると、剣は魔力を帯びて光り始めた。
「ヴィンセント様、先走らないでください!」
後から駆けつけてきた騎士は、彼の盾になるように立ちはだかった。その背後で、ヴィンスの剣は魔力を帯びて光り始めていた。
「はぁ……目覚めちゃったのか。面倒だなぁ」
「ハーピーが風で火を広げていた……それもお前の眷属だな!」
ヴィンスがマリカに剣を向けたので、イライジャは思わずマリカの前に飛び出していた。マリカを守ったのだが、その行動はハーピーを守ったように見えただろう。
「だ、だめだ」
「イライジャ?! なぜだ! それはハーピーだろうっ?!」
「違う! 俺は……」
イライジャにとって、どんな姿でもあれは妹なのだ。それに、ヴィンスを見て攻撃をやめたところを見ると、まだ理性が残っているかもしれない。それなら、人間に戻る可能性があるのではと思った。
そんなイライジャをビュリナダはケラケラと甲高い声をあげて嘲笑った。
「いいねぇ。しっかり守ってくれよ、青年。お礼にいいものをあげよう」
「誰がお前なんっ、ぐあっ! ぐぅっ……」
イライジャの胸に激痛が走り、そこを通り道にするように苦鳴と悲憤の数々が流れ込んでいた。それは顔見知りの村人達の声によく似ていた。
気が狂いそうなほどの感情が彼の体中を満たしていく。耐えきれずにうずくまり、激しい頭痛と吐き気に悶絶する。
「ふふふ……君のこれからが楽しみだ。これから君は長生きできるよ! 嬉しいだろう?」
「イーラに何をしたっ!」
ぐったりとして気を失うイライジャを庇うように、ヴィンスはビュリナダに雷撃を落とす。しかし、まだコントロールが効かないのか、軽々と攻撃を躱されてしまった。ビュリナダは別のハーピーを呼んで背中に乗り飛び立つと、余裕の笑みで見下ろした。
「魔王城で待ってるよ。来れるものならね」
哄笑はあっという間に掻き消えて、燃え盛る炎と彼らだけが残された。
「ヴィンセント様、今は消火と救助を優先しますよ!」
「くっ……わかった」
ヴィンスはイライジャを安全な場所に移動させ、駆けながら水魔法を発動する。騎士は、ヴィンスが習いたての魔法をうまく操れるのか不安があったが、コツを教わった彼は驚異的なスピードで魔力コントロールを覚えていた。
どうにか鎮火したものの、被害は甚大で村人のほとんどが死に、片手ほどしか生き残れなかった。
「もっと、俺がうまく力を使えていたら……」
「それを言っても仕方ありません。奴はあちこちの村や町を焼き払っていました。遅かれ早かれ、これは起きたことでしょう。今は、できなかったことではなく、何をなすべきか考える時です」
ヴィンスの父に仕えていたという騎士アキリは、ヴィンスが失踪した主人メルクルオ王子に生写しであることに気が付き、ほんの数日前に元主人と再会を果たしたばかりだった。
そこへ一人息子のヴィンスが勇者候補として認められたため、彼の剣術指南や討伐隊に同行すると心に決めていた。
だが、隣町にいる司教へヴィンスを引き合わせて戻ってくる間に、村は襲撃されていた。メルクルオ王子と妻ノエミは、二人を暖かく受け入れてくれた村を守り儚くも命を落とした。メルクルオは王宮から一本だけ剣を持ち出しており、それを手に勇敢にハーピーと戦ったのだった。
「父さん……母さん……」
母のノエミは包丁を握りしめていた。彼女はメルクルオの侍女だったが、彼に見初められて恋に落ちた。しかし、当然ながら禁断の恋だった。それでも貫いた激しい愛に、母は殉じたのだ。
ヴィンスは涙が溢れるままに血で汚れた両親の顔を清めた。それに、二人はまだマシだ。周囲をみれば、誰が誰かもわからない焼け焦げた状態であったり、ハーピーに引き裂かれ、みるも無惨な有様の遺体も多数だった。
その後意識を取り戻したイライジャも数人の生き残りと力を合わせ、誰かもわからぬままに墓穴を掘り埋葬した。
死後焼かれた遺体がほとんどだったが、火をつけてしまったせいで悲劇を増やしたと彼は自分を責め続けた。ヴィンスにマリカについて聞かれたが、ハーピーになったとはどうしても言えずにいたら、死んだと判断したようだった。
だが、イライジャは必ずマリカを見つけると心に決めた。見つけてどうするのかわからないが、その道のりがどんなに地獄であっても、今以上の地獄はないと思った。
だから、ビュリナダのスパイと疑われても、断固として旅に同行すると言い張った。
ヴィンスも同じだ。自分が勇者でなければ村は襲われなかったのではと考え己の運命を呪った。
もしくは、魔法も剣も実戦経験があれば、もっとできることがあるのではないか……後めたさが厳しい訓練に耐える理由であり、打倒魔王への原動力となっていった。
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