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4章
破綻と再生
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街の浄化はまだ一部だけだが、ナトルに会う前に神殿に立ち寄っていた。未だに眠り続けるレ二ドールに会いに行き、呼吸等が安定しているのを自分で確認して、やっと安心することが出来た。
「よし。ここはマナとソレスに任せる。レニドールに変化があった時は、迷わずこれを使ってくれ。」
俺は最大級の魔石を二人に託した。ヒビが入っているが、どうにか持ち堪えてくれると信じて……。
「は、はい。何か起きるとお思いですか?」
ソレスが緊張した面持ちで俺を見つめる。
「分からない。でも、ナトルを完全に浄化したら、必ずラジート様に変化が起こる。それがレニドールの目覚めになるのかは分からない。終わったらすぐに戻るから、彼が消えないように頑張ってくれ」
「「はい」」
「マテリオ、ダリウス、エルビス。さぁ、終わらせに行こう。トマスさん、リューンさん。あなた達も来て欲しい。仲間を亡くした原因の浄化を見届けて下さい」
「「はいっ!!」
「俺も行くぞ」
「ファルボド様……はい、見届けてください」
首謀者を浄化する見届け人はバルバロイ卿か。なるほど、誰もが納得するだろう。
◇
二人にレニドールを託し王宮へ戻ると、ナトルは未だ玉座の間に監禁されていた。スペースだけは広いが、実際は倒れていた場所に土魔法の騎士が交代で檻を構築している。浄化の魔石の力を利用し、ナトルの瘴気は完全に封じ込められて、彼らは安全に警備をしているという。
広い広い玉座の間に、ポツンと土と蔦で出来た檻があり、そこに一人ナトルが入っているというシュールな光景だった。
「ジュンヤ、来たか」
「ティア、待たせてごめん」
「良いや。民の平穏が第一だ。さて、またあの男に会う羽目になってしまったな」
「俺なら大丈夫。今日で全て終わらせよう」
俺が檻に近づくと、ナトルは既に俺に気がついて格子に張り付いていた。あの時若返っていたナトルは、またヨボヨボの年寄りに戻っていた。いや、以前よりシワも増えて骨張って、更に数年は歳を重ねた様に見えた。
自分の能力を超えた力を使った代償、かもな。
「神子様……引導を渡しに参られたのですか……?」
さすがのナトルも諦めたのか大人しい。だが、こいつは信用出来ない。隙は見せない様にしないと。
「もう終わりだ。あんたが奪ったラジート神の力は、ほとんど残っていない筈だ」
「ーー確かに、騎士の魔力に抗う術もございません。ですが、覚えていて下さい。私は虐げられたあなたのために、ただ神子様の名声と栄華のために行ったのです!」
「大きなお世話だ。そもそも、あんたのした事は俺が来る前からの悪事だ。それを俺のためになんて言い訳に使われたら迷惑だね」
俺の事は後付けの癖に、責任転嫁しないで欲しい。
あんたのせいで苦しんだ人達……今日で、本当にあんたは終わりだ。
「ナトル。手を出せ」
「ジュンヤ!? 待て! 他の方法はないのか? 魔石で浄化するとかよ」
ダリウスがぶっ飛んで来て腕を掴まれた。
「ジュンヤ様っ! 近づいてはいけませんっ!!」
ティアもエルビスも止めに入る。だけど、決めたんだ。
「みんな、俺を信じてくれ。これで終わりにするんだ」
「ーーそうか。決意は硬いのだな? ダリウス、もしナトルが妙な真似をしたら、そなたが対処せよ。裁判の前になるが、かまわぬ」
「はっ」
「ティア、ありがとう。ダリウス、マテリオ……エルビス、大丈夫。そんな顔しないでくれよ。ナトルを完全に浄化すれば、少なくとも瘴気はもう発生しない。だからいつかはやらなきゃいけない。そうだろう?」
「ううっ……ジュンヤ様……お隣にいても良いですか?」
「うん、良いよ」
俺の右側にエルビスが、左にダリウスが抜刀して剣先を突きつけながら、ナトルの目の前に立つ。
「神子様……」
「ナトル。俺の慈悲をやろう。手を出すんだ」
強い意志を込めて告げると、ナトルは目に涙を浮かべて檻の隙間から手を伸ばして来た。
「ああ、やっと、神子のお慈悲を賜われるのですね……」
シワクチャの手を握り、手加減なしに浄化を流す。瘴気が強い時はゆっくりしないと体に負担が大きいと分かっていて、敢えて加減をしなかった。
俺の怒り、悲しみ、苦しみ。
民の怒り、悲しみ、苦しみと……数えきれない人々の、死。
「あ゛あ゛あ゛あ゛~~~!!」
ナトルはビクビクと痙攣しながら、体から光を放っている。苦しいのか恍惚としているのかも分からない表情を目にして、俺は悲しみで一杯だった。
「あ゛あ゛ぁぁ……みご、ざ、まぁ……」
「たくさん死んだんだ、ナトル。あんたは裁判まで生きて、彼らの裁きを受けろ」
「ぐぅぅ……!」
ナトルの手から力が抜けて、ガックリとくずおれて気を失った。完全に光が消えるまで浄化をして、もう瘴気が消え去った、と確信した。
「ダリウス、右胸の紋様が消えたか確認したいんだ。檻を消して欲しい」
「分かった」
念のため厳重に周囲を取り囲んでから、檻が崩れて消えて行く。
「団長、確認は私がしますから離れていてください」
「良いだろう、任せる」
ルファが用心しながら進み出て、ダリウスは俺を背後に隠した。それからナトルの右胸をはだけて確認すると、俺達が目にした蛇の紋様は消えていた。
ナトルは衝撃で意識を失ったものの、浄化と治癒は一体のため、顔色は悪くない。成敗したつもりだけど顔色が良いとか。どうもスカッとしないなぁ……
「終わったんだよな……」
「ああ。大丈夫か?」
マテリオが気遣って肩を抱いてくれた。
「大丈夫。でも、不思議だな。やっつけてスッキリするかと思ったけど、なんて言うか、虚しい方が先に立つんだ。こいつのせいで亡くなった人は戻らないし」
「だが、もう瘴気による犠牲者は出ない。ジュンヤのお陰でこの国の未来は守られた」
「そうかなぁ」
早く浄化を始めていたら。もっと言えば、この世界に早く来ていたら被害は小さかったのかも。
「ジュンヤ」
「ティア……」
ティアはそっと俺の右手を取り、両手で包み込んだ。
「ジュンヤは良くやってくれた。胸を張って誇って良い」
「良いのかな。もっとたくさんの人を助けられたかもしれないよ?」
「それは誰にも分からない。だが、はっきりしているのは、もう呪は消え去ったという事実だ。そうだろう?」
「うん……そうだね。あ、呪と言えば! ラジート様とレ二ドールの様子を見に行かなきゃ!」
「ああ。私も行こう」
そう、過去には戻れない。今やれる事だけを見つめて進むんだ。ファルボド様は報告の為に王妃様の元に戻り、俺はティアとしっかり手を繋いで神殿にトンボ帰りするのだった。
◇
「マナ! ソレス! 二人はどうだ!?」
「あっ! ジュンヤ様、朗報ですよ! 目が覚めました! 魔石は必要ありませんでしたっ!!」
「本当かっ?! 良かった!!」
朗報に思わずマナに抱きついてしまう。
「はわわわっ~! ジュ、ジュンヤ様っ~?!」
「へへへ、ありがとうな」
「ぼ、僕はただ見守っていただけですよ?」
「ううん。ソレスもだけど、二人がいるからここを離れる事が出来たんだ。ソレスもありがとうなっ!」
マナから離れてソレスの手を握る。
「ジュンヤ様、恐れ多いお言葉です。でも、信頼してくださりありがとうございます」
うんうん。まるで太陽と月の様な双子の神官がいてくれなければ、俺は安心してナトルのところに行けなかった。本当に、俺が出会った仲間はみんなが素晴らしい人材だ。
「じゃあ、案内して」
「はい、こちらです」
神殿の宿舎の奥の部屋にラジートはいた。そして、ジェイコブ大司教もだ。
「ジェイコブ大司教? なぜこちらに?」
「私の管轄下にいた司教の過ちで、この青年が傷ついたのです。私に出来るだけの事をしなければと思いまして。ジュンヤ様の様に、ね」
「そうですか。ありがとうございます。レニドールは?」
「……今は、眠っておる」
「もしかして、ラジート様?」
尊大な口調ではあるが弱々しい。それでも、また言葉を交わす事が出来るなんて。ベッドサイドに近づき顔を見れば、しっかりと目を開けて俺を見ていた。
「人では耐えられぬ衝撃だった故、レニドールは眠らせている。だが、もう大丈夫だ」
「ラジート様。二人共、無事で良かった」
「神子よ。ーーーーあの子も救ってくれた事、感謝する」
「ラジート様……」
「アレとの繋がりは消えた。はっきりと分かる」
「そうですか。本当に良かったです」
心臓を貫かれた筈だが、ラジート様の恩寵でレニドールも救われた。本当に、本当に良かった!!
「神子よ……そなたには礼をせねばならぬな」
「俺がしたいからやっただけです」
「ふっ……そこがそなたの良い所だな」
「まずは元気になって下さい。そしてレニドール会わせて下さいね」
「ああ。その時はそなたとの別れだな」
「ですが、あなたにはメイリル様との再会の時でもありますよね? お祝いして送り出しますよ」
「全く、そなたは口が立つ」
少しの間笑い合って部屋を後にした。ジェイコブ司教も一緒に出て来て、話があると言う。
「ジュンヤ様。浄化の神子。王都を、国もお護りくださり誠にありがとうございます」
「いいえ。ラジート様に言った様に、やりたいからしたんです」
「私どもが見誤ったせいで、ジュンヤ様にはご苦労をお掛けしました。全てが済んだら、私は大司教の座を辞するつもりです」
「それは待って下さい」
確かにあの時は総入れ替えをするべきだと思っていた。だが、今は違う。
「最初は俺も腹が立っていて、絶対に辞めさせると思っていました。しかし、あなたは陛下達と一緒に逃げる事も出来たのに、民のために残って下さった。ですから、もう少し待とうと思います。辞めさせるのは簡単ですからね」
「ジュンヤ様……神殿は今後も民に尽くし、信頼回復に全力を尽くします」
絶対に許せないと思ってた。今でも思い出せば腹が立つ。だが、過ちを認めやり直せるのが人間だと思う。今この国に必要なのは希望だ。あの瘴気を経験した神殿関係者ならば、これから先も懸命に働くだろう。
俺は、全てを許せるほど寛大じゃない。
それでも。あの日逃げ出さなかったこの人を信じてみたい。そう思いながら、跪くジェイコブ大司教を見つめていた。
「よし。ここはマナとソレスに任せる。レニドールに変化があった時は、迷わずこれを使ってくれ。」
俺は最大級の魔石を二人に託した。ヒビが入っているが、どうにか持ち堪えてくれると信じて……。
「は、はい。何か起きるとお思いですか?」
ソレスが緊張した面持ちで俺を見つめる。
「分からない。でも、ナトルを完全に浄化したら、必ずラジート様に変化が起こる。それがレニドールの目覚めになるのかは分からない。終わったらすぐに戻るから、彼が消えないように頑張ってくれ」
「「はい」」
「マテリオ、ダリウス、エルビス。さぁ、終わらせに行こう。トマスさん、リューンさん。あなた達も来て欲しい。仲間を亡くした原因の浄化を見届けて下さい」
「「はいっ!!」
「俺も行くぞ」
「ファルボド様……はい、見届けてください」
首謀者を浄化する見届け人はバルバロイ卿か。なるほど、誰もが納得するだろう。
◇
二人にレニドールを託し王宮へ戻ると、ナトルは未だ玉座の間に監禁されていた。スペースだけは広いが、実際は倒れていた場所に土魔法の騎士が交代で檻を構築している。浄化の魔石の力を利用し、ナトルの瘴気は完全に封じ込められて、彼らは安全に警備をしているという。
広い広い玉座の間に、ポツンと土と蔦で出来た檻があり、そこに一人ナトルが入っているというシュールな光景だった。
「ジュンヤ、来たか」
「ティア、待たせてごめん」
「良いや。民の平穏が第一だ。さて、またあの男に会う羽目になってしまったな」
「俺なら大丈夫。今日で全て終わらせよう」
俺が檻に近づくと、ナトルは既に俺に気がついて格子に張り付いていた。あの時若返っていたナトルは、またヨボヨボの年寄りに戻っていた。いや、以前よりシワも増えて骨張って、更に数年は歳を重ねた様に見えた。
自分の能力を超えた力を使った代償、かもな。
「神子様……引導を渡しに参られたのですか……?」
さすがのナトルも諦めたのか大人しい。だが、こいつは信用出来ない。隙は見せない様にしないと。
「もう終わりだ。あんたが奪ったラジート神の力は、ほとんど残っていない筈だ」
「ーー確かに、騎士の魔力に抗う術もございません。ですが、覚えていて下さい。私は虐げられたあなたのために、ただ神子様の名声と栄華のために行ったのです!」
「大きなお世話だ。そもそも、あんたのした事は俺が来る前からの悪事だ。それを俺のためになんて言い訳に使われたら迷惑だね」
俺の事は後付けの癖に、責任転嫁しないで欲しい。
あんたのせいで苦しんだ人達……今日で、本当にあんたは終わりだ。
「ナトル。手を出せ」
「ジュンヤ!? 待て! 他の方法はないのか? 魔石で浄化するとかよ」
ダリウスがぶっ飛んで来て腕を掴まれた。
「ジュンヤ様っ! 近づいてはいけませんっ!!」
ティアもエルビスも止めに入る。だけど、決めたんだ。
「みんな、俺を信じてくれ。これで終わりにするんだ」
「ーーそうか。決意は硬いのだな? ダリウス、もしナトルが妙な真似をしたら、そなたが対処せよ。裁判の前になるが、かまわぬ」
「はっ」
「ティア、ありがとう。ダリウス、マテリオ……エルビス、大丈夫。そんな顔しないでくれよ。ナトルを完全に浄化すれば、少なくとも瘴気はもう発生しない。だからいつかはやらなきゃいけない。そうだろう?」
「ううっ……ジュンヤ様……お隣にいても良いですか?」
「うん、良いよ」
俺の右側にエルビスが、左にダリウスが抜刀して剣先を突きつけながら、ナトルの目の前に立つ。
「神子様……」
「ナトル。俺の慈悲をやろう。手を出すんだ」
強い意志を込めて告げると、ナトルは目に涙を浮かべて檻の隙間から手を伸ばして来た。
「ああ、やっと、神子のお慈悲を賜われるのですね……」
シワクチャの手を握り、手加減なしに浄化を流す。瘴気が強い時はゆっくりしないと体に負担が大きいと分かっていて、敢えて加減をしなかった。
俺の怒り、悲しみ、苦しみ。
民の怒り、悲しみ、苦しみと……数えきれない人々の、死。
「あ゛あ゛あ゛あ゛~~~!!」
ナトルはビクビクと痙攣しながら、体から光を放っている。苦しいのか恍惚としているのかも分からない表情を目にして、俺は悲しみで一杯だった。
「あ゛あ゛ぁぁ……みご、ざ、まぁ……」
「たくさん死んだんだ、ナトル。あんたは裁判まで生きて、彼らの裁きを受けろ」
「ぐぅぅ……!」
ナトルの手から力が抜けて、ガックリとくずおれて気を失った。完全に光が消えるまで浄化をして、もう瘴気が消え去った、と確信した。
「ダリウス、右胸の紋様が消えたか確認したいんだ。檻を消して欲しい」
「分かった」
念のため厳重に周囲を取り囲んでから、檻が崩れて消えて行く。
「団長、確認は私がしますから離れていてください」
「良いだろう、任せる」
ルファが用心しながら進み出て、ダリウスは俺を背後に隠した。それからナトルの右胸をはだけて確認すると、俺達が目にした蛇の紋様は消えていた。
ナトルは衝撃で意識を失ったものの、浄化と治癒は一体のため、顔色は悪くない。成敗したつもりだけど顔色が良いとか。どうもスカッとしないなぁ……
「終わったんだよな……」
「ああ。大丈夫か?」
マテリオが気遣って肩を抱いてくれた。
「大丈夫。でも、不思議だな。やっつけてスッキリするかと思ったけど、なんて言うか、虚しい方が先に立つんだ。こいつのせいで亡くなった人は戻らないし」
「だが、もう瘴気による犠牲者は出ない。ジュンヤのお陰でこの国の未来は守られた」
「そうかなぁ」
早く浄化を始めていたら。もっと言えば、この世界に早く来ていたら被害は小さかったのかも。
「ジュンヤ」
「ティア……」
ティアはそっと俺の右手を取り、両手で包み込んだ。
「ジュンヤは良くやってくれた。胸を張って誇って良い」
「良いのかな。もっとたくさんの人を助けられたかもしれないよ?」
「それは誰にも分からない。だが、はっきりしているのは、もう呪は消え去ったという事実だ。そうだろう?」
「うん……そうだね。あ、呪と言えば! ラジート様とレ二ドールの様子を見に行かなきゃ!」
「ああ。私も行こう」
そう、過去には戻れない。今やれる事だけを見つめて進むんだ。ファルボド様は報告の為に王妃様の元に戻り、俺はティアとしっかり手を繋いで神殿にトンボ帰りするのだった。
◇
「マナ! ソレス! 二人はどうだ!?」
「あっ! ジュンヤ様、朗報ですよ! 目が覚めました! 魔石は必要ありませんでしたっ!!」
「本当かっ?! 良かった!!」
朗報に思わずマナに抱きついてしまう。
「はわわわっ~! ジュ、ジュンヤ様っ~?!」
「へへへ、ありがとうな」
「ぼ、僕はただ見守っていただけですよ?」
「ううん。ソレスもだけど、二人がいるからここを離れる事が出来たんだ。ソレスもありがとうなっ!」
マナから離れてソレスの手を握る。
「ジュンヤ様、恐れ多いお言葉です。でも、信頼してくださりありがとうございます」
うんうん。まるで太陽と月の様な双子の神官がいてくれなければ、俺は安心してナトルのところに行けなかった。本当に、俺が出会った仲間はみんなが素晴らしい人材だ。
「じゃあ、案内して」
「はい、こちらです」
神殿の宿舎の奥の部屋にラジートはいた。そして、ジェイコブ大司教もだ。
「ジェイコブ大司教? なぜこちらに?」
「私の管轄下にいた司教の過ちで、この青年が傷ついたのです。私に出来るだけの事をしなければと思いまして。ジュンヤ様の様に、ね」
「そうですか。ありがとうございます。レニドールは?」
「……今は、眠っておる」
「もしかして、ラジート様?」
尊大な口調ではあるが弱々しい。それでも、また言葉を交わす事が出来るなんて。ベッドサイドに近づき顔を見れば、しっかりと目を開けて俺を見ていた。
「人では耐えられぬ衝撃だった故、レニドールは眠らせている。だが、もう大丈夫だ」
「ラジート様。二人共、無事で良かった」
「神子よ。ーーーーあの子も救ってくれた事、感謝する」
「ラジート様……」
「アレとの繋がりは消えた。はっきりと分かる」
「そうですか。本当に良かったです」
心臓を貫かれた筈だが、ラジート様の恩寵でレニドールも救われた。本当に、本当に良かった!!
「神子よ……そなたには礼をせねばならぬな」
「俺がしたいからやっただけです」
「ふっ……そこがそなたの良い所だな」
「まずは元気になって下さい。そしてレニドール会わせて下さいね」
「ああ。その時はそなたとの別れだな」
「ですが、あなたにはメイリル様との再会の時でもありますよね? お祝いして送り出しますよ」
「全く、そなたは口が立つ」
少しの間笑い合って部屋を後にした。ジェイコブ司教も一緒に出て来て、話があると言う。
「ジュンヤ様。浄化の神子。王都を、国もお護りくださり誠にありがとうございます」
「いいえ。ラジート様に言った様に、やりたいからしたんです」
「私どもが見誤ったせいで、ジュンヤ様にはご苦労をお掛けしました。全てが済んだら、私は大司教の座を辞するつもりです」
「それは待って下さい」
確かにあの時は総入れ替えをするべきだと思っていた。だが、今は違う。
「最初は俺も腹が立っていて、絶対に辞めさせると思っていました。しかし、あなたは陛下達と一緒に逃げる事も出来たのに、民のために残って下さった。ですから、もう少し待とうと思います。辞めさせるのは簡単ですからね」
「ジュンヤ様……神殿は今後も民に尽くし、信頼回復に全力を尽くします」
絶対に許せないと思ってた。今でも思い出せば腹が立つ。だが、過ちを認めやり直せるのが人間だと思う。今この国に必要なのは希望だ。あの瘴気を経験した神殿関係者ならば、これから先も懸命に働くだろう。
俺は、全てを許せるほど寛大じゃない。
それでも。あの日逃げ出さなかったこの人を信じてみたい。そう思いながら、跪くジェイコブ大司教を見つめていた。
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