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記念SS
4巻記念SS
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旅を続けていると、いつもいるメンバーをより深く知ることができた。そのうちの一人はマテリオだ。無口で仏頂面。なんだか近寄り難いという印象が強かった。
だが、治癒のために民と触れ合っているのを見ていると、彼らはマテリオを怖がる様子はない。その理由は……真摯な眼差しだと思う。仏頂面はコミュニケーションが苦手なだけで、根はみんなの健康を祈る優しい男なんだ。
「おい、そろそろ休憩しろ」
俺が浄化に没頭していると、背後から声をかけられた。
このムカつく言い方も不器用なせいだよな!?
だが、手を止めた途端、腹がぐぅと鳴った。――この男、計算していたかのような良い頃合いで声をかけてきたな。腹の虫の具合まで見透かしているのか……?
「小腹も空いたし、軽食でも食べようぜ」
王都にいた頃人気だったピザだが、ピザ窯がないので生地はパンにして提供している。もちろん、ベジタリアンの神官用レシピもある。
食事の用意をしていると、マテリオが覗き込んできた。
「いつまで神子が料理人をするつもりだ。ん? これは……あの時の食べ物か」
「そうそう。あんたに引っ張り回された時の、アレ」
冗談のつもりだったが、眉がきゅっと八の字に曲がった。強引に離宮から引っ立てられ浄化へ連れて行かれた時、時間稼ぎに作ったのがピザだった。
「あ、ごめん。俺はもう笑い話にしてるからさ」
「……」
やば、これはマジで凹んでる。
「ごめんって! でもさ、お陰で神官は肉を食べないって知ったし、悪いことばかりじゃないよ」
「……そうか?」
「そうそう! あんたもこういう時はさ、全部大司教様のせいだって言い返せよ」
「相変わらずとんでもないことを言う男だ」
ぶつぶつ言いながらも、少しは落ち込んでいた気分が浮上したようだ。俺も言いすぎないように気をつけないとな。
どうもマテリオにはガンガンツッコミを入れてもいい気がしてしまう。これは、本気で喧嘩したからこそ生まれた感情だと思う。
一枚目が焼き上がる前に、隣からも腹の虫が鳴る音が聞こえた。その主人は済ました顔をしているが、顔を覗き込むとそっぽを向いた。
「マテリオさん~? そんなにおなかが空きました~?」
揶揄う俺を無視しているが、その頬は少し赤い。やっぱりこいつ、めっちゃ面白い。
「素直じゃないマテリオさんに、特別につまみ食いさせてあげよう」
「それは良くない行為だ」
真面目な奴! でも、そういうところ、嫌いじゃないぞ。
「ん~? 神官は自分の命を削って奉仕をしてる。だからつまみ食いしても良し!」
「そんなこと誰が決めたんだ」
「俺。神子様が許可する!」
大袈裟にいうと、マテリオは呆れ顔だ。それを無視し、俺は一口サイズにカットしたピザパンを差し出した。
「じゃあ、味見。味見って大切だよな。もしもこれが檄マズだったら、ティアに出したらやばいじゃん~」
「ああ言えばこう言う……」
そうそう。俺に言い負かされたっていう理由があれば素直になれるだろ?
「黙って口開けろ」
「自分で食べる」
「手を洗ってないじゃん」
おずおずと開けた口に放り込む。様子を伺うと、僅かに頬が緩んでいる。そういえば、初めてピザを食べさせた時も無言で食べきってたな。
さて、今回はどうだろう。生地が違うので、少しだけ心配だった。
「なぁ、マテリオ。美味い?」
暫し無言で咀嚼し、飲み込むのを見守る。
マテリオの性格なのか、そう躾けられたのか知らないが、食事中は絶対に喋らない。そのせいで、ちょっと緊張してしまう。
「……今回も……美味い」
今回も? つまり、前回も美味かったと伝えているんだよな?
素直じゃないが、ある意味あんたらしいと思う。
「そっか。よかった。じゃあティアに出しても大丈夫だな。味見してくれてありがとう」
礼を言うと、右の眉がぴくっと動いた。
「じゃあ、手ぇ洗って残りも食べちゃいなよ。これはあんたの分として取っておくから」
いそいそと手を洗いに行く背中を見送りながら、いい気分で鼻歌を歌う俺だった。
だが、治癒のために民と触れ合っているのを見ていると、彼らはマテリオを怖がる様子はない。その理由は……真摯な眼差しだと思う。仏頂面はコミュニケーションが苦手なだけで、根はみんなの健康を祈る優しい男なんだ。
「おい、そろそろ休憩しろ」
俺が浄化に没頭していると、背後から声をかけられた。
このムカつく言い方も不器用なせいだよな!?
だが、手を止めた途端、腹がぐぅと鳴った。――この男、計算していたかのような良い頃合いで声をかけてきたな。腹の虫の具合まで見透かしているのか……?
「小腹も空いたし、軽食でも食べようぜ」
王都にいた頃人気だったピザだが、ピザ窯がないので生地はパンにして提供している。もちろん、ベジタリアンの神官用レシピもある。
食事の用意をしていると、マテリオが覗き込んできた。
「いつまで神子が料理人をするつもりだ。ん? これは……あの時の食べ物か」
「そうそう。あんたに引っ張り回された時の、アレ」
冗談のつもりだったが、眉がきゅっと八の字に曲がった。強引に離宮から引っ立てられ浄化へ連れて行かれた時、時間稼ぎに作ったのがピザだった。
「あ、ごめん。俺はもう笑い話にしてるからさ」
「……」
やば、これはマジで凹んでる。
「ごめんって! でもさ、お陰で神官は肉を食べないって知ったし、悪いことばかりじゃないよ」
「……そうか?」
「そうそう! あんたもこういう時はさ、全部大司教様のせいだって言い返せよ」
「相変わらずとんでもないことを言う男だ」
ぶつぶつ言いながらも、少しは落ち込んでいた気分が浮上したようだ。俺も言いすぎないように気をつけないとな。
どうもマテリオにはガンガンツッコミを入れてもいい気がしてしまう。これは、本気で喧嘩したからこそ生まれた感情だと思う。
一枚目が焼き上がる前に、隣からも腹の虫が鳴る音が聞こえた。その主人は済ました顔をしているが、顔を覗き込むとそっぽを向いた。
「マテリオさん~? そんなにおなかが空きました~?」
揶揄う俺を無視しているが、その頬は少し赤い。やっぱりこいつ、めっちゃ面白い。
「素直じゃないマテリオさんに、特別につまみ食いさせてあげよう」
「それは良くない行為だ」
真面目な奴! でも、そういうところ、嫌いじゃないぞ。
「ん~? 神官は自分の命を削って奉仕をしてる。だからつまみ食いしても良し!」
「そんなこと誰が決めたんだ」
「俺。神子様が許可する!」
大袈裟にいうと、マテリオは呆れ顔だ。それを無視し、俺は一口サイズにカットしたピザパンを差し出した。
「じゃあ、味見。味見って大切だよな。もしもこれが檄マズだったら、ティアに出したらやばいじゃん~」
「ああ言えばこう言う……」
そうそう。俺に言い負かされたっていう理由があれば素直になれるだろ?
「黙って口開けろ」
「自分で食べる」
「手を洗ってないじゃん」
おずおずと開けた口に放り込む。様子を伺うと、僅かに頬が緩んでいる。そういえば、初めてピザを食べさせた時も無言で食べきってたな。
さて、今回はどうだろう。生地が違うので、少しだけ心配だった。
「なぁ、マテリオ。美味い?」
暫し無言で咀嚼し、飲み込むのを見守る。
マテリオの性格なのか、そう躾けられたのか知らないが、食事中は絶対に喋らない。そのせいで、ちょっと緊張してしまう。
「……今回も……美味い」
今回も? つまり、前回も美味かったと伝えているんだよな?
素直じゃないが、ある意味あんたらしいと思う。
「そっか。よかった。じゃあティアに出しても大丈夫だな。味見してくれてありがとう」
礼を言うと、右の眉がぴくっと動いた。
「じゃあ、手ぇ洗って残りも食べちゃいなよ。これはあんたの分として取っておくから」
いそいそと手を洗いに行く背中を見送りながら、いい気分で鼻歌を歌う俺だった。
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