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その後の二人 1
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続きが書きたくなりまして、その後のお話を二話で完結させようと思います。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
近所に引っ越して来たうーちゃんだが、現場が変わると通勤時間も変わる為なかなか忙しい様だ。建築士になっていて設計した現場をチェックするそう。まったり仕事をしている俺とは大違いだ…。
そんな訳で実はあまり会っていなかったりする。会っても一瞬で…別に寂しくなんか…ない。
二階のローソファーでチューハイを飲んでゴロゴロしていると、ガチャガチャと店側の鍵をこじ開けようとする音がして、ビクリと震えた。
鍵預けてるから、うーちゃんじゃない?まさか泥棒?こんな古い家、金目のものなんかないぞ?!
階段をそっと降りると、人の声が聞こえた。
「こんばんは。どなたかいませんか?すいません。」
もうガチャガチャはしてなくて、女性の声がした。
「はーい。」
玄関を開けると、そこに居たのはキレイな女性と、酔っ払ったうーちゃんだった。
「ど、どうしたの?うーちゃん?!貴方は?」
「ただいまぁ~。」
ふにゃふにゃの笑顔を向けるうーちゃんは可愛い…。
「広井君の同僚の茂木春菜と言います。今日は仕事が一段落して打ち上げしたんですが、広井君すごく酔ってしまって。送って来たんですけど…自宅ではないみたいですね。」
戸惑った様子で周囲を見ていた。薄暗い中で見ると、怖がる人もたまにいる。アンティークで古めかしだけで、ユーレイなんか出ないんだけどな。
「あ、はい。俺は幼馴染です。まだ引っ越し間もないから、うちに来ちゃったんですね。良いですよ、今日は泊めますから。」
肩を貸している茂木さんからうーちゃんを引き取り、ひとまず大きめのソファに寝かせる。階段は危ないから、今夜はここだな。
「…そうですか。あの!」
「はい?」
「い、いえ!良いです。じゃあ、失礼します。明日はお休みなので、朝の心配は要らないですよ。」
「分かりました。でも貴方は?」
「大丈夫です。タクシーアプリで呼びますから。」
俺もそのアプリは知っているけど、呼んですぐ来る訳じゃない。
「じゃあ来るまで、中で待ちませんか?夜だし、危ないですから。」
「そ、そうですか…?じゃあ、お言葉に甘えて失礼します。」
うーちゃんを見てて貰って、上から上掛けを持って来た。落ちると危ないし、俺もこっちで寝る事にしたんだ。
「茂木さん、酔い醒ましに、待ってる間コーヒーでも飲む?もちろん商売関係ないから。」
「はい、ありがとうございます。」
アプリによると、運悪く近くを走っているタクシーがいなくて十五分程待つそうだ。コーヒーを飲むにはちょうど良いじゃないか。
「どうぞ。デカフェにしておいたよ。」
「わぁ、ありがとうございます!…美味しい!」
酔っていてもカフェインがない方が良いだろう。美味しそうに飲んでくれて嬉しい。
それにしても…キレイな人だ。二人で帰って来るなんて、彼女かな?もしかしたら、二人で…のつもりだったのかな。
何故か胸がズキンとした。
「「あの…」」
慌てて手を振って彼女にどうぞと促すと、彼女も俺にどうぞと言う。
「お名前聞くの忘れてて…。」
「あっ!すいません。俺は小鳥遊知成なりです。よろしくお願いします。」
「たかなしさんですね。よろしくお願いします。」
「茂木さんはお酒に強いんですか?」
「私は飲んでませんから~。」
ニコニコと笑う彼女は可愛らしいが、えっと…まさか、逆に襲う気だったとか、言わないよね?
ちょっと鳥肌が立ったが勝手な憶測だ。
「あ、もうすぐかも!外に出て待ちますね。また来ても良いですか?ゆっくりお話したいです!」
「まぁ、昼間は店にいますよ。」
「そうですか、それじゃあ、さようなら。」
台風の様に彼女は去って行った。
「うぅ~ん…。」
むにゃむにゃと眠るうーちゃんは平和そうな顔をしている。
俺はと言うと、あれ彼女?新しい家を知らないって事は新居で初だったんじゃないの?女性に送られて来るってどうよ?とか、良く分かんない感情に戸惑いながら、別のソファで眠りについた。
「イテテ…やっぱりこんな所で寝るもんじゃないな。」
痛む体をストレッチしながらうーちゃんの方を見れば、まだ眠っていた。
朝食でも準備するか。どうせばぁちゃん達も来るし。
いつも通りに朝食を用意して、ばぁちゃん達が来る前に起こして二階にやらなくちゃ…。
「うーちゃん、起きろよ。」
「うぅ~ん…もう少し…。」
ゆっさゆっさと揺らすと、目を閉じたままごねる。
「ここで寝てると困るんだ。上に行ってよ。」
「ここ…ダメ…?」
「そうだよ。ほら、起きて!シャキッとして!」
ようやく目が覚めたみたいだが、まだぼんやりしていて半分夢の中みたいだな。
肩を貸して階段を上がり、俺のベッドしかないので放り込んだ。
「ここ…ことりちゃんち…?」
「そうだよ。夕べ間違ってこっちに来ちゃったんだよ。茂木さんって女性が送ってくれたんだよ。」
「茂木…さん?ああ、そう言えば…。」
「なんでって…。あ、もう時間だ!!俺もう行くから、休みなら寝てろ!」
本気で時間がなかったので、振り向かずに階段を降りた。何故か彼女との事はあまり知りたくなかった。
そのままいつもの朝ごはんメンバーと出勤組を見送り、ランチに向けて仕込みをしていたらうーちゃんが起きてきた。
「おはよう。何か食べる?」
「んー、トーストとコーヒー貰える?」
「良いよ。」
自分のコーヒーも作り、トーストとサラダ、コーヒーを用意した。
「はい、出来たよ。」
「ありがとう。ことりちゃん、昨夜はごめんな。なんかいつもより酔っ払っちゃって…。無意識にここって言ったみたいだ。」
無意識…。心の中に何がじわっと湧き上がったが、それが何なのかは分からない。
「それは良いけど、女性に送られて来るなんて…。茂木さんって言ういう人だよ。あとでお礼した方が良い。」
「ああ…彼女、同僚なんだ。悪い事したな。」
「彼女じゃないのか?」
「違うよ?何で?」
「だって…普通は酔った男を送って来るなら同僚の男だろ。」
他に誰かいるならともかく…おかしいだろ。
「ごめん…昨夜の事、覚えてないんだ。でも、これから気をつけるよ。迷惑かけてごめん。」
「迷惑って言うか…。」
何だろ?迷惑とは思ってない。でも妙にモヤモヤしている。
「俺は気にしてないけど、他の人には迷惑かけるなよ。」
「…また、ここの住所言っても怒らない?」
「学習はしろよ~。」
「ハハッ、ごめん。なるべく気をつける。」
笑いあって終わったけど、俺は…。
「うぅ~ん…。」
「何?」
「何でもないよ、うん。まぁ、酔っ払いはダメだって事!」
「はーい。」
結局うーちゃんはその日一日中うちにいて、お客さんにコーヒーを出してくれたり接客までしてくれた。
何度も女性客があの人カッコいい、と頬を染めて囁くのを聞こえて来た。うんうんと俺は心の中で頷いた。
仕事も出来て、ニッコリ笑ってサービスするうーちゃんは本当にカッコ良かったんだ。
「冬馬君、馴染み過ぎてここに住んじゃうじゃないのぉ?」
夕方、健康体操教室から帰った松ばぁ達がケラケラ笑いながら話しかけた。
「実際居心地良すぎて、こっちにいる方が長いですね。」
苦笑しながらばぁちゃん達のテーブルにコーヒーを持って行くうーちゃん。
「でもさ、そうなれば知ちゃんの事も安心なのよねえ。一人じゃ何かあった時に心配だし。二人で住んじゃえば?」
「あ~、良いですね。」
「えっ!?」
「まぁ、ことりちゃんが迷惑なら無理ですけど。今日も酔ってこっちに来て泊まっちゃったんですよ。」
「おいおい、もう自分の家みたいじゃないか!」
じいちゃんが爆笑してる。
「じいちゃん、ダメだよ。彼女とか出来たら困るだろ?」
「そんなもん、気持ちがあればどうにかなるもんだ。わしらの若い頃はなぁ…」
あ、これ長くなる奴だ。うーちゃんに目配せして、適当に相手をして離れて良いよと合図をした。
そんな時、カランとベルが鳴った。
「いらっしゃいま…せ。茂木さん?」
「えへへ、来ちゃいした。あの、広井さんもこっちにいたんですね。」
「ああ、茂木さん。昨夜は迷惑かけてすいませんでした。」
「いえっ!そんなっ!気にしないで下さい。」
彼女は頬を染め両手をブンブン振って、なんだか可愛かった。キレイで可愛いか。良いじゃん、彼女にしちゃえば?絶対、うーちゃんに気があるもんな。
瞳をキラキラさせてうーちゃんを見ていて、少なくとも彼女は好意を持ってるのが分かる。
「あの、アイスカフェラテ貰えます?それと、お店を見て回っても良いですか?すごく素敵なお店ですね!」
「どうぞ。父のコレクションなんです。」
「へぇ、素敵な趣味のお父様なんですね。」
弾んだ声で店内の棚の鉱物を眺める彼女を改めてみると、緩やかなカールを描く艶やかで柔らかそうな黒髪をキレイな髪飾りで結んでいた。
水色のブラウスに白のクロップドパンツで溌剌とした雰囲気が漂う。
二人で並んだらすごくお似合いだ。
ズキリとしたのは気のせい。俺は、気がつきたくない思いに蓋をする。
そんな訳ない。だって、今までそんな事なかったんだから。
「広井さん、この家具素敵ですよねぇ~。ディスプレイとしても完璧!」
「そうだね。俺もその棚の好きなんですよ。」
今は二人で店内のあれこれを眺め話が弾んでいた。
「うーちゃん、もう手伝いは良いよ。茂木さんと出かけて来たら?」
堪らずに声をかける。
「あ、たかなしさんは困らないんですか?」
「元々一人でやってるんで大丈夫ですよ。」
「でも…。」
「行って来なよ。もう迷惑料は十分払ってくれたよ。」
ニコッと笑ってみせるが、ちゃんと笑えてるだろうか。
「広井さん、行きましょうよ!ちょっとこの辺案内して下さい~。」
彼女はスルッとうーちゃんの腕に手を絡めた。
なにそれ。やっぱり彼女じゃないの?早く行けよ。
「分かったよ…じゃあ、また後で。」
怪訝そうな顔のうーちゃんは、それでも二人で出て行った。
「知ちゃん、良いの?」
「何が?」
「冬馬君取られちゃうわよ?」
「元から俺のじゃないし。あ、もう閉店時間だから閉めるよ。」
外の札をクローズに返して、ばぁちゃん達が出てから鍵をかけた。
「俺のじゃないんだ。」
誰もいない店内で声に出すと、無性にに寂しさにかられた。
振り切るように店内を掃除して二階に上がりチューハイを飲み干した。ご飯も食べてないのに良くないと思いつつ、滅多に飲まない三本飲み干した。
なんなんだよ、これ…。
いつもより多く飲んだせいで、ぐっすり寝入ってしまったがベルの音で目が覚めた。まだ9時だ…。
ピンポン!ピンポン!
うるさいなぁ。なんだよ。階段を降りてドアミラーを覗くと、うーちゃんが立っていた。
開けたくない。見なかった、聞こえなかった。
うん。それで行こうと決めたのだが、うーちゃんはしつこかった。時間をおいてはピンポン鳴らし…さすがに近所にも迷惑だ。
「うーちゃん…うるさいよ。」
「ごめん。でも、どうしても話したい事があって。」
「ふーん。座れば?」
「上に上げてくれないのか?」
「こっちで済ませて。」
喫茶店の座席に向かい合って座る。
「ことりちゃん、酔ってる?」
「なんだよ、営業中じゃないだから文句は言わせないぞ?」
デートして、なんで今ここに来てんだよ。イラっとする。
「別に文句じゃないよ。」
「ふーん。俺さ、寝てたんだよね。話って何?」
「茂木さんは付き合ってる訳じゃないから。」
何それ。わざわざそんな事言う為に叩き起こされたの?
「それ、俺に関係ないし。もう寝て良い?」
正直まだ眠くてイライラしてる。言い方がキツくなったけど、酔ってるせいか感情が抑えられない。
「俺はさ、片思いしててさ。」
「えっ?」
「だから、告白されたけど断ってきた。ここに来たのは、俺の情報が欲しかったみたいだね。」
「ああ...そう言う事。」
幼馴染だけど、俺は大人になってからの事はほとんど知らない。そう...全然知らないんだ。
「無駄なことしたよね、彼女。俺、うーちゃんの事全然知らないのに。」
嫌な言い方だって分かってる。この苛立ちは彼女に対して?それともうーちゃんに対して?
「そうだね。全然知らないよね。」
冷たく言い放つうーちゃんの声に胸がズキンズキンと疼く。これは、もう目を背けられない気持ちだった。
「初恋の人が忘れられないんだ。でも、それも引っ越してしばらく経ってから気がついてさ。忘れたつもりだったけど、こう言うのって消えないもんだな。」
「そう。」
「聞かないの?」
「何を?」
「誰かって。」
そんなの、聞いてもどうにもならないのに。
「聞かない。興味ないし。」
「そう...。」
「もう良い?」
「まぁ、今日はことりちゃん酔ってるしね。また来るよ。」
俺、うーちゃんが好きなんだ。
帰っていく後ろ姿を見送って、俺は少し泣いた。
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近所に引っ越して来たうーちゃんだが、現場が変わると通勤時間も変わる為なかなか忙しい様だ。建築士になっていて設計した現場をチェックするそう。まったり仕事をしている俺とは大違いだ…。
そんな訳で実はあまり会っていなかったりする。会っても一瞬で…別に寂しくなんか…ない。
二階のローソファーでチューハイを飲んでゴロゴロしていると、ガチャガチャと店側の鍵をこじ開けようとする音がして、ビクリと震えた。
鍵預けてるから、うーちゃんじゃない?まさか泥棒?こんな古い家、金目のものなんかないぞ?!
階段をそっと降りると、人の声が聞こえた。
「こんばんは。どなたかいませんか?すいません。」
もうガチャガチャはしてなくて、女性の声がした。
「はーい。」
玄関を開けると、そこに居たのはキレイな女性と、酔っ払ったうーちゃんだった。
「ど、どうしたの?うーちゃん?!貴方は?」
「ただいまぁ~。」
ふにゃふにゃの笑顔を向けるうーちゃんは可愛い…。
「広井君の同僚の茂木春菜と言います。今日は仕事が一段落して打ち上げしたんですが、広井君すごく酔ってしまって。送って来たんですけど…自宅ではないみたいですね。」
戸惑った様子で周囲を見ていた。薄暗い中で見ると、怖がる人もたまにいる。アンティークで古めかしだけで、ユーレイなんか出ないんだけどな。
「あ、はい。俺は幼馴染です。まだ引っ越し間もないから、うちに来ちゃったんですね。良いですよ、今日は泊めますから。」
肩を貸している茂木さんからうーちゃんを引き取り、ひとまず大きめのソファに寝かせる。階段は危ないから、今夜はここだな。
「…そうですか。あの!」
「はい?」
「い、いえ!良いです。じゃあ、失礼します。明日はお休みなので、朝の心配は要らないですよ。」
「分かりました。でも貴方は?」
「大丈夫です。タクシーアプリで呼びますから。」
俺もそのアプリは知っているけど、呼んですぐ来る訳じゃない。
「じゃあ来るまで、中で待ちませんか?夜だし、危ないですから。」
「そ、そうですか…?じゃあ、お言葉に甘えて失礼します。」
うーちゃんを見てて貰って、上から上掛けを持って来た。落ちると危ないし、俺もこっちで寝る事にしたんだ。
「茂木さん、酔い醒ましに、待ってる間コーヒーでも飲む?もちろん商売関係ないから。」
「はい、ありがとうございます。」
アプリによると、運悪く近くを走っているタクシーがいなくて十五分程待つそうだ。コーヒーを飲むにはちょうど良いじゃないか。
「どうぞ。デカフェにしておいたよ。」
「わぁ、ありがとうございます!…美味しい!」
酔っていてもカフェインがない方が良いだろう。美味しそうに飲んでくれて嬉しい。
それにしても…キレイな人だ。二人で帰って来るなんて、彼女かな?もしかしたら、二人で…のつもりだったのかな。
何故か胸がズキンとした。
「「あの…」」
慌てて手を振って彼女にどうぞと促すと、彼女も俺にどうぞと言う。
「お名前聞くの忘れてて…。」
「あっ!すいません。俺は小鳥遊知成なりです。よろしくお願いします。」
「たかなしさんですね。よろしくお願いします。」
「茂木さんはお酒に強いんですか?」
「私は飲んでませんから~。」
ニコニコと笑う彼女は可愛らしいが、えっと…まさか、逆に襲う気だったとか、言わないよね?
ちょっと鳥肌が立ったが勝手な憶測だ。
「あ、もうすぐかも!外に出て待ちますね。また来ても良いですか?ゆっくりお話したいです!」
「まぁ、昼間は店にいますよ。」
「そうですか、それじゃあ、さようなら。」
台風の様に彼女は去って行った。
「うぅ~ん…。」
むにゃむにゃと眠るうーちゃんは平和そうな顔をしている。
俺はと言うと、あれ彼女?新しい家を知らないって事は新居で初だったんじゃないの?女性に送られて来るってどうよ?とか、良く分かんない感情に戸惑いながら、別のソファで眠りについた。
「イテテ…やっぱりこんな所で寝るもんじゃないな。」
痛む体をストレッチしながらうーちゃんの方を見れば、まだ眠っていた。
朝食でも準備するか。どうせばぁちゃん達も来るし。
いつも通りに朝食を用意して、ばぁちゃん達が来る前に起こして二階にやらなくちゃ…。
「うーちゃん、起きろよ。」
「うぅ~ん…もう少し…。」
ゆっさゆっさと揺らすと、目を閉じたままごねる。
「ここで寝てると困るんだ。上に行ってよ。」
「ここ…ダメ…?」
「そうだよ。ほら、起きて!シャキッとして!」
ようやく目が覚めたみたいだが、まだぼんやりしていて半分夢の中みたいだな。
肩を貸して階段を上がり、俺のベッドしかないので放り込んだ。
「ここ…ことりちゃんち…?」
「そうだよ。夕べ間違ってこっちに来ちゃったんだよ。茂木さんって女性が送ってくれたんだよ。」
「茂木…さん?ああ、そう言えば…。」
「なんでって…。あ、もう時間だ!!俺もう行くから、休みなら寝てろ!」
本気で時間がなかったので、振り向かずに階段を降りた。何故か彼女との事はあまり知りたくなかった。
そのままいつもの朝ごはんメンバーと出勤組を見送り、ランチに向けて仕込みをしていたらうーちゃんが起きてきた。
「おはよう。何か食べる?」
「んー、トーストとコーヒー貰える?」
「良いよ。」
自分のコーヒーも作り、トーストとサラダ、コーヒーを用意した。
「はい、出来たよ。」
「ありがとう。ことりちゃん、昨夜はごめんな。なんかいつもより酔っ払っちゃって…。無意識にここって言ったみたいだ。」
無意識…。心の中に何がじわっと湧き上がったが、それが何なのかは分からない。
「それは良いけど、女性に送られて来るなんて…。茂木さんって言ういう人だよ。あとでお礼した方が良い。」
「ああ…彼女、同僚なんだ。悪い事したな。」
「彼女じゃないのか?」
「違うよ?何で?」
「だって…普通は酔った男を送って来るなら同僚の男だろ。」
他に誰かいるならともかく…おかしいだろ。
「ごめん…昨夜の事、覚えてないんだ。でも、これから気をつけるよ。迷惑かけてごめん。」
「迷惑って言うか…。」
何だろ?迷惑とは思ってない。でも妙にモヤモヤしている。
「俺は気にしてないけど、他の人には迷惑かけるなよ。」
「…また、ここの住所言っても怒らない?」
「学習はしろよ~。」
「ハハッ、ごめん。なるべく気をつける。」
笑いあって終わったけど、俺は…。
「うぅ~ん…。」
「何?」
「何でもないよ、うん。まぁ、酔っ払いはダメだって事!」
「はーい。」
結局うーちゃんはその日一日中うちにいて、お客さんにコーヒーを出してくれたり接客までしてくれた。
何度も女性客があの人カッコいい、と頬を染めて囁くのを聞こえて来た。うんうんと俺は心の中で頷いた。
仕事も出来て、ニッコリ笑ってサービスするうーちゃんは本当にカッコ良かったんだ。
「冬馬君、馴染み過ぎてここに住んじゃうじゃないのぉ?」
夕方、健康体操教室から帰った松ばぁ達がケラケラ笑いながら話しかけた。
「実際居心地良すぎて、こっちにいる方が長いですね。」
苦笑しながらばぁちゃん達のテーブルにコーヒーを持って行くうーちゃん。
「でもさ、そうなれば知ちゃんの事も安心なのよねえ。一人じゃ何かあった時に心配だし。二人で住んじゃえば?」
「あ~、良いですね。」
「えっ!?」
「まぁ、ことりちゃんが迷惑なら無理ですけど。今日も酔ってこっちに来て泊まっちゃったんですよ。」
「おいおい、もう自分の家みたいじゃないか!」
じいちゃんが爆笑してる。
「じいちゃん、ダメだよ。彼女とか出来たら困るだろ?」
「そんなもん、気持ちがあればどうにかなるもんだ。わしらの若い頃はなぁ…」
あ、これ長くなる奴だ。うーちゃんに目配せして、適当に相手をして離れて良いよと合図をした。
そんな時、カランとベルが鳴った。
「いらっしゃいま…せ。茂木さん?」
「えへへ、来ちゃいした。あの、広井さんもこっちにいたんですね。」
「ああ、茂木さん。昨夜は迷惑かけてすいませんでした。」
「いえっ!そんなっ!気にしないで下さい。」
彼女は頬を染め両手をブンブン振って、なんだか可愛かった。キレイで可愛いか。良いじゃん、彼女にしちゃえば?絶対、うーちゃんに気があるもんな。
瞳をキラキラさせてうーちゃんを見ていて、少なくとも彼女は好意を持ってるのが分かる。
「あの、アイスカフェラテ貰えます?それと、お店を見て回っても良いですか?すごく素敵なお店ですね!」
「どうぞ。父のコレクションなんです。」
「へぇ、素敵な趣味のお父様なんですね。」
弾んだ声で店内の棚の鉱物を眺める彼女を改めてみると、緩やかなカールを描く艶やかで柔らかそうな黒髪をキレイな髪飾りで結んでいた。
水色のブラウスに白のクロップドパンツで溌剌とした雰囲気が漂う。
二人で並んだらすごくお似合いだ。
ズキリとしたのは気のせい。俺は、気がつきたくない思いに蓋をする。
そんな訳ない。だって、今までそんな事なかったんだから。
「広井さん、この家具素敵ですよねぇ~。ディスプレイとしても完璧!」
「そうだね。俺もその棚の好きなんですよ。」
今は二人で店内のあれこれを眺め話が弾んでいた。
「うーちゃん、もう手伝いは良いよ。茂木さんと出かけて来たら?」
堪らずに声をかける。
「あ、たかなしさんは困らないんですか?」
「元々一人でやってるんで大丈夫ですよ。」
「でも…。」
「行って来なよ。もう迷惑料は十分払ってくれたよ。」
ニコッと笑ってみせるが、ちゃんと笑えてるだろうか。
「広井さん、行きましょうよ!ちょっとこの辺案内して下さい~。」
彼女はスルッとうーちゃんの腕に手を絡めた。
なにそれ。やっぱり彼女じゃないの?早く行けよ。
「分かったよ…じゃあ、また後で。」
怪訝そうな顔のうーちゃんは、それでも二人で出て行った。
「知ちゃん、良いの?」
「何が?」
「冬馬君取られちゃうわよ?」
「元から俺のじゃないし。あ、もう閉店時間だから閉めるよ。」
外の札をクローズに返して、ばぁちゃん達が出てから鍵をかけた。
「俺のじゃないんだ。」
誰もいない店内で声に出すと、無性にに寂しさにかられた。
振り切るように店内を掃除して二階に上がりチューハイを飲み干した。ご飯も食べてないのに良くないと思いつつ、滅多に飲まない三本飲み干した。
なんなんだよ、これ…。
いつもより多く飲んだせいで、ぐっすり寝入ってしまったがベルの音で目が覚めた。まだ9時だ…。
ピンポン!ピンポン!
うるさいなぁ。なんだよ。階段を降りてドアミラーを覗くと、うーちゃんが立っていた。
開けたくない。見なかった、聞こえなかった。
うん。それで行こうと決めたのだが、うーちゃんはしつこかった。時間をおいてはピンポン鳴らし…さすがに近所にも迷惑だ。
「うーちゃん…うるさいよ。」
「ごめん。でも、どうしても話したい事があって。」
「ふーん。座れば?」
「上に上げてくれないのか?」
「こっちで済ませて。」
喫茶店の座席に向かい合って座る。
「ことりちゃん、酔ってる?」
「なんだよ、営業中じゃないだから文句は言わせないぞ?」
デートして、なんで今ここに来てんだよ。イラっとする。
「別に文句じゃないよ。」
「ふーん。俺さ、寝てたんだよね。話って何?」
「茂木さんは付き合ってる訳じゃないから。」
何それ。わざわざそんな事言う為に叩き起こされたの?
「それ、俺に関係ないし。もう寝て良い?」
正直まだ眠くてイライラしてる。言い方がキツくなったけど、酔ってるせいか感情が抑えられない。
「俺はさ、片思いしててさ。」
「えっ?」
「だから、告白されたけど断ってきた。ここに来たのは、俺の情報が欲しかったみたいだね。」
「ああ...そう言う事。」
幼馴染だけど、俺は大人になってからの事はほとんど知らない。そう...全然知らないんだ。
「無駄なことしたよね、彼女。俺、うーちゃんの事全然知らないのに。」
嫌な言い方だって分かってる。この苛立ちは彼女に対して?それともうーちゃんに対して?
「そうだね。全然知らないよね。」
冷たく言い放つうーちゃんの声に胸がズキンズキンと疼く。これは、もう目を背けられない気持ちだった。
「初恋の人が忘れられないんだ。でも、それも引っ越してしばらく経ってから気がついてさ。忘れたつもりだったけど、こう言うのって消えないもんだな。」
「そう。」
「聞かないの?」
「何を?」
「誰かって。」
そんなの、聞いてもどうにもならないのに。
「聞かない。興味ないし。」
「そう...。」
「もう良い?」
「まぁ、今日はことりちゃん酔ってるしね。また来るよ。」
俺、うーちゃんが好きなんだ。
帰っていく後ろ姿を見送って、俺は少し泣いた。
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