おまけの兄さん自立を目指す 番外編集

松沢ナツオ

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ifストーリー エルビス編

A-11 完結

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馬車は2日程でとうとう舞い戻ってしまったらしい。あんなに歩いたのに、馬車が駆け足するとこんなに早く連れ戻されてしまった。

囚われの身らしいのに豪華な馬車で、そこに拘束されたままのエルビスと乗っていると言うシュールな光景だった。


「エルビス…。あんなに頑張ったのに、もう着いちゃったな。ごめん。」
「いいえ…。私こそお守り出来ず、申し訳ありません。これで、お別れかも…しれません…。」
「えっ!?」

エルビスは思い詰めた目で見つめて来た。

「私は、あなたが重要な方と知りながら連れ出しました。ですから…恐らく…。」

ゾクリと寒気が走った。言葉にはしていないけど、まさか、殺されるかもしれない?
でもその目は覚悟を決めた目だ。絶対に…守ってみせる!

「俺、ずっと守られて来た。だから、今度は俺が守る!」
「ジュンヤ様は、ご自分を1番大切にして下さい。」
「いいや。大切な人を守れないでこの先後悔したくない。どんな手を使っても守る。幸いカードはこちらにある様だし。」
「ご自分を使ってはいけません!」
「使える物は使う。でも言いなりにはならない、絶対!信じてくれるか?」

見つめあって、それ以上言わなくても、お互いに理解し合えた。
頷きあって、お互いを信じようと決めた。

そして、俺は始めて王都をまともに見る事になった。
クードラも大きいと思ったが、城壁もその規模も段違いだ。特別な馬車なのか、門兵もスルーだった。

カーテンの隙間から覗き見る日中見る王都は、たくさんの人が行き交っている。
どこに行くんだろう…。

やがて、なんだか白い大きな建物について、馬車のドアが開いた。
その時は私服の様な格好だった男達は、白に赤いラインの入った制服になっていた。
そして、シルバーの髪の男が立っていた。

「降りて下さい。」
「エルビスも一緒だよな?離れないからな?」
「……分かりました。一緒にどうぞ。」

離れたら大変な事になる気がして、お互いが見える所にいたかった。

「エルビスを乱暴に扱わないでくれ。」
「はい。」

俺はエルビスの腕を掴んで、絶対に離れないと言う意思を示す。
案内されたのは神殿という所らしい。大きな広間に、ローブを着た男達が集まっていた。

そこにいた変わった帽子を被った爺さんが、俺の前に立った。

「当神殿の大司教ジェイコブでございます。この度は、神子に大変な無礼を働きました事、深くお詫びします。」

そう言って両膝を付くと、周囲にいたローブの男達も跪いた。
真意が分からない俺は無言だった。正直、許すとは言えないし。

「どういう事か、説明を求めます。謝罪を受け入れるかはその後です。それと、エルビスの枷を外して下さい。」
「しかし、その男は神子を誘拐した罪人で…。」
「そういう行動をさせた張本人が言っても、何の意味もありませんね。彼はを助けようとしただけですよ。」
「は、そ、それは…。」

ジェイコブは跪いたまま悩んでいる様だった。
その時、別の声が響いた。

「ジェイコブ大司教、私の命だ。エルビスの枷を外す。ダリウス、外せ。」
「はっ!枷を外せ。」

赤毛はダリウスね…。顔と名前がやっと一致した。
そして、命令された騎士はエルビスの枷を外した。

「良かった…!!手、痛くないか?ああ、傷になってる。治してやるから。」

俺は手首に触れて擦れて血が滲んだ手首を治した。これ位ならそんなに苦しくならないらしい。

「「「おおっ!?」」」

どよめきに驚いた。ローブの男達がざわついている。

「っ!?なんだ?」

振り向くと、まだ大司教達は跪いていてた。

「殿下、お力の発現の際の光…正しく神子で間違いございません。」
「やはりそうであったか。ジュンヤ、そなたを守れなかった事、申し訳なく思っている。」
「殿下が…守ろうとしてくれたのは分かってます。」

俺には何も見えないけど、光が見えたらしい。でもそんなの知らない。褒め称えて誤魔化すつもりか?
それでも、確かにこの王子様は気にかけてくれていた。味方が少なければ他の圧力に負けてしまうのは仕方ない事。
問題なのは圧力をかけた連中だな。

「それで、。こんな風に連れ戻して、私に何をしろと?」

ジェイコブ大司教と
その他の神官らしき大勢が両膝をついてアタマを下げた。

「神子のお力で浄化をなし、この国をお救い下さい。」

うん、分かってて聞いたけど。なんていうか、ここまで心に響かないのは珍しいなぁ。ふざけんな!
俺は返事を返さずにいた。

「神子様?」
「虫のいい話ですね。それをして私に何のメリットがあると言うんです?」
「し、しかし、テッサやミオルなどを浄化して回られたとお聞きしました!慈悲深き行いに、神殿一同感謝しております!!」
「あなた方の為にした事ではありませんから、感謝は必要ありません。」

俺は怒ってるんだよね。あんた達のことなんか知らない。でも、街の人達は助けたい。
だから、浄化というのはしてもいいと思っている。その代わり、ガッチリ要求は飲んでもらう。

「神子様、どの様にすれば、お許しいただけますか?」
「その前に、確認したいことがあります。殿下にお聞きすればいいんでしょうか?その、私の逃亡を手引きした人たちについて。」

ずっと気になっていた。ハンス、ノーマ、ヴァイン...。無事だろうか。

「彼らは手引きした咎で投獄されている。」
「そんなっ!!どうか、彼らを出してあげて下さいっ!」
「解放するには理由が必要だ。分かるな?」
「ジュンヤ様、彼らは覚悟の上です。もちろん、私も。」
「エルビス。」

彼らを犠牲にして逃げろと、まだ言うつもりか?
出来ないのを一番知っている癖に。

「彼らを無罪放免にして下さい。そして、もう一度俺付きにしてくれる事。それを許可してくれたら...浄化をしましょう。」
「もう一度逃げるのでは?」

金色の瞳がまっすぐに俺を見つめる。大事な人達を守れるのなら、俺は逃げない。

「いいえ。約束を果たしてくれるのなら、俺も約束を違えることはしません。ただし、全員にすぐ会わせて下さい」
「分かった。良いだろう。ダリウス、用意させろ。」
「はっ、御意。」

後ろにいた赤毛騎士が何かと指示を出していた。

みんなに、会える。

「今日の所は離宮で休むが良い。もう出歩くのに制限はかけない。だが念の為、護衛は必要なので我慢してくれ。」
「分かりました。エルビス、大丈夫?」
「はい。ジュンヤ様、良かったのですか?」
「俺の望みはみんなが無事なことだ。良いんだ。」
「ジュンヤ様...。」

泣きそうなのを必死に堪えるエルビスの両手を握った。

「殿下、いつ会えますか?」
「後で離宮に向かわせる。」
「信用して良いんですよね?お願いします。」

これで騙されたら、それなりのお返しをするだけだ。

エルビスと離宮に戻って来た。驚いた事に誰も使わないはずの離宮は、まるで昨日まで居たように整えられていて、嫌味を言っていた使用人達が完全に入れ替わっていた。
俺は真っ先に調理場に駆け込んだ。そこの料理人達も変わってしまったんだろうか?

「ジュンヤ様っ!!」
「あっ!みんな!!良かった...変わってなかった!」
「使用人達は全員変わりましたから安心して下さい!あいつら陰口ばかり叩いて、酷い奴らでした。」
「ハンスは戻れる筈なんだけど...。」
「料理長はきっと大丈夫です。見た目通りタフですから。」
「今日は俺達が習った料理をお作りしますよ。」
「ありがとう...。迷惑かけてごめんな?」

俺のせいで酷い目に合わなかったか聞いたが、誰も何も言わない。実行したのはハンスだけど、色々聞かれた筈なのに。
それでもこんな風に迎え入れられてすごく嬉しかった。

「ジュンヤ様を蔑ろにした奴らが悪いんです。節穴揃いですね。」
「ハハッ、あんまり言いすぎるとマズイぞ?」

少しの間笑いあって安心した俺は、久しぶりに自室になっていた部屋に入った。
あまり変化はなかったけれど、そこここに花や、以前より豪華な生地を使われている事に気が付いた。

「いつみんなに会えるかなぁ。嘘だったら死んでも浄化なんかしないぞ。」
「殿下は誠実な方です。きっと支度をさせているのでしょう。」

ソワソワしながら待っていると、ノックが聞こえエルビスが迎え入れた。そこに、ノーマ、ヴァイン、ハンスが立っていた。
緊張した様子で入って来た3人に、それぞれ飛びついて抱きしめていった。

「良かった!!良かった!!酷いことされていないか?3人とも、痩せちゃったな...。ごめんな?」
「ジュンヤ様、謝らないで下さい!僕達が自分で決めたことです!」
「ノーマ...。」
「俺はずっとジュンヤ様の処遇がおかしいってミハナと話してたんですよ。こんなの、なんて事ないです!」
「ハンス、ごめんな?大丈夫か?ヴァインも大丈夫か?あいつらに何かされてないか?」
「これ位平気です。ジュンヤ様をお守り出来なくてごめんなさい。」
「そんな事ないよ、いつも守られていたよっ!これからも俺の所にいてくれるか?」
「「「もちろんです!!」」」

俺達はしっかり手を握り合った。
3人は牢に入れられていたせいで痩せて体力も落ちていたが、俺の料理で元どおりにしてみせる。

そして俺はみんなが回復した頃、初めての浄化というものに向かう事になる。
王都の近くの泉だという。神官のマテリオや、エルビス達も同行する。
そこを浄化したら、南へと向かうというんだ。
まだまだ困難はありそうだが、俺には味方がいる。
偉い奴に従う訳じゃない。人を助ける為に、俺はやると決めたんだ。



そして、物語は始まりの泉から、ケローガへ....。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
覚えていますか?ウォーベルトの容姿を!コピペっておきますのでご利用ください。

ウォーベルト 
シルバーの髪、浅黒い肌、アイスブルーの瞳。


一旦エルビスルートは終了します。エルビスが庇護者として認められて、この後はケローガで一悶着とかそんな感じです。
またそのうち続きや、別キャラ視点などを書いてみようと思います。

本編で苦しい時の気分転換で書き始めましたが、思ったよりも読んで頂いて嬉しかったです。

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