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6巻

6-1

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 BLゲーム『いやしの神子みこ宵闇よいやみ剣士けんし』の世界におまけで召喚された俺――湊潤也みなとじゅんやいやしの神子みことして、ここカルタス王国全土をけが瘴気しょうきはらう巡行の旅をしている。
 少し前から俺達は、ダリウスの実家があるバルバロイ領の中央都市、ユーフォーンに滞在していた。南部にあるチョスーチの浄化を終えた俺は、ユーフォーンに戻ってしばしの休息をとっているところだ。
 ユーフォーンでは、ダリウスの兄であるヒルダーヌ様と出会ったものの、どうやら二人は仲が悪いようで、険悪な雰囲気が続いていた。さらにヒルダーヌ様の婚約者であるメフリー様が病にせっており、俺はそのどちらもをなんとかしてあげたい、と考えたのだ。
 東奔西走とうほんせいそうして尽力したところ、メフリー様が病でせっていた理由が、ヒルダーヌ様に権力が集まるのを恐れた一味が、瘴気しょうきを使い危害を加えていたせいだったと判明。彼らはティアや俺を狙う一団とも繋がっていたため、街の住民を浄化する際、一網打尽にすることができた。
 敵の確保にラジート様も一枚噛んでいるが、彼は俺が浄化をするたびに呪詛じゅそ返しに苦しんでいる。ナトルが裏で何かしているらしいが、正確な情報はない。結局のところ、ラジート様を救うにはしゅを全て浄化するしかないんだろう。
 ダリウスとヒルダーヌ様の仲違なかたがいも、犯人は判明しなかったが、第三者の策略だと分かり二人は和解することができた。さらにヒルダーヌ様がメフリー様に恋をしていることを一切自覚していなかったんだが、それを認識させることに成功させた。
 これで万事解決……と言いたかったが、ヒルダーヌ様の反撃を食らってしまう。
 あろうことかヒルダーヌ様は、俺が言い争っている際に「ダリウスの子供を産んでもいい」と言い放った時の録音をみんなに聞かせたんだ……
 みんなの前で恋してることを自覚させた意趣いしゅ返しかよ!?
 とにかく、あの人は食えない男ってことだけは理解した。
 その後、ティアとダリウスに子供の件について問いただされ、適当に誤魔化したんだが……

「私に秘密を持つ覚悟は持っているな?」
「ベッドで吐かせるから問題ない」

 ……という二人の怖~い宣言にビビっている。子供の件については、いつかちゃんと話す時間を作ろうと思う。
 疲労を理由に、バルバロイ家で滞在している部屋に逃げ帰り、今はエルビス達にマッサージしてもらっている。まだ体力は残っていると思っていたが、自覚している以上に消耗しょうもうしていたようだ。

「パレードはあんな状況でしたが、魔石の輝きと同じ光がジュンヤ様を包んでいて美しかったです」
「魔石の輝きは見慣れたと思ってましたが、神々こうごうしくて、まさしく神の愛し子の名に相応ふさわしい御姿でした!」

 侍従の二人が話しているのは、パレードで俺が刺客に襲われた時の話だ。パレードで刺客に刺されそうになった俺は、なぜか謎の白い空間に移動していたのだ。少しして元の世界に戻ってこられたのだが、刺客には傷一つつけられていなかった。
 どうやら、ケローガで出会ったコミュ司教がくれたメイリル神のペンダントが俺を守ってくれたようで、元の世界に戻った瞬間にペンダントは粉々に砕けてしまった。
 ノーマとヴァインは俺をマッサージしながらその時のことを話し続けている。まだ興奮冷めやらぬようだ。

「私はジュンヤ様が神の世界に行ってしまうのではと怖かったです。本当にご無事で良かった。どこかに行った……と仰ってましたよね?」

 エルビスが不安そうに聞いてきた。

「うん。最初は誰もいない真っ白な世界にいて、急に森の中に移動したんだ。泉は道だって声が聞こえてさ。思い切って飛び込んだら……戻れた」

 知らない場所なのに、なぜか既視感があったのだ。

「すごく長くいた気がするけど、あれはなんだったんだろう……」
「実際には一瞬だったのでしょうが、私達にとってはとても長く感じました。神殿に聞いても分かる人間がいるかどうか……」 
「心配ばかりかけて悪いな」

 俺が眉尻を下げると、エルビスは首を横に振った。

「ジュンヤ様が悪いのではありません。それに良いこともあります。もう追撃の心配はないでしょう。トーラントはトーラントで不安がありますが、巡行メンバーの絆があれば大丈夫です!」
「そうだな。絆といえば……ヴァイン、ラドと仲良くなったんだ?」
「はぁっ!? あ、し、失礼を! いえ、普通の友人です! 友人になりました!」

 振り向くとヴァインは赤い顔をしている。慌てちゃって可愛いなぁ。

「そっかぁ。友達になれて良かったな」
「ええ、はい。そうですね」

 進展はまだなさそうだけど、幸せなのは良いことだ。

「俺さ、リクエストされたメニューの他にも色々作ってパーティーするから。三人も手伝っちゃダメだぞ! みんなもお客さんだから、手を出すなよ」

 驚く三人に手を出さないように言いつけると、驚きながらも楽しみにしていると言ってくれた。

「正装禁止令も出すから、もてなされてくれよ?」

 俺が笑うと、三人も笑った。


 夕食はガーデンパーティーだ。とはいえ、今日非番のユーフォーンの騎士も招待するので、百人近い規模になる。そんな規模の食事を一人で準備するのは無理なので、ハンスさんを始め調理場メンバーに手伝ってもらった。当然、彼らも交代でパーティーに客として参加する。
 ピザに唐揚げ、カレーなど……メニューだけ見たら日本に帰った気分になる。調理場メンバーには日本的なメニューだけでなく、この世界のメインディッシュも作ってもらった。

「ジュンヤ様。ユーフォーンの獣達は大食らいなので、食材はこの倍必要です」

 自領の騎士を獣扱いする料理長は、大量の食材を調達してきた。他にも片付けや、調理器具を洗う仕事が残っている。せっかくのパーティーなのに全員の力を借りることになったので迷惑だったかと思いきや、みんな楽しそうに手伝ってくれて、安心した。
 パーティーのセッティングは執事のリンドさんに協力してもらった。使用人の皆さんの手を借り、準備完了。彼らも交代制でパーティーに参加する。基本立食だが、元々ベンチも設置されているので、少しだが座席もある。
 そして時間になり、王都メンバー、バルバロイ一家、ユーフォーンの騎士達が集まった。みんなリラックスしていて良い感じだ。サージュラさんは呼ばなくてもぎつけて来そうだったので、最初から招待しておいた。

「ヒルダーヌ様、皆さん。手を貸してくださってありがとうございます。色々ありましたが、皆さんのために食事を用意しました。気軽に楽しんでください」

 俺の簡単な挨拶の後、パーティーが始まった。俺は会場を回り、みんなの反応をチェックしている。

「ジュンヤ様~! カレーパン美味いっす! 唐揚げは俺のリクエストですよね? 嬉しいっす!」
「ウォーベルト……その山盛りの飯、食べきれるのか?」

 護衛であるウォーベルトの皿には、今にもこぼれ落ちそうなくらい料理が盛られている。

「これくらいチョロいっす! あ、あれも食べてみたいっ!」

 そう言うと風のように去っていき、料理が盛られたテーブルを物色し始めた。
 そんなウォーベルトの後ろ姿に軽くため息をついた俺が次に向かうのは、ティアとダリウス、エルビスのいるテーブルだ。

「ジュンヤ。私はジュンヤの作るトンカツが好きだ。なぜあんなに肉を柔らかくできるんだ?」
「あ~! 俺もトンカツが好きだなっ! カツ丼もまた食いたい」
「今日は人数多いから、今度作ってやるよ」
「ああ、今度、俺のためだけに作ってくれ」

 さらっと尻を撫でてセクハラをしてくる男の手を追い払う。俺が次のテーブルへ移動すると、ダリウスも後をついてきた。 

「ジュンヤ様のドレッシング、すごいです……野菜をこんなに美味しく感じるなんて」

 エルビスが草食動物のようにもしゃもしゃ野菜を食べていて可愛い。俺が用意したのはシンプルなフレンチドレッシングだったが、酸味が食欲を増進すると思いの外みんなに好評だった。
 そして、隣のテーブルにいるのは、あいつ。ここは神官用にベジタリアンゾーンになっている。

「マテリオ、美味いか?」

 無言でピザをひたすららう男は頷いた。

「初めて会った時の味だ……」
「そういえば、ピザを作って無理やり食わしたんだっけ。懐かしいな」

 異世界にやってきてすぐの時に神殿に拉致らちされた事件。その時にマテリオや神兵さんのために作ったのが遠い日に思える。

「あの時は正直に言えなかったが、美味い」
「へへっ、そうか。……って、マナ!? そんなに口に詰め込まない! のどに詰まるぞ!」

 マテリオの隣に立つマナは、リスみたいにほっぺたが膨らんでいる。

「むぐぐ、むふっふ、むふ~」
「全っ然、分かんないよ」
「すごく美味しいです、と言ってますね」

 マナの隣に座っていたソレスが通訳してくれた。あれで分かるなんて、さすが双子だ。

「たくさんあるから、慌てないで食べるんだぞ?」

 ひらひら手を振って神官用のテーブルから去り、さて、お次は……

「おぉ~う! 神子みこ様!」
「ザンド団長、チェリフ様」
「母上、いらしたのですか」

 ユーフォーンにある騎士団の団長、ザンド団長と、ダリウスの母、チェリフ様が俺と神官のいるテーブルにやってきた。
 テーブルを挟んで立っていたダリウスはチェリフ様の前に移動し、姿勢を正した。チェリフ様に会うのは久しぶりだ。あの騒ぎの中、今までどこにいたんだろう?

「うふふ。神子みこ様。疑問は疑問のままのほうがよろしいですよ?」

 怖っ! 何も言ってないのに返事してきた、何この人!? 思考を読める魔法とか使ったのか?

「これだけはお教えしておきますね。捕縛ほばくした者は私の管轄です。どうぞお任せを」
「チェリフはな、優男に見えておっそろしいんだぞ? 腕力だけなら勝てるが、頭脳攻撃してこられたら敵わん」

 ザンド団長は大袈裟おおげさに震えてみせる。

「おやおや、人聞きの悪い」

 二人の笑い合っている様子から、仲の良さがうかがえる。

「こんなに美味しい食事は初めてです。レシピを伝授してもらってもよろしいですか? 街の名物になりそうです」
「もちろんです。役に立ちそうなことは試してください」
「あなたは見返りを求めないのですねぇ。もう少し欲を出しても良いのでは?」
「母上、ジュンヤ様はそういう方ではないのですよ」
「あ、ヒルダーヌ様」

 ヒルダーヌ様もやってきた。このテーブルは圧の強い人間が勢ぞろいだ。なんだか息苦しい。

「ジュンヤ様は驚くほどストイックな方です。目的のためには突き進む、貴重な人材です」
「ほぉ。そこまで言うなんて、マティも変わったね。――それに、ディーが逃げないね。これも神子みこ様のおかげかな?」

 チェリフ様は、幼子にするように、優しくヒルダーヌ様の頬に触れた。

「……母上?」
「ソーラズから報告があった。そなたの我慢強さに甘えていた。すまなかったね。これからは己の思う道を進むが良い。道を誤った時は、容赦なく叱ってやろう。これまで、良い子すぎて怒ったこともないと気がついたよ」

 ヒルダーヌ様は唇を噛み締め、泣くのを我慢しているように見えた。

「弟が破天荒はてんこうすぎたせいかな?」
「母上……俺は」
「――俺?」
「うっ、私は、難しい話は苦手で」

 流れ弾が飛んできたダリウスが気の毒だが、チェリフ様には逆らってはいけないと俺の本能が言っている。

「そなたは旦那様似だから良いさ。手綱を握る相手が現れたようだし大丈夫だろう。ねぇ、神子みこ様?」

 チェリフ様が笑いかけてきたが、どうも緊張する。

「チェリフ様、俺に敬語はやめてください。それと、ジュンヤと呼んでもらえると嬉しいです」
「ふふふ。では、未来の息子として話そう。実に楽しみだ。マティもメフリー殿の回復を待って婚儀を挙げる。すまないが、兄が先だ。二人には待ってもらうよ」
「ええっ!? あ、の。はぁ」
「おや、否定はしないのだね。嬉しいことだ」
「チェリフ、待て。ジュンヤは私の恋人でもあるのだぞ?」

 俺の背後から声がして、別のテーブルで騎士をねぎらっていたティアがケーリーさんを引き連れて参戦してきた。ダリウスとチェリフ様の間に割り込む珍しい光景だ。

「殿下、会話に割り込むのはお行儀が悪いですよ?」
「いや、ジュンヤに関しては譲れない」
「おやおや。我が家で独り占めにはできないようですね?」
「させぬ!」
「ふっふっ……今の殿下はまるで子供みたいですね。少しは成長されたかと思ったのですが」
「うっ……しかし、ジュンヤは特別なのだ」
「それはそれは」

 ティアが引かずに反論していると、突然チェリフ様がティアを抱きしめた。チェリフ様のほうが小さいのでしがみついている感じだが、驚いたティアは固まってしまった。

「そのような素直なお言葉、久しぶりにお聞きしました。よろしゅうございましたね。王族は苦しい選択を強いられるもの。その苦しい道のりを共に歩く伴侶が見つかり、私は嬉しく思います」

 抱きしめていた腕を緩め、チェリフ様はティアを見上げる。

「恐れ多いですが、あなたは我が子同然です。ダリウスと殿下の二人が幸せになることは、母として至上の幸せでございます」
「チェリフ……」
「さて、ジュンヤには心から礼を言うよ。うちの放蕩ほうとう息子を矯正してくれたうえ、凍りついた王子の心も溶かしてくれた。婚約式も結婚式も全面的に支援する。早速、当家のお抱え仕立屋に準備をさせよう」
「チェリフ様、落ち着いてください! 気が早すぎます」
「母上、ジュンヤが困っています」

 ダリウスも間に入るが、チェリフ様はテンションが上がってしまっている。

「ディー。こんな美人で肝の据わった嫁、さっさとくっつかないと、ライバルは魔灯まとうにたかる虫のように現れるぞ? 横からかっさらわれても良いのか? バルバロイの男ならライバルを全てぶちのめしてかまわぬが、肝心のジュンヤが目移りしたらどうする。気が変わらぬうちに婚約式だけでも済ませねば。殿下ものんびりしていてはいけませんよ」

 急に話の風向きが変わる。

「母上、大丈夫です。ジュンヤ様は心変わりなどしませんよ」

 ちらりとヒルダーヌ様に視線をやったら、助け舟を出してくれた。ありがとうございます!

「ダリウスは俺だけのもので、俺はダリウスのもの、だそうです。そうそう、俺のいる場所がダリウスのいる場所とも仰っていましたね」

 すごいなその記憶力! 自分でもそこまで覚えてないのに。

「ジュンヤ……! そうだな。俺達は永遠に離れたりしない」
「んんっ、ん、ふぅ……」

 感極まった様子のダリウスに抱きしめられキスされる。ディープキスだったせいで、頭がくらくらふわふわしてしまった。

「こんなところで、バカ……」
「そうそう、ジュンヤ様。これをお返ししますね」
「え?」

 ヒルダーヌ様が俺の手に何かを握らせる。見るとそれは、あの録音機だった。

「なんだぁ? それ?」
「新作の魔道具か? 見せてくれ」
「えっと、これは……ヒルダーヌ様、なんでよりによって今……」
「もちろん、あなたを逃さぬためですね」
「なんだ? やばいもんか?」

 横からダリウスが録音機を覗いてくる。やめてくれダリウス、あまり突っ込んでくるな。

「いや、大したもんじゃないよ」

 俺は顔をヒクつかせながら笑い、それを服の中に隠した。

「ヒルダーヌ、見たことがない道具だが、あれはなんだ」
「録音機というものです、殿下。音を記録できるのです」
「音を記録できる……?」

 ティアまで食いついてきて、困ったことになった。

「えーっと。秘密」
「秘密だと? また私にお仕置きされたいのか?」
「違う、けど」
「秘密が二つか。俺達に秘密はないんじゃなかったか?」
「時期が来たら話すから……待っててほしい」
「ふぅん? まぁ、今日のところは見逃してやるか」

 二人共珍しくあっさり引いてくれてほっとした。しかしなぜか突然、ダリウスがグラスを差し出してきた。グラスには白ワインが入っている。

「俺、ワイン苦手なんだけど」
「これならジュンヤでも呑みやすいはずだ。フルーティな味わいだぞ」

 試しに口にすると、確かに飲みやすいワインだった。飲み終わるとティアもグラスを差し出してくる。まぁ、量は少ないしあまり酔わないだろう。

「もしかして、これ、バルバロイ産のワイン?」
「そうだ。美味いだろ?」
「うん。エールが一番呑みやすいけど、これも良いな」
「ジュンヤ様、軽い口当たりで呑みやすいので、量には気をつけてください」

 アルコールを呑み始めた俺に気づいてエルビスも駆けつけてきた。エルビスに忠告されたはずなのに、ジュースのような軽い口当たりに呑みすぎてしまい、ふわふわと世界が揺れ始める。でも良い心地だ。周囲を見れば、みんなの笑顔で溢れていて嬉しくなってきた。

「喜んでくれて嬉しい……ダリウス、手、貸して」
「酔ったんだな。座ったほうがいい。ほら、こっち来い」

 空いていた近くの椅子に座ったダリウスの膝に乗せられ、俺はぎゅっと彼の体に抱きつく。分厚い胸板にくっつくと安心する。そういえば、バルバロイに来てから、ダリウスとはあまり一緒にいられなかった。

「これ、安心するから好き」
「そうか。俺が好きか」
「おや、ジュンヤは酔うと可愛らしくなるんだねぇ」

 背後でチェリフ様が笑っている。

「落ち着くだけれす。おれ、いっしゅん知らないとこに飛ばされて、一人ぼっちで、怖かったんだ」
「パレードの時のことか? 何があったんだよ?」

 あの不思議な空間と世界。見覚えのある森……

「初めはまっしろで、それから森にいった。見たことのある森で、声がした……」
「どんな声だ?」
「泉は道だって。おれ、泉からあっちに帰れるのかな……?」

 でも帰ったら、みんなと別れることになる。

「帰りたいのか?」
「帰ったら、だりうすもてぃあも、えるびすも泣くだろ?」
「――泣くなぁ。俺だけじゃなく、みんなが泣く」

 だよな。やっぱり泣くのかぁ。俺も寂しくて泣くと思う。

「じゃあ帰んない。いるよ。だから、泣くな」
「いてくれるなら泣かない」
「でも、泉にはいるの、怖くなった……がんばるけど」
「私達の傍にいてほしい。ジュンヤを家族から引き離していると分かっていても……いてほしいんだ」
「てぃあ……」

 俺はダリウスに抱きついたまま、切なげなティアに手を伸ばす。

「今日は、いっしょにねよう?」
「良いのか?」
「うん」
「俺はダメか?」
「いーよ。さんにんでねよう」

 ティアともずっとイチャイチャしてないし、ダリウスのかっこいい筋肉にも触りたい。
 えっちなこと……したい。

「ちゅーしたい……」

 あれ、口に出ちゃった?

「チェリフ、すまないが中座する」
「はいはい。殿下が戻らずとも締めておきますから、ご安心を」

 ダリウスに抱き上げられ、俺達はパーティー会場を後にした。隣を歩くティアが俺の頬を手の甲で撫でる。

「たっぷり可愛がってやろう。聞きたいこともあるしな?」
「ん?」

 ティアはちょっと意地悪な顔をしている。聞きたいことって、あの魔道具のことだよな。恥ずかしいから内緒にしなきゃ。
 隠せる……よな? 頑張れ、俺……!


 二人に連れられてやってきたのは見たことがない部屋だった。少なくとも、俺やティアの泊まっている部屋じゃない。

「ここは?」
「俺の部屋だ。ずっとここで寝ることはなかったが、リンドがいつも整えてくれていたんだ」
「そうか。ダリウスを待っていてくれたんらな。あれ、りゃな、じゃなくって」
「くくくっ。無理すんな」
「ジュンヤは酔うと呂律ろれつが回らなくなるのが可愛い」
「むぅ……あっ」

 部屋の端に置かれたベッドに降ろされると、二人が俺を挟むように横になり、川の字になる。

「まって、おふろ」
「必要ない。ジュンヤの香りを堪能できないだろう?」
「んっ! ふっんん……ぷぁ、はぁはぁ、てぃあ……」

 いきなりディープキスで唾液を飲まされると、体の奥が熱くうずいて抵抗する気力もなくなる。

「ずるいよぉ……おかしくなっちゃうじゃん」
「そう、私はずるいんだ」
「ベッドでするのは久しぶりだな。ジュンヤ、俺も……」
「ん、んう、ん、ん。ふぁ……あっ、や、まって」

 交互にキスしながら、二人の大きな手がシャツの上から俺の体をまさぐる。でも、肝心なところには触れてこなくて。

「あ……ん。あ、ダメ」

 ティアの手が隠していた魔道具に触れ、慌てて左手でシャツの上から押さえる。

「これか」

 ダリウスは魔道具を押さえる俺の手の甲を、ゆるゆると撫でながら笑った。

「どうあっても見せぬ気か」
「まぁ良いさ。力尽くで取り上げるのは簡単だが、渡したくなるようにしてやろうぜ」

 ダリウスが極悪顔だ! ピンチ!

「あの、な、めてあげるから……待ってくれないか?」

 あざとく小首を傾げてみる。これでどうだ?

「ジュンヤ。可愛いが、見逃してやらないぞ」

 今日の王子様はお仕置きモードですかっ? 自業自得かもしれないけどぉ!

「そんな、ひゃうっ!」

 ギリギリ乳首に触れない位置を愛撫され、どんどん体が熱くなっていく。

「ん……」

 なんで、肝心なところを触ってくれないんだよ。それに、下も触れられるのは脚の付け根とか太ももばかり。指が一瞬、きざしたそこをかすめるがそれだけだ。
 他方、ダリウスの手がお尻をいやらしい動きでんでくるせいで、もう少し奥を触ってほしくなって腰が動いてしまう。

「ジュンヤ、あれを聞かせてくれれば、気持ちいいことしてやるぜ?」
「ん、やだ……」
「随分意地を張るな。そんなに隠されるともっと聞きたくなるものだ。それとも、攻められたくてあおっているのか?」
「そんなことっ! な、あぁっ」

 脇腹や背中の弱い部分を撫で回され、思わず背中を反らしてしまう。ゾクゾクと甘いしびれが何度も体を襲ってくる。ブリーチズで抑えられた俺自身は、窮屈きゅうくつで仕方ない。してくれないなら自分でと手を伸ばしたが阻まれた。

「ダメだ。ジュンヤ」
「ティア、離して……」

 右手を封じられ、左手は録音機をガードして使えない。
 ……心の準備ができたら話すから、見逃してくれよ。

「こんなに濡らして……いじられたいんだろう? なんと言えば良いか、教えたろう?」

 やんわりと握られ、もう耐えられなかった。

「ううっ……さわ……て」
「聞こえないな」
「さわってください……」
「では、少しだけ」

 ブリーチズと下穿したばきを脱がされ、ようやくじかに触れてくれた。

「もうこんなにヌルヌルになって。いやらしい音が聞こえるか?」

 溢れた先走りを塗りつけ、わざと音を立てながらティアがくびれをゆるゆるとしごく。

「うっ……んっ、んっ、いいっ」
「気持ち良さそうだな、ジュンヤ。エリアスも上達して何よりだ」
「大きなお世話だ」

 ダリウスがシャツの上からゆったりとした動きで胸を愛撫してくるが、相変わらず肝心なところに触れてくれない。

「だりうす、なぁ……お願い……」
「何をお願いしてんだぁ? ん?」
「ん、はぁ、さわって、ほし……」
「触ってるだろ?」
「はぁ、やぁ」

 脇腹をゆったりと撫でられて、ゾクゾクとおののいた。

「ちが……ち、乳首、さわって」
「乳首いじられるのが好きか?」
「ぅぅ、すき……」
「よしよし。素直になれば、好きなだけしてやるからな?」

 服の上からきゅっとつままれ、体が跳ねた。

「まだいじってなかったのに、こんなにとがらせてたのか? 早く虐められたいって言ってるぞ?」
「あ、んん、もっと、して」
「どうしようかなぁ。お互いに隠し事をしないと約束したはずだが、何を隠してる?」
「これは、ちがう!」
「違わぬな。未だに信用されていないとは傷つくぞ?」
「ちが……」

 いや、そんなつもりじゃなかったけど、そういうことになるのかな。

「ダリウス、この部屋にアレはあるのか? 帰ってからこの部屋には戻っていないだろう?」
「アレか。リンドのことだから、いつだってあるはず……ああ、さすがうちの執事」

 棚にはいつものアレと香油の瓶が入っていた。

「リンドめ。エグイくらい良い奴じゃねーか」
「そうなのか?」
「これはな、長く効果が続く。どうする? エリアスがれるか?」
「私で良いのか?」
「ああ、俺はこの間池で愛し合ったしな。なぁジュンヤ、外でやらしいことすんの、興奮しただろ?」
「ばか、言うなよ」
「外で……? なるほど」

 すっとティアの目が細められる。視線が痛い。先にダリウスとエッチしたお仕置きだと言わんばかりに、脚を広げてきて俺の恥ずかしい場所をさらした。

「浄化が終わったらベッドから出さないから、楽しみに待っていろ」
「そんな、あっ!」

 恥ずかしい場所に香油が垂らされ、交玉こうぎょくを埋め込まれる。

「ん、んんーっ! はぁ……」

 奥までれられ、思わずる。交玉こうぎょくが濡らした内部を指が出入りすると、気持ち良くてたまらない。

「あう、あ、あ」

 弱い場所をねちっこく攻められて気持ちいい。もっと、こすってほしい……

「はぁ、ああっ、ん。ティ、ア、いい」
「では増やしてやろう」
「はう、あっ、あ」

 二本の指で前立腺をねられて、羞恥心なんかかなぐり捨てて動きに合わせて腰を振る。

「ん、んんっ、あっ。イクッ、イク……! んぁ」

 もう少しでイケる。ギリギリの瞬間で指が抜かれてしまった。

「てぃあ、イきたい……イかせて……」
「意地悪なジュンヤには意地悪をしなくてはな」
「いじわるなんて、してない」
「隠し事をしているだろう? 何を隠している? また一人で問題を抱えているのではないか?」
「ちが……」

 ふと、ダリウスの顔が近づいてきて目が合った。そして、魔道具を握る左手を撫でられた。

「兄上が渡したということは俺絡みだよな? なぁ、聞かせてくれよ。そうしたら、イかせてやるし、もっと良くしてやる」

 耳元でささやかれゾクゾクする。腹が立つくらいセクシーな男だ。

「ジュンヤ。イきたいだろう? 聞かせてくれれば、一番欲しいものを奥に与えてやろう」

 一番欲しいもの。二人のソレが欲しい。二人のソレで奥をガンガン突かれて、めちゃくちゃにされながらイきたいんだ。

「ゆびじゃなくて、おっきいので、イきたい……教えたら、してくれるか?」
「「もちろん」」

 どうしよう。言わないといけないのか。でもイきたい。二人にぐちゃぐちゃにされたい……
 耐えきれずに頷くと、ダリウスの手が離れた。服の中から取り出して、録音機をダリウスに渡す。ダリウスはそれを手に持ち、首を傾げた。

「どう使うんだ?」
「しらない。どこかを押してた」
「うーん、これか?」
「あとでいいじゃん。早くイかせてよ」
「ダメだ。我慢していろ。ダリウス、とにかく全部押してみたらどうだ」

 ダリウスがボタンをポチポチ押しまくる。

『ふざけんなっ!! 俺は全員と離れないからな!!』

 突然音声が流れ、二人は驚いて固まった。問題はこの先の音声だ。ヒルダーヌ様が俺から言質げんちを取るために放った淫乱という言葉を聞いて、二人の形相が変わる。

「兄上はお前にこんなひどいことを言ったのか」
「あの、これは」

 ダリウスの顔が悪鬼の形相になり、ティアは怒りで氷魔法が発動したのか、ひんやりと冷気を放つ。余計なところを飛ばそうと録音機に手を伸ばしたら、奪おうとしたと思われたのかティアに手を押さえつけられた。
 録音機はそんなことなどお構いなしにあの時の言い合いを再生し続ける。

『愛と義務は無関係。あなたのそれは傲慢ごうまんだ』
『どいつもこいつも子供子供って!! 子供は魔力が高けりゃ産めるんだろっ!? だったら俺がサクッと産んでやるよ!!』
『ほぉ、全員の子を産むほどの能力があるとは思えませんがね』
『やってやろうじゃねぇのっ!! 吠えづらかくなよ!? 俺が全員の子をっ……ん? あ、あれ?』

 再生が終わり、沈黙が落ちた。

「ジュンヤ……お前」
「私達の子を……産んでくれるのか?」

 激怒モードから一転し、二人が俺を熱い視線で見つめている――と思ったら、ダリウスの顔が急に目の前に移動した。

「ふぅっ 、んっ、んー、んんっ~、っはぁ、ん」

 ダリウスの窒息しそうなディープなキスで口腔こうこうめ回され、解放直後にティアが襲いかかり、舌を吸い上げめ回された。

「ふぅっ、んっ! ん、ぷぁ、まっ、て。はぁ、はぁ、はぁ……ちょっ、と。おちつい、はぁぁうぅ……あぅ」

 ティアの指が奥深くまでナカに入ってくる。最初から執拗しつようにいいところを攻められ身悶みもだえた。
 ダリウスは俺の陰茎をしごきながらシャツの上から乳首に吸い付く。甘噛みされ、一気に快楽の波に呑み込まれる。

「そうか。そんな風に考えてくれてたのかよ」
「ヒルダーヌに愛していると宣言してくれて、嬉しい」
「あ、あんっ、ぜんぶは、だめ、ら。イっちゃう」
「何度でもイかせてやるから」
「ひとりは、やら……いっしょに、きもちよくなりたい……」

 二人が唾を飲む。

「胎珠があったら、はらむまで注いでしまうほど可愛いな」

 ティアはそう呟くと俺の脚を広げて抱え、腰を押し進めズブズブと隘路あいろを拓く。ティアの太いモノがナカに入ってきて、苦しい。

「うっ、くぅ……いつもより、おっきぃ……」
「あんな、ことを、聞かされたら、当然だ」

 小刻みに抽送ちゅうそうしながら、やがて奥まで貫いた。

「んーーっ。あ、はぁ、あ」

 苦しいけど、繋がるこの瞬間が好きだ。

「あっ、あっ」

 突き上げてくるティアを見上げると、幸せそうに笑っている。

「恥ずかしくて言わなかったのかぁ? 俺達は喜ぶだけだぜ?」

 ダリウスがシャツのボタンを外し、乳首をね回す。

「あ、ちが、くて。あっ、だって、ん、みんな、あとつぎばかり気にしてる、けど。そういうのじゃ、ない、から……」
「俺達が背負ってるもんが重かったか?」

 急にダリウスの声のトーンが下がる。怖がっていると勘違いしたんだろうか。

「ちがくて、ん、ティア、まって、少しだけ、うごかさない、で」

 そうお願いすると、ようやくティアが動きを止めてくれる。ティアの表情にもかげを感じた。どうにか説明したいけど、酔って上手く口が回らないのがもどかしい。


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感想 950

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