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番外編 ある神官の愛と軌跡 

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 潤也が奪いに来るまでの苦悩していた時期と、神殿に居残った時期を書いてみました。モブとのエッチは匂わす程度で書きませんが、腹が立つかもしれません。無理だと思う方はヤバッというところでブラウザバックかそっ閉じで! 
 ただ、めっちゃジュンヤにベタ惚れなむっつり神官無双をお楽しみいただけたらな、と思います。



 北の大地トーラント領は、私の故郷でもある。とはいえ、幼い頃に離れてしまい、生まれた街以外さほど詳しくないのだが。
 レナッソーの神殿に赴任していたグスタフ司教との再会は、私を大いに苦しませることになった。交歓は義務……それはわかっている。だが、ジュンヤを愛したあの行為とあまり違いすぎる。仕方なく口づけて力を交わしたが、それさえ苦痛に苛まれた。
 どうしても受け入れられずにいたら、報告されたのかグスタフ司教から呼び出されてしまった。

「マテリオよ、聞いたぞ。交歓を拒んだそうだな」
「拒んだわけでは……申し訳ありません」
「ふぅ……香だけで足りぬのなら、これを飲むしかない」

 渡されたのは小瓶に入った液体。ただそれだけで何かわかってしまう。強制的に性的興奮を呼び起こす媚薬だ。

「旅の間交歓をしなかったそうだな。当面は人数を制限してやろう。だが忘れるな。そなたの力は神殿の発展に重要だ。務めを忘れるな」
「はい……」

 瓶を握りしめ、逃げられないと覚悟を決めた。
 その夜、司教様から指示されたのか一人の神官が部屋に訪ねてきた。

「マテリオ神官……あの、私、グスタフ司教様に命じられて参りました。キンリーと申します。その、当面は私がお相手をせよとのことです」
「そうですか」

 ほっそりとして美しい顔立ちの彼は、頬を染めながら司教様の指示を伝えた。確かに美しいが、私が最も美しいと思うジュンヤとはあまりにも違いすぎる。
 私は香を焚いて、吸い込むように深呼吸をした。そして、小瓶に入った媚薬を一口飲み下した。カッと火照る体と、冷え切った心。

 ジュンヤ……許してくれ

「マテリオ様、と呼んでも?」
「好きにすればいい」

 これは裏切りなのか? いや、私は庇護者かもしれないが、私とジュンヤは恋人になったわけではない——

「失礼します。ご奉仕させてください」

 身動ぎも出来ずにいると、キンリー神官が私の体に触れてきた。肩に触れ、その手はゆっくりと私の全身を滑るように撫でていく。そして、媚薬のせいで意思に反して昂った屹立に手が触れた。

「良かった……他の方とは反応しなかったとお聞きしたので、嬉しいです」

 何を言っている? 媚薬を飲んだのを見たではないか。あなたに反応しているのではない。

「……私は」
「何も仰らないでください。大丈夫です。私がいたしますから。ちゃんと、準備してきました」

 口づけようと迫ってきた唇を咄嗟に避けてしまう。彼は一瞬悲しそうな顔をしたが、すぐに優しく微笑んだ。

「マテリオ様は寝ているだけでいいのです。さぁ、横になってください。——グスタフ司教様の指示ですよ」
「っ!!」

 この神殿の最強権力者の命令なら、私も彼も従わなくてはならない。仕方なくベッドに横たわると、彼が覆いかぶさり、私の陰茎を布上からすりすりと刺激し始める。
 もうジュンヤ以外とこんなことをしたくない。私は愛の行為を知ってしまったのだから。この行為の、なんという虚しさ——
 私の苦悩を知ってかしらずか、彼は私の陰茎を取り出して直に触れ、口を寄せてきて、咄嗟に手で払ってしまった。

「痛っ!」
「っ!! すまない!」
「私ではダメですか?」
「そういうわけではない。ただ、私は……私にはジュンヤが」
「ジュンヤ様の庇護者は何人もいらっしゃいます。マテリオ様一人が離れていても、きっと大丈夫ですよ」

 そうかもしれない。だが、その言葉は私の心を容赦なく抉った。

「——離れてくれ」
「お気を悪くされたなら謝罪します!! ですがっ! 今夜私を拒んでも、次が来ます! どうか、私で耐えてください」
「あなたを抱けない」
「私がします」
「そういう意味ではない。交わりたくないのだ」
「そんな」

 ひどいことを言っている自覚はある。だが、ジュンヤ以外と繋がりたくない。例え破門をされたとしても——

「それほどまでに神子様を……?」
「愛している」
「愛……」

 彼は、愛、という言葉を反芻するように何度か口を動かした。

「わかりました。でも、逃げられませんよ。ですから、深い交歓は私だけにしてください。そして、他の方とも口づけでの交歓は我慢して行ってください。ですが、相性が良いのは私だけ、ということにしましょう。——どうですか?」

 確かに交歓の拒否を司教様は諦めないだろう。次の相手も彼のように妥協するとは思えない。これまでの数人はひどく不満を述べて、なんとか私と交わろうとしてきたのだから。

「——わかりました」
「今だけ。夜だけは、キンリーと呼んでください」
「……」

 返事はできなかった。彼との口づけは、ひどく苦かった。交歓は快感を与え合う行為だというのに、だ。
それに、彼から流れ込む力には違和感しかない。そんな私とは反対に、キンリー神官は目を閉じてうっとりとした表情だった。
 これは違う。うまく言葉にできないが違う。だが、司教様には恩がある。この苦しい作業を、この地にいる間ずっと強いられるのか。

 こんな風に感じたのは初めてだ。教え込まれたしきたりと儀式。それがずっと神官として生きる道標だった。それが、ジュンヤとの出会いで全てが崩れ去っていく——

 早く、早く——ここから逃げ出したい。

 私は、初めて神官である己を恥じた。巡行が終わったら、私はジュンヤから——ジュンヤが見えない地への異動を申請しよう。ひと目でも見てしまったら、この想いが抑えられないだろうから。
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