207 / 208
番外編 ある神官の愛と軌跡
7
しおりを挟む
次の日。司教様が戻らなくても私も一緒に行くとジュンヤに答え、甘い朝を送っていたのだが、出立が遅れると知らせがきた。
「ジュンヤ。無事に捕獲出来た様だな?」
捕獲? ……まぁ、確かに私は囚われたと言える。
「うん。これからは、みんなもマテリオを恋人扱いでお願いします」
「「おお~!! やっぱり!!」」
「嘘だ! 嘘だぁぁ~~!!」
ジュンヤが宣言すると騎士達の絶叫や歓喜の声が上がり、何ごとかと驚いた。私とジュンヤの仲を賭けていたらしい。……つまり、私の思いは気づかれていた、ということか?
「良くやったっす! マテリオ殿!! 俺、ニヤつくの我慢するのしんどかったぁぁ~!」
「ぐふっ!」
ウォーベルト殿が、背中をバンバン叩くので咳き込んでしまった。まぁ、嬉しそうだから良しとするか。
しかし、その隣でラドクルト殿が私を睨んでいた。私が何かしたのだろうか?
「私はマテリオ殿が我慢する方に賭けていたのに!! なぜ我慢出来なかったのですか?! 大損ですっ!」
なんと?! 生真面目なラドクルト殿まで賭けを?! 賭けの対象にされていたのは気恥ずかしいが、ジュンヤは笑っているし、気にしないのが一番だろう。
大騒ぎを鎮めたのはエリアス殿下だ。そして、出立が遅れた理由が知らされる。グスタフ司教が病だと? どう考えても怪しいが、これは問題だ。
殿下とジュンヤが話している最中、私の背中に神官達の視線が突き刺さっているのを感じていた。司教様、まさか、私を神殿に縛る企てを——?
振り向いた殿下が私を見ていた。ええ、言いたいことはわかっております。
「ここの司教はグスタフ司教とウルスだけだった。あとは一般の神官で、序列はあるが指揮を取るのは難しい」
「隣町まで治癒に行けば良いよな?」
「そう出来れば良いのだが、それまでの間が問題だ。平常時なら良いが、荒れた上に人員も足りない今は、いざという時に指揮する者は必須だ。だから、代わりに指揮する人間が必要だ。そうだな? マテリオ」
「一番上の地位の人って誰だ?」
「——ジュンヤにはつらい話になる」
「マテリオ司教代理です!」
殿下がジュンヤを気遣いながら話しかけた言葉を遮るようにキンリー神官が叫んだ。殿下の言葉を遮ったので、騎士に殺気が走る。
だが、殿下がそっと手で合図をして遮った。
「現在、一番の高位はマテリオ司教代理ですから、残って頂かないといけません」
確かにそうだが、だが……
すると、年配の神官まで口を挟み、神官の務めをそれぞれが唱え出す。何もかもが正論だ。そんなことは理解している。
きっと、ジュンヤを愛する前ならその通りだといって残っただろう。様々な訴えを聞いているジュンヤも複雑な表情を浮かべていた。
「グスタフを治癒するにはジュンヤが最適ではあるが、二日を無駄にする。王都の瘴気は強まり、一刻も早く大元を断ち王都の瘴気に立ち向かわねばならない。だから、ジュンヤがいないところで決めてすまないが、魔石を使用する許可を出した。マナ神官と神兵リューン、ルファを派遣し、護衛はロドリゴの騎士を追加した。終わり次第我々を追ってくる手筈で、既に送り出した」
さすが殿下。もう手を打っておられた。しかし、待てば二日遅れとなり、瘴気の被害が大きな土地にとっては長く感じるだろう。
「でも、その間に神殿を指揮する人間が必要……だな?」
「そうだ」
ジュンヤは少し沈黙し、私を見た。
「分かった。マテリオはここに残ってくれ」
「ジュンヤッ! 私はっ!」
私を置いていくのか?! 離れても平気だと?!
「俺、先に行って待ってる。だから、追いついてこい」
違う……待っていてくれる……私を。きっとジュンヤも辛いのだ。だが、私達はより多くの人を救う責務を負っている。人には、己より他を優先すべき時がある。
「——分かった。お前がそう決めたのならば、従う」
私が答えると、背後で神官達のはしゃいだ声が聞こえた。
「良かった!! 昨夜の交歓での魔力アップはマテリオ司教代理のお力かなぁ? なんだか良い香りがしてから、すごく良かったよね?」
「私のお相手も願えないだろうか……」
「それにしてもこの香りはなんて良い香りなんだろう。今すぐもう一度始められそうだ!!」
「良いね、この後どう?」
「え~? マテリオ様が良い~」
勝手なことを……
「ジュンヤ。私にはそんなつもりはない」
ジュンヤ以外とあんなことはしない。そう決めているのだから! 言葉にする前に、ジュンヤは笑いながら宥めるように私の腕を軽く叩いた。
「分かってるって」
余裕綽綽の笑みに、あ、これはと気がついた。ジュンヤはくるりと彼らの方へ向き直った。
「神官のみなさん!!」
ジュンヤが大きな声で神官達を呼び、彼らの視線を十分に集めて不敵に笑う。
「こいつはもう俺の物ですから、交歓は禁止します。少しの間お貸ししますが、俺のこ、い、び、と、なので手を出さない様に。その点ご理解のほど、よろしくお願いしますね?」
堂々と恋人宣言する姿に、何度目かわからない恋をした。
ーーーー
少し短くてすみません!区切りのいい所で切ってしまいました。
次回は最終話です!
「ジュンヤ。無事に捕獲出来た様だな?」
捕獲? ……まぁ、確かに私は囚われたと言える。
「うん。これからは、みんなもマテリオを恋人扱いでお願いします」
「「おお~!! やっぱり!!」」
「嘘だ! 嘘だぁぁ~~!!」
ジュンヤが宣言すると騎士達の絶叫や歓喜の声が上がり、何ごとかと驚いた。私とジュンヤの仲を賭けていたらしい。……つまり、私の思いは気づかれていた、ということか?
「良くやったっす! マテリオ殿!! 俺、ニヤつくの我慢するのしんどかったぁぁ~!」
「ぐふっ!」
ウォーベルト殿が、背中をバンバン叩くので咳き込んでしまった。まぁ、嬉しそうだから良しとするか。
しかし、その隣でラドクルト殿が私を睨んでいた。私が何かしたのだろうか?
「私はマテリオ殿が我慢する方に賭けていたのに!! なぜ我慢出来なかったのですか?! 大損ですっ!」
なんと?! 生真面目なラドクルト殿まで賭けを?! 賭けの対象にされていたのは気恥ずかしいが、ジュンヤは笑っているし、気にしないのが一番だろう。
大騒ぎを鎮めたのはエリアス殿下だ。そして、出立が遅れた理由が知らされる。グスタフ司教が病だと? どう考えても怪しいが、これは問題だ。
殿下とジュンヤが話している最中、私の背中に神官達の視線が突き刺さっているのを感じていた。司教様、まさか、私を神殿に縛る企てを——?
振り向いた殿下が私を見ていた。ええ、言いたいことはわかっております。
「ここの司教はグスタフ司教とウルスだけだった。あとは一般の神官で、序列はあるが指揮を取るのは難しい」
「隣町まで治癒に行けば良いよな?」
「そう出来れば良いのだが、それまでの間が問題だ。平常時なら良いが、荒れた上に人員も足りない今は、いざという時に指揮する者は必須だ。だから、代わりに指揮する人間が必要だ。そうだな? マテリオ」
「一番上の地位の人って誰だ?」
「——ジュンヤにはつらい話になる」
「マテリオ司教代理です!」
殿下がジュンヤを気遣いながら話しかけた言葉を遮るようにキンリー神官が叫んだ。殿下の言葉を遮ったので、騎士に殺気が走る。
だが、殿下がそっと手で合図をして遮った。
「現在、一番の高位はマテリオ司教代理ですから、残って頂かないといけません」
確かにそうだが、だが……
すると、年配の神官まで口を挟み、神官の務めをそれぞれが唱え出す。何もかもが正論だ。そんなことは理解している。
きっと、ジュンヤを愛する前ならその通りだといって残っただろう。様々な訴えを聞いているジュンヤも複雑な表情を浮かべていた。
「グスタフを治癒するにはジュンヤが最適ではあるが、二日を無駄にする。王都の瘴気は強まり、一刻も早く大元を断ち王都の瘴気に立ち向かわねばならない。だから、ジュンヤがいないところで決めてすまないが、魔石を使用する許可を出した。マナ神官と神兵リューン、ルファを派遣し、護衛はロドリゴの騎士を追加した。終わり次第我々を追ってくる手筈で、既に送り出した」
さすが殿下。もう手を打っておられた。しかし、待てば二日遅れとなり、瘴気の被害が大きな土地にとっては長く感じるだろう。
「でも、その間に神殿を指揮する人間が必要……だな?」
「そうだ」
ジュンヤは少し沈黙し、私を見た。
「分かった。マテリオはここに残ってくれ」
「ジュンヤッ! 私はっ!」
私を置いていくのか?! 離れても平気だと?!
「俺、先に行って待ってる。だから、追いついてこい」
違う……待っていてくれる……私を。きっとジュンヤも辛いのだ。だが、私達はより多くの人を救う責務を負っている。人には、己より他を優先すべき時がある。
「——分かった。お前がそう決めたのならば、従う」
私が答えると、背後で神官達のはしゃいだ声が聞こえた。
「良かった!! 昨夜の交歓での魔力アップはマテリオ司教代理のお力かなぁ? なんだか良い香りがしてから、すごく良かったよね?」
「私のお相手も願えないだろうか……」
「それにしてもこの香りはなんて良い香りなんだろう。今すぐもう一度始められそうだ!!」
「良いね、この後どう?」
「え~? マテリオ様が良い~」
勝手なことを……
「ジュンヤ。私にはそんなつもりはない」
ジュンヤ以外とあんなことはしない。そう決めているのだから! 言葉にする前に、ジュンヤは笑いながら宥めるように私の腕を軽く叩いた。
「分かってるって」
余裕綽綽の笑みに、あ、これはと気がついた。ジュンヤはくるりと彼らの方へ向き直った。
「神官のみなさん!!」
ジュンヤが大きな声で神官達を呼び、彼らの視線を十分に集めて不敵に笑う。
「こいつはもう俺の物ですから、交歓は禁止します。少しの間お貸ししますが、俺のこ、い、び、と、なので手を出さない様に。その点ご理解のほど、よろしくお願いしますね?」
堂々と恋人宣言する姿に、何度目かわからない恋をした。
ーーーー
少し短くてすみません!区切りのいい所で切ってしまいました。
次回は最終話です!
80
お気に入りに追加
12,854
あなたにおすすめの小説
魔界最強に転生した社畜は、イケメン王子に奪い合われることになりました
タタミ
BL
ブラック企業に務める社畜・佐藤流嘉。
クリスマスも残業確定の非リア人生は、トラックの激突により突然終了する。
死後目覚めると、目の前で見目麗しい天使が微笑んでいた。
「ここは天国ではなく魔界です」
天使に会えたと喜んだのもつかの間、そこは天国などではなく魔法が当たり前にある世界・魔界だと知らされる。そして流嘉は、魔界に君臨する最強の支配者『至上様』に転生していたのだった。
「至上様、私に接吻を」
「あっ。ああ、接吻か……って、接吻!?なんだそれ、まさかキスですか!?」
何が起こっているのかわからないうちに、流嘉の前に現れたのは美しい4人の王子。この4王子にキスをして、結婚相手を選ばなければならないと言われて──!?
旦那様が多すぎて困っています!? 〜逆ハー異世界ラブコメ〜
ことりとりとん
恋愛
男女比8:1の逆ハーレム異世界に転移してしまった女子大生・大森泉
転移早々旦那さんが6人もできて、しかも魔力無限チートがあると教えられて!?
のんびりまったり暮らしたいのにいつの間にか国を救うハメになりました……
イケメン山盛りの逆ハーです
前半はラブラブまったりの予定。後半で主人公が頑張ります
小説家になろう、カクヨムに転載しています
幽閉王子は最強皇子に包まれる
皇洵璃音
BL
魔法使いであるせいで幼少期に幽閉された第三王子のアレクセイ。それから年数が経過し、ある日祖国は滅ぼされてしまう。毛布に包まっていたら、敵の帝国第二皇子のレイナードにより連行されてしまう。処刑場にて皇帝から二つの選択肢を提示されたのだが、二つ目の内容は「レイナードの花嫁になること」だった。初めて人から求められたこともあり、花嫁になることを承諾する。素直で元気いっぱいなド直球第二皇子×愛されることに慣れていない治癒魔法使いの第三王子の恋愛物語。
表紙担当者:白す(しらす)様に描いて頂きました。
性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました
まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。
性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。
(ムーンライトノベルにも掲載しています)
【完結】伴侶がいるので、溺愛ご遠慮いたします
*
BL
3歳のノィユが、カビの生えてないご飯を求めて結ばれることになったのは、北の最果ての領主のおじいちゃん……え、おじいちゃん……!?
しあわせの絶頂にいるのを知らない王子たちが吃驚して憐れんで溺愛してくれそうなのですが、結構です!
めちゃくちゃかっこよくて可愛い伴侶がいますので!
本編完結しました!
時々おまけを更新しています。
美貌の騎士候補生は、愛する人を快楽漬けにして飼い慣らす〜僕から逃げないで愛させて〜
飛鷹
BL
騎士養成学校に在席しているパスティには秘密がある。
でも、それを誰かに言うつもりはなく、目的を達成したら静かに自国に戻るつもりだった。
しかし美貌の騎士候補生に捕まり、快楽漬けにされ、甘く喘がされてしまう。
秘密を抱えたまま、パスティは幸せになれるのか。
美貌の騎士候補生のカーディアスは何を考えてパスティに付きまとうのか……。
秘密を抱えた二人が幸せになるまでのお話。
【完結】最強公爵様に拾われた孤児、俺
福の島
BL
ゴリゴリに前世の記憶がある少年シオンは戸惑う。
目の前にいる男が、この世界最強の公爵様であり、ましてやシオンを養子にしたいとまで言ったのだから。
でも…まぁ…いっか…ご飯美味しいし、風呂は暖かい…
……あれ…?
…やばい…俺めちゃくちゃ公爵様が好きだ…
前置きが長いですがすぐくっつくのでシリアスのシの字もありません。
1万2000字前後です。
攻めのキャラがブレるし若干変態です。
無表情系クール最強公爵様×のんき転生主人公(無自覚美形)
おまけ完結済み
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。