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4章
テッサの浄化
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次の日。俺は案の定エルビスに抱かれて移動する事になり、ティアやダリウス、マテリオの視線に冷や汗が流れた。ちょっと盛り上がりすぎたんだよ。
だが、普段なら申し訳なさそうにするエルビスが堂々と俺の世話をやきドヤ顔をしているのを見て、何かが吹っ切れたのならこれで良かったんだと思った。甘い雰囲気の名残りを惜しむ様に、大事に大事に抱き上げて馬車に乗せてくれた。
今、俺の馬車はエルビスと侍従がどちらか一人、そしてマテリオが乗る体制になっている。非戦闘員である俺達は、万が一に備えて離れない様にと同乗する事になった。
「もう襲われる事はないと信じたいですが、宰相は怪しいですね」
エルビスがため息をついた。
「浄化の神子を害すればどうなるか分からない筈はありませんが、宰相の一派はジュンヤを明らかに狙っていますね。ナトルの集めた信奉者達も、どう思っているのか。ですから、離れない方が良いという判断は正しいと思います」
「そうだなぁ。ナトルの仲間がいなくなったとは思えないし。宰相の方も、俺が一人になる隙を伺っていたよな。さすがに王都の浄化前に手は出して来なかったけど、戻ったらどうなるか」
ふぅっと、三人でまたため息が漏れてしまう。
「あ、ところで。王妃様と残っている騎士達は無事かなぁ。王都に向かったスレイトさんも心配だよ」
「隠し事はしたくないのでお教えしますが、最近は転送しても数回に一度しか成功できず、あちらからの連絡も途絶えがちだそうです」
「そんなっ」
「魔道士に問題が起きているのかもしれない。だが、今は向かうしかない」
「そうだな」
間もなくテッサという町だ。そこまで行けば二日で王都へと着く。テッサと王都の間には小さな村しかない。最終的な装備の確認はテッサでする事になった。おそらく浄化も必要だ。
「テッサは黒染めで有名なんだって言っていたよな?」
「はい。ですが、今は仕事どころではないかもしれませんね。トーラントへ向かう人々は必ずテッサを通るので、たどり着いたら食料の調達が必要です。しかしテッサは工業の街で、穀物などは近隣の村からの仕入れが殆どですから苦しいでしょうね」
「うん。トーラントで会った人達から情報をもらえて良かったよ。ヒルダーヌ様が送ってくれたキールやテポの実が役立つと良いなぁ。他にも色々マジックバッグに詰めて来て正解だな。ダリウスのお陰だ」
トーラントに支援された物資の一部を途中の街に配給する為に勝ち取って来た。宰相がぐずったが、ダリウスが『全部俺ん家に戻す方が良いか?』とにこやかに脅したのだった。宰相は憤怒の表情で睨み付けていたが、ダリウスは鼻で笑って了承させた。メンタルの強さは本当に感心する。
「さあ、着きました。情報収集もしますので、今日はテッサに宿泊します」
「うん。俺も浄化や治癒を頑張ってやろう!」
「私も手伝うから無理はするな。王都での浄化に備えて体調を崩さない様にな?」
「分かってるよ。でも、困っている人がいたら精一杯の事をしてあげたいんだ。魔石も使うよ。それに、補充のエッチじゃなくて、ちゃんとシたいからさ」
エッチ=補充の構図はなくしたい。それはお互いにとって辛いから。心配をかけない様に気をつけようと思っている。王都だけは必要になるだろうから、それは全員で話し合っている。
「ジュンヤ様。そんな顔をしたら可愛いくて隠してしまいたくなります」
「これ以上魅了される者は増やしたくない……」
どんな顔をしているのかは分からないけど、俺も四人以上の相手なんて現れないと思っているから安心して欲しいな。
「神子!!」
背後から声をかけられて振り向くと、レニドールだった。
「レニドール?」
「違う。我だ」
「ラジート様? 何かありましたかっ?!」
「何がだ?」
「呪が強まると出て来られるのではありませんか?」
「違う。神子と話したかったからだ。そこの者共は控えろ」
「「なっ?!」」
エルビスとマテリオ、近くで控えていたラドクルト達も一瞬怒りが見えた。
「姿が見えるけれど、話が聞こえない程度に離れているくらいの距離でも良いですか? 彼らにも役目がありますから」
「まぁ仕方がない。いざとなれば人など簡単に蹴散らせる」
蹴散らさないでください。みんなも人間の常識が通じないラジート相手なので、仕方なく少しだけ離れた。
「それで、どうなさったんですか?」
「我の力が吸い取られ続けているのだ。呪を受けた当初は瘴気が集まり続け、我は雁字搦めにされアレに操られていた。しかし、泉で浄化される前から我が力がアレに流れ始めたのだ。故に、このままではアレが我が力を得る事になろう」
「えっ?! そんな! ラジート様はどうなるんですか?」
「力を完全に奪われれば、恐らく我は消えるであろう」
「っ?!」
ラジートが消える? この神様は、正直言って我儘だし自由奔放で振り回されるけど、レニドールを守ろうとしてくれて、俺の事も守ってくれた。
「ナトルがラジート様になるという事ですか?」
「力の移行のみだろう。アレは山や大地を守る気はない筈だ。アレの望みはそなた一人故。そうなれば、大地の守護は消え、この地は荒れ始めるだろう」
「絶対にナトルを倒しますから! 諦めないでくださいね! この事は仲間に話しても良いですか?」
ラジートは少しの間沈黙していた。
「庇護者達のみにしろ。人間に同情や憐憫の目で見られたくない」
「分かりました」
俺はラジートの手を握った。
「任せてください。必ず、あなたを開放して見せます」
「……神子」
「っ? んっ!? んんっ!」
一瞬の隙にキスされて口腔を舐めまわされた。必死で胸を押し返して逃れた。
「はぁっ……! だめですよ! こんな事は!」
「そなたは面白い。我はメイリルを愛しているが、そなたも愛しいと感じる。刹那の時を生きる人間を庇護するのとは違う。特別な何かをそなたは持っているのだ」
「ラジート様、俺は……」
「そなたが我を愛さぬのは分かっている。だが、我が消えるか戻るか。それまではそなたを愛でる事を許せ。口付けのみで良い。そなたと口付けると、我の中の淀みが薄らぎ苦痛が引いてゆくのだ。」
瘴気に塗れていた時に苦しかったのは知っていた。だが、今でも苦痛を感じているとは知らなかった。
「手を介しての浄化ではだめですか?」
キスは大事な人としたいんだ。これは俺にとって、とても大事な事だった。
「足りぬ。だが」
素早くその腕の中に抱き留められた。
「こうして、触れる部分が大きければいくらかマシだ」
どうしよう。キスよりは許容範囲か?
「みんなにもちゃんと説明します。それで良いですね?」
「良い」
べったりと俺に抱きついたラジートにため息をつく。王都の浄化終了までとはいえ、嫉妬深い恋人達の許可をどうやって得ようかと愛する者達へ視線を巡らした。
「ラジート。何をしている」
ベリッと引き剥がしに来たダリウスの怖い顔にビビってしまう。
「ダリウス。説明するから、全員集まって欲しいんだ」
恋人達に説明をして渋々許可を貰った。しかし、それぞれのお願いもしっかりと要求される事になった。ツケが多すぎて解決後の要求が怖い。だけど、みんなのお願いならどんなものでも聞いてやろうと思っている。みんなが俺を特別に思う様に、俺がどれだけ特別に思っているのか理解して欲しいからさ。
「よし! じゃあ、テッサの浄化を始めよう!」
気合を一発入れて広場や治療院へと向かうと、たくさんの人たちが広場に集まって平伏していた。
「私はテッサの村長をしております。殿下と神子のご来訪を歓迎いたします」
「村長、楽にせよ。皆も平伏せずとも良い。まずは病の重い者からジュンヤが浄化をしてくれる。さぁ、立つが良い」
おずおずと立ち上がり、一礼をする。俺は治療院へ案内して貰い浄化をして、その後村全体を浄化すると決めた。
「こちらには神官はいるんですか?」
「いいえ。月に二回ほど巡回の方が来るだけです」
「そうですか」
治癒が出来る人間は限られている。すべての町や村に配置するのは難しい。
「こちらです」
「っ!」
これまで何度見た光景だろう。正気の臭いが籠り、苦しげな呻き声があちこちから聞こえている。
「マテリオ、マナ、ソレス」
「「はい」」
「ああ」
それぞれが自分の役目を全うする為に患者のベッドに寄り添い魔石をつかい浄化をする。小さな魔石がいくつも粉々に砕け散って行く。
「神子様っ! どうかうちの孫を助けて下さいっ!!」
縋り付いて来たお爺さんは村長に諫められたが、話を聞いてあげたい。『孫を助けて欲しい』と言っているが、お爺さん自身も顔色が悪い。
「ちゃんとお孫さんも浄化しますから心配しないでください。彼はなんて名前ですか?」
「ニルバです」
「分かりました」
お孫さんは幼い少年で痛々しい。俺は意識のないニルバ君の手を握って、体内に巣食う瘴気を引き出し浄化した。
「っ、うぅ……ん」
「ニルバッ?! 眼を覚ましたのかっ?!」
「お爺、ちゃん?」
「ニルバ!! 良かった!! 神子様が助けて下さったぞ!」
「ありが、とう、みこ様。父さんと、かぁさんは……?」
「浄化して下さった! 大丈夫だ!」
浄化した中に彼の家族もいたらしい。俺はニルバ君にほほ笑みかけた。
「目が覚めて良かった。ご飯をしっかり食べて、元気になるんだよ?」
お爺さんは泣きながらニルバ君を抱きしめていた。だが、お爺さんも浄化をしなくちゃいけない。
「お爺さん、手を貸して下さい」
「え?」
俺はお爺さんの手を取って浄化をした。
「あぁ……これが神子様のお力……」
「これであなたも大丈夫です」
「神子様。儂はキリルと申します。息子達を救って下さった御恩は、必ずやお返しいたします!」
「そんな。ご無理はしないで下さい! 俺は自分にやれる事をしただけです」
深々と頭を下げるキリルさんや患者達に別れを告げ、俺はテッサを丸ごと浄化する為にもう一度広場へ戻った。
「ジュンヤ、準備が出来た。民に慈悲をかけてやってくれ」
慈悲をかけるなんて、そんなお偉い人間じゃない。でも、希望がなければ人は生きられないから…。
ティア達が考えた演出をされ、マテリオの手を借りて水を大々的に浄化し手渡して行く。痩せ細った人達が笑顔を向けてくれる時、誰かを救う力を持った事に感謝をするのだった。
ーーーーーーーー
次話ナンバリングで二話ありますが、長くて分けただけですので大丈夫かと思います。
余談ですが、番外編のエルビスルートを読んでいるとリンクしていると気がつく筈です。ここまで長かった!!
だが、普段なら申し訳なさそうにするエルビスが堂々と俺の世話をやきドヤ顔をしているのを見て、何かが吹っ切れたのならこれで良かったんだと思った。甘い雰囲気の名残りを惜しむ様に、大事に大事に抱き上げて馬車に乗せてくれた。
今、俺の馬車はエルビスと侍従がどちらか一人、そしてマテリオが乗る体制になっている。非戦闘員である俺達は、万が一に備えて離れない様にと同乗する事になった。
「もう襲われる事はないと信じたいですが、宰相は怪しいですね」
エルビスがため息をついた。
「浄化の神子を害すればどうなるか分からない筈はありませんが、宰相の一派はジュンヤを明らかに狙っていますね。ナトルの集めた信奉者達も、どう思っているのか。ですから、離れない方が良いという判断は正しいと思います」
「そうだなぁ。ナトルの仲間がいなくなったとは思えないし。宰相の方も、俺が一人になる隙を伺っていたよな。さすがに王都の浄化前に手は出して来なかったけど、戻ったらどうなるか」
ふぅっと、三人でまたため息が漏れてしまう。
「あ、ところで。王妃様と残っている騎士達は無事かなぁ。王都に向かったスレイトさんも心配だよ」
「隠し事はしたくないのでお教えしますが、最近は転送しても数回に一度しか成功できず、あちらからの連絡も途絶えがちだそうです」
「そんなっ」
「魔道士に問題が起きているのかもしれない。だが、今は向かうしかない」
「そうだな」
間もなくテッサという町だ。そこまで行けば二日で王都へと着く。テッサと王都の間には小さな村しかない。最終的な装備の確認はテッサでする事になった。おそらく浄化も必要だ。
「テッサは黒染めで有名なんだって言っていたよな?」
「はい。ですが、今は仕事どころではないかもしれませんね。トーラントへ向かう人々は必ずテッサを通るので、たどり着いたら食料の調達が必要です。しかしテッサは工業の街で、穀物などは近隣の村からの仕入れが殆どですから苦しいでしょうね」
「うん。トーラントで会った人達から情報をもらえて良かったよ。ヒルダーヌ様が送ってくれたキールやテポの実が役立つと良いなぁ。他にも色々マジックバッグに詰めて来て正解だな。ダリウスのお陰だ」
トーラントに支援された物資の一部を途中の街に配給する為に勝ち取って来た。宰相がぐずったが、ダリウスが『全部俺ん家に戻す方が良いか?』とにこやかに脅したのだった。宰相は憤怒の表情で睨み付けていたが、ダリウスは鼻で笑って了承させた。メンタルの強さは本当に感心する。
「さあ、着きました。情報収集もしますので、今日はテッサに宿泊します」
「うん。俺も浄化や治癒を頑張ってやろう!」
「私も手伝うから無理はするな。王都での浄化に備えて体調を崩さない様にな?」
「分かってるよ。でも、困っている人がいたら精一杯の事をしてあげたいんだ。魔石も使うよ。それに、補充のエッチじゃなくて、ちゃんとシたいからさ」
エッチ=補充の構図はなくしたい。それはお互いにとって辛いから。心配をかけない様に気をつけようと思っている。王都だけは必要になるだろうから、それは全員で話し合っている。
「ジュンヤ様。そんな顔をしたら可愛いくて隠してしまいたくなります」
「これ以上魅了される者は増やしたくない……」
どんな顔をしているのかは分からないけど、俺も四人以上の相手なんて現れないと思っているから安心して欲しいな。
「神子!!」
背後から声をかけられて振り向くと、レニドールだった。
「レニドール?」
「違う。我だ」
「ラジート様? 何かありましたかっ?!」
「何がだ?」
「呪が強まると出て来られるのではありませんか?」
「違う。神子と話したかったからだ。そこの者共は控えろ」
「「なっ?!」」
エルビスとマテリオ、近くで控えていたラドクルト達も一瞬怒りが見えた。
「姿が見えるけれど、話が聞こえない程度に離れているくらいの距離でも良いですか? 彼らにも役目がありますから」
「まぁ仕方がない。いざとなれば人など簡単に蹴散らせる」
蹴散らさないでください。みんなも人間の常識が通じないラジート相手なので、仕方なく少しだけ離れた。
「それで、どうなさったんですか?」
「我の力が吸い取られ続けているのだ。呪を受けた当初は瘴気が集まり続け、我は雁字搦めにされアレに操られていた。しかし、泉で浄化される前から我が力がアレに流れ始めたのだ。故に、このままではアレが我が力を得る事になろう」
「えっ?! そんな! ラジート様はどうなるんですか?」
「力を完全に奪われれば、恐らく我は消えるであろう」
「っ?!」
ラジートが消える? この神様は、正直言って我儘だし自由奔放で振り回されるけど、レニドールを守ろうとしてくれて、俺の事も守ってくれた。
「ナトルがラジート様になるという事ですか?」
「力の移行のみだろう。アレは山や大地を守る気はない筈だ。アレの望みはそなた一人故。そうなれば、大地の守護は消え、この地は荒れ始めるだろう」
「絶対にナトルを倒しますから! 諦めないでくださいね! この事は仲間に話しても良いですか?」
ラジートは少しの間沈黙していた。
「庇護者達のみにしろ。人間に同情や憐憫の目で見られたくない」
「分かりました」
俺はラジートの手を握った。
「任せてください。必ず、あなたを開放して見せます」
「……神子」
「っ? んっ!? んんっ!」
一瞬の隙にキスされて口腔を舐めまわされた。必死で胸を押し返して逃れた。
「はぁっ……! だめですよ! こんな事は!」
「そなたは面白い。我はメイリルを愛しているが、そなたも愛しいと感じる。刹那の時を生きる人間を庇護するのとは違う。特別な何かをそなたは持っているのだ」
「ラジート様、俺は……」
「そなたが我を愛さぬのは分かっている。だが、我が消えるか戻るか。それまではそなたを愛でる事を許せ。口付けのみで良い。そなたと口付けると、我の中の淀みが薄らぎ苦痛が引いてゆくのだ。」
瘴気に塗れていた時に苦しかったのは知っていた。だが、今でも苦痛を感じているとは知らなかった。
「手を介しての浄化ではだめですか?」
キスは大事な人としたいんだ。これは俺にとって、とても大事な事だった。
「足りぬ。だが」
素早くその腕の中に抱き留められた。
「こうして、触れる部分が大きければいくらかマシだ」
どうしよう。キスよりは許容範囲か?
「みんなにもちゃんと説明します。それで良いですね?」
「良い」
べったりと俺に抱きついたラジートにため息をつく。王都の浄化終了までとはいえ、嫉妬深い恋人達の許可をどうやって得ようかと愛する者達へ視線を巡らした。
「ラジート。何をしている」
ベリッと引き剥がしに来たダリウスの怖い顔にビビってしまう。
「ダリウス。説明するから、全員集まって欲しいんだ」
恋人達に説明をして渋々許可を貰った。しかし、それぞれのお願いもしっかりと要求される事になった。ツケが多すぎて解決後の要求が怖い。だけど、みんなのお願いならどんなものでも聞いてやろうと思っている。みんなが俺を特別に思う様に、俺がどれだけ特別に思っているのか理解して欲しいからさ。
「よし! じゃあ、テッサの浄化を始めよう!」
気合を一発入れて広場や治療院へと向かうと、たくさんの人たちが広場に集まって平伏していた。
「私はテッサの村長をしております。殿下と神子のご来訪を歓迎いたします」
「村長、楽にせよ。皆も平伏せずとも良い。まずは病の重い者からジュンヤが浄化をしてくれる。さぁ、立つが良い」
おずおずと立ち上がり、一礼をする。俺は治療院へ案内して貰い浄化をして、その後村全体を浄化すると決めた。
「こちらには神官はいるんですか?」
「いいえ。月に二回ほど巡回の方が来るだけです」
「そうですか」
治癒が出来る人間は限られている。すべての町や村に配置するのは難しい。
「こちらです」
「っ!」
これまで何度見た光景だろう。正気の臭いが籠り、苦しげな呻き声があちこちから聞こえている。
「マテリオ、マナ、ソレス」
「「はい」」
「ああ」
それぞれが自分の役目を全うする為に患者のベッドに寄り添い魔石をつかい浄化をする。小さな魔石がいくつも粉々に砕け散って行く。
「神子様っ! どうかうちの孫を助けて下さいっ!!」
縋り付いて来たお爺さんは村長に諫められたが、話を聞いてあげたい。『孫を助けて欲しい』と言っているが、お爺さん自身も顔色が悪い。
「ちゃんとお孫さんも浄化しますから心配しないでください。彼はなんて名前ですか?」
「ニルバです」
「分かりました」
お孫さんは幼い少年で痛々しい。俺は意識のないニルバ君の手を握って、体内に巣食う瘴気を引き出し浄化した。
「っ、うぅ……ん」
「ニルバッ?! 眼を覚ましたのかっ?!」
「お爺、ちゃん?」
「ニルバ!! 良かった!! 神子様が助けて下さったぞ!」
「ありが、とう、みこ様。父さんと、かぁさんは……?」
「浄化して下さった! 大丈夫だ!」
浄化した中に彼の家族もいたらしい。俺はニルバ君にほほ笑みかけた。
「目が覚めて良かった。ご飯をしっかり食べて、元気になるんだよ?」
お爺さんは泣きながらニルバ君を抱きしめていた。だが、お爺さんも浄化をしなくちゃいけない。
「お爺さん、手を貸して下さい」
「え?」
俺はお爺さんの手を取って浄化をした。
「あぁ……これが神子様のお力……」
「これであなたも大丈夫です」
「神子様。儂はキリルと申します。息子達を救って下さった御恩は、必ずやお返しいたします!」
「そんな。ご無理はしないで下さい! 俺は自分にやれる事をしただけです」
深々と頭を下げるキリルさんや患者達に別れを告げ、俺はテッサを丸ごと浄化する為にもう一度広場へ戻った。
「ジュンヤ、準備が出来た。民に慈悲をかけてやってくれ」
慈悲をかけるなんて、そんなお偉い人間じゃない。でも、希望がなければ人は生きられないから…。
ティア達が考えた演出をされ、マテリオの手を借りて水を大々的に浄化し手渡して行く。痩せ細った人達が笑顔を向けてくれる時、誰かを救う力を持った事に感謝をするのだった。
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次話ナンバリングで二話ありますが、長くて分けただけですので大丈夫かと思います。
余談ですが、番外編のエルビスルートを読んでいるとリンクしていると気がつく筈です。ここまで長かった!!
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