上 下
140 / 208
3章

俺、クズに会う

しおりを挟む
あけましておめでとうございます。新年にこのタイトルか?という感じですが、本年もよろしくお願いします。

ーーーーーーーーーー

 領主館に着くと、以前来た時よりなんだか荒れている気がした。

「ロドリゴ! どこに行っていた! 陛下がテポの糖蜜漬けをご所望だ。早く用意せよ。……ん?」

 無駄に豪華な装束を纏った爺さんがイライラした様子でロドリゴ様に命令をした。何様だよ。

「これはこれはエリアス殿下! 巡行は順調なご様子で何よりでございますなぁ!」

 痩せぎすで偉そうな爺さんはティアにも偉そうな態度だ。なるほど、こいつが宰相か。

「宰相。父上は何処だ? それと、オレイアド以外の弟達はどうした?」
「おお、陛下はサロンでおくつろぎですよ。いやはや、王都は寛ぐ時間も取れずお疲れでしたからね。サリエド殿下は王都に残り、モーリス殿下はカルマド領へ避難しましたよ。さて…こちらは神子のジュンヤ殿、だな。浄化、ご苦労だった」

 俺達の視線があってピリッとした空気が走る。どこまでも上から目線で来る気か。今は黙っているが、しっかり貯金するから覚悟しとけよ。

「——初めまして。ジュンヤ・ミナトです」
「初めてではない。男を惑わす容姿に磨きがかかっているようじゃな。これ以上は誑かさないように頼むよ、ハッハッハ」

 うん。後で見てろよ? ティア達もブチギレそうだが、どうせ後からガッツリ締めるから。油断させといてやっちまうから我慢しろって言い含めているけど、ヤバいレベルの糞ジジイだな。

「お祖父様。すぐに準備させますが、まずは殿下を陛下の元へお連れしたいのです」
「まぁ、それもそうだな。殿下、ご案内しましょう」

 この宰相にしたら自分の家ではあるけれど、家督を継いだのはロドリゴ様だ。だから本当はロドリゴ様がするべき事を宰相が全部やるつもりらしい。ロドリゴ様を見れば、苦笑して後に続いていた。

「陛下、エリアス殿下が参られましたぞ」

 家臣の癖に随分馴れ馴れしい仕草で陛下に近づく。ソファでゆったりと寛ぐ王の姿は、記憶の中より少し痩せていた。

「おお、エリアスか。遅かったな。トーラントの浄化が出来たというのは本当か?」
「はい、父上。残すは王都のみとなりました」

 えっと、労いの言葉もないんですかっ?! このクソ親父、どれだけティアが大変な思いをしたのか分かってない!!

「ジュンヤとやら、苦しゅうない。近う寄れ」
「はい」

 イラッと来るが、攻撃材料を増やす為、今は我慢だ。色々探りたいしな。ギリギリ手が届かない位置まで近寄ると、手を伸ばしグイッと引き寄せられた。

「っ?!」
「そなた、あの頃より輝きを増しておるな」

 尻を撫でられて、とっさに体を引いてしまうが、腕はしっかり掴まれ腕の中に囲われてしまう。

「陛下、離して下さい」
「父上、お戯れはおやめ下さい」
「これくらい些細な事だろう? 真実はジェイコブ大司教より聞いたぞ。そなた達、の恋人となったと聞いたぞ。毎日これで楽しんでおるのだろう。少しばかり貸せ。私は執務で疲れ切り、少々楽しみが必要だ」

 あんたの仕事は見てないが、評判は酷いもんですけど? なんだかんだ言いながら体を弄って来て、腹わたは煮えくり返っている。

「ジュンヤは道具ではありません。例えのお言葉でも応じられません」
「ほう……逆らうか」
「とんでもありません、陛下。ただ、ジュンヤは特別なのです。男娼の様に扱うのはおやめ下さい。それに、ジュンヤをこれと呼ぶのはおやめ下さい。国を救ってくれる神子ですよ」

 ティア……陛下と睨み合う二人に、周囲がビリビリするほどの緊張感が走る

「陛下、発言してもよろしいですか?」

 このままでは話が進まないと思い、思い切って口を挟んだ。

「良いだろう。自らその身を捧げる気になったか?」
「いいえ。陛下はジェイコブ大司教に何をお聞きになったのですか?」
「心を通わせた者が庇護者となるそうだな。だが、そんなもの大したことではないだろう? 体の相性さえ良ければどうとでもなろう。のう? 宰相?」
「ジュンヤ殿、恋人になるのは最初は乗り気でなかったと聞いたぞ? でも絆されて殿下の恋人になったじゃろう?ならば陛下の寵も頂けば、きっと陛下も庇護者となろう。我が国で一番の権威ある陛下が庇護者でないなど、あろう筈がない」

 二人とも、全っ然人の話を聞かないタイプなんですね。心を通わすって、とても重要なパートですよね? そして、ナトルとそっくりな思考に反吐が出る。しかも! このクソ国王は俺の尻を揉み続けている。俺の尻は高くつくぞ。

「ジュンヤとやら。私の浄化をせよ。魔石の効果は良く分かったが、その手で浄化されると殊の外気持ちが良いらしいな」

 いやらしい触り方をしながらにやけている。気持ち悪いんだよ! それに、魔石を奪ったというのは本当らしい。体内に瘴気はほとんど見られない。
 そりゃあ国王が倒れたら困るだろうけど、国民からぶんどったというのが真実なら許せない。ティアとダリウスだけじゃなく、エルビスとマテリオからも怒気を感じる。

「陛下……魔石をお使いになったのですか? 体調はいかがですか?」

 怒りを抑えながら心配そうなフリをして聞く。ちょっと媚びた感じにしたので、ティアの目がカッと見開いた。だが、それに気がつかない国王は目尻を下げて俺を見ていた。

「ああ。美しい光を放って活力が湧いて来たが、王都の瘴気が酷くなるに連れて輝きが消えてしまったのだ。さぁ、私を浄化せよ。ほら、ここへ来い」
「えっ?!」

 膝の上に乗せられて、じっと見つめられた。へー。ふーん。一人で一個使い切ったんだ?

「宰相様はいかがですか?」
「儂の魔石も、もう使えんな。陛下の次は儂を浄化せい」
「そうですか。それは困りました」

 怒りを悲しそうな表情に変換し、俯いて見せると二人が焦り出した。とりあえず残っている瘴気を浄化する。

「おお……やはり、魔石とは違うな……」
「ですが陛下。陛下は私では治せぬ病を抱えておられるご様子です」
「なんだ? どういうことだ?」
「陛下。魔石は私の命を注いでいますから、私の力と同じなのです(多分)。ですから、それで浄化ができないとなりますと、私では治せぬ病(イカれてる)を抱えておられる様です」

 トチ狂ったバカは治せないよな。嘘じゃないし。

「なっ、なんだと?! これ以上は無理だと申すのか?」
「はい。たった今浄化したのは、瘴気で受けた病です。私に出来るのはここまでです」
「どこじゃ? 何が原因だ?!」

 オロオロしだす国王の手に、そっと手を添える。

「分かりません。私は浄化が出来ても、これ以上は治して差し上げられません。お許しを」
「なんだと?! 確かに、最近は頭痛も酷いし、寝つきも悪く体も重い——息苦しい時もある。体が弱って来ておるのか……?!」

 動揺して手がブルブル震えている国王を切なげに見上げる。本当はどこも悪いところはないんだよね、頭以外。どんだけタフなんだよ。ちょっと弱っていたらもう少し優しく出来たかもしれないのに、俺は悲しい……
 ところで、いい加減俺を降ろしてくれないか?

「し、神官!! そなたは神官であろう!! 私を治癒せよっ!!」

 マテリオは静々と前に出て来て跪いた。

「陛下、ジュンヤの力は絶大です。病の根本は治す事が出来ますが、弱った体力を取り戻したりするのは自身の回復力なのです。これは神官の治癒と同じでございます」
「父上。浄化の力は万能ではありません。心身の力は良く療養をして、ようやく回復するのです。瘴気に苛まれたお体は、相当な負担を強いられておられたのでしょう。環境の良いところで療養する事を進言いたします。その間の補佐はさせて頂きます」

 マテリオとティアは俺の芝居の理由に気がついて乗ってくれた。むしろノリノリだな。

「陛下!! 療養などなりません!! 陛下がおられなければ王国はどうなりますか!!」
「エリアスがおるではないか。ああ、余はもう疲れた。しばし休みたい」

 突然気が弱くなったのか、しょぼくれた国王は部屋に引っ込むという。おお、さっさと行け。その前に降ろせ。

「陛下。お体の負担になりますので、降ろして下さいませんか?」
「そなたも来い」
「陛下の御威光を確固たるものにする為に、奉仕活動に行って参ります」
「おお……おお。そうか、私の為に働くか。そなたを冷遇してすまなかったな。この様に愛い奴とは思わなんだ。我が妃に迎えてやろうか?」
「私などよりふさわしい方がいらっしゃいますよ? さぁ、おやすみになってください」

 全力でお断りです。あんたには冷遇されたままでいいです。

 心と裏腹に慈悲深い笑顔でほほ笑むと、俺の手の甲にキスしてから降ろして、ようやく侍従と引っ込んで行った。あぁ~! 手を洗いたい!
 だが、俺が今ブチ切れないのは合法的にあんたの玉座をティアに移譲させたいからだ。誰もが認め、歓喜の中でティアを王として迎えさせる為にな。王を蔑ろにしたなんて絶対に言わせない!!

「ジュンヤ、儂の事も浄化せい! 早う!!」
「はい」

 うっかり敬称抜いてますね。そっちが本音だよな? まぁ、あんたはお仕置き組ですからね。たっぷり弱音を吐いて貰おうじゃないの。心が弱ると大抵はペラペラ喋るんだよねぇ。証拠はかなり集まっているそうなので、決定打が欲しいな。

「宰相様……?」
「な、なんだ?」

 無言。あえて無言で通す。表情は悲しげに! 睨んじゃダメだぜ、頑張れ俺っ! そして、一応浄化はする。これで治せないのは汚い心だけだな。

「いいえ、なんでもありません。——浄化致しました」
「そ、そうか。確かに力が流れ込んできたが、何か問題があるのか?」
「あとは神官にお任せします。神殿へ行かれると良いでしょう。そう、マナとソレスも来ておりますので、彼らを頼って下さい」

 俺は儚げな笑みを使った! 効いているかは分からない!

「ロ、ロドリゴ! 儂はもう行く! 殿下、どうも疲れが出た様です。儂は少し休みますので、失礼」
「ああ、ゆっくり療養されると良い」

 バタバタと去って行く後ろ姿を見送ると、サロンには俺達だけが残った。

「ジュンヤァ~、ありゃなんだぁぁ~?」
「うわっ?!」

 背後からダリウスにがっしりと抱きこまれた。

「あんな顔、した事ねぇだろ」
「効果あるかな? って思ってさ」
「大いにあったな。あり過ぎだ」
「……不味かった?」

 ちょっとやり過ぎたらしいな。

「大丈夫だ。私が守ろう。だが、以後あんな顔は他の者に見せてはならぬぞ」
「そんなにやり過ぎた? 加減が分からなくてさ」
「ジュンヤ様は、艶やかさと清純さという相反する二つの魅力があるのですよ。気をつけてください」
「えっと、悪かった?」

 良い作戦だったと思ったけどなぁ~。失敗かな。

「だが、それがジュンヤの良いところだ。今回はそれが効果的だった様に思う」

 マテリオさん、フォローありがとう。

「ジュンヤ、今のが悪かったと言っているのではない。正直父上の狼狽ウロタエた姿は面白かった。ただ、父上はジュンヤを気に入ってしまった様だ。それが心配なのだ」
「あ、そっちか。俺、絶対みんなと離れない様にするし! 泊まるのも騎士棟だろう? そっちには絶対来ないだろううし。 それと、王都にはいつ出発する? 避難民も心配だよな。浄化して行く?」

 王都に行きたいが、今苦しんでいる人も助けたい。

「そうだな。だが人数が多い。騎士棟へ行ってから話し合おう。ロドリゴ殿、話しがあるが、ここではダメだ。騎士棟へ移動する」
「はい。到着早々申し訳ありませんでした。騎士棟へ参りましょう」

 俺のした事はちょっと怒られたけど、あの二人の焦ってる顔は面白かった。特に宰相。あいつの悪事を暴いて、もっとスッキリしてやる! 国王も反省して貰うぞ。そう思いながら意気揚々と騎士棟へと向かうのだった。
しおりを挟む
感想 950

あなたにおすすめの小説

魔界最強に転生した社畜は、イケメン王子に奪い合われることになりました

タタミ
BL
ブラック企業に務める社畜・佐藤流嘉。 クリスマスも残業確定の非リア人生は、トラックの激突により突然終了する。 死後目覚めると、目の前で見目麗しい天使が微笑んでいた。 「ここは天国ではなく魔界です」 天使に会えたと喜んだのもつかの間、そこは天国などではなく魔法が当たり前にある世界・魔界だと知らされる。そして流嘉は、魔界に君臨する最強の支配者『至上様』に転生していたのだった。 「至上様、私に接吻を」 「あっ。ああ、接吻か……って、接吻!?なんだそれ、まさかキスですか!?」 何が起こっているのかわからないうちに、流嘉の前に現れたのは美しい4人の王子。この4王子にキスをして、結婚相手を選ばなければならないと言われて──!?

旦那様が多すぎて困っています!? 〜逆ハー異世界ラブコメ〜

ことりとりとん
恋愛
男女比8:1の逆ハーレム異世界に転移してしまった女子大生・大森泉 転移早々旦那さんが6人もできて、しかも魔力無限チートがあると教えられて!? のんびりまったり暮らしたいのにいつの間にか国を救うハメになりました…… イケメン山盛りの逆ハーです 前半はラブラブまったりの予定。後半で主人公が頑張ります 小説家になろう、カクヨムに転載しています

弟が生まれて両親に売られたけど、売られた先で溺愛されました

にがり
BL
貴族の家に生まれたが、弟が生まれたことによって両親に売られた少年が、自分を溺愛している人と出会う話です

幽閉王子は最強皇子に包まれる

皇洵璃音
BL
魔法使いであるせいで幼少期に幽閉された第三王子のアレクセイ。それから年数が経過し、ある日祖国は滅ぼされてしまう。毛布に包まっていたら、敵の帝国第二皇子のレイナードにより連行されてしまう。処刑場にて皇帝から二つの選択肢を提示されたのだが、二つ目の内容は「レイナードの花嫁になること」だった。初めて人から求められたこともあり、花嫁になることを承諾する。素直で元気いっぱいなド直球第二皇子×愛されることに慣れていない治癒魔法使いの第三王子の恋愛物語。 表紙担当者:白す(しらす)様に描いて頂きました。

性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました

まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。 性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。 (ムーンライトノベルにも掲載しています)

【完結】伴侶がいるので、溺愛ご遠慮いたします

  *  
BL
3歳のノィユが、カビの生えてないご飯を求めて結ばれることになったのは、北の最果ての領主のおじいちゃん……え、おじいちゃん……!? しあわせの絶頂にいるのを知らない王子たちが吃驚して憐れんで溺愛してくれそうなのですが、結構です! めちゃくちゃかっこよくて可愛い伴侶がいますので! 本編完結しました! 時々おまけを更新しています。

美貌の騎士候補生は、愛する人を快楽漬けにして飼い慣らす〜僕から逃げないで愛させて〜

飛鷹
BL
騎士養成学校に在席しているパスティには秘密がある。 でも、それを誰かに言うつもりはなく、目的を達成したら静かに自国に戻るつもりだった。 しかし美貌の騎士候補生に捕まり、快楽漬けにされ、甘く喘がされてしまう。 秘密を抱えたまま、パスティは幸せになれるのか。 美貌の騎士候補生のカーディアスは何を考えてパスティに付きまとうのか……。 秘密を抱えた二人が幸せになるまでのお話。

【完結】最強公爵様に拾われた孤児、俺

福の島
BL
ゴリゴリに前世の記憶がある少年シオンは戸惑う。 目の前にいる男が、この世界最強の公爵様であり、ましてやシオンを養子にしたいとまで言ったのだから。 でも…まぁ…いっか…ご飯美味しいし、風呂は暖かい… ……あれ…? …やばい…俺めちゃくちゃ公爵様が好きだ… 前置きが長いですがすぐくっつくのでシリアスのシの字もありません。 1万2000字前後です。 攻めのキャラがブレるし若干変態です。 無表情系クール最強公爵様×のんき転生主人公(無自覚美形) おまけ完結済み

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。