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ハネムーン編

ハネムーン編 ダリウス 5

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   『戦々恐々』

 俺は、この言葉の意味を思い知りました——

 昨日昼間っから酔っぱらった俺は、散々騎士棟でエッチして、気がついたらダリウスの部屋でした!! そして、朝からチェリフ様に二人で呼び出されているのです……!!

「二人とも——私は少々失望したよ」

 俺とダリウスは、チェリフ様の部屋で直立不動でフリーズしています!! 冷たーい視線に震える俺たち。

「騎士棟で盛るなど、どういうつもりです? ジュンヤ殿も、もっと冷静な方だと思っていたよ。酒に飲まれてヤりまくりですか? あなたの香りのせいで乱行騒ぎになったと知っていますか?」
「チェリフ様、す、すみません……!!」

 慌てて、これ以上ないくらい頭を下げた。

「どうせなら、また丘のチョスーチや町の湖にしてほしいねぇ。騎士棟では恩恵が得られないではないか」
「「は??」」

 ダリウスとハモってから顔を見合わせた。そりゃあハテナが飛ぶよね?

「母上? どう言う意味ですか?」
「浄化で訪れた時、おまえたちはチョスーチでになったのだろう? その後、敷地内の畑や果樹園の実りが凄まじくてね。その上、作物の出来も良かった。備蓄もできて大助かりだったよ。それに、湖だ。あの時はエルビスと出かけていたね? そこでも愛し合ったとわかるほど湖は変貌した。報告を受けた私は早速視察に行ったんだ。湖で、私が何を見たか知りたいか?」

 俺たちは無言で首を縦にふる。何があったんだろう……

「水は澄み切って輝いていた。花々は色鮮やかに咲き誇り、雑草さえも緑濃く茂っていて驚いたよ。市井の者たちは神子にあやかりたいと言って水浴びをしたそうだが、その者たちの胎珠着床率は凄まじかった。全ての者が子を授かったのさ。おかげでベビーラッシュで、浄化後の街はそれはもう大賑わいだ。しかも、それぞれ差はあるが、魔力を持つ子が大勢産まれた。今はもう効果は消えたらしいが、皆が『情愛の湖』呼び、神子の奇跡を示そうと有志が寄付を募り石碑まで立っている。おかげで街が明るくなったよ」

 そのあと、俺たちを交互に見てから、美しい笑顔を見せた。

「どうせするのなら、民や大地に愛を与えるところでいたしなさいな。人払いは手配してやろう」
「母上、良いんですか?! どこでも?!」
「ダリウス?!」

 ちょっと待って!! それって外でいたしなさいって意味だろう?! 食いつくなよ、ダリウス !!

「もちろんさ。この地の繁栄のために大いに愛し合えばいい。まぁ、別に無理していたしなさいと言う意味はないけれどね」
「だってよ!! よかったなぁ~ジュンヤ! いっぱいシようなぁ~」

 ダリウスは俺を抱きしめて髪にチュッチュッしてくるけど、青姦を推奨されて素直に喜べません!! だがしかし、チェリフ様にそう言う勇気はありません。

「今夜は旦那様も戻っていらして、明日が神殿でヒルダーヌの結婚式と二人のお披露目だ。そうそう。昨日は街の視察ができなかったそうだから行っておいで。本当は、ジュンヤ殿にはクードラやアジィトも見てほしいのだけど」

 その時のチェリフ様の声音は、さっきまでと違い強い感情を滲ませていた。

「チェリフ様……?」
「特にクードラでは悲惨な目にあったと聞いている。私もヒルダーヌも、騎士たちには見極めよと言っただけなのだが暴走してしまった。だが、今ではどちらも神子ジュンヤを崇めている。今回はお披露目だし、殿下もそこまで長くジュンヤから離れたくないだろうから諦めたが、いつか変わった彼らにも会ってほしいと願っているよ」

 チェリフ様の表情から貴族の仮面が剥がれ苦しげにほほ笑んだ。

(クードラは辛い思い出しかない。だけど、そうだな……いつか行こう。どんなふうに変わったのか、この目で見たい)

「母上。私もいずれ訪れたいと思っていました。ジュンヤが命をかけて救った地ですから」
「そうかい。二人で行っておやり。贖罪を望んでいたからね」
「チェリフ様、そんなものは必要ないと伝えてください」
「——ジュンヤ殿は、心が広いのか甘いのか……断罪するときはするべきだよ?」
「悪いうわさの方が広まりやすいものです。それに、俺を信じて、助けようとしてくれた人もいた。誤解が解けたのなら、それで良いんです」
「はぁ……皆が心配する訳だ。」

 チェリフ様は大きなため息をついて、今度は柔らかくほほ笑んだ。

「まぁ良いさ。ジュンヤ殿は思うがままに生きなさい。露払いはわれらの役目だ。そうだろう? ダリウス」
「はい。俺が常に守ります」
「——ありがとうございます。バルバロイ家にふさわしい生き方をします。ダリウスも、ありがとう」
「おう」
「さて、私の用件はこれだけだ。ここでいちゃつくのはやめておくれよ」

 用は済んだと笑いながら部屋から追い出された俺たちは、そのまま街へと向かった。
 

 二人並んで街を歩けば、市民が驚くほど気さくに声をかけてくれる。気さくにと言っても、きちんと礼儀を弁えた態度で、だ。
 
「なんだか……びっくりだ」
「前回はゆっくり交流する暇はなかったからな。だが、みんな感謝してるんだぜ? それに、地方から兄上の婚儀を見物に来る客も多いそうだ。婚儀は神殿でやるから民は見れないが、街は祭り状態になる。商人たちも大勢来てるだろう。——見たいか?」
「見たい! それに、パッカーリア商会にお世話になったから行きたいな。アナトリーも戻ってきてるから顔見せに行こうよ」

 道すがらあちこちを見物したが、人々の営みが活気にあふれていて、もう瘴気の影響は消え去ったんだと思った。そうして、久しぶりにパッカーリア商会を訪れることになった。ユマズさんとソーラズさん兄弟は相変わらず元気そうだった。

「ダリウス様! ジュンヤ様! ようこそ。お久しぶりでございますね」
「その節は、お二人にお世話になりました」
「とんでもない! こちらこそお世話になっておりますよ」

 ニコニコとソーラズさんが言うと、ユマズさんがきれいなガラス瓶を持ってきた。

「これは?」
「神子様の香りを模した香水でございますよ! それからお二人の姿絵と、それから……アユム様が普及していらっしゃる紙を使った本ですね」
「おっ、見たいです!!」

 見せてもらった本は、やはり元の世界のものよりは厚手だ。それでも最初の紙よりだいぶ薄くなっていて、職人の努力が見えた。

「これは絵本でして、アユム様の童話にして子供に文字を覚えさせる、と言う試みをお手伝いしています。ページも少なく、安価な材料にしてあるので、見るだけでも楽しいと子供に買う親が多いのです。天気の良い日は中央広場で神官が読み聞かせをしてくれたりしています。

「ヘェ~!! それは良いですね」
「アユム様は昨今、『芸術の申し子』と呼ばれておりますよ」

 そうユマズさんが言った。『芸術』にはウスイホンも含まれるけどね! でも、歩夢君の頑張りが現実になっているのを見られて嬉しい!

「ジュンヤ様は『情愛の神子』と呼ばれているんですよ」

 ソーラズさんがニコニコと香水瓶を握りしめている。

「えっ?」
「人への情け深い行いや、伴侶の皆様との深い愛情……!! 一般市民は非常~に燃えるお話なのです! それに、湖の変異はジュンヤ様のお力だとわかった途端、人気は急上昇です。まぁ、現金と言えばそうですが、多くのカップルが湖を訪れた後で子を宿したので、民にも愛を分け与えてくれたと、それはもう大騒ぎでした」

 ——なんだか、思ったより大騒ぎだったようだ。

「そうかそうか!! 俺のジュンヤはさすがだなぁ~!! どこに行っても人気者になっちまう。でもまぁ、俺の伴侶だから、他のやつには触らせないけどな、はっはっは!!」
「ダリウス様……浮名を流していた頃と別人ですね」
「その話はするなよ。反省してるんだよ」

 拗ねたダリウスが可愛い。この二人も子供の頃から知ってるから、古傷を平気で突いてくる。

「クックック……お二人とも、俺はダリウスの過去も全部受け入れてるんであまり苛めないでくださいね」
「暴れまくっていた子供の頃から知っていますから、恐れながら息子のように感じているのですよ」
「ふふっ! ダリウスは周囲の人たちに愛されるんですね」
「ですから、すべてが丸く収まって、本当に良かったと思っていますよ。おっと、ダリウス様、お渡しするものがございましたね。これをどうぞ」
「おっ! ありがとよ!」
「何? それ?」
「後でわかる」

 ニヤニヤしたその顔……俺にとって良くないものだな?!

「ジュンヤ、もう帰るぞ。夜は父上も屋敷に戻られるから晩餐会だ。メフリー殿もくるし、支度をしないとな」
 




 もう一度屋敷に帰り、俺たちは入念に支度をされて大広間にいた。今日は親族や貴族の招待客が大勢来ていた。
 ——そこには当然あの人の姿がある。その隣にはピンクブロンドのロングヘアをまとめた色白マッチョと、水色の短髪をツンツンに立てた褐色の肌のマッチョがいた。——もしや、あと二人いるという奥さまですかっ?!

「ジュンヤ!! 数日ぶりだが元気そうだな、うん。俺の妻の二人を紹介する。こっちはレイモンドだ。南側の土地の管理を担当している」
「お初にお目にかかります、神子ジュンヤ殿。いやはや、下半身にだらしない男を矯正してくれて助かった」
「ーーっ!! レイモンド殿っ!! 酷いです!!」
「私は真実を言ったんだ。チェリフ殿がどれほど心配してたのか知らないだろう? ヒルダーヌも一般的な婚期から大幅に遅れていたしな」
「ううう……」

(ダリウス、多分あんたは勝てない。だから大人しく謝っといたほうが良いぞ)

 そんな思いを込めて背中をさする。

「はじめまして、レイモンド様。不束者ですが、どうぞよろしくお願いします」
「ああ、よろしく。私はあちこち飛び回っているから会う機会が少ないだろうけどね。こちらはネイサンだ」
「よぉ、神子様。俺がネイサンだ。市民上がりだから礼儀がなってなくて悪いな。でも、ファルボド様が俺はこのままがいいって言うからさぁ~! なぁ? 旦那様?」
「ああ。おまえはそのままの方が愛らしいからな」
「——狡いです、ファルボド様……」
「ふっ……バカだな、レイモンド。俺はおまえの生真面目さが愛おしいんだぜ?」

 レイモンド様とネイサン様は頬を染めてファルボド様を見ている。ダリウスは、父親の醸し出す甘~い雰囲気に居心地が悪そうだ。——うん、気まずいです!

「あ~、父上。私は母上と兄上のところにいってきます」
「それなら俺も行く。レイモンド、ネイサンも一緒に来い」
「「はい」」

 あいさつをすると言って逃げようとしたが逃げられない俺たち……ダリウスと目を合わせて苦笑いだ。

「はぁ……今まで逃げていたツケが一気にきたな」
「慣れるしかなさそうだね。でもさ、仲が悪いよりずっと良いよ」
「まぁ、そうだな。——母上、兄上!!」

 ダリウスが声をかけた先には、ヒルダーヌ様とチェリフ様、さらにはザンド団長がいた。そこに合流するファルボド様やダリウス……

「ああ、二人とも。それに旦那様、おかえりをお待ちしておりましたよ」
「遅くなって悪かったな。少し用件ができて片付けていた——チェリフ、それ、気に入ったか?」
「これですか? ええ、まぁ、好みでの色ではありますね」

 ファルボド様が、チェリフ様の首筋に手を伸ばしスルリと撫でた。チェリフ様はくすぐったそうに邪険に払ったが、頬がほんのり赤く染まっている。

「旦那様、今日は客人もいるのですよ」
「だからなんだ? 妻を愛して何が悪い?」

 ファルボド様はチェリフ様にキスをしてにやりと笑う。

「っ?! もう、これだからあなたという方はっ!」
「チェリフ、俺はおまえに会いたかったぜ。おまえはどうだ?」
「そ、それは……もちろん、お会いしとうございました……」

 小さ~い声でボソボソ言うチェリフ様。なんか、めちゃくちゃ恥ずかしそうで可愛いんですけど! あのチェリフ様が別人みたいだ!! そうか……メロメロなんだっ?! すごいなファルボド様!

「それなら、おまえからキスしてくれるか?」
「……」

 チェリフ様は無言で手を伸ばし、フェルボド様はその手の中に吸い込まれるように屈んで唇が合わさった瞬間、チェリフ様をグッと抱きしめ、濃厚なディープキスでチェリフ様を腰砕けにしていた。

(クマ一族の遺伝子恐るべし……!)

「だん、な、さま……なんてことを……」
「抱いててやるから心配するな。客にとっても、いつもの風景さ」

(そうなのか?!)

 反応を見ようと周囲を見回したが、肉の壁が俺を囲む。隙間から見えた客たちはほほえましいと言った様子で眺めていて、見慣れた光景というのは本当らしい。だがしかし!! ちょっとだけあった隙間がザンド団長によって遮られた。

(視界が完全に遮られる!! 鉄壁の要塞のようだ……!)

「相変わらず仲がいいねぇ。おまえらも久しぶりだな。壮健そうでなによりだ」
「お久しぶりです、団長」
「相変わらずいい男っすねぇ」
「おいおい、旦那に怒られるぞ?」

 ワハハと笑う三人は、ザンド団長の元部下だ。バルバロイの嫁ってプレッシャー半端ないな……

「父上も母上も、毎回同じことをするのはやめてください」
「兄上、毎回こうなのですか?」
「そうだ。おまえは騎士棟に逃げていたから知らないだろうが、私は毎回親のこんな場面を見てきたのだぞ……」
「も、申し訳ありません……」
「これからはディーも私の苦労を思い知るがいい」
「っ?! 兄上、今、なんと?」
「なんだ?——これからは、またともに歩むのだから良いだろう? ディー」
「はい……はい……」

 『ディー』は愛称で、子供の頃はそう呼ばれていたと聞いた。ヒルダーヌ様にとって、二人の関係が修復した証が愛称で呼ぶことだったんだろう。

(よかったな、ダリウス)
 
「ジュンヤ殿のおかげで、私たちも婚儀を行えるようになった。そこで、一つ頼みがあるのだが……二人だけで話せるか?」
「二人だけで、ですか?」
「そうだ。ダリウス、少しだけ二人で話時間をくれ。すぐにおまえに返すから安心するが良い」
「——わかりました。いじめませんよね?」
「恩人にそんなことはしない」
 
 と、いうわけで、ヒルダーヌ様と二人でバルコニーに出た。

「実は頼みがあるのだ。どうか……聞いてほしい——」

 珍しく頬を染めたヒルダーヌ様が切り出した。

 まさかそんな事を言ってくるなんて……!!
 意外な一面を見た俺は、明日の婚儀が楽しみでならなかった。


ーーーー

終わらぬ!! 続きます!! 次回で最終話です! そうですよね? メイリル様……
嘘だったらごめんなさい。絶賛執筆中です。少しでも娯楽を提供しようと思い、完結していないまま更新しております。

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