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4章

突入前日 1

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 テッサを後にした俺達は、途中の村や道中ですれ違った避難民も重症者を浄化したが、ひたすら王都を目指すのみだった。応援も呼んでいるので、彼らの到着まで王都の手前で陣を組んで情報収集と作戦を練る。
 門の外で一人夜営をしながら待っていた第三騎士団のスレイトさんが陣に合流し、内部との連絡を取りつつ応援が到着するのを待っていた。この位置に陣を組んだのもスレイトさんからの報告があったからだ。
 当初は王都に入ってしまおうと思ったのだが、塀の内側は既に瘴気による病人が多数いて穢れが蔓延しているとの報告だった。スレイトさんにプレゼントしたネックレスの魔石は、かなり前に砕けていたそうだ。そのせいで目の下にクマを作りヨレヨレだったので、大慌てて浄化をしたんだ。

「エリアス殿下、ダリウス様、ジュンヤ様。ただいま到着致しました」

 そこへ、グラント率いるユーフォーンの精鋭が陣に到着した。

「うむ、よく来てくれた。もうすぐイスバルからの応援も到着する。全員が揃ったら作戦を詰める。暫し休め」
「はっ」

 ティアが彼らを労い、ダリウスが大まかな説明をしていた。

「ザンド団長自ら来たいと仰っていたが、流石にそれは不味いと思って止めた。それで良かったよな?」
「叔父上はまだまだ血気盛んだなぁ。止めてくれて助かったぜ。叔父上がいれば領内は問題ないからな」

 二人が和やかに話しているのを横目で見つつ、魔石への充填を続けていた。例えさざれ石でも、まとめて持てば役に立つ筈だ。それに、この先いるだろう病人に持たせるには良いサイズかもしれない。力を込めすぎて割れないようにするのが大変だが、きっと役に立つ。集中していると、その手をふと遮られた。

「マテリオ?」
「ジュンヤ、少し休んだ方が良い。ずっと充填し続けているだろう?」
「そんなに時間経ってる?集中してて分からなかったよ。確かにちょっと疲れたかも。天幕で少し休もうかな」

 マテリオの隣は心配そうなエルビスもいた。

「ええ、お茶をお出ししますね」

 天幕に戻り温かいお茶を飲んで、ようやく体の冷えに気がついた。

「エルビス、マテリオ。あのさ……キスしても、良いかな?」
「勿論、大歓迎です」

 エルビスが優しく抱きしめてくれて、その背中にしがみついた。

「んっ、んっはぁ、おいしぃ……もっと」

 クチュクチュとお互いの舌を絡ませ、エルビスから与えられる力を嚥下すると、体内にジン……と力が湧き上がる。

「ふぁ……エルビス、もっと」
「ふふふ、はい」
「んんっ」

 たっぷりと甘い滴を貰い、エルビスがそっと俺を離した。

「もっとほしい……」
「次はマテリオですよ。足りなければ交互に差し上げますからね」

 エルビスはスルッと頬を撫でながら、力の抜け切った俺をマテリオの膝に乗せた。

「マテリオ……」
「良いか?」
「ほしい、んっ」

 腕の中にすっぽりと収まって、マテリオのキスを堪能する。甘くてあったかくて、ずっとこのままでいられたら。王都の門を目の前にして、得体の知れない恐怖に襲われている。

「っはぁ……」
「ジュンヤ…。絶対に守ってやる」
「私もですよ。」
「俺もみんなを守る……」

 そうだ。俺は逃げない。もっと怖い思いをしている人を救えるのは、俺の力だけなんだ。
 
 何度もキスを繰り返しながら二人に強制的にベッドに押し倒された。サンドイッチ状態で二人の力を受け続けると、冷え切っていた体に力が漲っていた。

「ありがとう。もう大丈夫だよ」
「お前は、いつも無意識に無理をする」

 マテリオさん、指摘が厳しいです。でも気をつけよう。本当に気がつかなったから。天幕を出ると賑やかで人も増えていた。

「ジュンヤ様!! お呼びとあり馳せ参じました」

 駆け寄って来たのはイスバル砦のエマーソンさんだった。

「エマーソンさん?! 自ら来て下さったんですか?」
「当然です。」

 砦の騎士団長であるエマーソンさんが、自ら騎士を率いて来るなんて思わなかった。

「あなたが来てしまって、砦は大丈夫ですか?」
「彼らはしっかりと鍛えておりますからご心配なく。恩人であるジュンヤ様の要請とあらば、どこへでも参りますとも。」
「ありがとうございます」

 エマーソンさんの朗らかな笑顔に癒される。この人はエロに変態でなければ完璧だ。

「おや、また誰か来ましたね。あれは……?」

 言われて南方面に目を向けると、立派な馬車から降りて来たのはアリアーシュだった。

「アリアーシュ、来てくれたんだ?」
「あくまでも殿下の為だからな。私はこれから殿下のところに行くが、先にこれを渡しておく。アナトリー殿が贈ってくれた物だ。ここのボタンを押せば良い」

 渡されたのは、スマホの様な箱だが、厚みさが三倍くらいあって重い。言われたボタンを押すと映像が浮かび上がり、現れたのは歩夢君だった。

『潤也さん!!』
「歩夢君!?」

 テレビ電話か! さすが変態アナトリー!

『心配してたよっ!! 無事で良かった……!』
「歩夢君、そっちは大丈夫か?」
『うん、なんとかやってるよ! 僕じゃ浄化は出来ないけど、発明とかで手伝いたいんだ』

 そう言って、ちょっとだけ大人びた表情で微笑んだ。

『僕に出来る事をやるよ、潤也さん』
「歩夢君……」

 俺はぎゅっと魔道具を握りしめた。前よりずっと強くなったな。ありがとう。

『へへ……それと、マテリオとも恋人になったんだよね。おめでとう』
「そうなんだよ。ありがとう」

 謝るのは違うし……歩夢君はマテリオをどう思っていたんだろう。でも、もう手放せないから。

『ジュンヤさんの方に行かせて良かった。マテリオに幸せになって欲しかったんだ~』
「来なかったら、何か変わっていたのかな?」

 俺の質問に歩夢君は笑った。

『ふふっ!ヤだなぁ、潤也さんが言ったんでしょう?ここはゲームとは違う現実だって。だから、どうなるかなんて分からなかったよ。ただ、最悪を避けたかっただけ。でも、それが何かは言わないよ』

 歩夢君しか知らない何かがあった。でも、確かにそんな事は知らなくて良い。

「アリアーシュ、お前達も着いたのなら作戦会議を始めぞ」

 ダリウスが呼びに来て、通信を切り全員が顔を合わせる。圧が凄い面々に腰が引けつつ、俺も同席した。ティアが整列した騎士達をぐるりと見回した後、口を開いた。

「皆、良く集まってくれた。これより王都の浄化に向かう。しかし、ジュンヤがこれまで行ってくれた浄化とは違う可能性が高く、皆の命も危険に晒されるであろう。王都に留まり支えようとなさっているレイブン王妃や、騎士総団長バルバロイ公爵の努力で王都は辛うじて存在意義を保っている。我が父はとうに逃げ出した……これほど恥ずかしい事態は想定をしていなかった。今、私が民を救わずしてなんとする!! 皆、私に着いて来て欲しい!!」

 珍しく激しい檄を飛ばすと、騎士達が一斉に雄叫び呼応した。

「これより各代表と作戦会議に入る。各自、英気を養いつつ待機せよ」
 




「殿下の檄に皆は思いを新たにしたようで」

 グラントはティアを頼もしそうに見つめていた。

「ファルボド様に見て頂きたかったですね。我が子の様に思っていらっしゃいますから」

 そう言うのはエマーソンさんだ。

「私が来て申し訳ありません……」

 スレイトさんが小さくなっている。

「そういう意味ではないよ。指揮を取る団長が王都を離れられないのは良く分かっているからね」
「それもありますが、正直王都の騎士団はギリギリです。ジュンヤ様の魔石が徐々に割れ始め、神殿に避難させた民も一か所に固まり震えています。あとは皇后陛下の守護に回しているので、騎士の多くが穢れに苛まれています」

 合流した時のスレイトさんを見れば、誰もが酷い状況と察していた。

「瘴気の発生源であるナトルですが、実は……玉座を奪いました」
「なんだと?!」

 ダリウスが思わず叫ぶ、だが、ティアは静かに聞いていた。

「ラジートになり変わるつもりなら、己が神となり支配するつもりではと思っていたが、王になりジュンヤを王妃にする気か?」
「殿下、お待ちください。ラジートになる、とおっしゃいましたか?」

 グラントとエマーソンさんが驚いていた。

「ああ、言ったぞ。ジュンヤ、レニドールはいつでもラジートと変われるのか?」
「多分」
「呼んで来て欲しい。頼めるか?」
「良いよ」

 呼びに行った時はレニドールだったが、ラジートに話があると呼べばあっという間に彼は乗っ取られてしまった。もう少し優しく変わってあげて欲しいな。
 連れて行ったものの、知らないメンバーははてなマークが飛んでいる。見た目は普通の山の民だからな。だが、グラントはユーフォンでの作戦でラジートの茨を経験していたから、顔を見てすぐ思い出していた。
 
「あの時の……! 殿下?! 大丈夫なのですか?!」
「ああ。ラジートの望みはこの肉体からの解放だ。今はこの体に下ろされ縛られているが、ナトルを倒せば元の青年に戻る筈だ」
「はぁ……? 見た目は普通の青年ですけれど、ねぇ?」

 エマーソンさんは全方向からラジート、と言うか、レニドールの体を観察する。それを不快そうに一瞥し、ラジートから茨が伸びて動きを封じてしまった。

「イタタタ! ちょっと! やめて下さい!」
「我を検分する目つきが気にくわぬ」

 俺は、苛立ちを隠さないラジートの腕を引き必死で引っ張った。

「ラジート様っ!! それはやめて下さいっ! 瘴気が体内に入ってしまいます!!」
「そなた、二度と我を愚弄する真似はせぬか?」
「しません! 申し訳ありませんでした!!」

 シュルルと茨が引いて行ったが、エマーソンさんの体にはトゲが刺さりあちこち血が滲んでいた。

「エマーソンさん、手を出して下さい」

 急いで治癒と浄化を行い、すぐに治ったが制服には血が残ってしまった。

「はぁ、驚きました。あ~あ、制服が。まぁ、これは我が隊に説明する時にちょうど良いと思うとしますかぁ……」

 あなたのポジティブなところ、結構好きですよ。

「ラジート様は、俺達と行動を共にして下さいね?」
「当然だ。我はジュンヤの側を離れるつもりはない」

 誤解されそうな言い方は止めて欲しいです。応援の騎士の代表数人も参加していたが、青い顔で見ていた。そんな彼らを見回したティアは、俺を隣に引き寄せて話を続けた。さりげなくラジートを牽制したね?

「このように、見た目は山の民の青年だが、ナトルの奇妙な術により神降ろしが成され呪いがかけられた。そして、己が神になりジュンヤを手に入れるつもりだ。それは断固阻止せねばならぬ。これより、それぞれの役割について詰めていくぞ。良いアイデアがあれば、身分に関係なく忌憚のない提案をせよ」

 神降ろしと言う禁忌を犯したナトルを捉え阻止し、国の平穏を取り戻す為の長い会議が始まった。



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