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3章
俺、クズに会う
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あけましておめでとうございます。新年にこのタイトルか?という感じですが、本年もよろしくお願いします。
ーーーーーーーーーー
領主館に着くと、以前来た時よりなんだか荒れている気がした。
「ロドリゴ! どこに行っていた! 陛下がテポの糖蜜漬けをご所望だ。早く用意せよ。……ん?」
無駄に豪華な装束を纏った爺さんがイライラした様子でロドリゴ様に命令をした。何様だよ。
「これはこれはエリアス殿下! 巡行は順調なご様子で何よりでございますなぁ!」
痩せぎすで偉そうな爺さんはティアにも偉そうな態度だ。なるほど、こいつが宰相か。
「宰相。父上は何処だ? それと、オレイアド以外の弟達はどうした?」
「おお、陛下はサロンでおくつろぎですよ。いやはや、王都は寛ぐ時間も取れずお疲れでしたからね。サリエド殿下は王都に残り、モーリス殿下はカルマド領へ避難しましたよ。さて…こちらは神子のジュンヤ殿、だな。浄化、ご苦労だった」
俺達の視線があってピリッとした空気が走る。どこまでも上から目線で来る気か。今は黙っているが、しっかり貯金するから覚悟しとけよ。
「——初めまして。ジュンヤ・ミナトです」
「初めてではない。男を惑わす容姿に磨きがかかっているようじゃな。これ以上は誑かさないように頼むよ、ハッハッハ」
うん。後で見てろよ? ティア達もブチギレそうだが、どうせ後からガッツリ締めるから。油断させといてやっちまうから我慢しろって言い含めているけど、ヤバいレベルの糞ジジイだな。
「お祖父様。すぐに準備させますが、まずは殿下を陛下の元へお連れしたいのです」
「まぁ、それもそうだな。殿下、ご案内しましょう」
この宰相にしたら自分の家ではあるけれど、家督を継いだのはロドリゴ様だ。だから本当はロドリゴ様がするべき事を宰相が全部やるつもりらしい。ロドリゴ様を見れば、苦笑して後に続いていた。
「陛下、エリアス殿下が参られましたぞ」
家臣の癖に随分馴れ馴れしい仕草で陛下に近づく。ソファでゆったりと寛ぐ王の姿は、記憶の中より少し痩せていた。
「おお、エリアスか。遅かったな。トーラントの浄化が出来たというのは本当か?」
「はい、父上。残すは王都のみとなりました」
えっと、労いの言葉もないんですかっ?! このクソ親父、どれだけティアが大変な思いをしたのか分かってない!!
「ジュンヤとやら、苦しゅうない。近う寄れ」
「はい」
イラッと来るが、攻撃材料を増やす為、今は我慢だ。色々探りたいしな。ギリギリ手が届かない位置まで近寄ると、手を伸ばしグイッと引き寄せられた。
「っ?!」
「そなた、あの頃より輝きを増しておるな」
尻を撫でられて、とっさに体を引いてしまうが、腕はしっかり掴まれ腕の中に囲われてしまう。
「陛下、離して下さい」
「父上、お戯れはおやめ下さい」
「これくらい些細な事だろう? 真実はジェイコブ大司教より聞いたぞ。そなた達、これの恋人となったと聞いたぞ。毎日これで楽しんでおるのだろう。少しばかり貸せ。私は執務で疲れ切り、少々楽しみが必要だ」
あんたの仕事は見てないが、評判は酷いもんですけど? なんだかんだ言いながら体を弄って来て、腹わたは煮えくり返っている。
「ジュンヤは道具ではありません。例え陛下のお言葉でも応じられません」
「ほう……逆らうか」
「とんでもありません、陛下。ただ、ジュンヤは特別なのです。男娼の様に扱うのはおやめ下さい。それに、ジュンヤをこれと呼ぶのはおやめ下さい。国を救ってくれる神子ですよ」
ティア……陛下と睨み合う二人に、周囲がビリビリするほどの緊張感が走る
「陛下、発言してもよろしいですか?」
このままでは話が進まないと思い、思い切って口を挟んだ。
「良いだろう。自らその身を捧げる気になったか?」
「いいえ。陛下はジェイコブ大司教に何をお聞きになったのですか?」
「心を通わせた者が庇護者となるそうだな。だが、そんなもの大したことではないだろう? 体の相性さえ良ければどうとでもなろう。のう? 宰相?」
「ジュンヤ殿、恋人になるのは最初は乗り気でなかったと聞いたぞ? でも絆されて殿下の恋人になったじゃろう?ならば陛下の寵も頂けば、きっと陛下も庇護者となろう。我が国で一番の権威ある陛下が庇護者でないなど、あろう筈がない」
二人とも、全っ然人の話を聞かないタイプなんですね。心を通わすって、とても重要なパートですよね? そして、ナトルとそっくりな思考に反吐が出る。しかも! このクソ国王は俺の尻を揉み続けている。俺の尻は高くつくぞ。
「ジュンヤとやら。私の浄化をせよ。魔石の効果は良く分かったが、その手で浄化されると殊の外気持ちが良いらしいな」
いやらしい触り方をしながらにやけている。気持ち悪いんだよ! それに、魔石を奪ったというのは本当らしい。体内に瘴気はほとんど見られない。
そりゃあ国王が倒れたら困るだろうけど、国民からぶんどったというのが真実なら許せない。ティアとダリウスだけじゃなく、エルビスとマテリオからも怒気を感じる。
「陛下……魔石をお使いになったのですか? 体調はいかがですか?」
怒りを抑えながら心配そうなフリをして聞く。ちょっと媚びた感じにしたので、ティアの目がカッと見開いた。だが、それに気がつかない国王は目尻を下げて俺を見ていた。
「ああ。美しい光を放って活力が湧いて来たが、王都の瘴気が酷くなるに連れて輝きが消えてしまったのだ。さぁ、私を浄化せよ。ほら、ここへ来い」
「えっ?!」
膝の上に乗せられて、じっと見つめられた。へー。ふーん。一人で一個使い切ったんだ?
「宰相様はいかがですか?」
「儂の魔石も、もう使えんな。陛下の次は儂を浄化せい」
「そうですか。それは困りました」
怒りを悲しそうな表情に変換し、俯いて見せると二人が焦り出した。とりあえず残っている瘴気を浄化する。
「おお……やはり、魔石とは違うな……」
「ですが陛下。陛下は私では治せぬ病を抱えておられるご様子です」
「なんだ? どういうことだ?」
「陛下。魔石は私の命を注いでいますから、私の力と同じなのです(多分)。ですから、それで浄化ができないとなりますと、私では治せぬ病(イカれてる)を抱えておられる様です」
トチ狂ったバカは治せないよな。嘘じゃないし。
「なっ、なんだと?! これ以上は無理だと申すのか?」
「はい。たった今浄化したのは、瘴気で受けた病です。私に出来るのはここまでです」
「どこじゃ? 何が原因だ?!」
オロオロしだす国王の手に、そっと手を添える。
「分かりません。私は浄化が出来ても、これ以上は治して差し上げられません。お許しを」
「なんだと?! 確かに、最近は頭痛も酷いし、寝つきも悪く体も重い——息苦しい時もある。体が弱って来ておるのか……?!」
動揺して手がブルブル震えている国王を切なげに見上げる。本当はどこも悪いところはないんだよね、頭以外。どんだけタフなんだよ。ちょっと弱っていたらもう少し優しく出来たかもしれないのに、俺は悲しい……
ところで、いい加減俺を降ろしてくれないか?
「し、神官!! そなたは神官であろう!! 私を治癒せよっ!!」
マテリオは静々と前に出て来て跪いた。
「陛下、ジュンヤの力は絶大です。病の根本は治す事が出来ますが、弱った体力を取り戻したりするのは自身の回復力なのです。これは神官の治癒と同じでございます」
「父上。浄化の力は万能ではありません。心身の力は良く療養をして、ようやく回復するのです。瘴気に苛まれたお体は、相当な負担を強いられておられたのでしょう。環境の良いところで療養する事を進言いたします。その間の補佐はさせて頂きます」
マテリオとティアは俺の芝居の理由に気がついて乗ってくれた。むしろノリノリだな。
「陛下!! 療養などなりません!! 陛下がおられなければ王国はどうなりますか!!」
「エリアスがおるではないか。ああ、余はもう疲れた。しばし休みたい」
突然気が弱くなったのか、しょぼくれた国王は部屋に引っ込むという。おお、さっさと行け。その前に降ろせ。
「陛下。お体の負担になりますので、降ろして下さいませんか?」
「そなたも来い」
「陛下の御威光を確固たるものにする為に、奉仕活動に行って参ります」
「おお……おお。そうか、私の為に働くか。そなたを冷遇してすまなかったな。この様に愛い奴とは思わなんだ。我が妃に迎えてやろうか?」
「私などよりふさわしい方がいらっしゃいますよ? さぁ、おやすみになってください」
全力でお断りです。あんたには冷遇されたままでいいです。
心と裏腹に慈悲深い笑顔でほほ笑むと、俺の手の甲にキスしてから降ろして、ようやく侍従と引っ込んで行った。あぁ~! 手を洗いたい!
だが、俺が今ブチ切れないのは合法的にあんたの玉座をティアに移譲させたいからだ。誰もが認め、歓喜の中でティアを王として迎えさせる為にな。王を蔑ろにしたなんて絶対に言わせない!!
「ジュンヤ、儂の事も浄化せい! 早う!!」
「はい」
うっかり敬称抜いてますね。そっちが本音だよな? まぁ、あんたはお仕置き組ですからね。たっぷり弱音を吐いて貰おうじゃないの。心が弱ると大抵はペラペラ喋るんだよねぇ。証拠はかなり集まっているそうなので、決定打が欲しいな。
「宰相様……?」
「な、なんだ?」
無言。あえて無言で通す。表情は悲しげに! 睨んじゃダメだぜ、頑張れ俺っ! そして、一応浄化はする。これで治せないのは汚い心だけだな。
「いいえ、なんでもありません。——浄化は致しました」
「そ、そうか。確かに力が流れ込んできたが、何か問題があるのか?」
「あとは神官にお任せします。神殿へ行かれると良いでしょう。そう、マナとソレスも来ておりますので、彼らを頼って下さい」
俺は儚げな笑みを使った! 効いているかは分からない!
「ロ、ロドリゴ! 儂はもう行く! 殿下、どうも疲れが出た様です。儂は少し休みますので、失礼」
「ああ、ゆっくり療養されると良い」
バタバタと去って行く後ろ姿を見送ると、サロンには俺達だけが残った。
「ジュンヤァ~、ありゃなんだぁぁ~?」
「うわっ?!」
背後からダリウスにがっしりと抱きこまれた。
「あんな顔、した事ねぇだろ」
「効果あるかな? って思ってさ」
「大いにあったな。あり過ぎだ」
「……不味かった?」
ちょっとやり過ぎたらしいな。
「大丈夫だ。私が守ろう。だが、以後あんな顔は他の者に見せてはならぬぞ」
「そんなにやり過ぎた? 加減が分からなくてさ」
「ジュンヤ様は、艶やかさと清純さという相反する二つの魅力があるのですよ。気をつけてください」
「えっと、悪かった?」
良い作戦だったと思ったけどなぁ~。失敗かな。
「だが、それがジュンヤの良いところだ。今回はそれが効果的だった様に思う」
マテリオさん、フォローありがとう。
「ジュンヤ、今のが悪かったと言っているのではない。正直父上の狼狽た姿は面白かった。ただ、父上はジュンヤを気に入ってしまった様だ。それが心配なのだ」
「あ、そっちか。俺、絶対みんなと離れない様にするし! 泊まるのも騎士棟だろう? そっちには絶対来ないだろううし。 それと、王都にはいつ出発する? 避難民も心配だよな。浄化して行く?」
王都に行きたいが、今苦しんでいる人も助けたい。
「そうだな。だが人数が多い。騎士棟へ行ってから話し合おう。ロドリゴ殿、話しがあるが、ここではダメだ。騎士棟へ移動する」
「はい。到着早々申し訳ありませんでした。騎士棟へ参りましょう」
俺のした事はちょっと怒られたけど、あの二人の焦ってる顔は面白かった。特に宰相。あいつの悪事を暴いて、もっとスッキリしてやる! 国王も反省して貰うぞ。そう思いながら意気揚々と騎士棟へと向かうのだった。
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領主館に着くと、以前来た時よりなんだか荒れている気がした。
「ロドリゴ! どこに行っていた! 陛下がテポの糖蜜漬けをご所望だ。早く用意せよ。……ん?」
無駄に豪華な装束を纏った爺さんがイライラした様子でロドリゴ様に命令をした。何様だよ。
「これはこれはエリアス殿下! 巡行は順調なご様子で何よりでございますなぁ!」
痩せぎすで偉そうな爺さんはティアにも偉そうな態度だ。なるほど、こいつが宰相か。
「宰相。父上は何処だ? それと、オレイアド以外の弟達はどうした?」
「おお、陛下はサロンでおくつろぎですよ。いやはや、王都は寛ぐ時間も取れずお疲れでしたからね。サリエド殿下は王都に残り、モーリス殿下はカルマド領へ避難しましたよ。さて…こちらは神子のジュンヤ殿、だな。浄化、ご苦労だった」
俺達の視線があってピリッとした空気が走る。どこまでも上から目線で来る気か。今は黙っているが、しっかり貯金するから覚悟しとけよ。
「——初めまして。ジュンヤ・ミナトです」
「初めてではない。男を惑わす容姿に磨きがかかっているようじゃな。これ以上は誑かさないように頼むよ、ハッハッハ」
うん。後で見てろよ? ティア達もブチギレそうだが、どうせ後からガッツリ締めるから。油断させといてやっちまうから我慢しろって言い含めているけど、ヤバいレベルの糞ジジイだな。
「お祖父様。すぐに準備させますが、まずは殿下を陛下の元へお連れしたいのです」
「まぁ、それもそうだな。殿下、ご案内しましょう」
この宰相にしたら自分の家ではあるけれど、家督を継いだのはロドリゴ様だ。だから本当はロドリゴ様がするべき事を宰相が全部やるつもりらしい。ロドリゴ様を見れば、苦笑して後に続いていた。
「陛下、エリアス殿下が参られましたぞ」
家臣の癖に随分馴れ馴れしい仕草で陛下に近づく。ソファでゆったりと寛ぐ王の姿は、記憶の中より少し痩せていた。
「おお、エリアスか。遅かったな。トーラントの浄化が出来たというのは本当か?」
「はい、父上。残すは王都のみとなりました」
えっと、労いの言葉もないんですかっ?! このクソ親父、どれだけティアが大変な思いをしたのか分かってない!!
「ジュンヤとやら、苦しゅうない。近う寄れ」
「はい」
イラッと来るが、攻撃材料を増やす為、今は我慢だ。色々探りたいしな。ギリギリ手が届かない位置まで近寄ると、手を伸ばしグイッと引き寄せられた。
「っ?!」
「そなた、あの頃より輝きを増しておるな」
尻を撫でられて、とっさに体を引いてしまうが、腕はしっかり掴まれ腕の中に囲われてしまう。
「陛下、離して下さい」
「父上、お戯れはおやめ下さい」
「これくらい些細な事だろう? 真実はジェイコブ大司教より聞いたぞ。そなた達、これの恋人となったと聞いたぞ。毎日これで楽しんでおるのだろう。少しばかり貸せ。私は執務で疲れ切り、少々楽しみが必要だ」
あんたの仕事は見てないが、評判は酷いもんですけど? なんだかんだ言いながら体を弄って来て、腹わたは煮えくり返っている。
「ジュンヤは道具ではありません。例え陛下のお言葉でも応じられません」
「ほう……逆らうか」
「とんでもありません、陛下。ただ、ジュンヤは特別なのです。男娼の様に扱うのはおやめ下さい。それに、ジュンヤをこれと呼ぶのはおやめ下さい。国を救ってくれる神子ですよ」
ティア……陛下と睨み合う二人に、周囲がビリビリするほどの緊張感が走る
「陛下、発言してもよろしいですか?」
このままでは話が進まないと思い、思い切って口を挟んだ。
「良いだろう。自らその身を捧げる気になったか?」
「いいえ。陛下はジェイコブ大司教に何をお聞きになったのですか?」
「心を通わせた者が庇護者となるそうだな。だが、そんなもの大したことではないだろう? 体の相性さえ良ければどうとでもなろう。のう? 宰相?」
「ジュンヤ殿、恋人になるのは最初は乗り気でなかったと聞いたぞ? でも絆されて殿下の恋人になったじゃろう?ならば陛下の寵も頂けば、きっと陛下も庇護者となろう。我が国で一番の権威ある陛下が庇護者でないなど、あろう筈がない」
二人とも、全っ然人の話を聞かないタイプなんですね。心を通わすって、とても重要なパートですよね? そして、ナトルとそっくりな思考に反吐が出る。しかも! このクソ国王は俺の尻を揉み続けている。俺の尻は高くつくぞ。
「ジュンヤとやら。私の浄化をせよ。魔石の効果は良く分かったが、その手で浄化されると殊の外気持ちが良いらしいな」
いやらしい触り方をしながらにやけている。気持ち悪いんだよ! それに、魔石を奪ったというのは本当らしい。体内に瘴気はほとんど見られない。
そりゃあ国王が倒れたら困るだろうけど、国民からぶんどったというのが真実なら許せない。ティアとダリウスだけじゃなく、エルビスとマテリオからも怒気を感じる。
「陛下……魔石をお使いになったのですか? 体調はいかがですか?」
怒りを抑えながら心配そうなフリをして聞く。ちょっと媚びた感じにしたので、ティアの目がカッと見開いた。だが、それに気がつかない国王は目尻を下げて俺を見ていた。
「ああ。美しい光を放って活力が湧いて来たが、王都の瘴気が酷くなるに連れて輝きが消えてしまったのだ。さぁ、私を浄化せよ。ほら、ここへ来い」
「えっ?!」
膝の上に乗せられて、じっと見つめられた。へー。ふーん。一人で一個使い切ったんだ?
「宰相様はいかがですか?」
「儂の魔石も、もう使えんな。陛下の次は儂を浄化せい」
「そうですか。それは困りました」
怒りを悲しそうな表情に変換し、俯いて見せると二人が焦り出した。とりあえず残っている瘴気を浄化する。
「おお……やはり、魔石とは違うな……」
「ですが陛下。陛下は私では治せぬ病を抱えておられるご様子です」
「なんだ? どういうことだ?」
「陛下。魔石は私の命を注いでいますから、私の力と同じなのです(多分)。ですから、それで浄化ができないとなりますと、私では治せぬ病(イカれてる)を抱えておられる様です」
トチ狂ったバカは治せないよな。嘘じゃないし。
「なっ、なんだと?! これ以上は無理だと申すのか?」
「はい。たった今浄化したのは、瘴気で受けた病です。私に出来るのはここまでです」
「どこじゃ? 何が原因だ?!」
オロオロしだす国王の手に、そっと手を添える。
「分かりません。私は浄化が出来ても、これ以上は治して差し上げられません。お許しを」
「なんだと?! 確かに、最近は頭痛も酷いし、寝つきも悪く体も重い——息苦しい時もある。体が弱って来ておるのか……?!」
動揺して手がブルブル震えている国王を切なげに見上げる。本当はどこも悪いところはないんだよね、頭以外。どんだけタフなんだよ。ちょっと弱っていたらもう少し優しく出来たかもしれないのに、俺は悲しい……
ところで、いい加減俺を降ろしてくれないか?
「し、神官!! そなたは神官であろう!! 私を治癒せよっ!!」
マテリオは静々と前に出て来て跪いた。
「陛下、ジュンヤの力は絶大です。病の根本は治す事が出来ますが、弱った体力を取り戻したりするのは自身の回復力なのです。これは神官の治癒と同じでございます」
「父上。浄化の力は万能ではありません。心身の力は良く療養をして、ようやく回復するのです。瘴気に苛まれたお体は、相当な負担を強いられておられたのでしょう。環境の良いところで療養する事を進言いたします。その間の補佐はさせて頂きます」
マテリオとティアは俺の芝居の理由に気がついて乗ってくれた。むしろノリノリだな。
「陛下!! 療養などなりません!! 陛下がおられなければ王国はどうなりますか!!」
「エリアスがおるではないか。ああ、余はもう疲れた。しばし休みたい」
突然気が弱くなったのか、しょぼくれた国王は部屋に引っ込むという。おお、さっさと行け。その前に降ろせ。
「陛下。お体の負担になりますので、降ろして下さいませんか?」
「そなたも来い」
「陛下の御威光を確固たるものにする為に、奉仕活動に行って参ります」
「おお……おお。そうか、私の為に働くか。そなたを冷遇してすまなかったな。この様に愛い奴とは思わなんだ。我が妃に迎えてやろうか?」
「私などよりふさわしい方がいらっしゃいますよ? さぁ、おやすみになってください」
全力でお断りです。あんたには冷遇されたままでいいです。
心と裏腹に慈悲深い笑顔でほほ笑むと、俺の手の甲にキスしてから降ろして、ようやく侍従と引っ込んで行った。あぁ~! 手を洗いたい!
だが、俺が今ブチ切れないのは合法的にあんたの玉座をティアに移譲させたいからだ。誰もが認め、歓喜の中でティアを王として迎えさせる為にな。王を蔑ろにしたなんて絶対に言わせない!!
「ジュンヤ、儂の事も浄化せい! 早う!!」
「はい」
うっかり敬称抜いてますね。そっちが本音だよな? まぁ、あんたはお仕置き組ですからね。たっぷり弱音を吐いて貰おうじゃないの。心が弱ると大抵はペラペラ喋るんだよねぇ。証拠はかなり集まっているそうなので、決定打が欲しいな。
「宰相様……?」
「な、なんだ?」
無言。あえて無言で通す。表情は悲しげに! 睨んじゃダメだぜ、頑張れ俺っ! そして、一応浄化はする。これで治せないのは汚い心だけだな。
「いいえ、なんでもありません。——浄化は致しました」
「そ、そうか。確かに力が流れ込んできたが、何か問題があるのか?」
「あとは神官にお任せします。神殿へ行かれると良いでしょう。そう、マナとソレスも来ておりますので、彼らを頼って下さい」
俺は儚げな笑みを使った! 効いているかは分からない!
「ロ、ロドリゴ! 儂はもう行く! 殿下、どうも疲れが出た様です。儂は少し休みますので、失礼」
「ああ、ゆっくり療養されると良い」
バタバタと去って行く後ろ姿を見送ると、サロンには俺達だけが残った。
「ジュンヤァ~、ありゃなんだぁぁ~?」
「うわっ?!」
背後からダリウスにがっしりと抱きこまれた。
「あんな顔、した事ねぇだろ」
「効果あるかな? って思ってさ」
「大いにあったな。あり過ぎだ」
「……不味かった?」
ちょっとやり過ぎたらしいな。
「大丈夫だ。私が守ろう。だが、以後あんな顔は他の者に見せてはならぬぞ」
「そんなにやり過ぎた? 加減が分からなくてさ」
「ジュンヤ様は、艶やかさと清純さという相反する二つの魅力があるのですよ。気をつけてください」
「えっと、悪かった?」
良い作戦だったと思ったけどなぁ~。失敗かな。
「だが、それがジュンヤの良いところだ。今回はそれが効果的だった様に思う」
マテリオさん、フォローありがとう。
「ジュンヤ、今のが悪かったと言っているのではない。正直父上の狼狽た姿は面白かった。ただ、父上はジュンヤを気に入ってしまった様だ。それが心配なのだ」
「あ、そっちか。俺、絶対みんなと離れない様にするし! 泊まるのも騎士棟だろう? そっちには絶対来ないだろううし。 それと、王都にはいつ出発する? 避難民も心配だよな。浄化して行く?」
王都に行きたいが、今苦しんでいる人も助けたい。
「そうだな。だが人数が多い。騎士棟へ行ってから話し合おう。ロドリゴ殿、話しがあるが、ここではダメだ。騎士棟へ移動する」
「はい。到着早々申し訳ありませんでした。騎士棟へ参りましょう」
俺のした事はちょっと怒られたけど、あの二人の焦ってる顔は面白かった。特に宰相。あいつの悪事を暴いて、もっとスッキリしてやる! 国王も反省して貰うぞ。そう思いながら意気揚々と騎士棟へと向かうのだった。
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