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4巻
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side ダリウス
俺の故郷バルバロイ領は、肥沃な土地と魔石や宝石が豊富に採掘できる鉱山を保有している。神子マスミが豊穣をもたらしたこの領土は、他国の垂涎の的だった。トラージェや魔の森と接しているが、北の砦同様、幾度となく他国の侵略を食い止めてきた。
今ではトラージェに呑み込まれ一国となっているが、領の西部にある砦は、百年程前まではゲジャルという小国との関だった。砦を挟んだそこは、現在も自治区として半独立しているそうだ。
富を求めたゲジャルとの長い戦いが、現在のバルバロイ兵を強靭にしたと言っても過言ではない。現在ではトラージェとは同盟を組んでいるが、国境沿いの小競り合いはなくならない。
カルタス王国において剣と盾の役割を持つバルバロイ家は、常勝を求められた。そのため、後継者にも婚姻相手にも、とにかく強い者が選ばれてきた。力の維持のためにはどんな手でも使った。能力が高くても貴族出身でない者がいれば、どこかの家門に養子にさせて婚姻し、最大の魔力と武力を持つ子孫を維持し続けた。
その結果、一般的には魔力は一属性が多い中で、俺の家系には二属性、更に巨躯を持つ、武人の血脈が生まれたんだ。そうしてバルバロイ家は、騎士だけでなく武を志す者全ての憧れの存在となった。
現在の当主は俺の父ファルボドで、騎士団の総団長を務め王都で采配を振るっている。妻は三人、正妻のチェリフ――母上が本家を取り仕切り、長子で俺の兄ヒルダーヌが当主代理として執務を行っている。
兄と俺は同母で、母上は武人ではないが、魔力量と知力をもって内政を手伝っている。父上の信頼も厚く、領内でも絶対的な地位にある。
残る二人の妻のうち、一人は北西の砦の指揮を執る武人、もう一人は才知に富み、農地の運営に携わり各地を転々としている。彼らの子、腹違いの二人の弟も将来兄上を補佐するために母らと共に経験を積んでいる。そのため、弟達とは年に一度か二度会う程度だ。
後継者でなくとも徹底して国と領地に尽くす。それがバルバロイの一員となった者の義務だ。
◇
「……長い話だが、こんなところだ。王家は血の正統性を求め、俺の家系は武力を求めた。だから、先に言っておく。俺には婚約者が三人いた。うち二人は騎士団にいるから、どこかで会うことになるだろう。残る一人も、バルバロイに選ばれた男だから聡明だ」
「さ、三人も? 全員元なのか?」
「ああ。父上は知性の兄上ではなく、武芸の俺を後継者にしようとしていた。いや……よく考えたら父上に直接そう言われたことはないな。とにかく、俺が派手に浮名を流すようになって、父上はやっと諦めて婚約を解消してくれた」
きっと、後継者をダリウスにと吹き込んだ人物には何か思惑があったんだろう。
「それ、いつ頃? お父さんと一緒に住んでた時か?」
「父上は王都に詰めている。年に数回領地に来るが……よく考えたらおかしいよな」
ダリウスは思い出そうとしているようだったが、やがて頭を横に振った。
「……夜会で誰かに言われた気がする。俺は兄上を尊敬していたから、兄上が後継者から外されるのではとショックで、前後のことをよく覚えていないんだ。簡単に罠に嵌まる、バカなガキだったな」
「子供ならショックを受けて当然だ。きっと仲を裂こうとする誰かの妨害工作だよ。王都に戻ったら、ちゃんとお父さん本人に確かめよう。俺も一緒についていくから!」
「ふっ……頼もしいな」
「任せとけ。攻撃はできないが口撃はできるぞ。ちなみに、元婚約者はどんな人達?」
接触する可能性があるなら、少しは情報が欲しい。
「一人目はメフリー、子爵家の次男だ。その気がなかったから、他は適当に聞き流していた。ただ、彼は知的なタイプだから、経営補佐として一族に入れるつもりだったんだろうな」
「子爵って、公爵に比べたら爵位は低いんじゃないか?」
「そこがうちのやり方だ。うちの家系は戦術が得意でも、領地運営は苦手なんだ。だから、必ず思慮深い人物を伴侶に加える」
「メフリーさんに会ったことはある? 好意を持てる相手か?」
「夜会で会った。単に社交のためで、特別な感情はないぞ? 知力で選ばれたとはいえバルバロイ家に入るには自己防衛できるだけの武術は必要だ。彼は魔力量が多いから問題ないとされたんだろう」
なるほど。頭も良く、魔力が多い。子供にもそれが受け継がれる計算か。
「他の二人は?」
「騎士だ。俺が近衛隊に入る前は、二人共北西の砦で一緒に戦ったことがある。一人はグラント、もう一人はエマーソンだ。それと、隠したくないから言っておく。……そいつらとは、寝た」
「ああ、うん。まぁ、色々聞いてるし、そうかなぁ? とは思った。メフリーさんも?」
「メフリーとは寝ていない。一応貴族で正妻候補だったから、相応の手順がある。それと……ジュンヤには言い訳に聞こえるかもしれないが、騎士の間には親愛というのがあって、体だけの関係というのもよくある話だ。戦いの後、興奮を鎮める意味もあってだな……ジュンヤの世界では信じられないだろう?」
「身近にはいないけど、そういう状況下ではあると聞いたことがあるよ、うん」
背中を撫でて、過去のことだから気にしないでいいと伝える。
「――俺はかなり遊び歩いていた。ケローガでも、それが仕事のジューラやロンダだけじゃない。騎士同士でも、抱いてほしいと頼まれれば抱いた」
「そうか。これから先、まだあんたに惚れてる相手と出くわすかもな。くくくっ」
「なんだよ、笑うところかよ」
「覚悟してるって意味だよ、モテ男さん」
不貞腐れた顔が可愛くておかしくて、また笑ってしまう。
「だって、離宮にいた時にも噂は聞いてたしさ。武勇伝がいくつも――んんっ! ん、ふぅ……」
ダリウスは噛みつくようにキスして言葉を封じてきた。そして強く抱きすくめる。
「めちゃくちゃしてきたから後悔してる。ああ~っ! 帰ったら絶っ対、色々言われる! 今はお前だけだと言っても、信じない奴もいるだろうなぁ。あぁぁ~!! くっそう!」
俺の首筋に顔を埋めて、そう吠えた。苦しいくらい抱きしめられて、身動きが取れない。
「うーん、相当な人数なのか? あ、でも言わなくていいからな! まぁ、あれだ。過去は変えられないし、何人とか野暮なことは聞かない。でも……気になってることがあってさぁ」
「なんだ?」
話題になったばかりだったのもあってうっかり言ってしまったが、わざわざ聞くのは恥ずかしいな。
「……やっぱり、いい。えっと、そしたらさ、その人達は未練ありそう? また揉めるかな?」
「ジュンヤ、誤魔化すな」
「でも俺、またちゃんと言ってやるし! 今のダリウスは違うって! ラドクルトがさ、貴族は血筋を残すために結婚するって言ってて! それから、えっと、えっと……」
「ジュンヤ!」
誤魔化すために話し続けていたが、肩を揺すって止められた。
「なんだよ、言ってくれ。隠し事はしないんだろ?」
それを言われると痛い。今度は俺がダリウスの首筋に頭を突っ込む。
「いやぁ、……って思ってさぁ……」
「聞こえないぞ?」
小声すぎて聞こえなかったみたいだ。
そうですか。やっぱり言うしかないか。
「あのさぁ、聞いたけど……貴族には血筋を残す義務があるんだろう? 子供の作り方、教わったよ。俺には血筋の重要性はピンとこないけど、チビだし、ダリウスは、その、誰かと……いや、ムカつく話だけどさ」
「俺は何も言ってないだろう? それに、子供はいらない」
「それで許されるのか?」
「許可なんか必要ない。自分で決めた道だ」
その声に、確かに迷いはないけれど。
「あとさ、ついでに白状すると、ダリウスは経験豊富だろう? 俺はさぁ……転がってるだけで、なーんもしてなくてさぁ。あ、あんたは一晩に何度もって聞いたし! 満足してないんだろうな~って、思っただけ」
うぉぉ! 言ってしまった!
でも、今聞いただけでも、スッゴイ相手と付き合っていたみたいだし! 体力も技もない俺一人じゃ、到底足りないだろうね!
「ジュンヤ、そんなこと気にしてたのか? なぁ、こっちを見てくれよ」
ダメ、今は顔見られない! 無理無理~!
ダリウスの体にしがみついていたが、簡単に仰向けに転がされ、真上から見下ろされた。
「煽るようなこと言われて、我慢できると思うか?」
「煽ってない! けど、さ。俺がどんな風にすれば、あんたは気持ち良くなれる? それに、最近全然シてないし、我慢して辛くないか?」
「分かってないな」
ニヤリと左の口角だけ上げて笑う顔は、なんていうか……男臭くてセクシーだ。
「そりゃあ、一晩中啼かせる自信はあるけどよ。お前との関係はそれだけじゃない。一回だけでも、こうして、ただくっついてるだけでも……ああ、上手い言葉が出ねぇな」
そう言ってふと真顔で口を閉じたが、何か思い付いたみたいだ。
「こうして一緒にいるとな、落ち着くんだよ。なんていうか、心ん中があったかいっていうか。……は、らしくねぇこと言ってんなぁ」
恥ずかしさを誤魔化すようにキスが降ってくる。
「まぁ、ご所望ならたっぷり可愛がってやるけど?」
「っ! ちょっ! これ!?」
ニヤリと笑って、既に勃起しているらしいブツが腹に押しつけられた。
「ま、真面目に話してたのに! お兄さんのこととか! その……血筋を残すとか」
「兄上か……久しぶりすぎて、何をどう考えているかは全然分からん。婚約したと聞いたが、まだ結婚していないし、相手が誰かも聞かなかったんだよなぁ……」
「四年前だっけ? ティアに聞いた」
「ああ。とっくに結婚して子供がいてもおかしくないと思うが。行かなきゃ分からん! なぁ、それより、ダメか?」
ダリウスは俺の尻を揉みながら、ゴリゴリとブツを押しつけ続ける。熱い手の平で触れられて、キスだけで甘く痺れていた身体が疼いた。
「やっぱり、シたいよな。い、いいよ……でも、なんか妙に恥ずかしくて……」
「お前と二人きりは久しぶりだな。いい声で啼いてくれよ」
「俺、どうすれば……んぐっ! んんっ!」
いきなり顎をガッチリと掴まれて、口を閉じられない状態で口腔を思う存分舐め回される。甘い唾液を流し込まれ、一気に身体が熱く燃え上がった。堪らず俺からも舌を絡めて、もっと欲しいとねだり、身体を擦りつける。
「俺に全部くれれば、それだけでいい……」
そんな囁きに返事をしたくても、またキスで言葉を封じられ、あっという間に服を剥ぎ取られていく。ようやくキスから解放されて荒い息を整えるが、見せつけるように服を脱ぎ捨てるダリウスの肉体に目は釘付けだ。
そして、ブルリと震えながら飛び出した陰茎は既に完勃ちで、凶暴にそそり立っていた。
これが何度も俺のナカに……
今夜は一度では済まないだろう。貪り食われる予感に、俺も興奮していた。
「ほんとそれ、デカすぎる」
「いつも美味そうに喰ってくれてるぜ?」
熱い舌がペロリと右の乳首を舐め、先端を口に含まれた。
「あっ、ああっ!」
急だったので、変な声が出てしまい恥ずかしくて仕方ない。思わず口を押さえたがすぐに外された。
「遮音も結界もあるから、声を聞かせろよ」
「う、うん……でも、あっ、やぁっ! 噛むなっ、あっ」
甘噛みしながら先端を捏ねるように舐められる。しかも、溢れる先走りを纏いながら陰茎も同時に扱かれて、喘ぎが止まらない。
やばい! 気持ちいい! 乳首がこんなに感じるなんて……
「こっちも舐めてほしそうに勃ち上がってるな」
「いちいち言うなよっ!」
今度は左の乳首に顔を寄せてキスするが、それ以上してこない。もどかしくて身体が揺れる。
そんないやらしい自分を誤魔化したくて話題を探した。
「なぁ、ほんとは仲直り、したいよな?」
「……もう、集中しろよ」
「んむっ! んー ん、ん、はあっ、はぁ……」
一瞬にして塞がれた唇が離れる。息も絶え絶えの俺を見下ろしながら枕元に腕を伸ばしたダリウスの手には、香油と交玉の瓶があった。
いつの間に……?
ゆっくりと脚を開かれ、恥ずかしい場所がダリウスの目の前に晒される。何度も見られているはずなのに、どうしようもなく恥ずかしい。香油を纏った指がソコに触れて、ほぐすように浅い場所で出し入れされる。
「ん……綺麗だぜ……堪んねーなぁ……」
「っ? あ、ちょっと! それダメ! 汚いっ!」
ウッソ! やばいよ! ダメダメ!
ずりずりと下がって寝そべったダリウスが、俺の後孔を舐め始めたのだ。すぐに舌も挿入ってくる。逃げようと身を捩るが、腰を抱え込まれて逃げられない。
「あっ、やぁ~!」
また指が奥まで埋め込まれ、入り口を舌で舐めながらズクズクとナカを掻き回された。騎士らしい剣ダコがあちこちを刺激して、腰が揺れてしまう。
「あっ、あんっ! や、ダメ! あぁ~!」
「腰が揺れてるぞ? 気持ちいいんだろ?」
ああ、気持ちいいよ! 良すぎてバカなこと口走りそうだよ!
「ダリウス! やめろって……!」
「なんだよ、ココは喜んでる癖に」
「そうじゃなくて! 俺ばっかりいいのは嫌だ……早く、来て。一緒に気持ち良くなりたい……」
「……っ、このっ、煽んなっ!」
あんたはいつも俺の体や気持ちを優先してくれるから、今日は――
「街に着くのは夕方なんだろう? なら、ずっと馬車だし、だから……」
「じゃあ、ナカが俺の形になるまで抱くからな? 煽ったこと後悔すんなよ?」
「えっ!? ……あっ! うぅ……急に増やすなよぉ……あぁ!」
二本に増えた指が、交玉を押し込みながらナカを掻き回す。圧迫感に体が固まったが、陰茎を口に含まれると、力が抜けて喘ぎが止まらなくなる。
音を立てて三本目の指が挿入ってきた。慣らされた体は、それらを根元まで受け入れても痛みはない。
ぬちゅっ……ぐちゅり……
陰茎をしゃぶられながら奥を広げられ、音でも犯されているような気分になる。
「ダリウス……早くぅ」
「あぁ、いくぞ」
ソコに凶悪な肉茎の先が当てられるとつい怯んでしまうが、息を吐いて精一杯力を抜く。ダリウスは俺の呼吸に合わせて、ゆっくりと挿入ってきた。
さすがに、キツイ……
必死で深呼吸を続け、息を吐いて一番太い部分を受け入れながら、いつもダリウスが三人の中で最後だった理由を思い知る。でも、これからは誰かが終わるまで待たせたくないんだ。
「ジュンヤ、苦しい、か? はぁ、はっ、やめる、か?」
やめるかだって? あんたもそんな苦しそうな顔して? こんな中途半端なところでやめるなんて辛い癖に。
「だい、じょうぶ。なぁ、早く……全部欲しい」
「ああ、すぐ悦くしてやるからな」
またキスして唾液を注がれる。じわっと体が温かくなり、緊張がほぐれていくのを感じた。
「ん……んくっ、はぁ……美味しい……あうっ!」
ダリウスは浅い抽送を繰り返しながら進み、とうとう奥深くまで繋がった。
「は、挿入った……?」
「まだだ。もう少し、奥までいくぞ。大丈夫か?」
「いい、きて」
「エロいっての。加減できなくなるだろうが……」
腰を掴まれ、奥の窄まりを何度もノックして入り口が広げられていく。
「ひぁっ! あぁぁ……」
深く深く埋め込まれた先端が、最奥を押し開いてずっぽりと嵌まり、全身を電流が駆け抜けた。
「くっ、う! 締めすぎだぞ……喰い千切る気か?」
「そ、んなの、分かんないぃ! あぁ!」
ズンズンと突きながら陰茎をゆるゆると扱かれ、無意識に腰が揺れる。奥深くの窄まりをカリでねちっこく擦られて、身体が勝手にビクビクと跳ねた。
「あっ、ひうっ! はっ、あ……あぁぁ~!」
「ん……馴染んできた、な。くっ、ナカ、スゲェな」
「そこ、やばッ! ひっ! あっ! 待って、待って!」
快楽の逃し方が分からず、ダリウスの胸を押して逃れようとするがびくともしない。
「そんなに、ココが好きか?」
「やっ! イッちゃう! そんな、に、ダメッ!」
「いいぜ、イけって」
「や、いっしょ、が! いい……」
俺ばっかりはヤダって言ったのに! 余裕ぶりやがって!
「クソ……可愛いんだよ……! 分かった、一緒にだな?」
両足をダリウスの肩に担がれ、膝がベッドに付きそうなほど体を折り曲げられた。
「なぁ、目ぇ開けろ。見ろよ、こんなに奥まで繋がってるぜ?」
俺の顔の横に手をついて、激しいピストン攻撃をしながらセクシーな低音で囁く。言われるままに目を開けると、視線の先では信じられないほど太いモノがナカを出入りしていて、俺の陰茎からはひと突きごとにトロトロと白濁が溢れていた。
ズルリと、カリが見えるほど引き抜いて、またゆっくり埋め込まれていく。
「あぁ……すごい、ココに、いる……」
俺は自分の下腹に触れた。この薄い腹の奥に、ダリウスがいる。
「そのまま、少し押してみろよ。挿入ってるのが分かるだろ?」
少し力を入れて手のひら全体で押すと、そこに硬いモノがあるのを感じた。その状態のままゆっくりと動くダリウス。そうすると、ナカで動くのがはっきり分かって、どうしようもなく興奮した。
「すごっ……もっと、シて……」
「このままイこうぜ?」
キスをしながら激しいピストンが再開され、俺は息も絶え絶えに喘ぐ。
「あ、あ! ああっ! も、ダメ! あ、あっ、イッ……」
「俺も! 出す、ぞ! 受け取れ、ジュンヤっ、ジュンヤッ……! く、うぅっ……ふ、ふ、ぅ……」
奥深くを蹂躙される快感に酔いながら俺は白濁を撒き散らし、ビクビクと震えて絶頂を迎えた。そんな俺の一番深いところに、ビリビリと痺れる熱い精液がたっぷりと注がれる。
「はぁ……ん……」
「ジュンヤは……ほんっとに、精液ブチ込まれるのが好きだなぁ。嬉しそうなエロイ顔だ」
「そんな、ことぉ……はぁ……ナカ、しびれるぅ……気持ちぃ……ああ、ん……」
快感の余韻に浸っていると、まだまだ硬い陰茎を埋め込んだまま、グルリとうつ伏せにされた。腰を引き上げ、尻を突き出す格好にされる。
「あ、無理、力、入らないよぉ」
「俺が支えるから大丈夫だ。もう一回いいか?」
「いいよ……」
「まだ教えてやらねぇとダメそうだな。ほら、腹に力を入れろ」
指示に従うと、浅いところに抜けていた剛直にまた奥を暴かれ慄いた。
「無意識に奥が開くようになるまで、やめねぇからな。たっぷり注いでやる」
「あっ、あ! あっ」
再び突き上げが始まり、今度は大きな動きで前立腺も執拗に刺激される。
「ジュン、ヤ! 好きだ! 愛して、る!」
「お、れも! すきっ! あ、ぜんぶ、シて! あ、ひぅっ!」
好き。愛している。きもちいい。
自分が何を言っているのか分からなくなるほど気持ち良くて、気づいたらまた果てて、三回戦を挑まれいつの間にか再び挿れられていた……ところまでは覚えている。
キスや体液で交わされる力に、互いに溺れて貪り合った。ナカに注がれる度、全身に走る快感が俺を狂わせた。途中からはずっとイッてて、おかしくなって、でも気持ち良くて。
俺のナカがダリウスの精液で満たされた頃、ようやく解放された。分厚い筋肉に包まれて、安心しきって、俺は眠りについた。
朝になって目覚めた時、隣にダリウスはいなかったが、枕元には黄色い花と、剣の刺繍入りハンカチに走り書きが残されていた。まさか……
『任務があるから先に出る。昨夜は最高の夜だった。今日は無理するな。愛してる』
うそ……こんなことするタイプじゃなかったのに。
嬉しくて、花をそっと抱きしめる。今日みたいに、起きたらダリウスがいないことは多い。任務があるから仕方ないと思っても、やっぱり寂しい気持ちもあったんだ。でも、こうまでしてくれて、もうそんな寂しさを覚える必要はないと思った。
どうにか体を起こして、手の届く位置にあった水を飲む。気が利くな……
「ジュンヤ様、入ってもいいですか?」
俺が起き出す気配を感じたのか、天幕の外からエルビスの声がかかった。
「あ、うん。いいよ」
反射的に返事をしてから慌てて自分の様子を確認したが、しっかり清拭されて服も着ている。シーツまでドロドロだったはずなのに、清潔だった。ダリウスが全部整えてくれたんだろう。
もらったハンカチは上着の内ポケットに入れた。メモ程度の文章だけど、俺にとっては立派な手紙だ。ダリウスがくれた大事なものだから、いつも傍に置いておきたかった。
「具合はいかがですか? 痛いところなどありませんか?」
「ん、なんとか大丈夫、かな」
声が掠れているのは喘ぎすぎ、体が怠いのはエッチしすぎのせいだ。いつも以上に、おねだりした自覚もあるし……
力も許容量オーバーで、溢れている気がする。
昨夜はハードだったけど、めちゃくちゃ優しくてトロトロにされて、気持ち良すぎた。ダリウスが本気出したエッチやばいよ……あれは溺れちゃうよ。惚れた人達の気持ち、分かるなぁ。
「お着替えしましょう。食事もすぐお持ちしますね」
エルビスは何も言わない。ダリウスと一夜を過ごした後で同じ庇護者のエルビスには悪いと思いつつも、俺もなんと言えばいいか分からない。いつも通りに着替えて、椅子まで抱いて運ばれて、食事をする。
「もうすぐクードラか。大きな街なんだよな?」
「はい。職人が多く集まるので、とても盛況な街なんですが……」
「穢れの影響がある。だよな?」
「はい。私も最後に行ったのは三年程前ですが、その時はまだ問題はありませんでした。ここに来て穢れが増えたのか、それとも人為的なものなのか分かりません」
近年、急速に穢れが広がったという。
「これからは慎重に動いたほうがいいよな。俺の知らないこと、教えてくれ」
「お任せください」
今日はほぼ一日中移動に費やされるらしい。だけどもう当分、のんびりはできないかもしれない。色んな思惑の真っ只中に飛び込むんだ。この数日が平和すぎただけ。
俺は顔を両手でパシッと叩いた。
「ジュンヤ様!? 何をなさってるんです?」
「隙をつかれないように気合い入れた」
「そうですね。私も気を引き締めていきます!」
キリッとしたエルビスもカッコいいな。
「さぁ、馬車の用意ができました。クードラに出発です」
「うん。抱っこで締まらないけど、今だけ見逃して」
苦笑しながら、また抱っこ移動の俺なのだった。
「クードラの神殿について知りたいな。マテリオも乗ってくれないか?」
最初は別の馬車だったが、クードラに着く前に質問したいので一緒に乗ってもらう。俺達が乗り込むとすぐに馬車は動き出し、森の中を進み始めた。
「クードラの神殿にも大司教がいるんだろうな」
「いや、クードラにいるのは司教だ。大司教は数が少ない。配置されているのは王都、ケローガ、ユーフォーンに各一名となっている」
「そうか。ナトルが執着する訳だな……」
三人しかなれない地位に自分より年下のマヤト大司教が選ばれたら、それはもう悔しいよな。素直に受け入れられれば気が楽だったろうに。
まぁ、同情なんかしねーけど。
「神殿のほうはどうなってるか分かるのか?」
「詳しくはまだだ。状況は手紙で転送してもらっているが、ケローガから入った話と噂が混在している。ただ、ケローガの商人が行き来して実際のジュンヤの話が伝わっているようだから、商人達はマシかもしれない。……予測ばかりですまない」
「いや、いい。少しでも情報を得て対処したいだけだ」
「そうか。それと、何度も同じことを言うが、クードラでもケローガの時のように神子として振る舞ったほうがいい」
マテリオは、何を言われても自分が神子だと胸を張っていろと言う。
「権威を維持するためには必要だ。……アユム様と比べる輩がいても、だ。到着前から嫌な思いをさせたくないが、反発する民がいるそうだ」
予想通りの言葉が来たな。ああいうのは好きじゃないけど、ケローガはそれで成功だったから、必要かもしれないとは思っていた。
「オーケー。それでいいよ。言われると思ってたし。あ、司教の名前は? もしくは一番偉い人」
「サナルド司教が取り仕切っているが、もう一人、ケリガン司教がいる」
「サナルド、ケリガンね。わりと覚えやすいな名前だな。俺に対する感情はどうなんだろう」
「すまない。そこまでは調査できていない」
「気にしなくていい。チクチク攻撃してくるかもなぁ」
いっそのこと敵意剥き出しのほうが対処しやすいんだが。今はまともな対策ができなそうだし、無理に考えて失敗するとダメージが大きいから、行き当たりばったりも作戦だ。そう思おう。
今まで聞けなかった話をマテリオに聞くうちに時間はあっという間に過ぎ、クードラに到着した。
騎士が早馬で先触れをしているそうで、敵がいるとすれば、俺達を待ち構えているだろう。
「ジュンヤ様、あちらを見てください。ほら、クードラが見えてきましたよ」
エルビスに言われて窓の外を覗くと、強固な石造りの城壁の中央に門が見えてきた。
「うぉぉ~~! 大きな街だなぁ」
今は城壁しか見えないが、この奥に職人がいる! 滾る!
やがて門をくぐり、ついに街へ入った。目抜き通りらしいそこには、多くの人が並んでいた。
王族であるティアを迎えるためだろう。そして、俺も見物の対象なのは間違いない。
「ジュンヤ様、手を振ってくださいね」
「うん。そういえば、最初に行くのはどこ?」
エルビスに頷き、神子として来たと知らしめるために手を振って見せる。
「まっすぐ神殿に向かう。滞在場所としては、宿を借り切っているそうだ。神殿ではなるべく補佐するから頑張ってくれ。いいな? ジュンヤ様」
「ふふふっ、また練習?」
「そうだ。ミスを犯して危険に晒したくないからな。もう、普段と違っていてもからかうなよ」
「はいはい。分かってますって」
笑顔で手を振りつつ話しているのは、そんなくだらないこと。緊張しているけど、マテリオのおかげで恐怖心は軽減する気がする。
神殿は街の一番奥、木々に囲まれた場所にあった。池や堀、人工的な小川が流れていて、西にある泉を水源とした水路から水を引いているそうだ。
ということは、この水も穢れている可能性はある。後で調べよう。
神殿の入り口には司教や神官が並んで待っていて、緊張で頬に冷や汗が流れた。
「お待ちしておりました、エリアス殿下。この神殿を取り仕切るサナルドでございます。どうぞこちらへ」
当たり障りのない挨拶で迎えられ、表向きは穏やかだ。二人の司教は中年を過ぎたくらいだろうか? こっちの人間は実年齢より上に見えるから難しい。とはいえ、高位につくからにはそれなりの経験を積んでいるはずだ。
クードラの神官に応接室に案内され、改めて、歩夢君はケローガに残り、ここへ来たのは俺だけだと説明した。
「神子様はなぜ来てくださらないのでしょうか?」
――神子様、ね。俺を認めてないと、そう言いたいんだな?
まぁ、そうなるよな。サナルド司教の質問は当然だ。『アユム様』の顕現は、知らない者がいない程のお祭り騒ぎだったそうだから。
ティアが説明するかと思ったが、司教の問いに口を開いたのはマテリオだった。
「アユム様よりジュンヤ様のお力が強いことが分かったのです。浄化は、お命が危ぶまれる程の力を消耗します。アユム様では、大きな穢れでは命の危険があると判断したのです」
「しかし、恐れながら……そちらの方は、顕現時には神子だと分からなかったのでしょう? それに、言い伝えによると、神子は穢れなき身でなければならぬはず」
サナルド司教は納得していない様子だ。まぁ、俺もそっちの立場なら、疑うだろうからな。
「手落ちがあり、測定値が誤っていたのです。それと……ここから先のお話は、人払いをお願いできますか? 申し訳ありませんが、サナルド司教とだけお話ししたい」
マテリオの言葉は受け入れられ、その場には俺達とサナルド司教だけになった。
「あなたは神子の真実についてご存じですか?」
「……私は存じております。だからこそ納得がいかぬのです。……ケリガンには内密でお願いします」
ええ、これまでにも、処女には見えないって言われてましたねぇ。
サナルド司教は答えると、とうとうあからさまに苦々しい表情になった。もう一人のケリガン司教は知らないということは、真実を知らされるのは、最上位の人物だけなんだろう。
「ジュンヤ様の世界には、男以外にオンナという種類の人間がいるのです。そして、ジュンヤ様はそのオンナが性的対象で、男とはそういう関係ではなかったのです」
マテリオさん……改めて説明されると小っ恥ずかしいのですよ……
「オンナ、ですか? そういえば、マスミ様の記述にあったような」
「胎珠なしで妊娠が可能だと、アユム様に教わりました」
「胎珠なしで!?」
「そうです。ですから、その、ジュンヤ様は……清い体だったのです」
言葉を選んだな? いや、気遣いありがとうと言うべきか。
「はぁ……人は見かけに寄らないものですなぁ」
サナルド司教はそう言って、改めてしげしげと俺を見た。すみませんね、処女に見えなくて!
怒っていい場面だろうが、頑張っているマテリオに免じて見逃してやる。
「ですから、ジュンヤ様は確かに浄化の神子です。それを皆にも知らしめてほしいのです。ケローガは既にジュンヤ様のお力で活気を取り戻しています」
マテリオ……こんなに俺を褒めてくれるなんて。ちょっと感動。
「そうですか。ここクードラも昨年から徐々に悪化して、今はかなり酷い有様です。是非とも浄化のお力を拝見したいですな」
――つまり、浄化を見るまでは信じない、ということだな。
「そのことですが、クードラの用水はバルバロイ領西部の水路を利用した井戸と、神殿内に作られたチョスーチだったと記憶していますが、合っていますか」
「今は神殿のチョスーチと井戸、それからオルディス川を利用した池の三ヶ所です」
「待て、池などあったか?」
サナルド司教が答えると、様子を見守っていたティアが割って入ってきた。サナルド司教は恐縮しながら頭を下げる。
「殿下。それが、水の色がおかしくなり、民が体調を崩し始めたため、水路の水ではなく川から引こうという話になり、新たに池を造成したのです」
「報告を受けていないぞ」
「小さな、本当にささやかな池でして、はい」
俺の故郷バルバロイ領は、肥沃な土地と魔石や宝石が豊富に採掘できる鉱山を保有している。神子マスミが豊穣をもたらしたこの領土は、他国の垂涎の的だった。トラージェや魔の森と接しているが、北の砦同様、幾度となく他国の侵略を食い止めてきた。
今ではトラージェに呑み込まれ一国となっているが、領の西部にある砦は、百年程前まではゲジャルという小国との関だった。砦を挟んだそこは、現在も自治区として半独立しているそうだ。
富を求めたゲジャルとの長い戦いが、現在のバルバロイ兵を強靭にしたと言っても過言ではない。現在ではトラージェとは同盟を組んでいるが、国境沿いの小競り合いはなくならない。
カルタス王国において剣と盾の役割を持つバルバロイ家は、常勝を求められた。そのため、後継者にも婚姻相手にも、とにかく強い者が選ばれてきた。力の維持のためにはどんな手でも使った。能力が高くても貴族出身でない者がいれば、どこかの家門に養子にさせて婚姻し、最大の魔力と武力を持つ子孫を維持し続けた。
その結果、一般的には魔力は一属性が多い中で、俺の家系には二属性、更に巨躯を持つ、武人の血脈が生まれたんだ。そうしてバルバロイ家は、騎士だけでなく武を志す者全ての憧れの存在となった。
現在の当主は俺の父ファルボドで、騎士団の総団長を務め王都で采配を振るっている。妻は三人、正妻のチェリフ――母上が本家を取り仕切り、長子で俺の兄ヒルダーヌが当主代理として執務を行っている。
兄と俺は同母で、母上は武人ではないが、魔力量と知力をもって内政を手伝っている。父上の信頼も厚く、領内でも絶対的な地位にある。
残る二人の妻のうち、一人は北西の砦の指揮を執る武人、もう一人は才知に富み、農地の運営に携わり各地を転々としている。彼らの子、腹違いの二人の弟も将来兄上を補佐するために母らと共に経験を積んでいる。そのため、弟達とは年に一度か二度会う程度だ。
後継者でなくとも徹底して国と領地に尽くす。それがバルバロイの一員となった者の義務だ。
◇
「……長い話だが、こんなところだ。王家は血の正統性を求め、俺の家系は武力を求めた。だから、先に言っておく。俺には婚約者が三人いた。うち二人は騎士団にいるから、どこかで会うことになるだろう。残る一人も、バルバロイに選ばれた男だから聡明だ」
「さ、三人も? 全員元なのか?」
「ああ。父上は知性の兄上ではなく、武芸の俺を後継者にしようとしていた。いや……よく考えたら父上に直接そう言われたことはないな。とにかく、俺が派手に浮名を流すようになって、父上はやっと諦めて婚約を解消してくれた」
きっと、後継者をダリウスにと吹き込んだ人物には何か思惑があったんだろう。
「それ、いつ頃? お父さんと一緒に住んでた時か?」
「父上は王都に詰めている。年に数回領地に来るが……よく考えたらおかしいよな」
ダリウスは思い出そうとしているようだったが、やがて頭を横に振った。
「……夜会で誰かに言われた気がする。俺は兄上を尊敬していたから、兄上が後継者から外されるのではとショックで、前後のことをよく覚えていないんだ。簡単に罠に嵌まる、バカなガキだったな」
「子供ならショックを受けて当然だ。きっと仲を裂こうとする誰かの妨害工作だよ。王都に戻ったら、ちゃんとお父さん本人に確かめよう。俺も一緒についていくから!」
「ふっ……頼もしいな」
「任せとけ。攻撃はできないが口撃はできるぞ。ちなみに、元婚約者はどんな人達?」
接触する可能性があるなら、少しは情報が欲しい。
「一人目はメフリー、子爵家の次男だ。その気がなかったから、他は適当に聞き流していた。ただ、彼は知的なタイプだから、経営補佐として一族に入れるつもりだったんだろうな」
「子爵って、公爵に比べたら爵位は低いんじゃないか?」
「そこがうちのやり方だ。うちの家系は戦術が得意でも、領地運営は苦手なんだ。だから、必ず思慮深い人物を伴侶に加える」
「メフリーさんに会ったことはある? 好意を持てる相手か?」
「夜会で会った。単に社交のためで、特別な感情はないぞ? 知力で選ばれたとはいえバルバロイ家に入るには自己防衛できるだけの武術は必要だ。彼は魔力量が多いから問題ないとされたんだろう」
なるほど。頭も良く、魔力が多い。子供にもそれが受け継がれる計算か。
「他の二人は?」
「騎士だ。俺が近衛隊に入る前は、二人共北西の砦で一緒に戦ったことがある。一人はグラント、もう一人はエマーソンだ。それと、隠したくないから言っておく。……そいつらとは、寝た」
「ああ、うん。まぁ、色々聞いてるし、そうかなぁ? とは思った。メフリーさんも?」
「メフリーとは寝ていない。一応貴族で正妻候補だったから、相応の手順がある。それと……ジュンヤには言い訳に聞こえるかもしれないが、騎士の間には親愛というのがあって、体だけの関係というのもよくある話だ。戦いの後、興奮を鎮める意味もあってだな……ジュンヤの世界では信じられないだろう?」
「身近にはいないけど、そういう状況下ではあると聞いたことがあるよ、うん」
背中を撫でて、過去のことだから気にしないでいいと伝える。
「――俺はかなり遊び歩いていた。ケローガでも、それが仕事のジューラやロンダだけじゃない。騎士同士でも、抱いてほしいと頼まれれば抱いた」
「そうか。これから先、まだあんたに惚れてる相手と出くわすかもな。くくくっ」
「なんだよ、笑うところかよ」
「覚悟してるって意味だよ、モテ男さん」
不貞腐れた顔が可愛くておかしくて、また笑ってしまう。
「だって、離宮にいた時にも噂は聞いてたしさ。武勇伝がいくつも――んんっ! ん、ふぅ……」
ダリウスは噛みつくようにキスして言葉を封じてきた。そして強く抱きすくめる。
「めちゃくちゃしてきたから後悔してる。ああ~っ! 帰ったら絶っ対、色々言われる! 今はお前だけだと言っても、信じない奴もいるだろうなぁ。あぁぁ~!! くっそう!」
俺の首筋に顔を埋めて、そう吠えた。苦しいくらい抱きしめられて、身動きが取れない。
「うーん、相当な人数なのか? あ、でも言わなくていいからな! まぁ、あれだ。過去は変えられないし、何人とか野暮なことは聞かない。でも……気になってることがあってさぁ」
「なんだ?」
話題になったばかりだったのもあってうっかり言ってしまったが、わざわざ聞くのは恥ずかしいな。
「……やっぱり、いい。えっと、そしたらさ、その人達は未練ありそう? また揉めるかな?」
「ジュンヤ、誤魔化すな」
「でも俺、またちゃんと言ってやるし! 今のダリウスは違うって! ラドクルトがさ、貴族は血筋を残すために結婚するって言ってて! それから、えっと、えっと……」
「ジュンヤ!」
誤魔化すために話し続けていたが、肩を揺すって止められた。
「なんだよ、言ってくれ。隠し事はしないんだろ?」
それを言われると痛い。今度は俺がダリウスの首筋に頭を突っ込む。
「いやぁ、……って思ってさぁ……」
「聞こえないぞ?」
小声すぎて聞こえなかったみたいだ。
そうですか。やっぱり言うしかないか。
「あのさぁ、聞いたけど……貴族には血筋を残す義務があるんだろう? 子供の作り方、教わったよ。俺には血筋の重要性はピンとこないけど、チビだし、ダリウスは、その、誰かと……いや、ムカつく話だけどさ」
「俺は何も言ってないだろう? それに、子供はいらない」
「それで許されるのか?」
「許可なんか必要ない。自分で決めた道だ」
その声に、確かに迷いはないけれど。
「あとさ、ついでに白状すると、ダリウスは経験豊富だろう? 俺はさぁ……転がってるだけで、なーんもしてなくてさぁ。あ、あんたは一晩に何度もって聞いたし! 満足してないんだろうな~って、思っただけ」
うぉぉ! 言ってしまった!
でも、今聞いただけでも、スッゴイ相手と付き合っていたみたいだし! 体力も技もない俺一人じゃ、到底足りないだろうね!
「ジュンヤ、そんなこと気にしてたのか? なぁ、こっちを見てくれよ」
ダメ、今は顔見られない! 無理無理~!
ダリウスの体にしがみついていたが、簡単に仰向けに転がされ、真上から見下ろされた。
「煽るようなこと言われて、我慢できると思うか?」
「煽ってない! けど、さ。俺がどんな風にすれば、あんたは気持ち良くなれる? それに、最近全然シてないし、我慢して辛くないか?」
「分かってないな」
ニヤリと左の口角だけ上げて笑う顔は、なんていうか……男臭くてセクシーだ。
「そりゃあ、一晩中啼かせる自信はあるけどよ。お前との関係はそれだけじゃない。一回だけでも、こうして、ただくっついてるだけでも……ああ、上手い言葉が出ねぇな」
そう言ってふと真顔で口を閉じたが、何か思い付いたみたいだ。
「こうして一緒にいるとな、落ち着くんだよ。なんていうか、心ん中があったかいっていうか。……は、らしくねぇこと言ってんなぁ」
恥ずかしさを誤魔化すようにキスが降ってくる。
「まぁ、ご所望ならたっぷり可愛がってやるけど?」
「っ! ちょっ! これ!?」
ニヤリと笑って、既に勃起しているらしいブツが腹に押しつけられた。
「ま、真面目に話してたのに! お兄さんのこととか! その……血筋を残すとか」
「兄上か……久しぶりすぎて、何をどう考えているかは全然分からん。婚約したと聞いたが、まだ結婚していないし、相手が誰かも聞かなかったんだよなぁ……」
「四年前だっけ? ティアに聞いた」
「ああ。とっくに結婚して子供がいてもおかしくないと思うが。行かなきゃ分からん! なぁ、それより、ダメか?」
ダリウスは俺の尻を揉みながら、ゴリゴリとブツを押しつけ続ける。熱い手の平で触れられて、キスだけで甘く痺れていた身体が疼いた。
「やっぱり、シたいよな。い、いいよ……でも、なんか妙に恥ずかしくて……」
「お前と二人きりは久しぶりだな。いい声で啼いてくれよ」
「俺、どうすれば……んぐっ! んんっ!」
いきなり顎をガッチリと掴まれて、口を閉じられない状態で口腔を思う存分舐め回される。甘い唾液を流し込まれ、一気に身体が熱く燃え上がった。堪らず俺からも舌を絡めて、もっと欲しいとねだり、身体を擦りつける。
「俺に全部くれれば、それだけでいい……」
そんな囁きに返事をしたくても、またキスで言葉を封じられ、あっという間に服を剥ぎ取られていく。ようやくキスから解放されて荒い息を整えるが、見せつけるように服を脱ぎ捨てるダリウスの肉体に目は釘付けだ。
そして、ブルリと震えながら飛び出した陰茎は既に完勃ちで、凶暴にそそり立っていた。
これが何度も俺のナカに……
今夜は一度では済まないだろう。貪り食われる予感に、俺も興奮していた。
「ほんとそれ、デカすぎる」
「いつも美味そうに喰ってくれてるぜ?」
熱い舌がペロリと右の乳首を舐め、先端を口に含まれた。
「あっ、ああっ!」
急だったので、変な声が出てしまい恥ずかしくて仕方ない。思わず口を押さえたがすぐに外された。
「遮音も結界もあるから、声を聞かせろよ」
「う、うん……でも、あっ、やぁっ! 噛むなっ、あっ」
甘噛みしながら先端を捏ねるように舐められる。しかも、溢れる先走りを纏いながら陰茎も同時に扱かれて、喘ぎが止まらない。
やばい! 気持ちいい! 乳首がこんなに感じるなんて……
「こっちも舐めてほしそうに勃ち上がってるな」
「いちいち言うなよっ!」
今度は左の乳首に顔を寄せてキスするが、それ以上してこない。もどかしくて身体が揺れる。
そんないやらしい自分を誤魔化したくて話題を探した。
「なぁ、ほんとは仲直り、したいよな?」
「……もう、集中しろよ」
「んむっ! んー ん、ん、はあっ、はぁ……」
一瞬にして塞がれた唇が離れる。息も絶え絶えの俺を見下ろしながら枕元に腕を伸ばしたダリウスの手には、香油と交玉の瓶があった。
いつの間に……?
ゆっくりと脚を開かれ、恥ずかしい場所がダリウスの目の前に晒される。何度も見られているはずなのに、どうしようもなく恥ずかしい。香油を纏った指がソコに触れて、ほぐすように浅い場所で出し入れされる。
「ん……綺麗だぜ……堪んねーなぁ……」
「っ? あ、ちょっと! それダメ! 汚いっ!」
ウッソ! やばいよ! ダメダメ!
ずりずりと下がって寝そべったダリウスが、俺の後孔を舐め始めたのだ。すぐに舌も挿入ってくる。逃げようと身を捩るが、腰を抱え込まれて逃げられない。
「あっ、やぁ~!」
また指が奥まで埋め込まれ、入り口を舌で舐めながらズクズクとナカを掻き回された。騎士らしい剣ダコがあちこちを刺激して、腰が揺れてしまう。
「あっ、あんっ! や、ダメ! あぁ~!」
「腰が揺れてるぞ? 気持ちいいんだろ?」
ああ、気持ちいいよ! 良すぎてバカなこと口走りそうだよ!
「ダリウス! やめろって……!」
「なんだよ、ココは喜んでる癖に」
「そうじゃなくて! 俺ばっかりいいのは嫌だ……早く、来て。一緒に気持ち良くなりたい……」
「……っ、このっ、煽んなっ!」
あんたはいつも俺の体や気持ちを優先してくれるから、今日は――
「街に着くのは夕方なんだろう? なら、ずっと馬車だし、だから……」
「じゃあ、ナカが俺の形になるまで抱くからな? 煽ったこと後悔すんなよ?」
「えっ!? ……あっ! うぅ……急に増やすなよぉ……あぁ!」
二本に増えた指が、交玉を押し込みながらナカを掻き回す。圧迫感に体が固まったが、陰茎を口に含まれると、力が抜けて喘ぎが止まらなくなる。
音を立てて三本目の指が挿入ってきた。慣らされた体は、それらを根元まで受け入れても痛みはない。
ぬちゅっ……ぐちゅり……
陰茎をしゃぶられながら奥を広げられ、音でも犯されているような気分になる。
「ダリウス……早くぅ」
「あぁ、いくぞ」
ソコに凶悪な肉茎の先が当てられるとつい怯んでしまうが、息を吐いて精一杯力を抜く。ダリウスは俺の呼吸に合わせて、ゆっくりと挿入ってきた。
さすがに、キツイ……
必死で深呼吸を続け、息を吐いて一番太い部分を受け入れながら、いつもダリウスが三人の中で最後だった理由を思い知る。でも、これからは誰かが終わるまで待たせたくないんだ。
「ジュンヤ、苦しい、か? はぁ、はっ、やめる、か?」
やめるかだって? あんたもそんな苦しそうな顔して? こんな中途半端なところでやめるなんて辛い癖に。
「だい、じょうぶ。なぁ、早く……全部欲しい」
「ああ、すぐ悦くしてやるからな」
またキスして唾液を注がれる。じわっと体が温かくなり、緊張がほぐれていくのを感じた。
「ん……んくっ、はぁ……美味しい……あうっ!」
ダリウスは浅い抽送を繰り返しながら進み、とうとう奥深くまで繋がった。
「は、挿入った……?」
「まだだ。もう少し、奥までいくぞ。大丈夫か?」
「いい、きて」
「エロいっての。加減できなくなるだろうが……」
腰を掴まれ、奥の窄まりを何度もノックして入り口が広げられていく。
「ひぁっ! あぁぁ……」
深く深く埋め込まれた先端が、最奥を押し開いてずっぽりと嵌まり、全身を電流が駆け抜けた。
「くっ、う! 締めすぎだぞ……喰い千切る気か?」
「そ、んなの、分かんないぃ! あぁ!」
ズンズンと突きながら陰茎をゆるゆると扱かれ、無意識に腰が揺れる。奥深くの窄まりをカリでねちっこく擦られて、身体が勝手にビクビクと跳ねた。
「あっ、ひうっ! はっ、あ……あぁぁ~!」
「ん……馴染んできた、な。くっ、ナカ、スゲェな」
「そこ、やばッ! ひっ! あっ! 待って、待って!」
快楽の逃し方が分からず、ダリウスの胸を押して逃れようとするがびくともしない。
「そんなに、ココが好きか?」
「やっ! イッちゃう! そんな、に、ダメッ!」
「いいぜ、イけって」
「や、いっしょ、が! いい……」
俺ばっかりはヤダって言ったのに! 余裕ぶりやがって!
「クソ……可愛いんだよ……! 分かった、一緒にだな?」
両足をダリウスの肩に担がれ、膝がベッドに付きそうなほど体を折り曲げられた。
「なぁ、目ぇ開けろ。見ろよ、こんなに奥まで繋がってるぜ?」
俺の顔の横に手をついて、激しいピストン攻撃をしながらセクシーな低音で囁く。言われるままに目を開けると、視線の先では信じられないほど太いモノがナカを出入りしていて、俺の陰茎からはひと突きごとにトロトロと白濁が溢れていた。
ズルリと、カリが見えるほど引き抜いて、またゆっくり埋め込まれていく。
「あぁ……すごい、ココに、いる……」
俺は自分の下腹に触れた。この薄い腹の奥に、ダリウスがいる。
「そのまま、少し押してみろよ。挿入ってるのが分かるだろ?」
少し力を入れて手のひら全体で押すと、そこに硬いモノがあるのを感じた。その状態のままゆっくりと動くダリウス。そうすると、ナカで動くのがはっきり分かって、どうしようもなく興奮した。
「すごっ……もっと、シて……」
「このままイこうぜ?」
キスをしながら激しいピストンが再開され、俺は息も絶え絶えに喘ぐ。
「あ、あ! ああっ! も、ダメ! あ、あっ、イッ……」
「俺も! 出す、ぞ! 受け取れ、ジュンヤっ、ジュンヤッ……! く、うぅっ……ふ、ふ、ぅ……」
奥深くを蹂躙される快感に酔いながら俺は白濁を撒き散らし、ビクビクと震えて絶頂を迎えた。そんな俺の一番深いところに、ビリビリと痺れる熱い精液がたっぷりと注がれる。
「はぁ……ん……」
「ジュンヤは……ほんっとに、精液ブチ込まれるのが好きだなぁ。嬉しそうなエロイ顔だ」
「そんな、ことぉ……はぁ……ナカ、しびれるぅ……気持ちぃ……ああ、ん……」
快感の余韻に浸っていると、まだまだ硬い陰茎を埋め込んだまま、グルリとうつ伏せにされた。腰を引き上げ、尻を突き出す格好にされる。
「あ、無理、力、入らないよぉ」
「俺が支えるから大丈夫だ。もう一回いいか?」
「いいよ……」
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指示に従うと、浅いところに抜けていた剛直にまた奥を暴かれ慄いた。
「無意識に奥が開くようになるまで、やめねぇからな。たっぷり注いでやる」
「あっ、あ! あっ」
再び突き上げが始まり、今度は大きな動きで前立腺も執拗に刺激される。
「ジュン、ヤ! 好きだ! 愛して、る!」
「お、れも! すきっ! あ、ぜんぶ、シて! あ、ひぅっ!」
好き。愛している。きもちいい。
自分が何を言っているのか分からなくなるほど気持ち良くて、気づいたらまた果てて、三回戦を挑まれいつの間にか再び挿れられていた……ところまでは覚えている。
キスや体液で交わされる力に、互いに溺れて貪り合った。ナカに注がれる度、全身に走る快感が俺を狂わせた。途中からはずっとイッてて、おかしくなって、でも気持ち良くて。
俺のナカがダリウスの精液で満たされた頃、ようやく解放された。分厚い筋肉に包まれて、安心しきって、俺は眠りについた。
朝になって目覚めた時、隣にダリウスはいなかったが、枕元には黄色い花と、剣の刺繍入りハンカチに走り書きが残されていた。まさか……
『任務があるから先に出る。昨夜は最高の夜だった。今日は無理するな。愛してる』
うそ……こんなことするタイプじゃなかったのに。
嬉しくて、花をそっと抱きしめる。今日みたいに、起きたらダリウスがいないことは多い。任務があるから仕方ないと思っても、やっぱり寂しい気持ちもあったんだ。でも、こうまでしてくれて、もうそんな寂しさを覚える必要はないと思った。
どうにか体を起こして、手の届く位置にあった水を飲む。気が利くな……
「ジュンヤ様、入ってもいいですか?」
俺が起き出す気配を感じたのか、天幕の外からエルビスの声がかかった。
「あ、うん。いいよ」
反射的に返事をしてから慌てて自分の様子を確認したが、しっかり清拭されて服も着ている。シーツまでドロドロだったはずなのに、清潔だった。ダリウスが全部整えてくれたんだろう。
もらったハンカチは上着の内ポケットに入れた。メモ程度の文章だけど、俺にとっては立派な手紙だ。ダリウスがくれた大事なものだから、いつも傍に置いておきたかった。
「具合はいかがですか? 痛いところなどありませんか?」
「ん、なんとか大丈夫、かな」
声が掠れているのは喘ぎすぎ、体が怠いのはエッチしすぎのせいだ。いつも以上に、おねだりした自覚もあるし……
力も許容量オーバーで、溢れている気がする。
昨夜はハードだったけど、めちゃくちゃ優しくてトロトロにされて、気持ち良すぎた。ダリウスが本気出したエッチやばいよ……あれは溺れちゃうよ。惚れた人達の気持ち、分かるなぁ。
「お着替えしましょう。食事もすぐお持ちしますね」
エルビスは何も言わない。ダリウスと一夜を過ごした後で同じ庇護者のエルビスには悪いと思いつつも、俺もなんと言えばいいか分からない。いつも通りに着替えて、椅子まで抱いて運ばれて、食事をする。
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「はい。職人が多く集まるので、とても盛況な街なんですが……」
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「はい。私も最後に行ったのは三年程前ですが、その時はまだ問題はありませんでした。ここに来て穢れが増えたのか、それとも人為的なものなのか分かりません」
近年、急速に穢れが広がったという。
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「オーケー。それでいいよ。言われると思ってたし。あ、司教の名前は? もしくは一番偉い人」
「サナルド司教が取り仕切っているが、もう一人、ケリガン司教がいる」
「サナルド、ケリガンね。わりと覚えやすいな名前だな。俺に対する感情はどうなんだろう」
「すまない。そこまでは調査できていない」
「気にしなくていい。チクチク攻撃してくるかもなぁ」
いっそのこと敵意剥き出しのほうが対処しやすいんだが。今はまともな対策ができなそうだし、無理に考えて失敗するとダメージが大きいから、行き当たりばったりも作戦だ。そう思おう。
今まで聞けなかった話をマテリオに聞くうちに時間はあっという間に過ぎ、クードラに到着した。
騎士が早馬で先触れをしているそうで、敵がいるとすれば、俺達を待ち構えているだろう。
「ジュンヤ様、あちらを見てください。ほら、クードラが見えてきましたよ」
エルビスに言われて窓の外を覗くと、強固な石造りの城壁の中央に門が見えてきた。
「うぉぉ~~! 大きな街だなぁ」
今は城壁しか見えないが、この奥に職人がいる! 滾る!
やがて門をくぐり、ついに街へ入った。目抜き通りらしいそこには、多くの人が並んでいた。
王族であるティアを迎えるためだろう。そして、俺も見物の対象なのは間違いない。
「ジュンヤ様、手を振ってくださいね」
「うん。そういえば、最初に行くのはどこ?」
エルビスに頷き、神子として来たと知らしめるために手を振って見せる。
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「胎珠なしで!?」
「そうです。ですから、その、ジュンヤ様は……清い体だったのです」
言葉を選んだな? いや、気遣いありがとうと言うべきか。
「はぁ……人は見かけに寄らないものですなぁ」
サナルド司教はそう言って、改めてしげしげと俺を見た。すみませんね、処女に見えなくて!
怒っていい場面だろうが、頑張っているマテリオに免じて見逃してやる。
「ですから、ジュンヤ様は確かに浄化の神子です。それを皆にも知らしめてほしいのです。ケローガは既にジュンヤ様のお力で活気を取り戻しています」
マテリオ……こんなに俺を褒めてくれるなんて。ちょっと感動。
「そうですか。ここクードラも昨年から徐々に悪化して、今はかなり酷い有様です。是非とも浄化のお力を拝見したいですな」
――つまり、浄化を見るまでは信じない、ということだな。
「そのことですが、クードラの用水はバルバロイ領西部の水路を利用した井戸と、神殿内に作られたチョスーチだったと記憶していますが、合っていますか」
「今は神殿のチョスーチと井戸、それからオルディス川を利用した池の三ヶ所です」
「待て、池などあったか?」
サナルド司教が答えると、様子を見守っていたティアが割って入ってきた。サナルド司教は恐縮しながら頭を下げる。
「殿下。それが、水の色がおかしくなり、民が体調を崩し始めたため、水路の水ではなく川から引こうという話になり、新たに池を造成したのです」
「報告を受けていないぞ」
「小さな、本当にささやかな池でして、はい」
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