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ハネムーン編
黒き翼の愛し子
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シン君にリクエストをいただいたので!
以前、シン君はモブだと言いました! しかし、こういう背景はしっかりあります。
続編を書くのは決めましたので(まだ一行も進んでませんが)シン君とシンパパに触れても良いかな?と思い書いてみました。続編ではモブではない、かも?
————
「かあ様……」
人の手の及ばぬ森の奥深く。はるか彼方を望むことができる大樹の天辺で、シンは人族の住む大地を見つめていた。
「ううん、あれはかあ様じゃない」
心の奥では理解している。だが、シン・チョウはあの心地良い力が恋しくて堪らなかった。母と似ているが、少しだけ違う魔力の流れ、そして香り。
人族の住む地へ抜け出していることは、おそらく父には知られている。それでも見逃してくれていたのは、母を思う子を哀れに思ってだろう、とシン・チョウは思っていた。体こそ小さく幼く見えるが、齢二百年を超えている彼は精神的には大人だった。
彼は成長できない。その理由は母である真澄が人間だったからだ。魔族として成長するには、人間である真澄はともに生きる時間が足りなかった。
物思いにふけるシン・チョウの頬を風が撫で、バサバサと羽音が空気をたたいた。
「またここにいたのか」
「とう様」
父親であるロファ・ザーンは、白い翼を畳み木の枝に降り立った。魔族と呼ばれているが、輝く白い翼と金髪にピンク色の瞳で神秘的だ。潤也の世界では天使と呼ばれたかもしれない。ピンクの虹彩と猫目が親子の証だ。
「……人間のところに行くのはもうやめなさい。母はいないのだぞ」
「でも——」
「何日も戻らず探し回ったのだぞ? それに、父にはそなたしか子がおらぬのだ。むちゃはやめなさい」
「とう様。僕、母様と同じ力を持つ人に会ったよ」
「うわさには聞いている。神子だろう? 会ったのか?」
「うん。黙っててごめんなさい。あのね、瘴気っていうのが、かあ様のチョスーチを穢していたの。僕、それが嫌で時々見に行ってたんだけど、動けなくなっちゃって……」
森を抜け出した挙げ句、そんな危険な目に遭っていたと知ったロファ・ザーンは驚きと怒りで目が三角になったが、無事だった喜びも大きかった。それに、神子の存在も気にはかかっていた。
「——神子は、どんな男だった?」
「僕を助けてくれたの。僕を怖がらなくて、浄化をしてくれたよ?」
「そうか……」
ロファ・ザーンは腕を組み考え込んだ。
(人間の世界の瘴気の話は知っている。シンもマスミからわずかにその力を受け継いでいるが、神子ほどではない……今代の神子、か。どんな男だろう?)
「とう様?」
「いや、なんでもない。さぁ、もう帰るぞ」
「はい」
二人は翼をはためかせ、住まいのある街へと飛び立った。
◇
ロファ・ザーンは家に入る前にその翼を小さく収納した。シンも最近ようやくその方法を覚え、背中に小さくコブ状になる程度まで収縮できるまでに上達した。
本来ならば、もっと早く習得できる。だが、母であるマスミの生涯をかけてもシンが成人するまでの魔力は得られなかった。人間と魔族……その寿命の差はあまりにも大きく、いまだに話し方も舌足らずで拙い。それが父の悩みの種だ。
(神子に助けを乞えば、この子も成長するだろうか……いや、危険な考えだ。人間が我々を利用しようとするかもしれん)
ロファ・ザーンは頭を振り、今日の夕食の支度を始めた。
「とう様、僕もお手伝い頑張るね」
「ああ、頼むよ。さて、ンッバの実をおくれ」
「はい!」
魔族とはいえ、普通の親子だ。ただ、人間の魔力を遥かに上回るために脅威として見られたり、時に利用したい悪人はどこにでもいるのだ。
「ねぇ、どうして怒らないの?」
「何がだ?」
「抜け出してたの、怒ると思ってたの」
「——確かに怒りはしたが、それはお前を心配だからだ。人間は優しい者もいるが、そうではない者も大勢いるのだ。我らがどれほど魔力を持とうとも、恐怖を感じるような男もいる」
そう、あの男のように。
「それ、だぁれ?」
ぐうっ~~!! キュルルル~~!
「あっ!?」
無邪気に問いかけたシンの腹の虫がなって、ロファ・ザーンは大笑いをした。
「食事の後で話してやろう。今は腹の虫を黙らせなくてはな!」
「はぁい!! 」
二人並んで支度をする。移動にせよ作業にせよ、魔法でこなせることがほとんどの魔族にとって、こうした時間は彼らにとって娯楽だ。億劫な時は魔法ですませば良いのだから。
(マスミが恋しいのは、お前だけではないのだよ……)
笑顔で料理を進めながら、ロファ・ザーンの心は愛しい人の面影のある息子に微笑みかけて、二人の時間は過ぎていった。
「とう様、ベッドでお話ししてくれる?」
「もちろんだ」
シンの隣に横たわり頭を撫でる。
「あのね、かあ様のこと、聞いても良い?」
「……もちろん良いが、その話で良いのか? いや——父さんも聞いて良いか? 神子はどんな男だった?」
「あのね、僕の髪と翼と同じ黒い髪と、黒い瞳だったよ。かあ様も良い匂いがしてたけど、神子もとっても良い匂いだった。僕が瘴気につかまって動けなくなったのを、浄化してくれたんだ。」
シンは潤也の温かい力が流れ込んだ瞬間を思い出し、目を閉じた。
「かあ様がくれた力に似ていたよ。あったかくて、優しくて、体の中がぽわっとしたよ」
「——ぽわっと、か……」
神子の浄化の力には、別の意味合いもあるとロファ・ザーンは思った。魔族が成長するには両親の魔力を取り込む必要がある。真澄と同じ浄化の力によって、シンが成長出来るかもしれない。肉親ではないが、メイリル神が与えた唯一無二の力……
(シンが今代の神子の浄化を取り込めば——成体になれるのか?)
「お前は、その人をどう思う?」
「仲良くなりたいな。他の人は僕を怖がってたけど、神子は普通にしてくれたの」
「そうか」
(マスミ……そなたが授けてくれた子の成長を見せてやれないのが悲しい。そして、これ以上の成長が難しいことも……神子の降臨は、シンも救ってくれるのだろうか?)
「かあ様は、僕が生まれて喜んでたって言ってくれたけど……本当? 僕に魔力を分けてくれた後、かあ様はいっつも疲れてた……僕のせいだよね? 他のとう様達も、本当は僕が悪い子って思ってたんじゃないかな?」
シンは上掛けを被り、目だけを出してモジモジとしながらチラリとロファ・ザーンを見た。
「そんなふうに思っていたのか? そんなことはない。なぜ急にそんな話をするんだ?」
シンがもっと幼い頃は膨大な魔力を必要としていて、毎日ロファ・ザーンの魔力と真澄の浄化をシンが大量に取り込んでいた。そのせいで日々とても疲れていたのは事実だ。
だが、シャイな真澄にとってシンへの魔力の移譲は、夜に補充をする言い訳として使われていて、夫達はシンに感謝しとても可愛がっていたのだ。
「皆、お前を可愛がっていたし、何より母はお前を心から愛していたよ」
「本当?」
「本当だとも」
「そっか……良かった」
シンはようやく微笑んだ。
(——今代の神子は初代の様に荒くれ者ではないらしい。ならば、ほんの少し浄化を分けてもらえるか?いや、夫達が許さないだろう。人間と接触して揉める気はないし……さて、どうしたものか)
ロファ・ザーンは、ナオマサと接触をしたことはないが遠目で見たことはあった。その前から魔族は人間と距離をとり、争いを避けてきた。
(我らの力は人間には脅威。決して利用されてはならぬし、過去には恐れるあまりに害そうとしてきた。だが、この子を成長させてやりたい)
成人した姿に成長できなければ、伴侶にも恵まれないだろう。
「父さんも、母さんもお前を愛しているのだよ。それを忘れてはいけない」
「うん」
「さぁ、もう寝なさい」
「かあ様が歌ってくれた歌が聞きたいな」
「いいとも」
ロファ・ザーンは、出産前から真澄に散々教えられた子守唄を歌う。その歌は、今では魔族の間でも歌われている。
短い歌のため、何度も繰り返し歌うと、シンの体からゆっくりと力が抜けていき、うっすらと微笑みながら夢の世界に旅立った。
「かあ様……」
(私もマスミに会いたいよ、シン)
水の穢れの調査中、獣の不意打ちを受けて動けなかったロファ・ザーンに剣を向けた騎士を制し、治療をして真摯に話を聞くと耳を傾けてくれた真澄。目的のためにはどんな苦労も厭わない努力家で、清純で凛々しかった愛しい人。人間の住む大地に大いなる恵みをもたらした神子。
魔族との時間の流れの違いを知りながら、愛し合った事に後悔はない。
(シンに与えてくれた黒が、マスミとの愛の証)
愛する人と同じ艶やかな髪に口付けて、今夜はシンを抱きしめて眠ると決めたロファ・ザーンだった。
以前、シン君はモブだと言いました! しかし、こういう背景はしっかりあります。
続編を書くのは決めましたので(まだ一行も進んでませんが)シン君とシンパパに触れても良いかな?と思い書いてみました。続編ではモブではない、かも?
————
「かあ様……」
人の手の及ばぬ森の奥深く。はるか彼方を望むことができる大樹の天辺で、シンは人族の住む大地を見つめていた。
「ううん、あれはかあ様じゃない」
心の奥では理解している。だが、シン・チョウはあの心地良い力が恋しくて堪らなかった。母と似ているが、少しだけ違う魔力の流れ、そして香り。
人族の住む地へ抜け出していることは、おそらく父には知られている。それでも見逃してくれていたのは、母を思う子を哀れに思ってだろう、とシン・チョウは思っていた。体こそ小さく幼く見えるが、齢二百年を超えている彼は精神的には大人だった。
彼は成長できない。その理由は母である真澄が人間だったからだ。魔族として成長するには、人間である真澄はともに生きる時間が足りなかった。
物思いにふけるシン・チョウの頬を風が撫で、バサバサと羽音が空気をたたいた。
「またここにいたのか」
「とう様」
父親であるロファ・ザーンは、白い翼を畳み木の枝に降り立った。魔族と呼ばれているが、輝く白い翼と金髪にピンク色の瞳で神秘的だ。潤也の世界では天使と呼ばれたかもしれない。ピンクの虹彩と猫目が親子の証だ。
「……人間のところに行くのはもうやめなさい。母はいないのだぞ」
「でも——」
「何日も戻らず探し回ったのだぞ? それに、父にはそなたしか子がおらぬのだ。むちゃはやめなさい」
「とう様。僕、母様と同じ力を持つ人に会ったよ」
「うわさには聞いている。神子だろう? 会ったのか?」
「うん。黙っててごめんなさい。あのね、瘴気っていうのが、かあ様のチョスーチを穢していたの。僕、それが嫌で時々見に行ってたんだけど、動けなくなっちゃって……」
森を抜け出した挙げ句、そんな危険な目に遭っていたと知ったロファ・ザーンは驚きと怒りで目が三角になったが、無事だった喜びも大きかった。それに、神子の存在も気にはかかっていた。
「——神子は、どんな男だった?」
「僕を助けてくれたの。僕を怖がらなくて、浄化をしてくれたよ?」
「そうか……」
ロファ・ザーンは腕を組み考え込んだ。
(人間の世界の瘴気の話は知っている。シンもマスミからわずかにその力を受け継いでいるが、神子ほどではない……今代の神子、か。どんな男だろう?)
「とう様?」
「いや、なんでもない。さぁ、もう帰るぞ」
「はい」
二人は翼をはためかせ、住まいのある街へと飛び立った。
◇
ロファ・ザーンは家に入る前にその翼を小さく収納した。シンも最近ようやくその方法を覚え、背中に小さくコブ状になる程度まで収縮できるまでに上達した。
本来ならば、もっと早く習得できる。だが、母であるマスミの生涯をかけてもシンが成人するまでの魔力は得られなかった。人間と魔族……その寿命の差はあまりにも大きく、いまだに話し方も舌足らずで拙い。それが父の悩みの種だ。
(神子に助けを乞えば、この子も成長するだろうか……いや、危険な考えだ。人間が我々を利用しようとするかもしれん)
ロファ・ザーンは頭を振り、今日の夕食の支度を始めた。
「とう様、僕もお手伝い頑張るね」
「ああ、頼むよ。さて、ンッバの実をおくれ」
「はい!」
魔族とはいえ、普通の親子だ。ただ、人間の魔力を遥かに上回るために脅威として見られたり、時に利用したい悪人はどこにでもいるのだ。
「ねぇ、どうして怒らないの?」
「何がだ?」
「抜け出してたの、怒ると思ってたの」
「——確かに怒りはしたが、それはお前を心配だからだ。人間は優しい者もいるが、そうではない者も大勢いるのだ。我らがどれほど魔力を持とうとも、恐怖を感じるような男もいる」
そう、あの男のように。
「それ、だぁれ?」
ぐうっ~~!! キュルルル~~!
「あっ!?」
無邪気に問いかけたシンの腹の虫がなって、ロファ・ザーンは大笑いをした。
「食事の後で話してやろう。今は腹の虫を黙らせなくてはな!」
「はぁい!! 」
二人並んで支度をする。移動にせよ作業にせよ、魔法でこなせることがほとんどの魔族にとって、こうした時間は彼らにとって娯楽だ。億劫な時は魔法ですませば良いのだから。
(マスミが恋しいのは、お前だけではないのだよ……)
笑顔で料理を進めながら、ロファ・ザーンの心は愛しい人の面影のある息子に微笑みかけて、二人の時間は過ぎていった。
「とう様、ベッドでお話ししてくれる?」
「もちろんだ」
シンの隣に横たわり頭を撫でる。
「あのね、かあ様のこと、聞いても良い?」
「……もちろん良いが、その話で良いのか? いや——父さんも聞いて良いか? 神子はどんな男だった?」
「あのね、僕の髪と翼と同じ黒い髪と、黒い瞳だったよ。かあ様も良い匂いがしてたけど、神子もとっても良い匂いだった。僕が瘴気につかまって動けなくなったのを、浄化してくれたんだ。」
シンは潤也の温かい力が流れ込んだ瞬間を思い出し、目を閉じた。
「かあ様がくれた力に似ていたよ。あったかくて、優しくて、体の中がぽわっとしたよ」
「——ぽわっと、か……」
神子の浄化の力には、別の意味合いもあるとロファ・ザーンは思った。魔族が成長するには両親の魔力を取り込む必要がある。真澄と同じ浄化の力によって、シンが成長出来るかもしれない。肉親ではないが、メイリル神が与えた唯一無二の力……
(シンが今代の神子の浄化を取り込めば——成体になれるのか?)
「お前は、その人をどう思う?」
「仲良くなりたいな。他の人は僕を怖がってたけど、神子は普通にしてくれたの」
「そうか」
(マスミ……そなたが授けてくれた子の成長を見せてやれないのが悲しい。そして、これ以上の成長が難しいことも……神子の降臨は、シンも救ってくれるのだろうか?)
「かあ様は、僕が生まれて喜んでたって言ってくれたけど……本当? 僕に魔力を分けてくれた後、かあ様はいっつも疲れてた……僕のせいだよね? 他のとう様達も、本当は僕が悪い子って思ってたんじゃないかな?」
シンは上掛けを被り、目だけを出してモジモジとしながらチラリとロファ・ザーンを見た。
「そんなふうに思っていたのか? そんなことはない。なぜ急にそんな話をするんだ?」
シンがもっと幼い頃は膨大な魔力を必要としていて、毎日ロファ・ザーンの魔力と真澄の浄化をシンが大量に取り込んでいた。そのせいで日々とても疲れていたのは事実だ。
だが、シャイな真澄にとってシンへの魔力の移譲は、夜に補充をする言い訳として使われていて、夫達はシンに感謝しとても可愛がっていたのだ。
「皆、お前を可愛がっていたし、何より母はお前を心から愛していたよ」
「本当?」
「本当だとも」
「そっか……良かった」
シンはようやく微笑んだ。
(——今代の神子は初代の様に荒くれ者ではないらしい。ならば、ほんの少し浄化を分けてもらえるか?いや、夫達が許さないだろう。人間と接触して揉める気はないし……さて、どうしたものか)
ロファ・ザーンは、ナオマサと接触をしたことはないが遠目で見たことはあった。その前から魔族は人間と距離をとり、争いを避けてきた。
(我らの力は人間には脅威。決して利用されてはならぬし、過去には恐れるあまりに害そうとしてきた。だが、この子を成長させてやりたい)
成人した姿に成長できなければ、伴侶にも恵まれないだろう。
「父さんも、母さんもお前を愛しているのだよ。それを忘れてはいけない」
「うん」
「さぁ、もう寝なさい」
「かあ様が歌ってくれた歌が聞きたいな」
「いいとも」
ロファ・ザーンは、出産前から真澄に散々教えられた子守唄を歌う。その歌は、今では魔族の間でも歌われている。
短い歌のため、何度も繰り返し歌うと、シンの体からゆっくりと力が抜けていき、うっすらと微笑みながら夢の世界に旅立った。
「かあ様……」
(私もマスミに会いたいよ、シン)
水の穢れの調査中、獣の不意打ちを受けて動けなかったロファ・ザーンに剣を向けた騎士を制し、治療をして真摯に話を聞くと耳を傾けてくれた真澄。目的のためにはどんな苦労も厭わない努力家で、清純で凛々しかった愛しい人。人間の住む大地に大いなる恵みをもたらした神子。
魔族との時間の流れの違いを知りながら、愛し合った事に後悔はない。
(シンに与えてくれた黒が、マスミとの愛の証)
愛する人と同じ艶やかな髪に口付けて、今夜はシンを抱きしめて眠ると決めたロファ・ザーンだった。
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