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番外編 ある神官の愛と軌跡 

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 次の日。教様が戻らなくても私も一緒に行くとジュンヤに答え、甘い朝を送っていたのだが、出立が遅れると知らせがきた。

「ジュンヤ。無事に捕獲出来た様だな?」

 捕獲? ……まぁ、確かに私は囚われたと言える。

「うん。これからは、みんなもマテリオを恋人扱いでお願いします」
「「おお~!! やっぱり!!」」
「嘘だ! 嘘だぁぁ~~!!」

 ジュンヤが宣言すると騎士達の絶叫や歓喜の声が上がり、何ごとかと驚いた。私とジュンヤの仲を賭けていたらしい。……つまり、私の思いは気づかれていた、ということか?

「良くやったっす! マテリオ殿!! 俺、ニヤつくの我慢するのしんどかったぁぁ~!」
「ぐふっ!」

 ウォーベルト殿が、背中をバンバン叩くので咳き込んでしまった。まぁ、嬉しそうだから良しとするか。
 しかし、その隣でラドクルト殿が私を睨んでいた。私が何かしたのだろうか?

「私はマテリオ殿が我慢する方に賭けていたのに!! なぜ我慢出来なかったのですか?! 大損ですっ!」

 なんと?! 生真面目なラドクルト殿まで賭けを?! 賭けの対象にされていたのは気恥ずかしいが、ジュンヤは笑っているし、気にしないのが一番だろう。
 大騒ぎを鎮めたのはエリアス殿下だ。そして、出立が遅れた理由が知らされる。グスタフ司教が病だと? どう考えても怪しいが、これは問題だ。
 殿下とジュンヤが話している最中、私の背中に神官達の視線が突き刺さっているのを感じていた。司教様、まさか、私を神殿に縛る企てを——?
 振り向いた殿下が私を見ていた。ええ、言いたいことはわかっております。

「ここの司教はグスタフ司教とウルスだけだった。あとは一般の神官で、序列はあるが指揮を取るのは難しい」
「隣町まで治癒に行けば良いよな?」
「そう出来れば良いのだが、それまでの間が問題だ。平常時なら良いが、荒れた上に人員も足りない今は、いざという時に指揮する者は必須だ。だから、代わりに指揮する人間が必要だ。そうだな? マテリオ」
「一番上の地位の人って誰だ?」
「——ジュンヤにはつらい話になる」
「マテリオ司教代理です!」

 殿下がジュンヤを気遣いながら話しかけた言葉を遮るようにキンリー神官が叫んだ。殿下の言葉を遮ったので、騎士に殺気が走る。 
 だが、殿下がそっと手で合図をして遮った。

「現在、一番の高位はマテリオ司教代理ですから、残って頂かないといけません」

 確かにそうだが、だが……
 すると、年配の神官まで口を挟み、神官の務めをそれぞれが唱え出す。何もかもが正論だ。そんなことは理解している。
 きっと、ジュンヤを愛する前ならその通りだといって残っただろう。様々な訴えを聞いているジュンヤも複雑な表情を浮かべていた。

「グスタフを治癒するにはジュンヤが最適ではあるが、二日を無駄にする。王都の瘴気は強まり、一刻も早く大元を断ち王都の瘴気に立ち向かわねばならない。だから、ジュンヤがいないところで決めてすまないが、魔石を使用する許可を出した。マナ神官と神兵リューン、ルファを派遣し、護衛はロドリゴの騎士を追加した。終わり次第我々を追ってくる手筈で、既に送り出した」

 さすが殿下。もう手を打っておられた。しかし、待てば二日遅れとなり、瘴気の被害が大きな土地にとっては長く感じるだろう。

「でも、その間に神殿を指揮する人間が必要……だな?」
「そうだ」
 
 ジュンヤは少し沈黙し、私を見た。

「分かった。マテリオはここに残ってくれ」
「ジュンヤッ! 私はっ!」

 私を置いていくのか?! 離れても平気だと?!

「俺、先に行って待ってる。だから、追いついてこい」

 違う……待っていてくれる……私を。きっとジュンヤも辛いのだ。だが、私達はより多くの人を救う責務を負っている。人には、己より他を優先すべき時がある。

「——分かった。お前がそう決めたのならば、従う」

 私が答えると、背後で神官達のはしゃいだ声が聞こえた。

「良かった!! 昨夜の交歓での魔力アップはマテリオ司教代理のお力かなぁ? なんだか良い香りがしてから、すごく良かったよね?」
「私のお相手も願えないだろうか……」
「それにしてもこの香りはなんて良い香りなんだろう。今すぐもう一度始められそうだ!!」
「良いね、この後どう?」
「え~? マテリオ様が良い~」

 勝手なことを……

「ジュンヤ。私にはそんなつもりはない」

 ジュンヤ以外とあんなことはしない。そう決めているのだから! 言葉にする前に、ジュンヤは笑いながら宥めるように私の腕を軽く叩いた。

「分かってるって」

 余裕綽綽の笑みに、あ、これはと気がついた。ジュンヤはくるりと彼らの方へ向き直った。

「神官のみなさん!!」

 ジュンヤが大きな声で神官達を呼び、彼らの視線を十分に集めて不敵に笑う。

「こいつはもうですから、交歓は禁止します。少しの間お貸ししますが、俺のこ、い、び、と、なので手を出さない様に。その点ご理解のほど、よろしくお願いしますね?」

 堂々と恋人宣言する姿に、何度目かわからない恋をした。

ーーーー

少し短くてすみません!区切りのいい所で切ってしまいました。
次回は最終話です!
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