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ifストーリー エルビス編
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少しですが暴力表現があります。
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夜中に魔石灯の灯だけを頼りに村から離れる。
静かな上少し寒くて心細いが、エルビスが手を繋いでくれた。十分に村を離れてから、ようやく口を開いた。
「エルビス、あんな風に小さな物に力を込めながら旅をして、それからトラージェに行こうか。」
「浄化に気づかれない様にしなければいけませんが...。そうしたいんですね?」
「ちょっとでもしておけば、罪悪感が減るかなって最低の理由だけどな。」
「何もしない選択肢があるのに、それは選ばないんですね。」
「それは、無理かな。」
俺は基本的に人間が好きなんだ。接客業も楽しい。人と話すのが楽しい。
だから、助けたい。
「分かりました。人の少ない所では目立つので、人の多い所がいいかもしれません。
さっきの様な全員が知り合いに近い村では、我々は印象に残ってしまします。いざという時、人混みに紛れて逃げる事も出来ます。」
「うん。無理言ってごめん。」
エルビスは眠っていない筈だから、もうしばらく歩いてから見つけた森で休む事にした。エルビスが初めて魔法を使い、危険な動物がいないか追い出してくれたんだ。
「すごいっ!!魔法を初めて見たっ!!」
「ふふ、そうでしたね。この力がありますから、安心してくださいね。」
「俺にも攻撃系の力があれば良いのに。頼りっぱなしだ。」
「光魔法の属性は癒しのみですからね。ジュンヤ様はそれで良いんですよ。」
また二人でテントを張り、結界で保護してから先にエルビスを眠らせた。先に寝ろと言われたが、エルビスの方が寝ていないんだからとゴネた。たまには俺にも守らせて欲しい。
目を瞑り横になるその肩を撫でていると、やがて寝息が聞こえ、眠ってくれた事に信頼されていると感じて嬉しかった。
起こせと言われていたが俺はさっき寝ていたし、うっすらと明るくなった頃に、簡単に食事の支度をしてから声をかけた。
「ジュンヤ様っ!もっと早く起こしてくだされば…。」
「ううん。エルビスには負担かけてるから休んで欲かったんだ。それに、俺は寝たしさ。水は浄化しといたから、飲んで大丈夫だよ。」
「ありがとうございます。お身体は問題ないですか?」
「これ位なら平気だよ。あの時は強くこめ過ぎたみたいだ。」
あんなに疲れない様にすれば良い。気合いを入れすぎたんだな。
俺達は、食事をして、また歩き出した。でも、その前にエルビスは俺達がいた野営した痕跡を丁寧に消した。
「少しでも見つからない様に、用心に越した事はありませんからね。」
「俺もやり方覚える。教えて欲しい。」
エルビスに任せきりじゃなく、2人で乗り越えて行きたいから。
そんな俺の言葉に嬉しそうに頷いてくれた。
俺達はひたすらに歩いた。ミオル村から
クードラまで馬車で2日。歩けばもっとかかる。その間には小さな村があちこちにあったが、俺達はもう立ち寄らず野営し、ひっそりと浄化して行った。
効果が出ているのかは分からない。少しでも手応えがあれば良いんだが。
浄化の効果は分からないまま、ただ自己満足を続けて、やがて俺達はクードラの東門の前立っていた。
もうすぐ昼時だが、食料も怪しい為もう街に入るしかない。門はなんとかクリアし街に入った。
しかし、この街も活気がなく顔色が悪い人達で溢れていた。
野営をしたので路銀に余裕があると言うエルビスは、素早く目立たない場所にある宿を取ってくれた。
「はぁ…。」
街に入ってずっと緊張していた俺はため息をついた。
それに、慣れない野営を数日した為か体も足も痛い。歩き続けて疲労困憊だった。
エルビスだって王宮勤めで王子付きなんだから、野営なんてないだろうし疲れているよな。
「ジュンヤ様、お身体を拭いてから休みましょうか?」
「エルビスだって疲れてるだろう?今は少し、休もう?」
「そうですね。」
俺達は夜の寒さを凌ぐ為、最近はずっとくっついて寝ていたから、ベッドでも当然の様に2人で寝た。
久しぶりのベッドは離宮程ではないけど柔らかく、痛んだ体から力が抜けた。
「そろそろ御髪を染めなくては…。」
「あ、もう黒いの出てきた?」
「はい。ほんの少しですが。後で染めましょうね。」
まだ昼間ではあったけど、疲れ切っていた俺達は久しぶりのベッドでぐっすり眠った。
目が覚めたら3時頃になっていた。昼も食べなかった為、屋台で軽く食べる事にした。
「これからは?」
「商会に行って、買い取りを頼みます。それで食料をまとめ買いしましょう。携帯食になりますが…。」
「大丈夫だよ。」
「しかし、あまり食が進みませんよね?」
「ううん、もう慣れたよ!」
正直キツイけど、贅沢なんか言ってられない。とにかく食べて乗り切らなくちゃいけない。
「では、行きましょうか。」
俺達は客がひしめく大きな建物に入った。エルビスは周囲を注意深く見ながらカウンターへと向かった。
「いらっしゃいませ、ポーターズ商会へ。何かお探しですか?」
「買い取りを頼みたい。…これだ。」
エルビスは、小さい金細工などを出した。真珠は浄化に使うから出せない。なるべくバレにくい私物を換金すると言っていたが…少し不安だ。
「これですか。はい…。鑑定人に鑑定させますので、そうですね、一時間後でもよろしいですか?預かり証はお出しします。」
「分かった。頼む。」
一旦預けて、俺達は店を出た。
「大丈夫そう?」
「多分…。見た所、警戒している様子は見えませんし、警邏も多くはないようです。時間まで宿にいますか?」
「うん。髪、染める?」
「時間が必要なので、夜にやりましょうか。それまではなるべく目立たない様にしましょう。」
頷いて宿に戻り、装備の手入れをしながら時間を潰す。
商会に向かう時エルビスだけで行くと言われたが、1人では不安だし着いて行く事にした。
「いらっしゃいませ。ああ、先程の。」
「さっき鑑定を頼んだものだが、結果は出ているか?」
「はい、奥にありますのでお待ちを。」
店員が奥に引っ込み待っていると、何だか急に静かになった気がした。
俺が振り向くと、後ろにたくさんいた筈の客が数人になっていた。
「…?エルビス、なんか…」
言いかけた時、奥のドアが開き出てきたのはあの赤毛の騎士に似ていた。だが、服装は普通の市民の様に見えた。あれ?
「ーーっ!ダリウス!!」
「やっぱり!?」
俺達は外へ出ようと振り向いたが、そこには体格の良い男達が立ちはだかっていた。
「探したぜ、エルビス。」
カウンターから出て来た赤毛の騎士は、悠々と俺達の前に立った。
「何故わざわざお前が…。」
「神子様の顔を知ってるのは数人だからな。だから俺が来た。」
「神子様ではない!ジュンヤ様だ!」
「どっちでも同じだ。俺はそこの双黒を探しに来た。」
「俺は!黒くない!」
染めておいて良かった。せめて言い逃れて包囲を突破出来たら。
「いいや、その顔を忘れるものか。エルビス…怪我はさせたくない。渡すんだ。」
「ジュンヤ様…隙が出来たら、逃げて下さい。」
エルビスが囁いて来たが、置いて行くなんて出来ない!
なのに、エルビスの周囲から冷たい空気が流れ始めた。魔法で攻撃して逃すつもりなのか!
でもエルビスはどうなる!?
「エルビス。諦めろ。1人じゃ勝てないぞ。」
「私は、諦めない!!」
氷柱が周囲に現れ、騎士達に向かって飛んで行った。
「外へ!!」
扉を守っていた男に氷柱を飛ばして、怯んだ隙に俺の背中を押した。
だが、土色の壁が一瞬現れ氷柱は砕け散った。
「!?ウォーベルトかっ!」
赤毛の騎士の後ろにいたシルバーの髪の褐色の肌の男は、離宮で見張りをしていた一人だ。
「エルビスさんすいません。俺達、その人連れ帰らなくちゃいけないんです。」
「お前を殺してでも連れ帰れとの命令なんでな。死にたくなきゃ、そいつを寄越せ。」
「エルビス、俺、行くよ!だからもうやめてくれっ!」
「嫌ですっ!!ダリウス!!あんな扱いをしておいて、どうするつもりなんだ!!」
エルビスが叫ぶと、ダリウスと呼ばれた赤毛の男は苦々しそうに顔を歪めた。
「俺は命令に従うだけだ。まぁ、大人しくしてれば酷い扱いはされないだろう。」
「なんて図々しいっ!」
エルビスがまた氷柱を飛ばすが、炎が現れ蒸発し、一瞬で間合いを詰めて来た赤毛騎士に殴られ吹っ飛んでしまった。
「エルビスッ!?やめろっ!!やめろよっ!!」
倒れたエルビスに駆け寄ると、意識を失い朦朧としていて、口の中が切れたらしく口から血を流し左の頬が腫れ始めていた。
「エルビス...!しっかり!」
俺は頬に手を当てて治癒を流した。すると、腫れ始めていた頬は腫れが引き始め、口の端から流れていた血が止まってくれた。
そんな俺達を見ていた男達は騒めいていたが、俺はエルビスを抱きしめて睨みつけた。
「ダリウス団長。お待ちください。」
「マテリオ。」
白い長いローブを着た、マテリオと呼ばれた男が奥から出てきた。今度は何だよ!
「私は神官のマテリオです。今のは治癒のお力です。しかも、驚異的な速さで治癒しました。間違いなく浄化の神子であらせられる。
この度の無礼、神殿を代表してお詫び申し上げます、神子ジュンヤ様。大神殿で、改めて大司教より謝罪がある事でしょう。」
神官が両膝をついて跪いた。それを見た騎士らしい男達も姿勢を正したが、俺は困惑していた。
「どういう事だ?俺は特別な事なんかしていないのに。」
「いいえ、クードラに来るまでの間に、テッサ、ミオルにお寄りになりましたね?その時に浄化をなされた事は痕跡を辿って分かりました。」
「その後は、お前らが人との接触を絶ったせいで探したぜ。浄化の痕跡をマテリオが追って、ここに来ると予想した訳だ。」
やっぱり、それか。でも、過ごせなかったし、どうすればよかったんだ。
「ジュンヤ様...。」
朦朧としていたエルビスが目を開けてくれた。
「エルビス!?良かった!もう痛くないか?」
「はい、治癒して下さったお陰です。マテリオ神官...。ジュンヤ様をどうするつもりだ。」
「もちろん、浄化のお力で国を癒して頂くのです。」
「酷い目に合わせておきながら、よくもそんな事を。」
「エルビス。引く気は無いんだな?」
赤毛騎士の声が低く、恐ろしい響きを持っていた。俺は思わずエルビスをぎゅっと引き寄せた。
目の前の男がスラリと剣を抜いたからだ。
「お前が引かないのなら、斬る。」
「嫌だっ!エルビスを斬るなら俺も斬れっ!!もしもエルビスを斬ったら、絶対に浄化なんかしないからなっ!!」
エルビスの前に立ちはだかり睨みつける。
「ジュンヤ様!いけませんっ!!」
「お前は、本当に面白い男だな。」
赤毛騎士がニヤリと笑う。
「良いだろう。お前が大人しくこちらに来るなら、エルビスは斬らない。」
逃げられない。分かっているのはそれだけだ。
完全に囲まれて、しかも目の前の男が凄まじく強いのは感じた。
動きは見えない程早かったしな…。
「エルビス。ここまで助けてくれたのにごめん…。でもこれ以上傷付くのは見たくないんだ。」
「ジュンヤ様…力が足りず、申し訳ありません…!」
エルビスもようやく抵抗をやめた。なのに、そいつらはエルビスを拘束して手枷をつけた。
「何するんだよ!やるなら俺にしろ!!」
「お前には、自分よりエルビスを押さえられた方が効きそうだからな。」
「ぐうっ…!」
確かにそうだ。
「その代わりエルビスから離れないからな!」
「命令出来る立場か?」
「ああ。そう思ってる。俺はこの国に必要な道具なんだろう?殺したら使えなくなって困る。違うか?」
俺の言葉に、赤毛は目を丸くしてから、俺の背中をバシバシ叩いた。
なんだよ、急に!あんたには軽いもんだろけど痛いって!
「ハッハッハッ!!面白い!やっぱりお前は面白い奴だ!」
「なんなんだよ、あんた…。」
今の今まで殺気を感じてたのに、急に大笑いを始めた。
「エルビス、お前の新しい主人は面白いな。だが、お前は覚悟しろよ。神殿は大騒ぎだからな。」
やはりそうなのか。散々無視した癖に!
俺は大切な存在らしい。なら、それを利用しない手はない。
絶対エルビスを守ると心に決めて、乗せられた馬車から外を眺めていた。
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夜中に魔石灯の灯だけを頼りに村から離れる。
静かな上少し寒くて心細いが、エルビスが手を繋いでくれた。十分に村を離れてから、ようやく口を開いた。
「エルビス、あんな風に小さな物に力を込めながら旅をして、それからトラージェに行こうか。」
「浄化に気づかれない様にしなければいけませんが...。そうしたいんですね?」
「ちょっとでもしておけば、罪悪感が減るかなって最低の理由だけどな。」
「何もしない選択肢があるのに、それは選ばないんですね。」
「それは、無理かな。」
俺は基本的に人間が好きなんだ。接客業も楽しい。人と話すのが楽しい。
だから、助けたい。
「分かりました。人の少ない所では目立つので、人の多い所がいいかもしれません。
さっきの様な全員が知り合いに近い村では、我々は印象に残ってしまします。いざという時、人混みに紛れて逃げる事も出来ます。」
「うん。無理言ってごめん。」
エルビスは眠っていない筈だから、もうしばらく歩いてから見つけた森で休む事にした。エルビスが初めて魔法を使い、危険な動物がいないか追い出してくれたんだ。
「すごいっ!!魔法を初めて見たっ!!」
「ふふ、そうでしたね。この力がありますから、安心してくださいね。」
「俺にも攻撃系の力があれば良いのに。頼りっぱなしだ。」
「光魔法の属性は癒しのみですからね。ジュンヤ様はそれで良いんですよ。」
また二人でテントを張り、結界で保護してから先にエルビスを眠らせた。先に寝ろと言われたが、エルビスの方が寝ていないんだからとゴネた。たまには俺にも守らせて欲しい。
目を瞑り横になるその肩を撫でていると、やがて寝息が聞こえ、眠ってくれた事に信頼されていると感じて嬉しかった。
起こせと言われていたが俺はさっき寝ていたし、うっすらと明るくなった頃に、簡単に食事の支度をしてから声をかけた。
「ジュンヤ様っ!もっと早く起こしてくだされば…。」
「ううん。エルビスには負担かけてるから休んで欲かったんだ。それに、俺は寝たしさ。水は浄化しといたから、飲んで大丈夫だよ。」
「ありがとうございます。お身体は問題ないですか?」
「これ位なら平気だよ。あの時は強くこめ過ぎたみたいだ。」
あんなに疲れない様にすれば良い。気合いを入れすぎたんだな。
俺達は、食事をして、また歩き出した。でも、その前にエルビスは俺達がいた野営した痕跡を丁寧に消した。
「少しでも見つからない様に、用心に越した事はありませんからね。」
「俺もやり方覚える。教えて欲しい。」
エルビスに任せきりじゃなく、2人で乗り越えて行きたいから。
そんな俺の言葉に嬉しそうに頷いてくれた。
俺達はひたすらに歩いた。ミオル村から
クードラまで馬車で2日。歩けばもっとかかる。その間には小さな村があちこちにあったが、俺達はもう立ち寄らず野営し、ひっそりと浄化して行った。
効果が出ているのかは分からない。少しでも手応えがあれば良いんだが。
浄化の効果は分からないまま、ただ自己満足を続けて、やがて俺達はクードラの東門の前立っていた。
もうすぐ昼時だが、食料も怪しい為もう街に入るしかない。門はなんとかクリアし街に入った。
しかし、この街も活気がなく顔色が悪い人達で溢れていた。
野営をしたので路銀に余裕があると言うエルビスは、素早く目立たない場所にある宿を取ってくれた。
「はぁ…。」
街に入ってずっと緊張していた俺はため息をついた。
それに、慣れない野営を数日した為か体も足も痛い。歩き続けて疲労困憊だった。
エルビスだって王宮勤めで王子付きなんだから、野営なんてないだろうし疲れているよな。
「ジュンヤ様、お身体を拭いてから休みましょうか?」
「エルビスだって疲れてるだろう?今は少し、休もう?」
「そうですね。」
俺達は夜の寒さを凌ぐ為、最近はずっとくっついて寝ていたから、ベッドでも当然の様に2人で寝た。
久しぶりのベッドは離宮程ではないけど柔らかく、痛んだ体から力が抜けた。
「そろそろ御髪を染めなくては…。」
「あ、もう黒いの出てきた?」
「はい。ほんの少しですが。後で染めましょうね。」
まだ昼間ではあったけど、疲れ切っていた俺達は久しぶりのベッドでぐっすり眠った。
目が覚めたら3時頃になっていた。昼も食べなかった為、屋台で軽く食べる事にした。
「これからは?」
「商会に行って、買い取りを頼みます。それで食料をまとめ買いしましょう。携帯食になりますが…。」
「大丈夫だよ。」
「しかし、あまり食が進みませんよね?」
「ううん、もう慣れたよ!」
正直キツイけど、贅沢なんか言ってられない。とにかく食べて乗り切らなくちゃいけない。
「では、行きましょうか。」
俺達は客がひしめく大きな建物に入った。エルビスは周囲を注意深く見ながらカウンターへと向かった。
「いらっしゃいませ、ポーターズ商会へ。何かお探しですか?」
「買い取りを頼みたい。…これだ。」
エルビスは、小さい金細工などを出した。真珠は浄化に使うから出せない。なるべくバレにくい私物を換金すると言っていたが…少し不安だ。
「これですか。はい…。鑑定人に鑑定させますので、そうですね、一時間後でもよろしいですか?預かり証はお出しします。」
「分かった。頼む。」
一旦預けて、俺達は店を出た。
「大丈夫そう?」
「多分…。見た所、警戒している様子は見えませんし、警邏も多くはないようです。時間まで宿にいますか?」
「うん。髪、染める?」
「時間が必要なので、夜にやりましょうか。それまではなるべく目立たない様にしましょう。」
頷いて宿に戻り、装備の手入れをしながら時間を潰す。
商会に向かう時エルビスだけで行くと言われたが、1人では不安だし着いて行く事にした。
「いらっしゃいませ。ああ、先程の。」
「さっき鑑定を頼んだものだが、結果は出ているか?」
「はい、奥にありますのでお待ちを。」
店員が奥に引っ込み待っていると、何だか急に静かになった気がした。
俺が振り向くと、後ろにたくさんいた筈の客が数人になっていた。
「…?エルビス、なんか…」
言いかけた時、奥のドアが開き出てきたのはあの赤毛の騎士に似ていた。だが、服装は普通の市民の様に見えた。あれ?
「ーーっ!ダリウス!!」
「やっぱり!?」
俺達は外へ出ようと振り向いたが、そこには体格の良い男達が立ちはだかっていた。
「探したぜ、エルビス。」
カウンターから出て来た赤毛の騎士は、悠々と俺達の前に立った。
「何故わざわざお前が…。」
「神子様の顔を知ってるのは数人だからな。だから俺が来た。」
「神子様ではない!ジュンヤ様だ!」
「どっちでも同じだ。俺はそこの双黒を探しに来た。」
「俺は!黒くない!」
染めておいて良かった。せめて言い逃れて包囲を突破出来たら。
「いいや、その顔を忘れるものか。エルビス…怪我はさせたくない。渡すんだ。」
「ジュンヤ様…隙が出来たら、逃げて下さい。」
エルビスが囁いて来たが、置いて行くなんて出来ない!
なのに、エルビスの周囲から冷たい空気が流れ始めた。魔法で攻撃して逃すつもりなのか!
でもエルビスはどうなる!?
「エルビス。諦めろ。1人じゃ勝てないぞ。」
「私は、諦めない!!」
氷柱が周囲に現れ、騎士達に向かって飛んで行った。
「外へ!!」
扉を守っていた男に氷柱を飛ばして、怯んだ隙に俺の背中を押した。
だが、土色の壁が一瞬現れ氷柱は砕け散った。
「!?ウォーベルトかっ!」
赤毛の騎士の後ろにいたシルバーの髪の褐色の肌の男は、離宮で見張りをしていた一人だ。
「エルビスさんすいません。俺達、その人連れ帰らなくちゃいけないんです。」
「お前を殺してでも連れ帰れとの命令なんでな。死にたくなきゃ、そいつを寄越せ。」
「エルビス、俺、行くよ!だからもうやめてくれっ!」
「嫌ですっ!!ダリウス!!あんな扱いをしておいて、どうするつもりなんだ!!」
エルビスが叫ぶと、ダリウスと呼ばれた赤毛の男は苦々しそうに顔を歪めた。
「俺は命令に従うだけだ。まぁ、大人しくしてれば酷い扱いはされないだろう。」
「なんて図々しいっ!」
エルビスがまた氷柱を飛ばすが、炎が現れ蒸発し、一瞬で間合いを詰めて来た赤毛騎士に殴られ吹っ飛んでしまった。
「エルビスッ!?やめろっ!!やめろよっ!!」
倒れたエルビスに駆け寄ると、意識を失い朦朧としていて、口の中が切れたらしく口から血を流し左の頬が腫れ始めていた。
「エルビス...!しっかり!」
俺は頬に手を当てて治癒を流した。すると、腫れ始めていた頬は腫れが引き始め、口の端から流れていた血が止まってくれた。
そんな俺達を見ていた男達は騒めいていたが、俺はエルビスを抱きしめて睨みつけた。
「ダリウス団長。お待ちください。」
「マテリオ。」
白い長いローブを着た、マテリオと呼ばれた男が奥から出てきた。今度は何だよ!
「私は神官のマテリオです。今のは治癒のお力です。しかも、驚異的な速さで治癒しました。間違いなく浄化の神子であらせられる。
この度の無礼、神殿を代表してお詫び申し上げます、神子ジュンヤ様。大神殿で、改めて大司教より謝罪がある事でしょう。」
神官が両膝をついて跪いた。それを見た騎士らしい男達も姿勢を正したが、俺は困惑していた。
「どういう事だ?俺は特別な事なんかしていないのに。」
「いいえ、クードラに来るまでの間に、テッサ、ミオルにお寄りになりましたね?その時に浄化をなされた事は痕跡を辿って分かりました。」
「その後は、お前らが人との接触を絶ったせいで探したぜ。浄化の痕跡をマテリオが追って、ここに来ると予想した訳だ。」
やっぱり、それか。でも、過ごせなかったし、どうすればよかったんだ。
「ジュンヤ様...。」
朦朧としていたエルビスが目を開けてくれた。
「エルビス!?良かった!もう痛くないか?」
「はい、治癒して下さったお陰です。マテリオ神官...。ジュンヤ様をどうするつもりだ。」
「もちろん、浄化のお力で国を癒して頂くのです。」
「酷い目に合わせておきながら、よくもそんな事を。」
「エルビス。引く気は無いんだな?」
赤毛騎士の声が低く、恐ろしい響きを持っていた。俺は思わずエルビスをぎゅっと引き寄せた。
目の前の男がスラリと剣を抜いたからだ。
「お前が引かないのなら、斬る。」
「嫌だっ!エルビスを斬るなら俺も斬れっ!!もしもエルビスを斬ったら、絶対に浄化なんかしないからなっ!!」
エルビスの前に立ちはだかり睨みつける。
「ジュンヤ様!いけませんっ!!」
「お前は、本当に面白い男だな。」
赤毛騎士がニヤリと笑う。
「良いだろう。お前が大人しくこちらに来るなら、エルビスは斬らない。」
逃げられない。分かっているのはそれだけだ。
完全に囲まれて、しかも目の前の男が凄まじく強いのは感じた。
動きは見えない程早かったしな…。
「エルビス。ここまで助けてくれたのにごめん…。でもこれ以上傷付くのは見たくないんだ。」
「ジュンヤ様…力が足りず、申し訳ありません…!」
エルビスもようやく抵抗をやめた。なのに、そいつらはエルビスを拘束して手枷をつけた。
「何するんだよ!やるなら俺にしろ!!」
「お前には、自分よりエルビスを押さえられた方が効きそうだからな。」
「ぐうっ…!」
確かにそうだ。
「その代わりエルビスから離れないからな!」
「命令出来る立場か?」
「ああ。そう思ってる。俺はこの国に必要な道具なんだろう?殺したら使えなくなって困る。違うか?」
俺の言葉に、赤毛は目を丸くしてから、俺の背中をバシバシ叩いた。
なんだよ、急に!あんたには軽いもんだろけど痛いって!
「ハッハッハッ!!面白い!やっぱりお前は面白い奴だ!」
「なんなんだよ、あんた…。」
今の今まで殺気を感じてたのに、急に大笑いを始めた。
「エルビス、お前の新しい主人は面白いな。だが、お前は覚悟しろよ。神殿は大騒ぎだからな。」
やはりそうなのか。散々無視した癖に!
俺は大切な存在らしい。なら、それを利用しない手はない。
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