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4章
偽りの王
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扉を抜けた先、広間の奥に玉座が見え、そこに座るナトルらしい影が見える。ここに来るのは王に呼びつけられたあの日が最初で最後だと思っていた。だが、今はその椅子に座るべき次代の王と一緒にいる。そして、広間は茨の山だった。戦いを挑んだ騎士の骸だろう。
「神子、お待ちしていましたよ。さぁ、私の隣にお座り下さい。列席者も揃いましたし、婚儀をあげるとしましょうか」
遠くにいる筈なのに、ナトルの声がはっきりと聞こえた。用心しながらよく見える位置まで進むと、どうやら神官服に豪華なマントを羽織り悠然と玉座に座って微笑んでいた。その顔は爺さんだったナトルと違い若返っている様な気がした。
だが、その顔には茨の模様が浮かんでいる。本当なら助からない筈なのに……早く蛇の紋を見つけ出して浄化をしたい。だが、ラジートと同じうなじにあると仮定をしても、どうやって触れたら良い?
余裕の笑みを浮かべるナトルの周囲には、同じ様に紋を刻んだ神官達がいる。だがその虚な目は何も写していないようだ。
「ナトル。神官でありながら、こんな非道な真似をして許されると思うのか?!」
ティアの厳しい声が飛ぶ。だが、ナトルはどこ吹く風というそぶりだ。
「愚かな王子よ。この世は常に勝者によって歴史が塗り替えられるのだ。いずれ、私が神として神子を娶った神話になる」
そう言ってカッカと嘲笑した。クソジジイめ。
「さぁ、この世の全てを私と共に手にしましょう、愛しい人よ」
「断る」
「ほう。ですが、今の私に勝てる者がいると思いますか?」
俺には敬語なんだな。意味分かんねぇ。
「我が力を返せ、ゲスめ」
ラジートが剣を向け一歩前に出た。
「クックック……!! ほざくな。もう、神力など殆ど残っておるまい?」
「っ!」
ナトルの周囲から茨がざわざわと音を立てて伸び始め、操り人形の神官達もヨロヨロとこちらに向かって来た。俺達を包む浄化の光はこれまでよりも強く放ち、瘴気の強さを思い知らさせる。
「畜生! この茨が邪魔くせぇ!!」
「団長! 燃やしちゃまずいっすか?」
「火事になったら後宮の連中が逃げられないだろうがっ!!」
バッサバッサと斬りつけながら前に進むが、なかなか進むことが出来なかった。
「うぐっ!?」
「ウォル!! 私の後ろに下がれ!」
ウォーベルトの足元を攫おうとした荊を避け斬れずに、脛に血が滲む。それをラドクルトが素早くサポートする。
「ってぇ~!!! でも大丈夫だ! やれる!」
ウォーベルトは怪我をものともせずに進むが、このままじゃ魔石も尽きてしまう! どうしたら良いんだ?!
「ナトルの紋を見つけて浄化しなくちゃ終わらない! どうしよう、ティア!」
「今あれをやるしかないだろう。弱らせた隙をつく。良いな、エルビス。」
「お任せ下さい!」
「分かった。」
練習はしていたがぶっつけ本番だ。でも、泉の時だってそうだったんだ。きっと出来る!
「ダリウス、お前が斬り込め。」
「おう! 殿下の仰せのままにってな!! ラド! 俺を運べ! ウォルは三人のガードだ!」
「「了解!!」」
俺はティアとエルビスと手を繋ぐ。ユーフォーンとミハ・ジアンで出来る様になった技を王都の浄化で使おうと練習をして来た。
「ラジートは取り込まれない様に下がっていろ」
「くっ……!」
ティアに言われ悔しそうに下がるラジートを気遣う余裕はない。二人に浄化を流し込み、二人がそれを自身の生み出した水に蓄積していく。
「行くぞっ!!」
二人が作り出した無数の氷の刃が浮かび上がり、ナトルを狙い飛んで行く。しかし、茨に阻まれ殆どはいばらへと突き刺さってしまった。
「クックック……! この程度でこの国の王位継承者とはなぁ!! ジュンヤ様! やはりあなたにふさわしい庇護者は私だ!! 魔石の効果もなくなれば、そこの庇護者は皆死に絶えるだけ。さぁ、こっち、へ……な、なんだっ?!」
ナトルを守っていた茨がどんどん枯れて行く。慌てて新しい茨で壁を作ろうとしているが、さっきより勢いがなかった。その為、俺達を遮っていた壁に切れ目が出来始めていた。
「今だ!」
ダリウスの合図でラドクルトがビュウッと風を起こし、ダリウスを包んで疾風の如く間を縫ってナトルに迫った。
「うぉぉぉぉーーーー!!」
風を切る音と共にダリウスが一瞬でナトルのいる玉座へ到達し、茨のガードをぶち切って剣が振り下ろされた。
「ぐぅぉぉぉーーー……!!」
雷撃を纏わせながら剣が左胸に突き立ち、ナトルが苦悶の表情で痙攣する。
「「「「やった!!!」」」」
思わず全員が叫ぶ。
「ぐぅぅぅっ……くっ……クックック……ハッハッハッハ!!!」
「なんだとっ?! グッ?!」
ダリウスが茨で吹っ飛ばされ転がりつつも、すぐに体制を立て直したが、その目は驚きを隠せない。確かに左胸を貫いた筈なのに、出血は僅かで、余裕綽々のナトルの笑い声が広場に響く。
「ふっふっふ……これは私に生まれながら与えられた祝福。神子と結ばれる為にメイリル神から与えられた体なのだ!」
そう言うと、マントと神官服を脱ぎ捨てた。年老いた体は若返り、荊の紋様が身体中に刻まれている。そして、右胸に大きな蛇が浮かび上がっていた。
「私の心臓は右にある。しかも、ラジートの力で若返った! この体ならば、身も心も満足させて差し上げられます。確かに、あの頃の私ではお若いジュンヤ様には物足りなかったでしょうね。さぁ、私が存分に可愛がって差し上げますよ?」
心臓が逆についてるって? なんだよそれ! ズルだろう?!
「畜生!! めんどくせぇ体しやがって……!」
ダリウスが剣を構えながら隙を窺う。
「同じ手は使えぬな……」
「ジュンヤ様、いざと言う時は下がってください」
「でもっ!」
エルビスが俺を後ろに押しやる。嫌だよ、盾になんかならないでくれ!! そんな俺の肩を、ラジートが叩いた。
「神子、宝珠はどうなっている?」
「ラジート様? 持っています」
俺は取り出してみせると、薄らと瘴気はあるもののほとんどが浄化されていた。
「これなら……剣に嵌め込め」
ラジートが差し出した剣の柄頭に嵌め込むと、刀身がゆらゆらと波打つ様に赤い光を放ち、やがて消えた。
「王子よ、これを使え。我にはそなたの剣を貸せ」
「何をする気だ?」
「我と共にアレを貫け。心の臓を狙うのだ」
「そんなっ!? ラジート様っ!」
思わず腕を掴むが、やんわりと剥がされる。
「我の……小僧の血とアレの血で繋ぎを作る。さすれば、我に力が戻って来る」
「でも、でもっ!」
「小僧の家族にはすまぬと伝えよ。その代わり、我が加護で山を復活させる。小僧は眷属としてあちらに連れて行く。どんなところかは、そなたが伝えろ」
「ダメです! 他に方法が!」
「ない。良いな? 王子。そこの従者。神子を抑えておけ」
「ジュンヤ様っ! これしか、もう! さぁ、下がりますよ!!」
エルビスに腕を取られ後ろへ引っ張られてしまう。
「でも! レニドールがっ!!」
何か方法がないのか?レニドールが戻った時の、笑顔だったハミシュさん、レムハンさんの顔が浮かぶ。
「神子さん」
「レニドール?!」
ラジートだった彼が、ふと幼い表情に戻っていた。
「レニッ、レニドール!!」
「ありがとう、神子様。俺、ラジート様と行くよ。あっちもさ、もう団長さん達が保たないし……ね?」
そう言われてダリウス達を見れば、三人が必死に防いでいてくれたがかなり苦しい状況だった。でも、でもっ!!
「嫌だっ……!!」
「エルビスさん、殿下。ちょっとだけ、許してください」
エルビスに羽交い締めにされいる俺に近づいて来て、軽く触れるだけのキスをして来た。
「へへ。冥土の土産ってね。笑えないか……俺、ちょっとだけ、あなたに恋してたんだ。じゃあ、さよなら」
そう言うと、再びラジートの顔に戻っていた。
「さらばだ。達者でな」
くるりと背を向けて、ラジートが自身の茨を展開させる。
「王子。これはそなたを傷付けぬ故、身を任せろ。これは、我の最後の力だ。失敗はするな」
「分かった」
ティアは剣を交換してラジートの真後ろに立ち、茨に包まれていった。ラジートは茨を自身の盾としながら、ティアを中に隠し、ナトルを目指して動き出す。
「嫌だっ!! ラジート! レニドール!!」
「ジュンヤ様っ! 堪えてください!」
暴れる俺をエルビスがガッチリと押さえ込んでいて、ひたすら叫ぶしか出来ない。それなのに、俺の叫びは魔法攻撃の轟音に虚しく掻き消される。
「ええいっ! 鬱陶しい小虫が!」
ナトルがうんざりだという顔で吐き捨てた。茨を使うのはかなり消耗する様で、ダリウス達騎士の働きで茨を何度も断ち切られたナトルに最初の勢いは無くなっていた。だから……ダリウス達に気を取られて気がつかなかった。
「我も小虫か?」
「っひ?! ラジーッ? ……!?」
突然目の前に現れたラジートに驚き、瞬間、キョトンと目を見開いた。ラジートはナトルにがっちりと抱きついた。
「っあ……うっがあああぁぁ~~~!? ぎぃっぃぃ~!」
荊の中から現れたティアがラジートの左胸を貫き、その剣先はナトルの右胸の蛇の紋の中心を貫いていた。
「ラジート……いや、ラジート神よ。レニドールも……その尊き犠牲を私は決して忘れぬ。山の民の事は任せてくれ」
「王子よ……我が民を、守っ……」
「ぐあぁ……いや、だぁ……! 私は、かみ、に。神子……!」
キラキラとナトルとラジートが光っている。宝珠の浄化は完全ではなかったけれど、蓄積された浄化の影響なんだろうか。ナトルが暴れるが、二人は剣で繋がり、ラジートがガッチリとナトルを抱き込んで離さない。
「ラジート、様……レニドール……」
俺は呆然と見ていて、いつの間にかエルビスの拘束も解けていた。
「ジュンヤ様っ」
背後からぎゅっと抱きしめられる。
「お前は、贄に、連れて行く……」
左手をかざすと、バーレーズが飲み込まれた時の様にナトルが茨で覆われ始める。
「嫌だっ! それは嫌だぁぁ!!!」
抵抗虚しくすっぽりと包まれたナトルが暴れるせいで、弱ったラジートはその手を離してしまい、茨に絡めとられたナトルがゴロンと転がった。
そこまで耐えていたらしいラジートがガックリと膝を降り、ティアが支えながら横たえた。
「ラジート! 無茶しやがる!! レニドール、聞こえるか?!」
ダリウスが駆け寄り、俺も横たわる二人の手を握る。だが、その体は何故かうっすらと景色に溶けて行く様に見えた。そこで唐突に歩夢君の言葉を突然思い出した。黒い騎士は消えてしまう……
「しっかり!! 治癒をするからっ!!」
「良いん、です……これは、自業自得、だから……父さんと兄さんに、ごめ……」
そういうとレニドールの目蓋が閉じてしまった。
「レニドール君! しっかりするんです!」
エルビスが必死に励ましているが、なぜか出血はほとんど無いのに反応がない。
なんだっけ? 歩夢君は他になんて言ってた?!
『弱って死にかけてる相手の騎士にキスするの……そうすると正気に返るの。騎士も呪いかけられてるっぽいんだ。彼は死んじゃうけど、熱いキスでラジート神も目覚めて、メイリル神と再会するんだ』
『このゲーム、別名キスゲーって言われてた……めちゃくちゃキスしまくりだから』
『こうやって! ブチューッと!! 思い切って!!』
そうだった! キスだ!!
ラジートでもレニドールでも良い。透き通りながら徐々に色を失なっていく唇に口付けた。
ーーーーーー
超シリアスモードはあと三話位です。
そして、気になるところかと思いますが! 次話は神殿に向かったマテリオ達、神官サイドに切り替わります。別視点は一話だけで終わります。頑張れマテリオ!
シリアスを突き抜けるまで苦労をしていますが、頑張ります。
「神子、お待ちしていましたよ。さぁ、私の隣にお座り下さい。列席者も揃いましたし、婚儀をあげるとしましょうか」
遠くにいる筈なのに、ナトルの声がはっきりと聞こえた。用心しながらよく見える位置まで進むと、どうやら神官服に豪華なマントを羽織り悠然と玉座に座って微笑んでいた。その顔は爺さんだったナトルと違い若返っている様な気がした。
だが、その顔には茨の模様が浮かんでいる。本当なら助からない筈なのに……早く蛇の紋を見つけ出して浄化をしたい。だが、ラジートと同じうなじにあると仮定をしても、どうやって触れたら良い?
余裕の笑みを浮かべるナトルの周囲には、同じ様に紋を刻んだ神官達がいる。だがその虚な目は何も写していないようだ。
「ナトル。神官でありながら、こんな非道な真似をして許されると思うのか?!」
ティアの厳しい声が飛ぶ。だが、ナトルはどこ吹く風というそぶりだ。
「愚かな王子よ。この世は常に勝者によって歴史が塗り替えられるのだ。いずれ、私が神として神子を娶った神話になる」
そう言ってカッカと嘲笑した。クソジジイめ。
「さぁ、この世の全てを私と共に手にしましょう、愛しい人よ」
「断る」
「ほう。ですが、今の私に勝てる者がいると思いますか?」
俺には敬語なんだな。意味分かんねぇ。
「我が力を返せ、ゲスめ」
ラジートが剣を向け一歩前に出た。
「クックック……!! ほざくな。もう、神力など殆ど残っておるまい?」
「っ!」
ナトルの周囲から茨がざわざわと音を立てて伸び始め、操り人形の神官達もヨロヨロとこちらに向かって来た。俺達を包む浄化の光はこれまでよりも強く放ち、瘴気の強さを思い知らさせる。
「畜生! この茨が邪魔くせぇ!!」
「団長! 燃やしちゃまずいっすか?」
「火事になったら後宮の連中が逃げられないだろうがっ!!」
バッサバッサと斬りつけながら前に進むが、なかなか進むことが出来なかった。
「うぐっ!?」
「ウォル!! 私の後ろに下がれ!」
ウォーベルトの足元を攫おうとした荊を避け斬れずに、脛に血が滲む。それをラドクルトが素早くサポートする。
「ってぇ~!!! でも大丈夫だ! やれる!」
ウォーベルトは怪我をものともせずに進むが、このままじゃ魔石も尽きてしまう! どうしたら良いんだ?!
「ナトルの紋を見つけて浄化しなくちゃ終わらない! どうしよう、ティア!」
「今あれをやるしかないだろう。弱らせた隙をつく。良いな、エルビス。」
「お任せ下さい!」
「分かった。」
練習はしていたがぶっつけ本番だ。でも、泉の時だってそうだったんだ。きっと出来る!
「ダリウス、お前が斬り込め。」
「おう! 殿下の仰せのままにってな!! ラド! 俺を運べ! ウォルは三人のガードだ!」
「「了解!!」」
俺はティアとエルビスと手を繋ぐ。ユーフォーンとミハ・ジアンで出来る様になった技を王都の浄化で使おうと練習をして来た。
「ラジートは取り込まれない様に下がっていろ」
「くっ……!」
ティアに言われ悔しそうに下がるラジートを気遣う余裕はない。二人に浄化を流し込み、二人がそれを自身の生み出した水に蓄積していく。
「行くぞっ!!」
二人が作り出した無数の氷の刃が浮かび上がり、ナトルを狙い飛んで行く。しかし、茨に阻まれ殆どはいばらへと突き刺さってしまった。
「クックック……! この程度でこの国の王位継承者とはなぁ!! ジュンヤ様! やはりあなたにふさわしい庇護者は私だ!! 魔石の効果もなくなれば、そこの庇護者は皆死に絶えるだけ。さぁ、こっち、へ……な、なんだっ?!」
ナトルを守っていた茨がどんどん枯れて行く。慌てて新しい茨で壁を作ろうとしているが、さっきより勢いがなかった。その為、俺達を遮っていた壁に切れ目が出来始めていた。
「今だ!」
ダリウスの合図でラドクルトがビュウッと風を起こし、ダリウスを包んで疾風の如く間を縫ってナトルに迫った。
「うぉぉぉぉーーーー!!」
風を切る音と共にダリウスが一瞬でナトルのいる玉座へ到達し、茨のガードをぶち切って剣が振り下ろされた。
「ぐぅぉぉぉーーー……!!」
雷撃を纏わせながら剣が左胸に突き立ち、ナトルが苦悶の表情で痙攣する。
「「「「やった!!!」」」」
思わず全員が叫ぶ。
「ぐぅぅぅっ……くっ……クックック……ハッハッハッハ!!!」
「なんだとっ?! グッ?!」
ダリウスが茨で吹っ飛ばされ転がりつつも、すぐに体制を立て直したが、その目は驚きを隠せない。確かに左胸を貫いた筈なのに、出血は僅かで、余裕綽々のナトルの笑い声が広場に響く。
「ふっふっふ……これは私に生まれながら与えられた祝福。神子と結ばれる為にメイリル神から与えられた体なのだ!」
そう言うと、マントと神官服を脱ぎ捨てた。年老いた体は若返り、荊の紋様が身体中に刻まれている。そして、右胸に大きな蛇が浮かび上がっていた。
「私の心臓は右にある。しかも、ラジートの力で若返った! この体ならば、身も心も満足させて差し上げられます。確かに、あの頃の私ではお若いジュンヤ様には物足りなかったでしょうね。さぁ、私が存分に可愛がって差し上げますよ?」
心臓が逆についてるって? なんだよそれ! ズルだろう?!
「畜生!! めんどくせぇ体しやがって……!」
ダリウスが剣を構えながら隙を窺う。
「同じ手は使えぬな……」
「ジュンヤ様、いざと言う時は下がってください」
「でもっ!」
エルビスが俺を後ろに押しやる。嫌だよ、盾になんかならないでくれ!! そんな俺の肩を、ラジートが叩いた。
「神子、宝珠はどうなっている?」
「ラジート様? 持っています」
俺は取り出してみせると、薄らと瘴気はあるもののほとんどが浄化されていた。
「これなら……剣に嵌め込め」
ラジートが差し出した剣の柄頭に嵌め込むと、刀身がゆらゆらと波打つ様に赤い光を放ち、やがて消えた。
「王子よ、これを使え。我にはそなたの剣を貸せ」
「何をする気だ?」
「我と共にアレを貫け。心の臓を狙うのだ」
「そんなっ!? ラジート様っ!」
思わず腕を掴むが、やんわりと剥がされる。
「我の……小僧の血とアレの血で繋ぎを作る。さすれば、我に力が戻って来る」
「でも、でもっ!」
「小僧の家族にはすまぬと伝えよ。その代わり、我が加護で山を復活させる。小僧は眷属としてあちらに連れて行く。どんなところかは、そなたが伝えろ」
「ダメです! 他に方法が!」
「ない。良いな? 王子。そこの従者。神子を抑えておけ」
「ジュンヤ様っ! これしか、もう! さぁ、下がりますよ!!」
エルビスに腕を取られ後ろへ引っ張られてしまう。
「でも! レニドールがっ!!」
何か方法がないのか?レニドールが戻った時の、笑顔だったハミシュさん、レムハンさんの顔が浮かぶ。
「神子さん」
「レニドール?!」
ラジートだった彼が、ふと幼い表情に戻っていた。
「レニッ、レニドール!!」
「ありがとう、神子様。俺、ラジート様と行くよ。あっちもさ、もう団長さん達が保たないし……ね?」
そう言われてダリウス達を見れば、三人が必死に防いでいてくれたがかなり苦しい状況だった。でも、でもっ!!
「嫌だっ……!!」
「エルビスさん、殿下。ちょっとだけ、許してください」
エルビスに羽交い締めにされいる俺に近づいて来て、軽く触れるだけのキスをして来た。
「へへ。冥土の土産ってね。笑えないか……俺、ちょっとだけ、あなたに恋してたんだ。じゃあ、さよなら」
そう言うと、再びラジートの顔に戻っていた。
「さらばだ。達者でな」
くるりと背を向けて、ラジートが自身の茨を展開させる。
「王子。これはそなたを傷付けぬ故、身を任せろ。これは、我の最後の力だ。失敗はするな」
「分かった」
ティアは剣を交換してラジートの真後ろに立ち、茨に包まれていった。ラジートは茨を自身の盾としながら、ティアを中に隠し、ナトルを目指して動き出す。
「嫌だっ!! ラジート! レニドール!!」
「ジュンヤ様っ! 堪えてください!」
暴れる俺をエルビスがガッチリと押さえ込んでいて、ひたすら叫ぶしか出来ない。それなのに、俺の叫びは魔法攻撃の轟音に虚しく掻き消される。
「ええいっ! 鬱陶しい小虫が!」
ナトルがうんざりだという顔で吐き捨てた。茨を使うのはかなり消耗する様で、ダリウス達騎士の働きで茨を何度も断ち切られたナトルに最初の勢いは無くなっていた。だから……ダリウス達に気を取られて気がつかなかった。
「我も小虫か?」
「っひ?! ラジーッ? ……!?」
突然目の前に現れたラジートに驚き、瞬間、キョトンと目を見開いた。ラジートはナトルにがっちりと抱きついた。
「っあ……うっがあああぁぁ~~~!? ぎぃっぃぃ~!」
荊の中から現れたティアがラジートの左胸を貫き、その剣先はナトルの右胸の蛇の紋の中心を貫いていた。
「ラジート……いや、ラジート神よ。レニドールも……その尊き犠牲を私は決して忘れぬ。山の民の事は任せてくれ」
「王子よ……我が民を、守っ……」
「ぐあぁ……いや、だぁ……! 私は、かみ、に。神子……!」
キラキラとナトルとラジートが光っている。宝珠の浄化は完全ではなかったけれど、蓄積された浄化の影響なんだろうか。ナトルが暴れるが、二人は剣で繋がり、ラジートがガッチリとナトルを抱き込んで離さない。
「ラジート、様……レニドール……」
俺は呆然と見ていて、いつの間にかエルビスの拘束も解けていた。
「ジュンヤ様っ」
背後からぎゅっと抱きしめられる。
「お前は、贄に、連れて行く……」
左手をかざすと、バーレーズが飲み込まれた時の様にナトルが茨で覆われ始める。
「嫌だっ! それは嫌だぁぁ!!!」
抵抗虚しくすっぽりと包まれたナトルが暴れるせいで、弱ったラジートはその手を離してしまい、茨に絡めとられたナトルがゴロンと転がった。
そこまで耐えていたらしいラジートがガックリと膝を降り、ティアが支えながら横たえた。
「ラジート! 無茶しやがる!! レニドール、聞こえるか?!」
ダリウスが駆け寄り、俺も横たわる二人の手を握る。だが、その体は何故かうっすらと景色に溶けて行く様に見えた。そこで唐突に歩夢君の言葉を突然思い出した。黒い騎士は消えてしまう……
「しっかり!! 治癒をするからっ!!」
「良いん、です……これは、自業自得、だから……父さんと兄さんに、ごめ……」
そういうとレニドールの目蓋が閉じてしまった。
「レニドール君! しっかりするんです!」
エルビスが必死に励ましているが、なぜか出血はほとんど無いのに反応がない。
なんだっけ? 歩夢君は他になんて言ってた?!
『弱って死にかけてる相手の騎士にキスするの……そうすると正気に返るの。騎士も呪いかけられてるっぽいんだ。彼は死んじゃうけど、熱いキスでラジート神も目覚めて、メイリル神と再会するんだ』
『このゲーム、別名キスゲーって言われてた……めちゃくちゃキスしまくりだから』
『こうやって! ブチューッと!! 思い切って!!』
そうだった! キスだ!!
ラジートでもレニドールでも良い。透き通りながら徐々に色を失なっていく唇に口付けた。
ーーーーーー
超シリアスモードはあと三話位です。
そして、気になるところかと思いますが! 次話は神殿に向かったマテリオ達、神官サイドに切り替わります。別視点は一話だけで終わります。頑張れマテリオ!
シリアスを突き抜けるまで苦労をしていますが、頑張ります。
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