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ハネムーン編
ハネムーン編 エルビス 3
しおりを挟むまどろみの中、温かく優しい香りにすっぽりと包まれているのを感じた。穏やかな規則正しい寝息……そっと目を開くとエルビスはまだ夢の中だった。
(珍しいな……いつも俺より先に起きているのに。昨夜は酔っていたみたいだから、そのせいかな? 寝顔、可愛いな)
いつも完璧なエルビスだけど、今は昨夜の激しい情事の痕跡が残っていた。裸のままで上掛けをかけただけだし、お互いの吐き出した物や、俺の奥に残っている精液さえ掻き出すのを忘れていたらしい。
——おなかが痛くなると聞いたけど、今のところ平気だ。やっぱり慌てて出さなくてもいいんだと確信した。なぜなら、いまだにナカからエルビスの力を感じるから。
(珍しくちょっと意地悪だったな。嫉妬してくれて嬉しい。フライングでハネムーンだけど、エルビスとはいつもハネムーンみたいなもんだし、いいよね)
この世界に来てから、初めてこんなに長く離れていた。二人のために意識しないように努めたけど、やっぱり隣にエルビスがいるのが一番安心する。
エルビスの顔に近づいて、起こさないように気をつけながら唇にちゅっと軽くキスをする。昨日のエルビスは、俺で一人エッチしてた……! エルビスも一人エッチするなんて思ってもみなかった! 起きて良かったよ。あんな可愛いエルビスを見逃したら一生後悔しただろうな!
それに、途中から呼び捨てになってたし! 超レアだ! 嬉しかったなぁ。
「んん……」
「おはよう、エルビス」
「——あ」
目を開けたエルビスは、寝ぼけていたが一瞬で目を見開いた。
「これは! ジュンヤ様! 昨夜は、その、酔っていてご無礼を……」
「あははっ、ご無礼なんかしてないって。俺、ああいうエルビスも好きだよ」
「そっ、そうですか?」
「うん。大好きだよ」
俺から抱き寄せてぴったりと肌が密着すると、心地よさにほうっとため息がこぼれた。
「こうしてるの、好きだ」
「ジュンヤ様……私も、幸せです」
ギュッと抱きしめ返して、おでこに優しいキスが降ってくる。それはまぶたに、両頬に、そして唇に——
甘い空気を邪魔しにくる人はいない。俺とエルビスだけの時間を楽しめる。
「ん、んぅ、ふ、あ……」
「ああ……キレイです」
優しい優しい笑顔に胸がキュンキュンする。
「エルビス、俺、エッチな気分」
「ふっ……私もそうしたいのですが、ハネムーンの準備をしなくては。いいですか?」
「そうだったね。俺も手伝うよ」
二人で浴室で洗いっこを楽しみ、エルビスが俺を着替えさせて……いつもと同じ流れでも、同じじゃない。全部が甘く楽しい時間だ。
「実は、ケローガにお誘いしようと思っていたんです。ですが、旅続きでお疲れでしょうか」
「ケローガ!! 行く!! メイヤーとの約束も守りたいし、コミュ司教にお礼を言いたい。ユーフォーンで守ってくれたお守りのお礼をしたいんだ」
「そう仰ると思っていました。雪ガラス亭に空室の確認をしているので、返事を確認に実家に戻ってきます」
「一緒に行くよ?」
「そう、ですね……わかりました」
それ、あまり良くなさそうな返事だよね。
「迷惑かな?」
「そうではありません。父も兄も仕事に出ているでしょうから大丈夫です」
「そう意味じゃないんだ。俺、エルビスのお父様に歓迎されてないのかな」
「違います! 父はどうしても身分に強いこだわりがあるんです。殿下やダリウスと列に格下の爵位の私が加わる、というのが気が引けてしまう一因でしょう。それに、ジュンヤ様は神子ですし。格にこだわる人なんです」
「じゃあ、少しずつ慣れて貰う努力をしないとな」
「お気遣いなく」
エルビスは、俺のためなら家族も切り捨ててしまいそうな気がする。だけど、それじゃダメなんだ。
「エルビスの家族なんだから、気遣うに決まってるよ。大事な俺の家族なんだから」
「ジュンヤ様……」
(全くもう! 気の使いすぎはダメだって。もっと、俺にわがままを言って欲しいな)
俺たちは一緒にハネムーンの準備を一つ一つして行った。エルビスの実家はお義母様だけだったが、お義父様がいない時はとてもリラックスをして迎えてくれた。反対されているんじゃないってことがはっきりわかって、すごく安心した。
そして、侍従ではないエルビスと旅の支度……ワクワクするね。私服のエルビスは見たことがあるけど、これからしばらくはずっとなんだ! あのさ、侍従服は目立たないように色も作りもシンプルなんだけどさ。私服のエルビスはなんていうの? そう、爽やか!! ティアやダリウス、マテリオにないものをエルビスは持っている!! スカッと晴れた青空の下、白い歯がきらっと光るCMが似合いそうだね!!
こうして、再会した翌日はひたすら準備で終わってしまった。そして、またすぐに旅に出る。エルビスは気を使ってくれるけど、俺だって巡行で鍛えられた。浄化がない分楽な旅だと思う。それに、移動中はイチャイチャできるしさ!
その日はエルビスが俺を気遣ってエッチなしで寝たんだけど……理性が強すぎるよ!! ティアもダリウスも遠慮なく据え膳を食いに来るのにぃ~。
だから、ケローガではいっぱい甘やかしてイチャラブしてやる!!と決意した。
◇
ケローガの城壁が見え始め、懐かしい人たちとの再会を思うと心が逸る。揺れる馬車から見えた風景は、一度見た風景のはずなのに以前とは違って見えた。
「巡行の時は寂れた景色だったのにな。それに、あの時はまだ神子の自覚もなくて、歩夢君に神子役を任せようなんてひどいことを考えてた……大人なのにな」
「ですが、アユム様を守るためでしたよね?」
「違うよ。押し付けたんだよ。今にして思えば、浄化はするけど、手柄はあげるから公の場に出たくない……ずるい考えだったと思う」
「結果としてアユム様は守られました。アユム様は浄化の神子ではないと知られたら、皆の反応が変わるのではと恐れておられましたから」
「そうだったのか? 俺には空元気を見せてたんだな」
本当に悪いことをした。ケローガで再会できるから謝りたいな。それに、エルビスたちと恋愛関係になるのを迷う俺の背中を押してくれたのも歩夢君だから、改めてお礼を言いたい。
「でもさ……この景色が色鮮やかになってたのは嬉しいよ。あの村も活気が出てたし」
そう、最初に立ち寄った村で浄化の魔石を作った。効果はとっくに切れていたけど、泉の浄化のおかげで村人も健康そのものだった。俺が本当の神子だと勘づいていたらしいと知って、黙っていてくれた彼らに感謝をした。
ケローガの城門をくぐると、いろんな思い出がブワッと押し寄せてきた。
(そうだよ。俺、ケローガで初めてエルビスと……)
チラッと見上げると、こちらを見ていたエルビスと視線が合った。もしかしたら同じことを考えてるのかな……
「ジュンヤ様、それほど前ではないはずなのに、懐かしいですね」
「うん。新しい二人だけの思い出、いっぱい作ろうな」
「ふふ……イチャラブしましょう。なるべく大げさなもてなしはしないように先ぶれをしているので、ゆっくり過ごせるはずです」
「お世話になったしね。カルマド辺境伯と、マヤト大司教に会うんだよね」
「はい。カルマド辺境伯はケローガ神殿に来てくださるそうです」
「一回で済むのは助かるけど悪いな」
まっすぐに神殿に向かうが、俺たちの馬車に手を振る人々に手を振り返す。街は活気があり笑顔もいっぱいで、それだけでここに来た甲斐があると思った。
神殿に到着すると、神兵のトマスさん、リューンさんが馬車のドアを開けてくれた。彼らはこの護衛部隊に志願してくれた。騎士の反対もなく、むしろ、騎士たちはここから巡行に加わって努力を重ねた彼らに敬意を表していて、騎士と神兵の隔たりも薄れている。
「カルマド伯、マヤト司教、お久しぶりです。お元気で何よりです」
「神子ジュンヤ様。再びあなたをこの街に迎え入れる栄誉を賜り、望外の幸せでございます」
カルマド伯が膝を折って礼をする。——まだ慣れないけど、王太子妃となって慣れる努力をしている。
「神子ジュンヤ様。神子の偉業を後世まで伝えるべく、神官一同祈りを捧げ民に伝える努力をしております」
マヤト大司教は両膝を付いて平伏した。
「お二人とも、歓迎していただきありがとうございます。ですが、どうぞお立ちください。この街に来たのは、その後が知りたかったのもありますが、エルビスとゆっくり過ごすためなので、堅苦しいのはなしでお願いします」
俺の言葉で立ち上がった二人は、俺とエルビスを見て満面の笑みを浮かべていた。
「それはもう! 新婚のお二人を邪魔しないように領民には通達をしております。しかし、この地は苦難を乗り越えて絆を結んだゆかりの地として、ケローガは大変な観光と巡礼者ブームなのです。街の住人はお二人に会ったりパレードで拝見してるので大丈夫だと思いますが、外部の観光客が多いので各所に騎士を配置しております。お邪魔はさせませんが、問題がある時はお声がけください」
「ありがとうございます。それと、領主館へのお誘いをお断りしてすみません」
「いえいえ!! 私も無粋なマネをしたと反省をしました。二人きりになりたいですよね」
うっ……恥ずかしい! だけどありがとうございます!!
「——街に出る前に、二人のお墓に寄りたいのですが、トマスとリューンも同行させます」
神兵の二人に公の場では呼び捨てにしてほしいと、と口を酸っぱくして懇願されていた。でも、やっぱり言いにくい。
「はい、もちろんです」
カーラさんとステューイさんを称えた石碑は、民が参拝できる場所にある。でも、神殿関係者の墓は神殿の奥にあり管理されていて許可がいる。石碑でも良いけど、やっぱり二人が眠る場所に行きたかった。神兵の二人は静かに後ろをついてきた。
「二人とも、お久しぶりです。ようやく会いに来れました」
なんだか胸が苦しい。すると、左手が暖かいものに包まれた。
「エルビス」
横を見ると、エルビスは無言で手を握ってくれた。
「ありがとう」
俺はまた二人の墓標に向かう。
「あなたたちの献身を忘れません。それと、二人に紹介したい人たちがいます。トマス、リューン、こちらへ」
「「っ?! は、はい」」
二人を俺の近くに呼ぶと、緊張した面持ちで二人は背筋を伸ばした。
「この二人は、あなたたちの遺志を継いで俺を守ってくれました。そして、騎士と神兵をつないでくれました」
神兵二人の頬に涙が伝う。左手が、きゅっと強く握られた。
「それと、報告です。エリアス殿下、ダリウス、エルビス、マテリオと結婚しました。俺もこの国のために頑張るので、どうか行末を見守ってください」
どうしても報告をしたかった。きっと、二人がいる場所に届いてくれると信じて。
ーーーー
ちょっとシリアスになってしまいました。今回はさらっと流しましたが、このエピソードは改めて描きたいな、とすごく思いました。ケローガが絡むと長くなりそうです。
ここからはエルビスとハッピーデートやエッチをいっぱい書きたいです!
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