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4章

会議に参加するのです

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「……様、ジュンヤ様。お加減は如何ですか?」
「んん……エルビス?」 

 目を開けると、見慣れない天井とベッドにいた。
 そうだった、浄化の後動けなくなって……

「はい。もう朝ですよ、お食事は取れそうですか?」
「ふぁ~~!」

 寝転がったまま大きく伸びをすると、体には力が漲っていた。

「うん大丈夫! 起きるよ」
「まだ混乱から脱したばかりなので、清拭でもよろしいですか?」
「充分だよ。それより寝過ぎたよな、ごめん」

 もう朝だなんて、かなり寝てしまった。

「みんなは?」
「今は予備の魔石で騎士を浄化して、順次街城下の傷病者を保護しに派遣されています」
「そうか。じゃあ、ダリウスが?」
「ええ。マテリオも共に街へ出ています。ジュンヤ様なら、きっとそう指示するだろうと言っていました」
「うん、そうだね」

 エルビスがベルを鳴らすと、ノーマとヴァインが入ってきた。

「ジュンヤ様!!」
「お目覚めになって良かったですぅぅ……!! グスッ……」
「ノーマ、泣くなよ。ヴァインも心配してくれてありがとうな?」

 唇を噛み締めて堪えるヴァインとボロボロ涙を零すノーマは対照的だが、心から心配してくれていた。ベッドから出て二人を順に抱きしめると、耐えていたヴァインも涙を溢した。うん、泣きたい時は泣いて良いんだよ。本当にありがとうな。

「もう大丈夫だよ。だから、俺もやるべき事をやらなくちゃ。着替え、手伝ってくれるか?」
「「はいっ!!」」

 泣き笑いの二人をエルビスが微笑ましそうに見ていて、俺達は小さく頷いた。

「グスッ……僕、ジュンヤ様が一番神々しく見える衣装をご用意しました!! 浄化で王宮や街に出られる際は、きっと誰もが平伏しますよ!!」
「ノーマ、それはやり過ぎだ」

 しかも、素になって『僕』になってるぞ。

「いいえ。ノーマの言う通りです! 二人で一所懸命! 考えたんです。まずはお体を清めましょう」
「二人共張り切っていますから引きませんよ。任せてやってくださいね」
「はいはい。もう~! 降参です!!」

 俺が笑うと三人から笑みが溢れた。リラックスした様子から、状況がかなり好転したんだろうなと思った。気合の入った三人に身を任せ清拭して貰った後、白いシャツに黒地に赤と金糸をふんだんに使ったジレを出してきた。動きやすいから良いけど、これか……。赤と黒でティアとの事を強調するつもりかな?

「ところで、王妃様やファルボド様は? 体力までは回復出来ないから、その後は大丈夫かな?」
「レイブン殿下は確かに弱っておられますが、寝所から指揮をして各所に配置をしてくれています。ファルボド様はダリウスの父上ですから、既に獅子奮迅の勢いで駆け回っておりますよ」
「それは良かった。ティアと王妃様は、あれで和解って事なのかな……?」

 エルビスの手がふと止まる。

「そうですね。殿下は水に流すつもりだとおっしゃっていましたが……」
「エルビスは何か引っかかるんだな?」
「殿下がお決めになった事ならば支持しますよ。ただ、見聞きして来た事を飲み込むのに時間がかかりそうです」
「そうか。辛い時は俺に話してくれよ。そんな話、誰にも出来ないだろう?」
「ええ。ありがとうございます。さぁ、出来ましたよ!! 今日は一際お美しいですね!!」

 姿見で全身を確認すると、それはもう黒を強調していて、宝飾品がふんだんに使われていた。

「この状況でこれは、貴族にも民にも反発を食らうんじゃないか?」
「いいえ。むしろ喜びます。高貴な方が自分達と同じ目線でお話しくださるんですよ? 嬉しいに決まっています!!」

 エルビス……信頼しているけど、俺へのラブラブフィルターがかかっている時は少し心配だよ。

「エルビス様、準備ができた事を殿下にお伝えして来ます」
「ああ、ノーマ。頼……悪いけれど、ヴァインの方が良いだろうね。その顔では殿下がジュンヤ様を心配して飛んで来そうだ」
「エッ? あっ、そ、うですね。じゃあ、ヴァイン、頼むね」
「ああ。ノーマは顔を洗っておいで」

 ヴァインは苦笑しながら出て行った。ノーマは確かに号泣しましたと顔に書いてあるような有様だった。これじゃあ、顔を見ただけで話も聞かずに駆けつけそうだもんな。ヴァインを送り出して雑談をしていると、廊下がバタバタと騒がしい。

 なんだろう?

「ジュンヤ!!」

 バタン! と扉が乱暴に開いてティアが足早に入って来た。後を追って来たソウガさん達がその乱暴な仕草に戸惑っている、と思った瞬間、腕の中にしっかり抱き込まれていた。

「良かった! 予測より早く目が覚めて安心したっ!」
「ティア、ご、ごめん! さっき目が覚めたんだ。心配かけ、んんっ! ~っ! ぷはぁ……ティ、ティア……」

 いきなりのディープキスにクラクラする。

「良かった。本当に良かった!! 昨夜顔を見に来たが、起こすのが可哀想で声をかけられなかった。ずっと抱きしめたかった」

 ティアの手が微かに震えていた。自分の役目を優先するのは俺の立場を守る為だよな。俺のせいで仕事をしなかったら、国王と同じになってしまう。

「ありがとう、ティア。俺は大丈夫、大丈夫だよ」

 気持ちが伝わるように、力一杯抱きしめ返す。俺達はその後暫く無言で抱き合い、どちらからともなく離れた。

「ジュンヤ。ここを出たら、王宮で生き残った大臣や文官達が救世主である神子を待ちわびている。もう非道な行いをする者はいないだろう」
「うん。あ……臣下がいるなら、殿下って呼んだ方が良いのかな」
「ふっ……そのままでいてくれ」

 ほんの少し悪い笑みを浮かべて、ティアは俺の手を握って歩き始めた。そうか、良いなら俺はそのまま変えたりしない。それに、その方が嬉しそうだしな。





「皆の者、待たせたな。彼が真の神子であり、私の恋人のジュンヤ・ミナトだ。国土の浄化の他、王都の救出にも手を貸してくれた。その恩恵を既に受けた者も多いだろう」

 ティアさん? あのね、会議に来たんですよね? さりげなく恋人を主張するのはどうかと思いますよ。

 会議室だと言う円卓の上座に座るティアの隣に座っています……レイブン殿下はまだ体力が戻らない為遅れて来るが、バルバロイ卿始め強面な臣下も多数居並ぶ。如何にも文官風な人もいるけど、妙な迫力のある人ばかりだった。
 
 正直に言えば怖いです!!

 だが、バレたら舐められそうなので必死に冷静を装っているのです!!

「初めまして。昨日お会いした方もおられますが、改めてご挨拶を致します。ジュンヤ・ミナトです。よろしくお願いします」

 いやぁ、よろしくして貰えるんでしょうか? 疑問に思いつつ彼らを見回すが、さすが貴族、仮面は完璧だ。

「昨日はジュンヤが作ってくれた魔石を使い、わずかな地域ではあるが王都を浄化する事が出来た。しかしながら、瘴気は未だ瘴気だまりとなって残っている箇所があるが、魔石の数は残り僅かである。それ故、今後はジュンヤに各所を回り浄化をして貰わねばならぬ。だが、その前に我らはしなくてはならない事がある」

 ティアはそう言って立ち上がり、椅子を避けた。

「ティア? っ?! 何をっ?! ダメだっ!!」
 
 突然俺の足元に膝をついて拝礼をしたので、慌てて椅子から降りて立たせようとするがびくともしない。すると、ガタガタっと音がしてそちらを見れば、着席していた彼らも同じように拝礼をしていた。

「っ! なん、で? ティア、お願いだから、それ止めてくれっ!!」
「ジュンヤ。この国の第一王子として、ジュンヤに対しての非礼の数々を詫びなければならない。それでも国を救ってくれた事、心からの謝意を表したい」

 跪いたままのティアが動かないので、俺も跪いて視線を合わせた。

「ティアが助けてくれたからだよ。もしもティアが他の人と同じで酷い人だったら、俺は逃げ出していたかもしれないし、助けようと思わなかったかもしれない。だから……さあ、立って」
「ジュンヤ……」

 手を取って立たせ、まだ拝礼をしたままの臣下の人達にも声を掛ける。

「皆さんも立って下さい。私はエリアス殿下の人柄に救われました。確かに辛い目には合いましたが、同じ事があれば、し、真っ当に扱って下されば水に流しても良いと思っています。ですから、皆さん席に戻って頂けますか?」
「神子の慈悲に感謝します」

 そう言って真っ先に立ち上がったのはファルボド様だった。

「皆も立て。その方がこの方は気が楽らしいぞ。うちの愚息に散々惚気を聞かされた」
「では、失礼をして……美麗なお姿とは裏腹に、些細な事では動じぬ肝の座ったお方だと聞いておりますからね。我が息子も気が強い方ですが、喧嘩を売っても受け流されたと申しておりました」

 息子? 誰だろう?

 その人は濃い金髪に淡いグリーンの瞳で……見た事がある、かも。

「失礼ですが、あなたは?」
「ビューダス・ノルア・ベルパルでございます。財務大臣をしております」
「あなたがイーミッシュ様のお父上でしたか。その節はどうも……」

 婚約者候補だったイーミッシュ様の父親か。気まずいな。

「ふふふふ。今申しました通り、あの子は少々気性が荒くてですね。あわよくば喧嘩に持ち込もうとしたそうですが、のらりくらりと躱された!と悔しがっておりました。柔らかく微笑んだまま、怒らせる事が出来なかったと……ふふふふ、本当に興味深いお方です」

 ひぃっ?! 怖っ!

 外見は確かにイーミッシュ様の色だけど、天使みたいな彼よりごつい。そして、この含み笑いは怖いです。だが、彼が立ち上がってくれたおかげで周囲の人も席に戻ったからよしとするか。

「いえいえ、そんなに大した事はしていませんよ」
「ご謙遜を。神殿との立ち回りのお噂も小耳に挟みました。すっかり傾倒している者も多いようですよ」
「私にはお答え出来かねます」

 どうにか交わして会話を終わらせる事が出来た。いや、この人怖いよ。さらっと探りを入れて来てるよな?本来なら宰相はベルパル家の者がなる筈だった、と言うのも頷ける。
 気を取り直して、また今後についての話を続けた。

「ジュンヤにはすぐに街の浄化を始めて貰うが、王宮内や城下街で多くの死者が出た。鎮魂の式典を行い、亡くなった全ての者達の魂と、その遺族を慰めようと思う」
「それは良いアイデアですな、殿下。試算は私にお任せ下さい」
「うむ。そなたも残ってくれて助かった」
「殿下をお待ち申しておりましたから、どこへも参りませんよ。ところで、ジュンヤ様。国王陛下ご一行は準備が出来次第王都にお戻りになるとか。それまではエリアス殿下が国王代理として政をして頂きますので少々お寂しい思いをさせてしまうかもしれません。先にお詫びをしておきます」

 真剣な面持ちだが、どうにも一癖ある印象は拭えない。記憶が確かなら、ベルパルはティアを支持している筈。でも、イーミッシュ様との婚姻が成立する事が条件だったとしたら?

 俺の印象では、現宰相より手強いと思う。ティアにワザワイを持ち込ませないよう、うまく立ち回らないと、と気負いを入れ直した。

ーーーー
昨日、色々懐かしい人が出ているなと思い、四章用の人物紹介を付け足しました。本編更新と思われた方、申し訳ありません!

どこで出た人か遠い記憶の人物も出ると思いますが、よろしくお願いします。
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