上 下
141 / 208
3章

変わりゆく街

しおりを挟む
 騎士棟はどこの町も無骨で機能性重視の造りらしい。だが、豪華すぎるより居心地は良い。会議室を借りて集まった俺達は、遮音をかけてから、さっきまで耐えていた怒りをぶちまけてようやくスッキリした。
 実父をこれでもかと貶すティアにも驚いたし、暴れるのは耐えたダリウスの怒鳴り声、エルビスのノーブレスの独り言、出された茶菓子を無言で粉々にして行くマテリオ、初めて聞くロドリゴ様の祖父への呪詛っぽい愚痴とカオスな時間だった。
 まぁ、俺も尻を揉まれたり体を弄られた怒りをぶちまけたけどね!

「いやぁ~、いっそ清々しい程のクズだったねぇ。でも、やっつけるのに迷いがなくて助かるな」
「ジュ、ジュンヤ様!?」

 俺の言葉にロドリゴ様が驚いている。いや、さっきもこうだったと思うけど?
 
「ロドリゴ殿、ここからが見ものだぜ? 楽しみにしてろよ」
「ダリウス様が本気になられた理由ですね?」
「ああ。だが、ジュンヤは俺達の大事な恋人だから妙な気は起こすなよ」
「もちろんです! 私はただ、命を捧げてお仕えするのみです」

 ダリウスはレミージョの話を聞いたせいか念押しをして、妙な緊張感で居心地が悪い。レミージョがロドリゴ様が俺を好きなんて変な事を言うからだ! でも、ロドリゴ様は真っ直ぐにダリウスを見据えている。その様子を見ていると、レミージョの考え過ぎじゃないか?そう思い始めていた。

「それなら良い。是非態度で示してくれ」
「はい」
「ダリウス、そこまでにしておけ」

 さすがにしつこいと思われたのか、ティアが諫める。

「——はい」

 ダリウスは、不満そうにロドリゴ様から視線を逸らした。

「ロドリゴ殿。御尊父は我が父同様、不治の病の様だな」
「はい。私もそう思います。此度の不遜な態度で、ほとほと愛想が尽きました。いえ…全て病のせいですね。神子の奇跡も効かぬとは残念な事です」

 腹を括ったロドリゴ様は、完全に宰相を敵として動くつもりの様だ。身内を捌くのはきっと辛いよな。

「私はチェスター様とも面会をしなくては。ジュンヤは来なくて良い。ダリウスと安全な騎士棟で待っていてくれ」
「えっ!」
「頼む。何が起きるか分からない状況で彼らと接触させたくない。それに、私はチェスター様と込み入った話もある」
「分かった。けど、大丈夫?」

 ティアに頼むなんて言われたら無理を押し通せない。ただ、敵地に乗り込むティアが心配だった。

「ケーリーもいるし、アナトリーも連れて行くから心配は無い」
「魔道具じゃなくてアナトリー?」
「そうだ」

 そう言ってニヤリと笑った。あ、なんかエグい事するんだな? うん、行かない方が良いかも。歩く劇薬の様にみんなにも恐れられている彼は、いつも人前には出ない。そんなアナトリーを引き連れて行くなんて……想像したく無いな。

「では、行ってくる」
「もう? 休まないのか?」
「是非ご尊顔を拝したいのでな」

 そういうと、ロドリゴ様やケーリーさん達を引き連れてロドリゴ様の屋敷に向かって行った。俺達の案内は前回来た時の騎士がしてくれる事になっている。

「大丈夫かなぁ。あれだけ警護がいるから危険なんかないよな!?」
「大丈夫だろ。むしろ、チェスター様が青い顔をするのが見れなくて残念だ。クックック」
「ダリウス、どういう事?」
「ん~?」

 にぱっと笑うと、俺の肩を抱いた。

「ほら、例の録音機の事、覚えているか?」
「アナトリーが作った奴だよな」
「いやぁ……良いもん作ってくれたよなぁ。あれが役に立つ日が来たって事さ」

 良い顔だ……証言などを集めたんだろうか。もしや盗聴? いずれ話してくれるよな?

「すぐに分かるが、今は自由に動いて欲しい。頼んだぜ?」
「逆に悪い方に動く事はないのか?」
「心配すんな。お前が動いて悪くなる事はねぇから、思う存分やれよ」

 そういう事なら、好きにやらせて貰おう。

「俺のしたい様に動いて良いなら、外にいる避難民の浄化をしたい。準備に時間がかかるなら明日やる。それと神殿に行きたいなぁ。行く時はマテリオも来てくれるよな?」
「もちろんだ」
「ジュンヤ様、神殿に行かれるんですか?」

 エルビスが心配そうだ。グスタフ司教の事を心配しているのかもしれない。

「行くよ。司教様としたいからね」
「ジュンヤ、避難民の浄化はどうやってやるつもりだぁ?」
「うーん。やっぱり水かな。食料問題がなければスープの配給が良いんだけど」

 確認をすれば、浄化後は厳重に警戒をしていた様だし怪しい動きもなかったそうだ。だから魔石を使った水にするか。ただし、小さい方の魔石を使う。国王や宰相などの問題があるし、倒れてはいられないからな。

「それなら大丈夫だ。ピパカノの様子を見て、兄上に食糧支援を頼んでおいた。二日前に届いたそうだからキールの実も十分にあるし、他にも日持ちのする野菜を送ってくれている。」
「ダリウス……ありがとう。それと、ヒルダーヌ様にもお礼を言っおいてくれるか?」
「自分で言え。」
「ううん。ダリウスが言ってくれ」
「おう……」

 ヒルダーヌ様との和解後、連絡を取っていたのを知らなかったが照れ臭そうにはにかむ様子が可愛くて仕方ない。大きな生き物が照れるのって可愛いよな!

「スープの準備をすると明日になるな。材料の手配とかはハンスに任せておけば大丈夫だ。よし、神殿に行こう」

 俺達はいつものメンバーで神殿に向かう。慌ただしいのでレナッソーの騎士に気遣われたが、道中座りっぱなしで来たので動いている方が良い。念の為先ぶれはして貰い、街の様子を見ながら向かう。もう馬車はうんざりだし、歩ける距離なので徒歩移動にしていると、あちこちから声をかけられた。

「神子様!先日はありがとうございました!」
「あの、良かったらこちらを召し上がって下さい!!」

 感謝の言葉や、果物などを差し出して来る人などが次々に現れ、その表情は一様に明るい。ピエトロが俺に反発したり持ち上げてみたりと行動が一致ないせいで、なるべく接しない様に気をつけていたそうだ。なぜなら、俺を讃えて罰されたり追放された人が大勢いたからだ、と騎士が説明してくれた。吟遊詩人のスフォラさんだけじゃないのか。

「ロドリゴ様がご当主になられたので、ようやく自由に発言できる様になりました」

 晴々とした顔の騎士は、嬉しそうに通りに集まる民を見ていた。

「それに、苦しい生活のせいで出産率が下がっていましたが、希望が出来たので胎珠を求める希望者が増えました。ケローガやユーフォーンなどで胎珠の受精率が上がっているらしく、神子様が立ち寄った街では盛り上がっているそうですよ」
「そ、そうですか」

 良いのか? 良い話なんだよなっ?!

「そりゃあ興味深い話だなぁ~。な? ジュンヤ?」

 ニヤニヤするダリウス。頬を染めるエルビス 。

「と、ところで二人の弟君って? 聞いてはいたけど知らないんだよな」
「サリエド殿下は十八歳で、実際は第二王子ですが継承権がありません。ですので、継承権第二位はオレイアド様です。サリエド殿下は少々お生まれに事情がありまして、ここではお話出来ません。そして、一番下の第四王子がモーリス殿下で十一歳です。おっと、お話ししている間に着いてしまいましたね。」

 神殿の入り口で待機していた神官が恭しく出迎えてくれて奥へと進む。マテリオを掻っさらった反発はあるだろうか? マテリオはいつもと変わらずで、何を考えているのか分からない。まぁ、何かして来たらそれなりの対応をするけどね。応接室に案内され茶を啜っていると、グスタフ司教が現れた。

「これはこれは神子様、わざわざのお運びありがとうございます。山の民の地にある穢れも無事浄化してくださったとお聞きしました! 誠に神子様のお力は素晴らしいですね!」

 大袈裟なくらい褒め称えるグスタフ司教は、病の真相は分からないが媚を売っている様に見えた。

「お久しぶりです。ご病気が癒えた様で何よりです。うちのマナの治癒は素晴らしいでしょう?」

 ニッコリほほ笑んで見せると、その頬が僅かにピクッとしたのを俺は見逃さなかった。あれ? やっぱり仮病でしたか?
 それに、ピエトロに胎珠を渡しまくっていたのはあなたですか? ウルスだったとしても、貴重な物は一人の判断では渡さないと思うんです。

 さて、グスタフ司教の真意は如何に……

 ほほ笑みを湛えたままその目を捕らえ、洗いざらい話して貰うぞ、と決意を固めた。

しおりを挟む
感想 950

あなたにおすすめの小説

魔界最強に転生した社畜は、イケメン王子に奪い合われることになりました

タタミ
BL
ブラック企業に務める社畜・佐藤流嘉。 クリスマスも残業確定の非リア人生は、トラックの激突により突然終了する。 死後目覚めると、目の前で見目麗しい天使が微笑んでいた。 「ここは天国ではなく魔界です」 天使に会えたと喜んだのもつかの間、そこは天国などではなく魔法が当たり前にある世界・魔界だと知らされる。そして流嘉は、魔界に君臨する最強の支配者『至上様』に転生していたのだった。 「至上様、私に接吻を」 「あっ。ああ、接吻か……って、接吻!?なんだそれ、まさかキスですか!?」 何が起こっているのかわからないうちに、流嘉の前に現れたのは美しい4人の王子。この4王子にキスをして、結婚相手を選ばなければならないと言われて──!?

旦那様が多すぎて困っています!? 〜逆ハー異世界ラブコメ〜

ことりとりとん
恋愛
男女比8:1の逆ハーレム異世界に転移してしまった女子大生・大森泉 転移早々旦那さんが6人もできて、しかも魔力無限チートがあると教えられて!? のんびりまったり暮らしたいのにいつの間にか国を救うハメになりました…… イケメン山盛りの逆ハーです 前半はラブラブまったりの予定。後半で主人公が頑張ります 小説家になろう、カクヨムに転載しています

弟が生まれて両親に売られたけど、売られた先で溺愛されました

にがり
BL
貴族の家に生まれたが、弟が生まれたことによって両親に売られた少年が、自分を溺愛している人と出会う話です

【完結】伴侶がいるので、溺愛ご遠慮いたします

  *  
BL
3歳のノィユが、カビの生えてないご飯を求めて結ばれることになったのは、北の最果ての領主のおじいちゃん……え、おじいちゃん……!? しあわせの絶頂にいるのを知らない王子たちが吃驚して憐れんで溺愛してくれそうなのですが、結構です! めちゃくちゃかっこよくて可愛い伴侶がいますので! 本編完結しました! 時々おまけを更新しています。

性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました

まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。 性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。 (ムーンライトノベルにも掲載しています)

幽閉王子は最強皇子に包まれる

皇洵璃音
BL
魔法使いであるせいで幼少期に幽閉された第三王子のアレクセイ。それから年数が経過し、ある日祖国は滅ぼされてしまう。毛布に包まっていたら、敵の帝国第二皇子のレイナードにより連行されてしまう。処刑場にて皇帝から二つの選択肢を提示されたのだが、二つ目の内容は「レイナードの花嫁になること」だった。初めて人から求められたこともあり、花嫁になることを承諾する。素直で元気いっぱいなド直球第二皇子×愛されることに慣れていない治癒魔法使いの第三王子の恋愛物語。 表紙担当者:白す(しらす)様に描いて頂きました。

美貌の騎士候補生は、愛する人を快楽漬けにして飼い慣らす〜僕から逃げないで愛させて〜

飛鷹
BL
騎士養成学校に在席しているパスティには秘密がある。 でも、それを誰かに言うつもりはなく、目的を達成したら静かに自国に戻るつもりだった。 しかし美貌の騎士候補生に捕まり、快楽漬けにされ、甘く喘がされてしまう。 秘密を抱えたまま、パスティは幸せになれるのか。 美貌の騎士候補生のカーディアスは何を考えてパスティに付きまとうのか……。 秘密を抱えた二人が幸せになるまでのお話。

【完結】最強公爵様に拾われた孤児、俺

福の島
BL
ゴリゴリに前世の記憶がある少年シオンは戸惑う。 目の前にいる男が、この世界最強の公爵様であり、ましてやシオンを養子にしたいとまで言ったのだから。 でも…まぁ…いっか…ご飯美味しいし、風呂は暖かい… ……あれ…? …やばい…俺めちゃくちゃ公爵様が好きだ… 前置きが長いですがすぐくっつくのでシリアスのシの字もありません。 1万2000字前後です。 攻めのキャラがブレるし若干変態です。 無表情系クール最強公爵様×のんき転生主人公(無自覚美形) おまけ完結済み

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。