異世界でおまけの兄さん自立を目指す

松沢ナツオ

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4章

突入前日 2

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 作戦会議は長時間に及んだ。スレイトさんから最新の現状報告受けて、王宮を占拠したナトルと狂信者の残党、洗脳や脅迫されて従っている人をどうやって判別するかで模索していた。みんな、抵抗するなら全員斬り捨てれば良いと言う。

「嘘をついて背後から狙うかもしれねぇんだ。お前の気持ちは分かるが諦めろ」
「……」

 無言で頷いたが、密かに方法を考え続けていた。ダリウスは情報を元に地図を指しながら部隊の役割分担を続ける。

「では、最初に王宮に向かう者を選別する。ここは最も危険を伴う。あとは、別働隊が街の中に取り残された者を場外に避難させる。アユムと魔道士達が作ってくれたマスクを配布する。彼らが使用方法を説明するから、担当部隊全員に把握させるように。良いな?」

 みんなが頷いたのを確認する。マスクには魔石を仕込んであり、その数はかなりのものだが、とても全員分は作れない。その為、ネックレスにしている物もあるが、長時間は保てない。
 だから、突入部隊以外は避難民の対処を任され門の外で配置し救護活動をする。重傷者がいる可能性を見越して、歩夢君が魔力で動く軽トラっぽい乗り物を作っていた。荷台に乗って貰い運ぶというもので、すごく便利だ。
 担架があれば、騎士の力なら軽々乗せられる。運転手が必要なので乗っているから余計に軽トラ感がすごい。

「こりゃ便利だな。どれくらい乗れるんだ?」

 ダリウスが物珍しそうに撫で回す。

「テストでは座って十五人位で、この距離なら二十往復といったところでしょうか。重症者では寝かせますから、かなりの魔力を使います。それに、魔力切れを起こすとただの重たい荷車になるので、私が定期的に魔力を注いで動かします。もっと時間があれば効率が良いのですが、一台しか作れませんでした。ですから、私はこちらに待機になってしまい同行出来そうにありません。お役に立てず申し訳ありません」
「いや、十分だ。民を助けてやってくれ。王都の魔導師も閉じ込められているらしいから、お前とアナトリー頼みになっちまって悪い」
「いいえ。お任せを」
「団長様。私は中の様子も見たいんですがねぇ。ユーフォーンで見たあの茨の現象、また見て研究したいんです」
「あんたは戦力に欲しいが、民を助けてくれや」

 アリアーシュとアナトリーは門の外で待機に決まった。

「あとは、神殿に避難して出られなくなっている民と大司教達の救出だな」

 そこまで話し終えてから、ダリウスはマテリオを見た。

「本当にマテリオは神殿の救出で良いんだな?」
「はい」
「ジュンヤと離れる事になるが……」
「神殿で苦しむ民を救う役目を与えられました」

 俺も最初は一緒に着いて来て欲しいと思っていた。でも、神殿の状況を聞いて考えを変えた。マテリオが行ってくれれば俺も安心して王宮に迎えるから。

「そうか。では、護衛をつける。道中に荊に侵食された箇所がいくつもあるらしい。どう動くのか分からんから気をつけろ。そちらが済んだら王宮に来てくれ。神官の力が必要になるかもしれん」
「はい。終わったら、必ず向かいます」

 あの奇妙な茨で人間を操っているのではないか?とファルボド様からの報告が来ていた。ナトルに操られた一般市民が敵となって襲い掛かり、ファルボド様達は王妃様を守る為に後宮に退避し、魔石で結界を作り立て籠ったと言う。と言うよりも、突破出来ない為閉じ込められたといった方が正しい。

「ラジート様。あの荊にそんな力があるんですか?」

 これまでは茨で受けた傷は呪によって死に直結していたと思う。人を操るなんてしていなかった。

「私の茨にはそんな作用はない。そもそも傷つける為の力ではないのだ。恐らくあの男の異様な執着が新たな力を生み出したのであろう。……その力があれば、そなたを従属させる事が可能であろう?」
「冗談じゃねぇ。ジュンヤは渡さねぇぞ。エリア……殿下は、本陣で待機をして下さい」

 人目があるのでさすがに敬称をつけたな、ダリウス。

「私も行くぞ」
「だが、王位継承第一位の殿下が……ここでお待ち下さい」

 エマーソンさんも考え直させようと必死だ。

「今行かずしてなんとする! これで命を落としたなら、私は王の器ではないのだ。私が死んでも、まだオレイアドが残っている。私は行く。異論は認めぬ!!」
「ティア……ダリウス、エマーソンさん、俺がティアと離れない様にするから」
「私はジュンヤを守りたいのだ」
「分かってるよ。だから、お互いを守ろう。なぁ? ダリウス、お願いだ」

 ティアが一歩も引かない覚悟なのは良く分かっている。

「ダリウス。そなたは私の剣として共にあると誓ってくれたであろう?」
「……はい。承知いたしました。二人を……決して傷つけさせません」

 この二人にだけある特別な絆が、ふと垣間見えた瞬間だった。そして、ティアが騎士達にもう一度目を向けた。

「では、グラントはマテリオ達を頼む。その力が必要だ。エマーソンは俺達に付け。各自、所属に関係なく先程の作戦に合う騎士を配分してくれ。部署に関係なく互いを尊重せよ。それがだ」
「「はっ!!」」

 一旦解散し、夜番は今の内に休息をしたり武器の点検や手入れをし始める。

「ダリウス、いよいよだな」

 ナトル対策について詰めていこうと、俺と庇護者全員と神官、神兵がティアの天幕に集まっていた。

「ああ。それにしても、エリアス……珍しく熱いところを見せやがって。焦ったぜ」
「そうだな。私も自分で驚いた。くくくっ。ジュンヤと出会ってから、発見が多くて楽しい限りだ」
「殿下は以前より表情を表に出されて、人間味が出ましたね。私は今の殿下の方が伸び伸びとしていらして好きです。それに、各地での支持も上がっていると報告が来ています」
「そうか?」

 エルビスに言われ、自分の顔をさすっている。

「ふふふ……」

 エルビスが嬉しそうにティアを見つめていた。

「それはともかく、王宮の状況がなぁ。スレイトは籠城前に父上が転送の片割れを預け脱出させた。あいつは風持ちだからな。どうにか飛んだらしいが、相当ヤバかったそうだ。ジュンヤの治癒を受けたが疲弊しているから、少し休ませる」
「そうだね。ボロボロだったからな」

 騎士達は、操られた人々から身を守りつつ、なんとかナトルを倒そうと戦い続けていると言う。

「ジュンヤ、神殿が左で後宮は右の奥だ。この辺りでマテリオは一旦離脱するからな?魔石の数はどうだ?」
「さざれが多いけど、なんとか騎士全員に持たせる分は出来たよ」
「すまんな。」
「大丈夫。それから、ソレスとマナ、トマスさん、リューンさんには追加の魔石をお渡しますね。」
「ジュンヤ様のお手から頂くなど……光栄です」

 それぞれが恭しく受け取る。そして、一番大きな魔石を取り出す。

「これ、俺が持って王宮に行けって言っていたけど、やっぱりマテリオに預ける。」
「なぜだっ?! 一番危険な場所に向かうなら、これを使うべきだ。」
「そうかもね。でも、俺にはみんなが着いて来てくれる。ラジート様もね。民を守る為にこれは使うべきだ。いや、それもあるけど……。離れるのはマテリオだけだ。だから。絶対に無事に合流して欲しいから……お願いだから、これを使って欲しいんだ。」

 お願いだ。もう倒れた姿は見たくない。あの時は近くにいたから守れたけど、今回は離れてしまうから。

「……分かった」

 そう言って最大の魔石を受け取り懐に収めるのを確認して、ようやくほっとした。これがあればきっと大丈夫。俺の大事な人を、たくさんの人達を守ってくれ。魔石が収められた胸元に手を当てる。

「信じてる。ソレス、マナ、リューンさん、トマスさんも……絶対に命を粗末にしないで欲しい。俺、一人でも欠けたら号泣するから! めちゃくちゃ泣いちゃうんだから、絶対!」
「ジュンヤ様ぁ、そんな事言われたら頑張って生き残るしかないじゃないですかぁ~!」
「そうだよ、マナ。生きてまた会うんだ、絶対に。みんな、約束な?」
「「「「はいっ!!」」」」

 その後俺達は、いくつものパターンを想定しながら玉座のナトルを倒す方法を遅くまで話し合った。あまりに長いので、いつの間にか日が暮れ始めたのにも気がつかなかった。

「よし、これだけ詰めたんだ……今日はもう休もうぜ。部下達には一杯だけ酒を許した。何も飲まんと眠れない奴もいるだろうからな」

 緊張と戦いの前の昂りでアドレナリンが出ているかもしれない。俺だって考え事をすると眠れなくなりそうだ。

「ジュンヤ。何もしないから、今夜は私と寝てくれないか?」

 だからティアの提案に大人しく乗った。

「なぁ、俺も良いか?」
「私の天幕だぞ?」
「エリアス第一王子殿下、お慈悲を下さいませ~!」
「仕方ない。私の寛大さに感謝するが良い」
「ははぁ~!! ありがたき幸せ~!!」

 ダリウスが大袈裟に平伏したので、みんなが耐えきれずに大笑いをした。緊張を和らげる為にこんな真似したのかな?そう思うと、このエロエロ団長を今すぐ抱きしめてやりたくなった。

「はぁ~!そうとなったら、腹拵えをして明日に備えるか」
「夕食の準備始めてるね。俺、少し手伝って力を流してくる。みんなの役に立つと良いなぁ」
「そいつぁ、あいつらも喜ぶな」

 俺は天幕を出て、調理担当の騎士を手伝った。俺の浄化がみんなに行き渡るのを確認し、その力が明日彼らを守って欲しいと願う。俺も彼らも抱え込んだ得体の知れない恐怖を振り払うように、大いに食べて笑った。





「やっぱり、三人は狭くない?」

 天幕のベッドにぎゅうぎゅうに三人で寝転んでいた。俺は二人の間に挟まれてサンドウィッチ状態だ。体の厚みから言ってハム? しかもペラペラのな……

「全く問題ない。」
「くっついてりゃ良いだろ? スー、ハー。ああ、良い匂いだなぁ……」

 左隣のダリウスがスンスンと鼻を鳴らす。

「嗅ぐなって」
「私も良いか?」
「ティアまでっ?」
「はぁ……心が安らぐな。本当に不思議だ。いやらしい気持ちになる時と、ただひたすら癒やされる時がある」
「今日はしないよ?動けないと困るから。……キスなら、したいな」

 終わったら、いっぱい甘やかしていっぱいエッチさせてあげよう。

「んんっ、ふぅ……ん」

 俺の力を与えて、そして与えられる。俺達は何度もキスを繰り返し、優しい力に包まれながら眠った。

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