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5章 おまけだった兄さんの異世界改革 子育て&改革編

真面目に仕事をするんです

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俺に与えられている執務室に向かう途中、数人の大臣や文官とすれ違い、全員に胎珠の安定を祝福されて顔から火が出そうだった。
何故ならば、「やっと伴侶の皆様と過ごせますね」という一言がつくから。

……俺、そんなに寂しそうな顔をしてたのか?

執務室に入るとすぐに、準備を整えたマナとサージュラが早朝に旅立ったと報告され驚いた。

「こんなに慌てて出発するなんて、相当切羽詰まってるんだな」

焦りは確かに感じていた。だが、それ以上に状況は切迫しているらしい。マナが無事に帰れるといいんだが……

「エルビス。密かに誰かに彼らの状況を報告してもらうことはできるかな? それか、ティアが手配しているかもしれないから確認してくれるか?」
「はい、任せてください」

エルビスが確認に向かう。今日はマテリオも執務室に来てもらった。人払いをし、二人きりになる。

「各神殿で行われている交歓だけど、強要されているかの調査は進んでる?」

交歓については機密情報なので、内情を知る人間以外は漏らせない。

「ああ。数ヶ所だがあった。ただ、常態化していて強要されている自覚がないところがほとんどだ。ジュンヤに言われたように『相性だけではなく、お互いの好感度がより重要で効果がある』と伝えておいた。突然禁止しては反発があるから、うまい言い方だと思う」

マテリオに間に入ってもらい、より治癒力を高める方法として指導してもらった。指導という言い方は好きじゃないが、交歓を止めることはできないと聞き、嫌な思いをする人が少しでも減るように考えた結果の言葉だ。

「それで、反応は?」
「初めは感情など不要だという神官もいたが、実戦し魔力上昇が著しかった者の報告が上がり納得した。それに、ソレス神官とマナ神官の両親は好意を抱いたペアだったと判明した。自分達を前例として、効果的に使おうとソレス神官が言っていた」
「そうか。……ソレスも結構強かだな」

どうにか受け入れてもらえたと安心し、大きく息を吐いた。

「交歓は必要なことなんだもんなぁ」
「お前の世界の常識では苦痛なのかもしれないが、我々はさほど気にしていない。あまり気に病むな」
「ん……。ところでさ、トラージェの神殿も交歓をしていると思うか?」
「しているだろうな。お前がマナ神官の心配をしているのはその点だろう?」

そう。治癒を高めたいのなら、マナはきっと魅力的な相手だ。強引な手段に出るのではと不安に思っている。

「エリアス陛下はその点も考慮している筈だ」
「だよな」

その時、エルビスが戻ってきて入室の許可を求めたので入ってもらった。

「ただいま戻りました。二人のお話が済んでから報告します」
「もう終わったよ」
「そうですか。陛下は密かに護衛を付けているので安心するようにとのことです。定時報告させるので、ジュンヤ様にも随時知らせてくれるそうですよ」
「さすが! よかった、安心だな」

胸を撫で下ろし、文官も入室させて本日の書類に集中する。各地に手配した学校建設の進行具合、浄化後の収穫量の増減チェックなどだ。
輸出量の制限がなくなれば、トラージェとの関係改善につながるはずだ。

「カルマド領のキールが豊作みたいだな。国内の備蓄が十分なら輸出制限は解除して良さそうだ。ベルパル領から分配された備蓄分を返納して、その後は制限を解こう」
「ではそのようにいたします」

任された案件は、悩んだ時はティアに相談しつつも裁定は任されている。サインし印章を押す。重大な判定をするので緊張するが、やりがいも感じる。

「トラージェは魔力を充填済みの魔石も欲しがってるんだよな……これはティアの裁決次第だけど、やけに多くないか?」

トラージェに魔導士が少ないとはいえ、ゼロじゃないはず。それに、アジェン自治区に採掘場もあると聞いている。
俺の疑問にエルビスも頷いた。

「そうですね。充填の依頼であれば魔導士の派遣で済むのですが、魔石の確保を狙っているかもしれません」
「まさか……戦争する気とか?」

恐る恐る聞くと、マテリオが首を横に振った。

「あちらは神官が少なく、治療は薬が頼りだ。回復の早いカルタスとの戦争は不利だし、さすがにないだろう」
「それならいいけど……。あ、魔石だけど、枯渇する心配はないのかな」

生活に必要なサイズの魔石はたくさんあったが、ユーフォーンで使ったような大きなサイズはなかなか見つからないそうだ。エネルギー源の枯渇が不安になっていた。

「魔の森があるだろう? あちらから大量の魔力が流れてきているのだ。バルバロイ領の境界線で魔石が大量に採掘されるのはそのせいだ」

俺たちの会話を聞いたエルビスが地図を持ってきてくれた。

「この印のついた地点が採掘場です。川沿いとこちらの鉱山ですね。不思議なことに、掘り尽くしたかと思ってとした採掘場でも、何年か経つとまた魔石が見つかるようになるそうです。川上の魔の森の影響かもしれません。ですから心配いらないと思いますよ」
「なるほど……。魔の森が健在なら魔石は尽きないということか」

とはいえ、いつか枯渇するなんてこともあるんじゃないだろうか? ほんの少し不安だが、無駄に不安を煽るのはよくないと口をつぐんだ。
話の切りがいいところを見計らったように、一人の文官が新しい書類を渡してきた。

「ジュンヤ様、こちらはピパカノから届いた先週までの販売実績です。小物の販売にしたので単価が下がったものの、注文が増えて順調に売り上げは伸びているそうですよ。黒字に転じています」
「あ、ピパカノ織製品への注文が増えてるんだよな。ふむふむ……」

以前作ったストラップの他、ブレスレット、バッグなどの販売も始めている。気軽に購入できるようになり人気が高まっていると報告は来ていた。
もちろん絨毯の販売も続けていて、富裕層からの注文が増えつつあるという。機織り機も数台買ったと書かれている。
いいことばかりのようだが、最後の一文が気になった。

「今後、職人不足で製造が遅れる可能性も有り、か」

複雑な模様を生み出す機織りには技術が必要だ。一朝一夕で職人を増やすことはできない。魔石を組み込んだ自動機織り機あるが、汎用性のある大量製品用であり、複雑な模様は折れないんだ。

「職業訓練のクラスに機織りも入れたらどうかな? ピパカノ織に限らず、基礎を教えてやれば新しいアイデアが生まれるかも。独立もできるような才能も見つかるかも」
「そのように伝えましょう。教師の職人についてピパカノの長に相談しておきます」

個人的な意見だが、全てがマシンメイドというのは味気ないと思う。職人の技術を大切にしつつ需要に応えられるようにしたい。
ふと、ある男の顔が浮かぶ。

どうかしているアイデアを実現するには、どうかしている男が必要だな――

でも、自由を求め王都を飛び出した彼を呼び戻すためにはそれなりの対価が必要だ。彼を保護しつつ、自由に働いてもらえるようにするには……?
新た悩みにエルビス達も巻き込む。大変なことでも、仲間がいれば心強いもの。もらった意見を書き込み、作戦を練る俺だった。
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