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ifストーリー エルビス編
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次のミオル村へと着いた俺達は、馭者と馬の休憩に合わせて戻るつもりだった。本当は北へ向かう筈が西へと向かうことになった為、北西の関を目指す事にしたんだ。
だが、降りた村の様子は酷かった。この村出身の別のおじさんは出稼ぎに出ていて、里帰りで戻って来たそうなんだが、村人みんなの顔色が悪い事に驚いていた。
「なんだ、何があった!?」
おじさんが出稼ぎに出たのは1年前。本当ならキールの実の収穫期なので、手伝う為に帰省したんだと言う。
馬車が着くと食べ物を販売する売店があるのだが、その青年も顔色はすぐれない。何か食べ物を買おうと思っていた俺達は、図らずも話聞く事になってしまった。
「分かんねーよ。おじさんが出稼ぎ行った後から、どんどん具合の悪い奴が増えたんだ。寝込んでる爺さんもいっぱいだ。俺らもなんとか農作業してるけど、正直全部の畑の世話は厳しいんだ。これじゃ今年は税を納めるのも苦労するかもしれねーよ。」
「王都に近い所はなんともなかったぞ?」
「あのさ、噂だけどさ。ユーフォーンの奥に森があるだろ?あっちの森に近い畑ほど厳しいらしい。ほら、果実水用のテポの実の果樹園とかさ。あっちも生育が悪いから出荷が遅れてるらしい。仕入れに来た商人が言ってた。
ここはまだマシ。オルディス川のすぐそばの畑や村は何とも無いって噂だ。それと、王都の泉に近い方が大丈夫だって話だから、子供をそっちの教会とかに預ける奴も出始めてる。」
俺達はそっと離れた。本当は何か買うつもりだったが、とても話しかけられなかった。人が居ない所へ移動し、水筒を満タンにすべく井戸へと向かう。テッサはそこそこ大きい街だったのでポンプ式だったが、ここは汲み上げ式だった。
俺もエルビスもやった事がなく、四苦八苦して汲んだ。やっとまともに汲めたと喜んでいたのだが、そこへ村の青年も汲みにやって来て、そのまま水筒に入れるのは待った方が良いと言われた。
「どうしてですか?」
エルビスが尋ねる。
「うーん、こっちに来な?見せてやるよ。」
「なんです?」
「良く分かんねぇけど、俺らは最近一度沸かして飲んでるんだ。効果があるのかないのか...。でも沸かした奴を入れてやるよ。」
少し不審に思いつつ、自分用の水を汲んだ青年に着いて行く。
「ここ、俺の家。入んなよ。馬車の時間までは休んで行けよ。」
そう言って自分の桶を置いて、水を白い器に移してからこちらに来た。テーブルに置いたその水は一見なんともなく見える。
「よーく見てみな?なんか混じってるんだ。」
「えっ?混じってるって?」
「良いから見なよ。」
俺達は器の水を見つめる。すると、僅かに緑っぽい何かが見えた。ほんの少しだが。藻のような異物だろうか?
「な?なんかあるだろ?前はこんなの無かった。この所これが混じってるのが分かったんだけど、そのせいか病人が増えた。
一応沸かして飲んでるけど、効果があるのかは分からない。飲んじまった分もあるしな。それでもこれを飲むしかないんだ。」
俺はエルビスと目を合わせた。俺に知識がないから変なことは言えない。
でも、これが浄化する対象のものなのか?と感じた。
「そうですか、教えていただきありがとうございます。」
「うん、今沸かしてやるよ。冷まして詰めていきな。
あ、俺の名前はサラットだ。普段は農作業やるんだけど、馬車の客が集まるときは野菜売ったりするんだ。」
サラットさんが台所へ消え、俺達は声を潜めた。
「水の穢れの正体はこれでしょう。」
「これ、浄化ってどうするものなんだろう?」
「ジュンヤ様。試すなら誰もいない所で、ですよ?」
「分かってる。でもさ、ニルバみたいに…助けられるのなら…俺…。」
エルビスが俺の手をギュッと握った。ちょっと痛い位力が篭っていて、その目も真剣だった。
「見つかって捕まれば、利用されるのは間違いないんですよ?きっとまた酷い目に合います。」
「うん…。」
一応返事はしたが俺は悩んでいた。ただ、浄化の力がと言うものが本当に俺にあるのなら、見過ごしてはいけないのではと思ってしまう。
この人達を見捨てて逃げるのか?そんな事をして幸せに生きて行けるのか?
サラットさんが戻って来て、まだ熱い湯を冷ましながらいろいろ話し込む。この村は亡くなった人はいないらしいが、水の穢れが酷い所ではなくなった人も多いから気をつけろと忠告された。
クードラから先のテポの実の果樹園が枯れ始めているとか、北の砦の手前の泉も酷いらしいので、行かない方が良いとか。
エルビスが北西の方はどうかと聞いたら。テポの実の果樹園と同じ水源の為、あまり良く無いそうだ。しかもそのせいでトラージェの軍の動きが怪しく、付け入る隙を探っているんじゃ無いか?などだ。
「あんた達、どこまで行くんだ?」
「北の予定だったけど、あまり良く無いみたいだね...。どうしよう。」
「ん~、とりあえずユーフォーンは?砦内は穢れがないから、拠点にしたり避難している人が多いよ。知ってるだろ?まぁ、荒くれ者が多いから、ジュードさん連れてくのは心配だろうけど。」
「俺?」
「うん。美人だから攫われそうだし。なぁ?エイデンさん。」
「なるべく連れて行きたく無いです。」
そうなんだ。そんなに怖い所なのか。なんだかんだと聞いているうちに湯が冷めたので水筒に詰める。
「今後の事は考えます。ありがとございました。」
俺たちは頭を下げて、サラットさんの家を出た。試したい事があるので、こそっと予備の水筒に井戸の水を少し汲んでいく。
人のいない家の陰で俺はその水を手で受け止めると、水はキラリと光って、また普通の水になった。
「この光が浄化?」
「見た事がないので分かりませんが、この光は神々しいですよね。」
「これで、沢山の人が…助かる?」
「…。」
エルビスは返事をしなかった。
黙って馬車の待つ停留所に向かうが、俺の足は重くかった。
「エルビス…。聞いて。」
「…。」
返事をしないのは、その先を聞きたくないんだろう。でも、本当は俺の考えている事に気がついてる。
「俺、少しこの村に留まってみようと思ってる。」
振り向いたエルビスの顔は苦しそうだった。ごめん。心配してくれてるのに。
「バレない様に助けられないかな。」
「何故です?知り合いでもないのに。」
「でも、親切にしてくれた人に会った。そして、自分が出来る事があるかもしれない。このまま目を瞑って見捨てたら…一生後悔すると思うから。」
「ジュンヤ様…。」
分かってるよ、エルビスが俺を守りたいからこのまま進みたいって思ってるのは。
「エルビス、俺が出来る事があるのにしなかったら、人間失格だ。クズだ。俺に酷い事をした連中と同じクズにはなりたく無い。
何とか誰にも知られずに、浄化ってのをしたいんだ。力を貸して欲しい。」
目をしっかり見つめて、俺の本気を伝える。やがて大きなため息をついて、エルビスは折れた。
「分かりました。何とか知られずにやりましょう。そうですね…夜の闇に乗じましょうか。一度この村を発った振りをしましょう。」
「どうやって?」
「馬車はどこでも降りられます。少し乗って、忘れ物をしたと言って歩いて戻ってきましょう。そして、離れた場所に野営をして、夜中に浄化に来ましょう。良いですか?」
「うん、分かった。」
俺はエルビスの提案に沿って動く事に決め、一度馬車に乗り込んだ。歩いて戻れる範囲はエルビスの判断に任せた。
恐らく1、2キロ馬車が走った頃、エルビスが馭者に声をかけて俺達は降りた。
同乗していた客達に、次の馬車は2日後だから諦めろと言われたが、大事な物だからと押し切った。
「ジュードちゃん、こんなちっちゃいのに、無理して歩くんじゃ無いよ?野盗は村の近くじゃ少ないけど、エイデンさんから離れちゃダメだよ?」
「分かってます。俺、子供じゃないから心配しないで。ありがとう、お爺さん。」
最後まで気にかけてくれたお爺さんに礼を言い、走り去る馬車を見送った。
「では、行きましょうか。」
「うん。エルビス、ワガママ言ってごめんな?」
「いいえ…。私は、貴方の高貴なお心を守りたいのです。」
村人と遭遇しない様な気をつけながら、俺達はミオル村を目指し歩き始めた。
だが、降りた村の様子は酷かった。この村出身の別のおじさんは出稼ぎに出ていて、里帰りで戻って来たそうなんだが、村人みんなの顔色が悪い事に驚いていた。
「なんだ、何があった!?」
おじさんが出稼ぎに出たのは1年前。本当ならキールの実の収穫期なので、手伝う為に帰省したんだと言う。
馬車が着くと食べ物を販売する売店があるのだが、その青年も顔色はすぐれない。何か食べ物を買おうと思っていた俺達は、図らずも話聞く事になってしまった。
「分かんねーよ。おじさんが出稼ぎ行った後から、どんどん具合の悪い奴が増えたんだ。寝込んでる爺さんもいっぱいだ。俺らもなんとか農作業してるけど、正直全部の畑の世話は厳しいんだ。これじゃ今年は税を納めるのも苦労するかもしれねーよ。」
「王都に近い所はなんともなかったぞ?」
「あのさ、噂だけどさ。ユーフォーンの奥に森があるだろ?あっちの森に近い畑ほど厳しいらしい。ほら、果実水用のテポの実の果樹園とかさ。あっちも生育が悪いから出荷が遅れてるらしい。仕入れに来た商人が言ってた。
ここはまだマシ。オルディス川のすぐそばの畑や村は何とも無いって噂だ。それと、王都の泉に近い方が大丈夫だって話だから、子供をそっちの教会とかに預ける奴も出始めてる。」
俺達はそっと離れた。本当は何か買うつもりだったが、とても話しかけられなかった。人が居ない所へ移動し、水筒を満タンにすべく井戸へと向かう。テッサはそこそこ大きい街だったのでポンプ式だったが、ここは汲み上げ式だった。
俺もエルビスもやった事がなく、四苦八苦して汲んだ。やっとまともに汲めたと喜んでいたのだが、そこへ村の青年も汲みにやって来て、そのまま水筒に入れるのは待った方が良いと言われた。
「どうしてですか?」
エルビスが尋ねる。
「うーん、こっちに来な?見せてやるよ。」
「なんです?」
「良く分かんねぇけど、俺らは最近一度沸かして飲んでるんだ。効果があるのかないのか...。でも沸かした奴を入れてやるよ。」
少し不審に思いつつ、自分用の水を汲んだ青年に着いて行く。
「ここ、俺の家。入んなよ。馬車の時間までは休んで行けよ。」
そう言って自分の桶を置いて、水を白い器に移してからこちらに来た。テーブルに置いたその水は一見なんともなく見える。
「よーく見てみな?なんか混じってるんだ。」
「えっ?混じってるって?」
「良いから見なよ。」
俺達は器の水を見つめる。すると、僅かに緑っぽい何かが見えた。ほんの少しだが。藻のような異物だろうか?
「な?なんかあるだろ?前はこんなの無かった。この所これが混じってるのが分かったんだけど、そのせいか病人が増えた。
一応沸かして飲んでるけど、効果があるのかは分からない。飲んじまった分もあるしな。それでもこれを飲むしかないんだ。」
俺はエルビスと目を合わせた。俺に知識がないから変なことは言えない。
でも、これが浄化する対象のものなのか?と感じた。
「そうですか、教えていただきありがとうございます。」
「うん、今沸かしてやるよ。冷まして詰めていきな。
あ、俺の名前はサラットだ。普段は農作業やるんだけど、馬車の客が集まるときは野菜売ったりするんだ。」
サラットさんが台所へ消え、俺達は声を潜めた。
「水の穢れの正体はこれでしょう。」
「これ、浄化ってどうするものなんだろう?」
「ジュンヤ様。試すなら誰もいない所で、ですよ?」
「分かってる。でもさ、ニルバみたいに…助けられるのなら…俺…。」
エルビスが俺の手をギュッと握った。ちょっと痛い位力が篭っていて、その目も真剣だった。
「見つかって捕まれば、利用されるのは間違いないんですよ?きっとまた酷い目に合います。」
「うん…。」
一応返事はしたが俺は悩んでいた。ただ、浄化の力がと言うものが本当に俺にあるのなら、見過ごしてはいけないのではと思ってしまう。
この人達を見捨てて逃げるのか?そんな事をして幸せに生きて行けるのか?
サラットさんが戻って来て、まだ熱い湯を冷ましながらいろいろ話し込む。この村は亡くなった人はいないらしいが、水の穢れが酷い所ではなくなった人も多いから気をつけろと忠告された。
クードラから先のテポの実の果樹園が枯れ始めているとか、北の砦の手前の泉も酷いらしいので、行かない方が良いとか。
エルビスが北西の方はどうかと聞いたら。テポの実の果樹園と同じ水源の為、あまり良く無いそうだ。しかもそのせいでトラージェの軍の動きが怪しく、付け入る隙を探っているんじゃ無いか?などだ。
「あんた達、どこまで行くんだ?」
「北の予定だったけど、あまり良く無いみたいだね...。どうしよう。」
「ん~、とりあえずユーフォーンは?砦内は穢れがないから、拠点にしたり避難している人が多いよ。知ってるだろ?まぁ、荒くれ者が多いから、ジュードさん連れてくのは心配だろうけど。」
「俺?」
「うん。美人だから攫われそうだし。なぁ?エイデンさん。」
「なるべく連れて行きたく無いです。」
そうなんだ。そんなに怖い所なのか。なんだかんだと聞いているうちに湯が冷めたので水筒に詰める。
「今後の事は考えます。ありがとございました。」
俺たちは頭を下げて、サラットさんの家を出た。試したい事があるので、こそっと予備の水筒に井戸の水を少し汲んでいく。
人のいない家の陰で俺はその水を手で受け止めると、水はキラリと光って、また普通の水になった。
「この光が浄化?」
「見た事がないので分かりませんが、この光は神々しいですよね。」
「これで、沢山の人が…助かる?」
「…。」
エルビスは返事をしなかった。
黙って馬車の待つ停留所に向かうが、俺の足は重くかった。
「エルビス…。聞いて。」
「…。」
返事をしないのは、その先を聞きたくないんだろう。でも、本当は俺の考えている事に気がついてる。
「俺、少しこの村に留まってみようと思ってる。」
振り向いたエルビスの顔は苦しそうだった。ごめん。心配してくれてるのに。
「バレない様に助けられないかな。」
「何故です?知り合いでもないのに。」
「でも、親切にしてくれた人に会った。そして、自分が出来る事があるかもしれない。このまま目を瞑って見捨てたら…一生後悔すると思うから。」
「ジュンヤ様…。」
分かってるよ、エルビスが俺を守りたいからこのまま進みたいって思ってるのは。
「エルビス、俺が出来る事があるのにしなかったら、人間失格だ。クズだ。俺に酷い事をした連中と同じクズにはなりたく無い。
何とか誰にも知られずに、浄化ってのをしたいんだ。力を貸して欲しい。」
目をしっかり見つめて、俺の本気を伝える。やがて大きなため息をついて、エルビスは折れた。
「分かりました。何とか知られずにやりましょう。そうですね…夜の闇に乗じましょうか。一度この村を発った振りをしましょう。」
「どうやって?」
「馬車はどこでも降りられます。少し乗って、忘れ物をしたと言って歩いて戻ってきましょう。そして、離れた場所に野営をして、夜中に浄化に来ましょう。良いですか?」
「うん、分かった。」
俺はエルビスの提案に沿って動く事に決め、一度馬車に乗り込んだ。歩いて戻れる範囲はエルビスの判断に任せた。
恐らく1、2キロ馬車が走った頃、エルビスが馭者に声をかけて俺達は降りた。
同乗していた客達に、次の馬車は2日後だから諦めろと言われたが、大事な物だからと押し切った。
「ジュードちゃん、こんなちっちゃいのに、無理して歩くんじゃ無いよ?野盗は村の近くじゃ少ないけど、エイデンさんから離れちゃダメだよ?」
「分かってます。俺、子供じゃないから心配しないで。ありがとう、お爺さん。」
最後まで気にかけてくれたお爺さんに礼を言い、走り去る馬車を見送った。
「では、行きましょうか。」
「うん。エルビス、ワガママ言ってごめんな?」
「いいえ…。私は、貴方の高貴なお心を守りたいのです。」
村人と遭遇しない様な気をつけながら、俺達はミオル村を目指し歩き始めた。
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