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番外編 1
100話記念SS リクエスト もしもあの日がなかったら
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リクエスト企画第四弾。現代でキャラクター達が会ったとしたら?というものです。
ノリノリだったのでやたらと長いです!すいません。
当然ですが、国名や社名などはフィクションです。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
俺は湊潤也。帝鵬デパートの催事担当をしている。
今日は木曜日。明日から始まる『魅惑のジュエリー展』と、同時開催『beauty&natural Fes』の準備に追われている。
美意識の高い層と、ジュエリー好きを纏めて取り込もうという矢萩部長(女性)の提案だった。
嘘だ。自分が見たいからだ! と部下全員思ったのは秘密だ。
何故ならば、矢萩部長は大のジュエリー好き。だが、趣味と実益両方を実現させるとは感心するしかない。
しかも! 展示販売可能な高級ジュエリーは新進気鋭の高級ジュエリーブランド『カールタニュ』だった。カルタスと言う小国の会社だが、鉱物ザクザクパラダイス(矢萩部長談)マニア垂涎の国だとか。
まだ比較的新しいブランドだが、その宝石の品質の高さ、デザイン性で海外ではセレブが挙って購入している。まだ日本では実店舗がなく、プロの展示会での販売がメインらしい。
あちらも日本への本格参入を考えているらしく、比較的リーズナブルなラインも持って来て貰い、日本でのファンを増やす目的もあるんだって。それは一応勉強した。
英語が得意な先輩の新原さん(男)と溝口さん(女性)のコンビで担当だ。めちゃくちゃ頑張ってその辺を交渉したそうだ。新規デザインが増えたので、この開催まで10カ月かかっているという。
大体準備は半年が多いが、部長もかなりの入れ込みようだ。
もちろん、年中良い出店者様は探してるけどな。
溝口さん達が出張であちらに何度か行ってるのだが、社長のエリアスさんが映画の中の王子様みたい!と頬を染めて語るのを聞いた事がある。
金髪でキラキラなんだとか。イケメンの国らしい。なんだそれ、天は二物も三物も与えるんだな。
どんな金持ちが買うんだ? っていう、すんごいジュエリーにはこちら側のプロの警備もつくし、カールタニュ側の警備も来るという。
俺はこれまではビューティFesの出店業者との交渉がメインだったので接触はなかった。開催中は出店者が困ったりしてないかのチェック、混雑している店の列を整理をする。
隣り合わせる二つの催事の間をお客様がスムーズに移動出来るよう誘導するのが仕事だ。なので、一日中両方のフロアを歩く事になる。
それが5日。キツイ。キツイよ部長!! ダブル催事はマジで止めて!! 一つなら大丈夫だからぁ~!
空港への出迎えは新原さん達が行っていて、俺達はフロアの展示をセッティングしていた。ジュエリー展はプロの業者がケースの搬入をしている。警備員も既に待機していた。
「みんな! もうすぐカールタニュのみなさんが到着するわ! お出迎えよろしくね」
「「「「はい!」」」」
その報告に、手を動かしながらもザワザワと浮き足立つ。
「溝口さんが王子様とか言ってたけど、言い過ぎだよね~。そんな人そうそういないって!」
「いやいや、分かんないよ。まぁ、女性陣は楽しみにしてるから、本当だと張り合い出るんじゃない?」
と、男性陣。
「うちの潤いは湊君がいるわよ?」
「1人じゃ足りないわよー! あぁ、楽しみ!」
「はいはい、そこで俺出さないで下さいよ、全く」
いつもこうやって揶揄われてるので、スルーするのは慣れっこだ。単に男性陣がみんな既婚者なだけだ。一番年下で未婚は俺だけ。
「エレベーターに乗ったわ。お出迎えするわよ」
全員が業務用エレベーターの方へと移動し並んで用意していた。エレベーターが開き、溝口さんが先導し出て来た。
の……だが。でっか!! 遠近法おかしいよ?! 嘘だろ?
しかし、目の錯覚ではなく本当だった。溝口さんの真後ろにいるのは燃えるような赤毛と褐色の肌。黒のピンストライプのシングルスーツのごっついクマみたいな男性だった。長めの髪を後ろで一つに結んでいる。イケメンだ! でかくてイケメン。世界は不平等ですね。SPみたいな人か?
その後ろに更に数人の護衛らしき同じ黒スーツが現れ、囲まれた中央に明るいグレーの一際仕立ての良いスーツを着た、金髪の男性が現れた。ワインカラーのネクタイがポケットチーフと対になっていてオシャレだ。
この金髪男性が社長のエリアスさんか。
その後ろの焦げ茶色の髪をした男性は紺のシャークスキンの生地だ。タイピンが凝ったデザインだった。
言えることは、全員生地の質も仕立ても良いものを着ていて、如何にこの会社が今業績を上げているかが分かる。
金髪の男性は、全員が『彼が溝口さんの言う王子様だ!』っと思っただろう。そりゃもう、キラッキラですよ。
スマホアプリで弄ってもここまでキラキラしないのに天然物のキラキラ。全員がキラキラ…。
「「「「いらっしゃいませ、ようこそいらっしゃいました」」」」
全員が頭を下げ迎える。顔を上げると、ちょっとした壁が出来ていて、首が痛くなりそうだ。ビューティFes担当で良かった!
「ん?」
王子様と目が合った様な気がするが、まぁ気のせいだろう。しかし、瞳が金色だった……! 本当にあんな瞳の色存在するんだな。
その後はジュエリー担当とビューティーFes担当は、また別れてそれぞれ作業する。こっちは業者さんの搬入などで手一杯だ。
とにかく業者が多いから、担当者達はあちこちフォローしながら準備を進めていた。到着する筈の物が届いてない、なんて割とある。ギリギリ夕方届いてセーフ!なんてな。
ビューティFes側は、ナチュラルでおしゃれな石鹸、化粧品類、オーガニック食材、デトックスなハーブティー。その場で飲食出来るスイーツ、ドリンク、フード等多岐に及んでいるので、脳みそフル回転だ。
搬入地獄が終わったのは夕方になってからで、どうにか不備なく搬入が済んだらしい。良かった!! 奇跡! そこでようやく余裕が出来た。
基本的にビューティーFes側とはいえ、全員が一度は両方の出店を確認して覚えないと、お客様に聞かれた時に案内が出来ないと困る。なので、順番にお互いのブースをチェックするんだ。
「お~い、湊。あっち回って来て良いぞ?」
「はい!じゃあ行って来ます」
ヨレヨレになっていたが、美しい物でも見てリフレッシュするか。まだ1日は終わらないしな。
既にケースに入っているゴージャスなジュエリーの数々。セッティング自体はこっちはオーケーみたいだな。照明に注文をつけている様だけど。
「おお~、凄いなぁ!!」
「お、湊君。あっちはひと段落か?」
「新原さん。まぁ、大丈夫かなって所まで来たんで、見に来ました。このデザイン凄く繊細で素敵ですね」
「そうなんだ。そこが矢萩部長が惚れ込んで、どうしても日本でメジャーになって欲しい理由だそうだ」
「ヘェ~。でもこの辺は、普通の会社員には厳しいですね、ハハッ」
普通の会社員にはゼロの数が多すぎる。リーズナブルラインはどんなもんかな?
「確かにね~。ところでさ、湊君、少しこっち来て貰って良い?」
「何ですか?」
「あー、良く分からないけど、君が気になるらしいんだよなぁ」
「気になる? 何がです?」
「とにかく来て」
引っ張って行かれた先には、キラキラ王子様がいた。なにこれ。
【エリアスさん、こちらの彼の事ですか?】
新原さんが英語で話している。俺はゆっくりなら何とかレベルだ。
【ええ、少しお借りしても?】
【どうぞどうぞ! ご自由にお使いください!】
「じゃ、湊君、あっちは誰か回すから心配しなくて良いから」
「えっ!? 何? 何ですか!?」
「なんか、君にジュエリーモデル頼みたいってさ」
「俺、男ですけど!」
「女の子もモデルいるけど、あっちは男性もジュエリーつけるから、日本人の男性モデルも欲しいんだって。よろしく~!」
新原さんは、ジュエリー担当の人を1人ビューティFesに回してしまった。えっとマジ?俺の英語力自信ない!
【私はカールタニュの社長をしているエリアス・アリスティド・カルタスと言う。あなたの名前は?】
【私の名前はジュンヤ ミナトです】
真面目に英語やれば良かった。簡単な話なら何とかだけど、仕事の用語とか分からん!
「あ、湊君やっと来たのね。モデルよろしくね」
「溝口さん、助かっ……えっ、何そのピアス!? すっごい高そう」
「あ、これはね、イヤリングだけどピアスっぽく見えるデザインなの。穴を開けなくても良いのよ。だから湊くんも付けられるわよぉ~」
いやいやいや。そうではなくて。
「モデルって溝口さん?」
「そうなの~! 男女でモデルがいるって、急遽決まったの」
「そうなんですか。男、要ります?」
「これからは男性もアクセサリーつけるべきよ! うん、エリアスさん達も素敵なピアスやリングしてるでしょ?」
確かにデザインも男がつけても違和感ないデザインだしかっこいい。
俺達が話していると、エリアスさんが近寄って来た。
【あれを持って来てくれ】
【はい】
何やら秘書さんと話していたが、秘書さんが箱を取って来て蓋を開けた。ピアス?穴は開けてませんけど!?
俺の腕を掴んで引き寄せて肩を掴まれた。
【動かないで】
【は、はいっ!?】
耳にパチリと嵌められた。留めるタイプの奴だったのか。
うう、違和感すごい。痛くなりそう……
【良く似合っている。あなたには宝石が似合うと思った】
「えっ? なんて? 溝口さん?」
溝口さんに助けを求めたら、赤い顔で見つめていた。
「どうしたんですか? 今なんて言ってました?ネイティブスピードついていけなくて」
「えっ? あ、ああ、うん。似合ってるって。確かに、それ似合ってる!」
「え……? そうかなぁ。てか、これどうするんです?」
「催事中つけてて欲しいんだって。時々商品を変えて、動くマネキンになるのよ」
マジか。俺はこんな高価そうな物を身に付けるなんて怖くて堪らない。何とか取り消して欲しくて、エリアスさんを見た。が、目の前に黒い壁が現れた。
見上げると、さっきの赤毛さんだった。デカくて圧が凄い!
「わっ! あ、失礼しました」
【明日以降、開催中の警護をする主任のダリウスと言う。よろしく頼む】
【よろしくお願いします】
ダリウスさんか。エリアスさんも背が高いけど、彼より高い上に警護役だからか、体の厚みもあるので大迫力だな。山でヒグマに遭遇する恐怖はこんな感じかもしれない。
【私は秘書のエルビスです。ジュエリーを付けている間、念の為警護代わりにお近くにいます】
【すいません、早くて全部聞き取れなかったです。もう一度言って貰って良いですか?】
申し訳ないけどお願いしたら、エルビスさんはその後はゆっくり話してくれる様になり、分かりやすくなった。
溝口さんには別の人が付くそうだ。でも、警護なんか必要ない。これを外せば良いんだが、そうもいかない様だ。
「あー、これ回避不能ですか?」
溝口さんに尋ねると頷いた。
「私にも付くって。念の為。ほら、日本は安全だけど、外国の方にはこれ位普通みたいよ」
「はぁ…。でもおれ、あっちの仕事はどうしよう。聞いて貰えます?担当急に変えられないですよね?」
溝口さんに通訳して貰うと、エルビスさんが付いてればビューティの方に回っても良いそうだ。むしろそっちでマネキンをして引き込む位で良いらしい。
今は日本人男性も美容やナチュラル系に興味が少しづつ増えて来ているが、もっと男性にもアクセサリーに興味を持って貰いたいそうだ。
勤務中にアクセサリーつけてるとか、クレーム案件にならないか? と部長に相談するも、ジュエリー展の腕章をつけて動けば良いでしょ。むしろ日本人男性にも似合うと理解して貰う良い機会だ、と言われ撃沈した。
セットアップのリングもつけられてしまい、かなり高額品らしいのでビビる。男性ラインのカッコ良いものだ。リーズナブルラインで良いんじゃ? と言ったが、人目を惹くのはやはり高額品だからと。
タイピンもつけられて、俺は動けなくなりそう! と青い顔をしていたら、エルビスさんに、リラックスと言われた。いや、無理だから!
その日はとりあえず外し、最終準備をした。
初日は平日でも毎回混む。土日は更に凄い事になるのだが、今回の土曜日はいつも以上に大変なだった。
と言うのも、初日のお客様の『ジュエリー展の王子様&イケメンズ発見!』ツイートと、テレビ局が話題のジュエリーブランドの王子様の放送をした為殺到したのだ。
「湊君、君はもうジュエリー展でマネキンとお客様整理してて! リーズナブルラインたくさん持って来てくれたから、完売させるわよっ! 良い事? 溝口さんと2人、あちらの言う通りのものを身につけてガンガン販促よ!!」
「はいっ!」
お客様はキラキラメンズ目当てと、豪華なジュエリー展示にうっとりだった。そして手が出やすいリーズナブルなピアスやリング、時にお高めもコンスタントに売れていく。
『帝鵬デパートの催事でカールタニュを買いました!』とバンバンSNSで拡散をしてくれ!
土日までが一番の勝負。月火は割と空くからな。と、ほくそ笑む俺達。
【湊様、大丈夫ですか? 随分動き回ってらっしゃいますが】
【これ位いつもの事です! エルビスさんこそ大丈夫ですか?】
そんな事を言いながら列整理をしていく。この列の展示はとても豪華なネックレスとイヤリングのセットなんだが、裏の目的は噂の王子様とその赤髪の護衛コンビなのだ。一日中いるわけではなく、時間を決めて出て来て貰っている。
しかし彼の撮影は禁止だ。なので発見した人の行列ができるわけだ。
【エリアスさん、大丈夫ですか?お疲れでは?予定外でも疲れたら休んでください】
【問題ない。気遣いありがとう。多くの人に見て貰えるのは嬉しい事だ】
話していた所に年配のお客様が声をかけて来た。
「ねぇ、店員さん。そのタイピンもカールタニュなのかしら?」
「はい、こちらも商品でございます。ご覧になりますか?ご案内いたします」
「それにしても、デザイナー兼社長さんって、テレビで言う通りの王子様みたいねぇ~素敵だわ!」
「そうですね、確かに大変ハンサムな方ですね」
「あなたもとっても似合ってるわね!」
「ありがとうございます。デザインが素晴らしいですよね」
こんな年配の女性さえ頬を染めてしまうんだから、イケメンは世界を救うんだな。お客様はタイピンをプレゼントとしてお買い上げになってくれた。自分の指輪もちゃっかり買う奥様。
かなり良い値段だが、使われている石のクオリティなら当然の価格で、むしろお得らしく満足していた。
エリアスさんは時々休んでいるが、ダリウスさんは警備で、エルビスさんは俺にずっと付いていて疲れないだろうか? ダリウスさんの代わりは無理だけどぼ
【エルビスさん、私はこれを外しますから、休憩してはどうですか?】
【いいえ、大丈夫です。結構タフなんですよ? それに、あなたの仕事ぶりを見るのは楽しいです】
慣れてないと疲れないか? と思ったが大丈夫ならいいか。結局エルビスさんは、俺の昼休憩に合わせて休憩を取っていた。
エルビスさんはとっても話しやすくて、俺が分かる様に簡単な英語でゆっくり話してくれる、気遣いの人だ。
英語力がもうちょっとあれば色々言えるんだが、もう少しレッスン増やそう。
これから更に外国人のお客様増えるだろうしなぁ。
【土日は大変ですが、月曜日になれば落ち着きますから】
【そうですか、頑張ります】
グリーンの瞳で優しく微笑まれて、同性なのにドキドキしてしまうな。この国の人イケメン過ぎるだろ!
そして日曜日も怒涛の勢いのお客様だった。テレビ取材で男性用アクセサリーの紹介があったせいか、日曜日は男性の来店も多かった。
「うわぁ~素敵なアクセサリーいっぱいだねぇ~!」
「そうだな。歩夢は可愛い系が似合いそうだなぁ」
「歩夢様がつければ何でも素敵になりますけどね!」
一際目立つ可愛い男の子を、数人のカッコいいオシャレな男の子達が囲んでいる。
「へへっ、ありがとう。僕テレビで見たリングが欲しいんだけど、人気みたいだから、もうないかなぁ?」
おっと、探し物?でも学生みたいだな。いや、財布の心配は要らないか。バッグも服もハイブランドだ。親御さんの家族カード持ちって所かな?
「お客様、何かお探しですか?」
「あ、はいっ! BLテレビで見たんですけど、鳥のモチーフのリングが欲しいんですが……」
あぁ。あれか。確か土曜日に殺到したなぁ。残ってたかな?
「在庫があるか見てみますね?」
俺は部長の所に行き確認したが、既に完売だった。
そこへエルビスさんが聞いてきた。
【ミナトさん、何をお探しですか?】
【あ、テレビの取材を受けた鳥のモチーフのリングが欲しかったそうなんです。ですが完売で】
【一緒に来て貰えますか?】
エルビスさんが社長の所に連れていった。そして早口で話しだし、他の社員さんが引っ込みボックスを持って来た。
【念の為持って来て良かったです。これでしょうか?】
【そうです! これ、まだ売れると思うので出しましょう】
俺はさっきの少年に声をかけて見せると、目を輝かせた。
「わぁ! これこれー! 店員さんありがとう!」
「いいえ、見つかって良かったです」
「良かったな、歩夢。これプレゼントするよ」
「えっ? 良いの?」
「もちろんさ。見つかって良かったな」
マジか。多分高校生位なのに、2万超えを軽くプレゼント……。セレブだな。
「へへっ、ありがとう~。ねぇ、店員さんが付けてるリングも素敵だね。それも商品? デザインがそうかなって」
「はい、そうですよ」
「お値段は——いくらするかなぁ?」
「こちらは23万円程ですね」
「さすがにまだ無理かなぁ。見せてくれてありがとう。これすごく似合ってるね!」
「ありがとうございます」
営業スマイルでお礼を言いつつ会計に案内して、チラッと見るとプレゼントの彼のカードはブラックだった。やはりどこかの坊ちゃんなんだな。
それにしても可愛い男の子だった。もしや、そういう……ゴホッ。詮索はいけない。俺はプロ!
そんなこんなで何とか地獄の土日を乗り切ったが、イケメン効果か残りの月火もそこそこの人出と売り上げだった。
月曜日にはかなりあったリーズナブルラインは完売してしまい、残念がるお客様も展示とエリアスさん達を堪能して隣のビューティFesで買い物をしてくれた。
火曜の16時。無事終了!!
俺達は夜にはヘトヘトだった。
「ダブル開催の目標値、軽く突破でーす!」
部長の報告にわっと拍手と歓声が上がる。
「「「お疲れ様でした~! さ、搬出頑張りましょう!!」」」
そう、16時で終わっても、片付けという作業があるのだ!
俺はササっとアクセサリーを外しお返しして、ビューティFesの片付けの方に戻ろうとした。
「湊君! ちょっと待って」
「部長、何ですか?」
「今夜はみなさんを接待するんだけど、湊君も来て欲しいの」
「えっ? 俺もですか?」
「頑張ってくれたから来て欲しいって。私もそう思うわ~かなり貢献してくれたから。場所はまた後で。よろしくね」
えー? と思いつつ仕方ない。もともと接待要員ではあるし。間仕切りを張って、お客様から片付けの様子が見えない様にしてから、さぁ撤収開始!
ビューティFesの出店者の皆さんに、あまり入れずにすいませんと謝りつつ片付けていたのだが、休憩時間に眺めに来た人達は、俺はそっちで正解だったから気にするなと言ってくれた。本当にすいません、気を使わせちゃって。
カールタニュ側の人達は貴金属を梱包後はホテルで休憩して貰い、あとで合流するのだという。
終業時間まで俺達は働き、ぶっちゃけ帰りたい。高級品を身に付けて緊張したせいでメンタル的にも疲労困憊なんだ。
その上高級レストランかな? ああ、すり減る……そう思ってやって来たのは、ガッツリ和風の掘り炬燵形式の居酒屋だった。
和を感じる居酒屋に行きたい!! と強い希望だったそうだ。俺は気軽で助かるけど。
しかし、気軽ではありませんでした……何故かエリアスさんとエルビスさんの間に挟まれて居ます。
エリアスさんの隣にダリウスさん。キツキツに詰まっている……
「新原さん、溝口さん~?」
溝口さんはダリウスさんの左隣だ。
「隣が良いんだって! 羨ましいわぁ、イケメンサンドイッチ!」
「なら、代わって下さいよ」
「指名だから無理」
何故? 何故なんだ。
部長や新原さん、溝口さん達はメールなどでもやりとりしてて話すネタはある。でも俺はこの五日間だけ。だから居た堪れない。チビチビ飲んで小さくなっている。
両脇の2人の食べ物を取り分けたり、飲み物も大丈夫か聞いたり。エリアスさんが焼き鳥を食べて目を見開いていたので、思わず笑ってしまった。
【気に入ったみたいで良かったです】
【居酒屋に来てみたかったんだ。こういう気軽なスタイルは初めてで楽しい。ミナトは良く来るのか?】
【楽しい? 良かった。たまに来ますよ】
全部は聞き取れなかったけど、楽しそうで良かった。下手くそ英語でごめんなさい。
【エルビスさんも食べてますか?】
【はい。頂いてますよ。美味しいですね】
【ミナトさん。ファーストネームはジュンヤさんですよね?】
エルビスさんが急に聞いて来た。
【そうですよ】
【ジュンヤさんと呼んでも?】
【えっ? はい、どうぞ】
返事をしながら、レモンチューハイをグビリと一口。
いつもと同じ量なんだけど、フワフワするのが早いな……終わりにしようとグラスを置いたのだが、両脇の2人に声をかけられるのが居た堪れなくてつい飲んでしまった。
【ミナト、私の作ったジュエリーが良く似合っていて嬉しかった】
「え? なんでしゅか?」
聞き取れずに聞き返してしまい申し訳無い。気を抜いてるとダメだなぁ。
【酔った君は可愛いな……仕事中は美しかったが】
「?? えっと、すろーりぃ? エルビシュしゃん、しゃちょー、なんて?」
早くてクエスチョンマークが飛び交ってる俺を、エルビスさんが優しい目で見つめていた。英語がとっさに浮かんでこないよ。
【ジュンヤさん、社長は本格的に日本進出を考える事にしたそうです。そうなれば、また会えますね?】
【エルビシュしゃん、すろーりぃ、ぷりーじゅ……】
フワフワ世界が揺れている。
なんでかな?肩を抱かれているような。エルビスさん?なんで?
目の前にエメラルドの宝石が光ってる。
唇に温かいものが触れてる。あれ? チューされてる? キャッ~! と女性陣の悲鳴が聞こえた。
チューは挨拶? でも唇はおかしくね?
俺がみんなの方を見ると、口を押さえて真っ赤な人、固まってる人など色々だ。だよな、チューはおかしいよな?
「チューは、らめ……俺、男らし……」
【なんて可愛い人なんですか……絶対にまた会いに来ますから、待ってて下さいね?】
ふぁ? 早くて分かんねぇ。シーユーって言った? シーユーはまた会おうだよな?
そうだな、日本に進出したら会うかも。とりあえずイエスで良いのか?
「い、いえしゅ……?」
俺の返事にエルビスさんは嬉しそうだった。
新原さんと溝口さんなど、英語ペラペラメンバーがガン見している。あれ? 俺なんか間違えた?
でも見上げたエルビスさんは、全てを包み込む様な、とっても優しい笑顔だった。
まぁ、多分社交辞令だろうし、実際は2度と会わないだろ。大丈夫か。
しかし、数ヶ月後に日本語をマスターした面々と再び会う事になるのは、また別のお話。
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このメンバーなので長くなるかな?と思ったので殿下とエルビスに絞りました。ダリウスファンの方すいません。
相当長くなりそうだったとの、収拾つけるには誰かに絞らないとキツかったのです。楽しんで貰えると良いのですが。真面目にお仕事させたので文字数が多いです。
エルビスが好きな方のリクエストなので、最初殿下のチューでしたが変更してエルビスに頑張って貰いました。滅多に無い積極的なエルビスでした。
ちょっとだけ歩夢も出せて満足です。
今回書けなかったリクエストは、上手く書けたと思ったらどこかでアップしますね。すいません!
次回からまた本編です。よろしくお願いします。
ノリノリだったのでやたらと長いです!すいません。
当然ですが、国名や社名などはフィクションです。
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俺は湊潤也。帝鵬デパートの催事担当をしている。
今日は木曜日。明日から始まる『魅惑のジュエリー展』と、同時開催『beauty&natural Fes』の準備に追われている。
美意識の高い層と、ジュエリー好きを纏めて取り込もうという矢萩部長(女性)の提案だった。
嘘だ。自分が見たいからだ! と部下全員思ったのは秘密だ。
何故ならば、矢萩部長は大のジュエリー好き。だが、趣味と実益両方を実現させるとは感心するしかない。
しかも! 展示販売可能な高級ジュエリーは新進気鋭の高級ジュエリーブランド『カールタニュ』だった。カルタスと言う小国の会社だが、鉱物ザクザクパラダイス(矢萩部長談)マニア垂涎の国だとか。
まだ比較的新しいブランドだが、その宝石の品質の高さ、デザイン性で海外ではセレブが挙って購入している。まだ日本では実店舗がなく、プロの展示会での販売がメインらしい。
あちらも日本への本格参入を考えているらしく、比較的リーズナブルなラインも持って来て貰い、日本でのファンを増やす目的もあるんだって。それは一応勉強した。
英語が得意な先輩の新原さん(男)と溝口さん(女性)のコンビで担当だ。めちゃくちゃ頑張ってその辺を交渉したそうだ。新規デザインが増えたので、この開催まで10カ月かかっているという。
大体準備は半年が多いが、部長もかなりの入れ込みようだ。
もちろん、年中良い出店者様は探してるけどな。
溝口さん達が出張であちらに何度か行ってるのだが、社長のエリアスさんが映画の中の王子様みたい!と頬を染めて語るのを聞いた事がある。
金髪でキラキラなんだとか。イケメンの国らしい。なんだそれ、天は二物も三物も与えるんだな。
どんな金持ちが買うんだ? っていう、すんごいジュエリーにはこちら側のプロの警備もつくし、カールタニュ側の警備も来るという。
俺はこれまではビューティFesの出店業者との交渉がメインだったので接触はなかった。開催中は出店者が困ったりしてないかのチェック、混雑している店の列を整理をする。
隣り合わせる二つの催事の間をお客様がスムーズに移動出来るよう誘導するのが仕事だ。なので、一日中両方のフロアを歩く事になる。
それが5日。キツイ。キツイよ部長!! ダブル催事はマジで止めて!! 一つなら大丈夫だからぁ~!
空港への出迎えは新原さん達が行っていて、俺達はフロアの展示をセッティングしていた。ジュエリー展はプロの業者がケースの搬入をしている。警備員も既に待機していた。
「みんな! もうすぐカールタニュのみなさんが到着するわ! お出迎えよろしくね」
「「「「はい!」」」」
その報告に、手を動かしながらもザワザワと浮き足立つ。
「溝口さんが王子様とか言ってたけど、言い過ぎだよね~。そんな人そうそういないって!」
「いやいや、分かんないよ。まぁ、女性陣は楽しみにしてるから、本当だと張り合い出るんじゃない?」
と、男性陣。
「うちの潤いは湊君がいるわよ?」
「1人じゃ足りないわよー! あぁ、楽しみ!」
「はいはい、そこで俺出さないで下さいよ、全く」
いつもこうやって揶揄われてるので、スルーするのは慣れっこだ。単に男性陣がみんな既婚者なだけだ。一番年下で未婚は俺だけ。
「エレベーターに乗ったわ。お出迎えするわよ」
全員が業務用エレベーターの方へと移動し並んで用意していた。エレベーターが開き、溝口さんが先導し出て来た。
の……だが。でっか!! 遠近法おかしいよ?! 嘘だろ?
しかし、目の錯覚ではなく本当だった。溝口さんの真後ろにいるのは燃えるような赤毛と褐色の肌。黒のピンストライプのシングルスーツのごっついクマみたいな男性だった。長めの髪を後ろで一つに結んでいる。イケメンだ! でかくてイケメン。世界は不平等ですね。SPみたいな人か?
その後ろに更に数人の護衛らしき同じ黒スーツが現れ、囲まれた中央に明るいグレーの一際仕立ての良いスーツを着た、金髪の男性が現れた。ワインカラーのネクタイがポケットチーフと対になっていてオシャレだ。
この金髪男性が社長のエリアスさんか。
その後ろの焦げ茶色の髪をした男性は紺のシャークスキンの生地だ。タイピンが凝ったデザインだった。
言えることは、全員生地の質も仕立ても良いものを着ていて、如何にこの会社が今業績を上げているかが分かる。
金髪の男性は、全員が『彼が溝口さんの言う王子様だ!』っと思っただろう。そりゃもう、キラッキラですよ。
スマホアプリで弄ってもここまでキラキラしないのに天然物のキラキラ。全員がキラキラ…。
「「「「いらっしゃいませ、ようこそいらっしゃいました」」」」
全員が頭を下げ迎える。顔を上げると、ちょっとした壁が出来ていて、首が痛くなりそうだ。ビューティFes担当で良かった!
「ん?」
王子様と目が合った様な気がするが、まぁ気のせいだろう。しかし、瞳が金色だった……! 本当にあんな瞳の色存在するんだな。
その後はジュエリー担当とビューティーFes担当は、また別れてそれぞれ作業する。こっちは業者さんの搬入などで手一杯だ。
とにかく業者が多いから、担当者達はあちこちフォローしながら準備を進めていた。到着する筈の物が届いてない、なんて割とある。ギリギリ夕方届いてセーフ!なんてな。
ビューティFes側は、ナチュラルでおしゃれな石鹸、化粧品類、オーガニック食材、デトックスなハーブティー。その場で飲食出来るスイーツ、ドリンク、フード等多岐に及んでいるので、脳みそフル回転だ。
搬入地獄が終わったのは夕方になってからで、どうにか不備なく搬入が済んだらしい。良かった!! 奇跡! そこでようやく余裕が出来た。
基本的にビューティーFes側とはいえ、全員が一度は両方の出店を確認して覚えないと、お客様に聞かれた時に案内が出来ないと困る。なので、順番にお互いのブースをチェックするんだ。
「お~い、湊。あっち回って来て良いぞ?」
「はい!じゃあ行って来ます」
ヨレヨレになっていたが、美しい物でも見てリフレッシュするか。まだ1日は終わらないしな。
既にケースに入っているゴージャスなジュエリーの数々。セッティング自体はこっちはオーケーみたいだな。照明に注文をつけている様だけど。
「おお~、凄いなぁ!!」
「お、湊君。あっちはひと段落か?」
「新原さん。まぁ、大丈夫かなって所まで来たんで、見に来ました。このデザイン凄く繊細で素敵ですね」
「そうなんだ。そこが矢萩部長が惚れ込んで、どうしても日本でメジャーになって欲しい理由だそうだ」
「ヘェ~。でもこの辺は、普通の会社員には厳しいですね、ハハッ」
普通の会社員にはゼロの数が多すぎる。リーズナブルラインはどんなもんかな?
「確かにね~。ところでさ、湊君、少しこっち来て貰って良い?」
「何ですか?」
「あー、良く分からないけど、君が気になるらしいんだよなぁ」
「気になる? 何がです?」
「とにかく来て」
引っ張って行かれた先には、キラキラ王子様がいた。なにこれ。
【エリアスさん、こちらの彼の事ですか?】
新原さんが英語で話している。俺はゆっくりなら何とかレベルだ。
【ええ、少しお借りしても?】
【どうぞどうぞ! ご自由にお使いください!】
「じゃ、湊君、あっちは誰か回すから心配しなくて良いから」
「えっ!? 何? 何ですか!?」
「なんか、君にジュエリーモデル頼みたいってさ」
「俺、男ですけど!」
「女の子もモデルいるけど、あっちは男性もジュエリーつけるから、日本人の男性モデルも欲しいんだって。よろしく~!」
新原さんは、ジュエリー担当の人を1人ビューティFesに回してしまった。えっとマジ?俺の英語力自信ない!
【私はカールタニュの社長をしているエリアス・アリスティド・カルタスと言う。あなたの名前は?】
【私の名前はジュンヤ ミナトです】
真面目に英語やれば良かった。簡単な話なら何とかだけど、仕事の用語とか分からん!
「あ、湊君やっと来たのね。モデルよろしくね」
「溝口さん、助かっ……えっ、何そのピアス!? すっごい高そう」
「あ、これはね、イヤリングだけどピアスっぽく見えるデザインなの。穴を開けなくても良いのよ。だから湊くんも付けられるわよぉ~」
いやいやいや。そうではなくて。
「モデルって溝口さん?」
「そうなの~! 男女でモデルがいるって、急遽決まったの」
「そうなんですか。男、要ります?」
「これからは男性もアクセサリーつけるべきよ! うん、エリアスさん達も素敵なピアスやリングしてるでしょ?」
確かにデザインも男がつけても違和感ないデザインだしかっこいい。
俺達が話していると、エリアスさんが近寄って来た。
【あれを持って来てくれ】
【はい】
何やら秘書さんと話していたが、秘書さんが箱を取って来て蓋を開けた。ピアス?穴は開けてませんけど!?
俺の腕を掴んで引き寄せて肩を掴まれた。
【動かないで】
【は、はいっ!?】
耳にパチリと嵌められた。留めるタイプの奴だったのか。
うう、違和感すごい。痛くなりそう……
【良く似合っている。あなたには宝石が似合うと思った】
「えっ? なんて? 溝口さん?」
溝口さんに助けを求めたら、赤い顔で見つめていた。
「どうしたんですか? 今なんて言ってました?ネイティブスピードついていけなくて」
「えっ? あ、ああ、うん。似合ってるって。確かに、それ似合ってる!」
「え……? そうかなぁ。てか、これどうするんです?」
「催事中つけてて欲しいんだって。時々商品を変えて、動くマネキンになるのよ」
マジか。俺はこんな高価そうな物を身に付けるなんて怖くて堪らない。何とか取り消して欲しくて、エリアスさんを見た。が、目の前に黒い壁が現れた。
見上げると、さっきの赤毛さんだった。デカくて圧が凄い!
「わっ! あ、失礼しました」
【明日以降、開催中の警護をする主任のダリウスと言う。よろしく頼む】
【よろしくお願いします】
ダリウスさんか。エリアスさんも背が高いけど、彼より高い上に警護役だからか、体の厚みもあるので大迫力だな。山でヒグマに遭遇する恐怖はこんな感じかもしれない。
【私は秘書のエルビスです。ジュエリーを付けている間、念の為警護代わりにお近くにいます】
【すいません、早くて全部聞き取れなかったです。もう一度言って貰って良いですか?】
申し訳ないけどお願いしたら、エルビスさんはその後はゆっくり話してくれる様になり、分かりやすくなった。
溝口さんには別の人が付くそうだ。でも、警護なんか必要ない。これを外せば良いんだが、そうもいかない様だ。
「あー、これ回避不能ですか?」
溝口さんに尋ねると頷いた。
「私にも付くって。念の為。ほら、日本は安全だけど、外国の方にはこれ位普通みたいよ」
「はぁ…。でもおれ、あっちの仕事はどうしよう。聞いて貰えます?担当急に変えられないですよね?」
溝口さんに通訳して貰うと、エルビスさんが付いてればビューティの方に回っても良いそうだ。むしろそっちでマネキンをして引き込む位で良いらしい。
今は日本人男性も美容やナチュラル系に興味が少しづつ増えて来ているが、もっと男性にもアクセサリーに興味を持って貰いたいそうだ。
勤務中にアクセサリーつけてるとか、クレーム案件にならないか? と部長に相談するも、ジュエリー展の腕章をつけて動けば良いでしょ。むしろ日本人男性にも似合うと理解して貰う良い機会だ、と言われ撃沈した。
セットアップのリングもつけられてしまい、かなり高額品らしいのでビビる。男性ラインのカッコ良いものだ。リーズナブルラインで良いんじゃ? と言ったが、人目を惹くのはやはり高額品だからと。
タイピンもつけられて、俺は動けなくなりそう! と青い顔をしていたら、エルビスさんに、リラックスと言われた。いや、無理だから!
その日はとりあえず外し、最終準備をした。
初日は平日でも毎回混む。土日は更に凄い事になるのだが、今回の土曜日はいつも以上に大変なだった。
と言うのも、初日のお客様の『ジュエリー展の王子様&イケメンズ発見!』ツイートと、テレビ局が話題のジュエリーブランドの王子様の放送をした為殺到したのだ。
「湊君、君はもうジュエリー展でマネキンとお客様整理してて! リーズナブルラインたくさん持って来てくれたから、完売させるわよっ! 良い事? 溝口さんと2人、あちらの言う通りのものを身につけてガンガン販促よ!!」
「はいっ!」
お客様はキラキラメンズ目当てと、豪華なジュエリー展示にうっとりだった。そして手が出やすいリーズナブルなピアスやリング、時にお高めもコンスタントに売れていく。
『帝鵬デパートの催事でカールタニュを買いました!』とバンバンSNSで拡散をしてくれ!
土日までが一番の勝負。月火は割と空くからな。と、ほくそ笑む俺達。
【湊様、大丈夫ですか? 随分動き回ってらっしゃいますが】
【これ位いつもの事です! エルビスさんこそ大丈夫ですか?】
そんな事を言いながら列整理をしていく。この列の展示はとても豪華なネックレスとイヤリングのセットなんだが、裏の目的は噂の王子様とその赤髪の護衛コンビなのだ。一日中いるわけではなく、時間を決めて出て来て貰っている。
しかし彼の撮影は禁止だ。なので発見した人の行列ができるわけだ。
【エリアスさん、大丈夫ですか?お疲れでは?予定外でも疲れたら休んでください】
【問題ない。気遣いありがとう。多くの人に見て貰えるのは嬉しい事だ】
話していた所に年配のお客様が声をかけて来た。
「ねぇ、店員さん。そのタイピンもカールタニュなのかしら?」
「はい、こちらも商品でございます。ご覧になりますか?ご案内いたします」
「それにしても、デザイナー兼社長さんって、テレビで言う通りの王子様みたいねぇ~素敵だわ!」
「そうですね、確かに大変ハンサムな方ですね」
「あなたもとっても似合ってるわね!」
「ありがとうございます。デザインが素晴らしいですよね」
こんな年配の女性さえ頬を染めてしまうんだから、イケメンは世界を救うんだな。お客様はタイピンをプレゼントとしてお買い上げになってくれた。自分の指輪もちゃっかり買う奥様。
かなり良い値段だが、使われている石のクオリティなら当然の価格で、むしろお得らしく満足していた。
エリアスさんは時々休んでいるが、ダリウスさんは警備で、エルビスさんは俺にずっと付いていて疲れないだろうか? ダリウスさんの代わりは無理だけどぼ
【エルビスさん、私はこれを外しますから、休憩してはどうですか?】
【いいえ、大丈夫です。結構タフなんですよ? それに、あなたの仕事ぶりを見るのは楽しいです】
慣れてないと疲れないか? と思ったが大丈夫ならいいか。結局エルビスさんは、俺の昼休憩に合わせて休憩を取っていた。
エルビスさんはとっても話しやすくて、俺が分かる様に簡単な英語でゆっくり話してくれる、気遣いの人だ。
英語力がもうちょっとあれば色々言えるんだが、もう少しレッスン増やそう。
これから更に外国人のお客様増えるだろうしなぁ。
【土日は大変ですが、月曜日になれば落ち着きますから】
【そうですか、頑張ります】
グリーンの瞳で優しく微笑まれて、同性なのにドキドキしてしまうな。この国の人イケメン過ぎるだろ!
そして日曜日も怒涛の勢いのお客様だった。テレビ取材で男性用アクセサリーの紹介があったせいか、日曜日は男性の来店も多かった。
「うわぁ~素敵なアクセサリーいっぱいだねぇ~!」
「そうだな。歩夢は可愛い系が似合いそうだなぁ」
「歩夢様がつければ何でも素敵になりますけどね!」
一際目立つ可愛い男の子を、数人のカッコいいオシャレな男の子達が囲んでいる。
「へへっ、ありがとう。僕テレビで見たリングが欲しいんだけど、人気みたいだから、もうないかなぁ?」
おっと、探し物?でも学生みたいだな。いや、財布の心配は要らないか。バッグも服もハイブランドだ。親御さんの家族カード持ちって所かな?
「お客様、何かお探しですか?」
「あ、はいっ! BLテレビで見たんですけど、鳥のモチーフのリングが欲しいんですが……」
あぁ。あれか。確か土曜日に殺到したなぁ。残ってたかな?
「在庫があるか見てみますね?」
俺は部長の所に行き確認したが、既に完売だった。
そこへエルビスさんが聞いてきた。
【ミナトさん、何をお探しですか?】
【あ、テレビの取材を受けた鳥のモチーフのリングが欲しかったそうなんです。ですが完売で】
【一緒に来て貰えますか?】
エルビスさんが社長の所に連れていった。そして早口で話しだし、他の社員さんが引っ込みボックスを持って来た。
【念の為持って来て良かったです。これでしょうか?】
【そうです! これ、まだ売れると思うので出しましょう】
俺はさっきの少年に声をかけて見せると、目を輝かせた。
「わぁ! これこれー! 店員さんありがとう!」
「いいえ、見つかって良かったです」
「良かったな、歩夢。これプレゼントするよ」
「えっ? 良いの?」
「もちろんさ。見つかって良かったな」
マジか。多分高校生位なのに、2万超えを軽くプレゼント……。セレブだな。
「へへっ、ありがとう~。ねぇ、店員さんが付けてるリングも素敵だね。それも商品? デザインがそうかなって」
「はい、そうですよ」
「お値段は——いくらするかなぁ?」
「こちらは23万円程ですね」
「さすがにまだ無理かなぁ。見せてくれてありがとう。これすごく似合ってるね!」
「ありがとうございます」
営業スマイルでお礼を言いつつ会計に案内して、チラッと見るとプレゼントの彼のカードはブラックだった。やはりどこかの坊ちゃんなんだな。
それにしても可愛い男の子だった。もしや、そういう……ゴホッ。詮索はいけない。俺はプロ!
そんなこんなで何とか地獄の土日を乗り切ったが、イケメン効果か残りの月火もそこそこの人出と売り上げだった。
月曜日にはかなりあったリーズナブルラインは完売してしまい、残念がるお客様も展示とエリアスさん達を堪能して隣のビューティFesで買い物をしてくれた。
火曜の16時。無事終了!!
俺達は夜にはヘトヘトだった。
「ダブル開催の目標値、軽く突破でーす!」
部長の報告にわっと拍手と歓声が上がる。
「「「お疲れ様でした~! さ、搬出頑張りましょう!!」」」
そう、16時で終わっても、片付けという作業があるのだ!
俺はササっとアクセサリーを外しお返しして、ビューティFesの片付けの方に戻ろうとした。
「湊君! ちょっと待って」
「部長、何ですか?」
「今夜はみなさんを接待するんだけど、湊君も来て欲しいの」
「えっ? 俺もですか?」
「頑張ってくれたから来て欲しいって。私もそう思うわ~かなり貢献してくれたから。場所はまた後で。よろしくね」
えー? と思いつつ仕方ない。もともと接待要員ではあるし。間仕切りを張って、お客様から片付けの様子が見えない様にしてから、さぁ撤収開始!
ビューティFesの出店者の皆さんに、あまり入れずにすいませんと謝りつつ片付けていたのだが、休憩時間に眺めに来た人達は、俺はそっちで正解だったから気にするなと言ってくれた。本当にすいません、気を使わせちゃって。
カールタニュ側の人達は貴金属を梱包後はホテルで休憩して貰い、あとで合流するのだという。
終業時間まで俺達は働き、ぶっちゃけ帰りたい。高級品を身に付けて緊張したせいでメンタル的にも疲労困憊なんだ。
その上高級レストランかな? ああ、すり減る……そう思ってやって来たのは、ガッツリ和風の掘り炬燵形式の居酒屋だった。
和を感じる居酒屋に行きたい!! と強い希望だったそうだ。俺は気軽で助かるけど。
しかし、気軽ではありませんでした……何故かエリアスさんとエルビスさんの間に挟まれて居ます。
エリアスさんの隣にダリウスさん。キツキツに詰まっている……
「新原さん、溝口さん~?」
溝口さんはダリウスさんの左隣だ。
「隣が良いんだって! 羨ましいわぁ、イケメンサンドイッチ!」
「なら、代わって下さいよ」
「指名だから無理」
何故? 何故なんだ。
部長や新原さん、溝口さん達はメールなどでもやりとりしてて話すネタはある。でも俺はこの五日間だけ。だから居た堪れない。チビチビ飲んで小さくなっている。
両脇の2人の食べ物を取り分けたり、飲み物も大丈夫か聞いたり。エリアスさんが焼き鳥を食べて目を見開いていたので、思わず笑ってしまった。
【気に入ったみたいで良かったです】
【居酒屋に来てみたかったんだ。こういう気軽なスタイルは初めてで楽しい。ミナトは良く来るのか?】
【楽しい? 良かった。たまに来ますよ】
全部は聞き取れなかったけど、楽しそうで良かった。下手くそ英語でごめんなさい。
【エルビスさんも食べてますか?】
【はい。頂いてますよ。美味しいですね】
【ミナトさん。ファーストネームはジュンヤさんですよね?】
エルビスさんが急に聞いて来た。
【そうですよ】
【ジュンヤさんと呼んでも?】
【えっ? はい、どうぞ】
返事をしながら、レモンチューハイをグビリと一口。
いつもと同じ量なんだけど、フワフワするのが早いな……終わりにしようとグラスを置いたのだが、両脇の2人に声をかけられるのが居た堪れなくてつい飲んでしまった。
【ミナト、私の作ったジュエリーが良く似合っていて嬉しかった】
「え? なんでしゅか?」
聞き取れずに聞き返してしまい申し訳無い。気を抜いてるとダメだなぁ。
【酔った君は可愛いな……仕事中は美しかったが】
「?? えっと、すろーりぃ? エルビシュしゃん、しゃちょー、なんて?」
早くてクエスチョンマークが飛び交ってる俺を、エルビスさんが優しい目で見つめていた。英語がとっさに浮かんでこないよ。
【ジュンヤさん、社長は本格的に日本進出を考える事にしたそうです。そうなれば、また会えますね?】
【エルビシュしゃん、すろーりぃ、ぷりーじゅ……】
フワフワ世界が揺れている。
なんでかな?肩を抱かれているような。エルビスさん?なんで?
目の前にエメラルドの宝石が光ってる。
唇に温かいものが触れてる。あれ? チューされてる? キャッ~! と女性陣の悲鳴が聞こえた。
チューは挨拶? でも唇はおかしくね?
俺がみんなの方を見ると、口を押さえて真っ赤な人、固まってる人など色々だ。だよな、チューはおかしいよな?
「チューは、らめ……俺、男らし……」
【なんて可愛い人なんですか……絶対にまた会いに来ますから、待ってて下さいね?】
ふぁ? 早くて分かんねぇ。シーユーって言った? シーユーはまた会おうだよな?
そうだな、日本に進出したら会うかも。とりあえずイエスで良いのか?
「い、いえしゅ……?」
俺の返事にエルビスさんは嬉しそうだった。
新原さんと溝口さんなど、英語ペラペラメンバーがガン見している。あれ? 俺なんか間違えた?
でも見上げたエルビスさんは、全てを包み込む様な、とっても優しい笑顔だった。
まぁ、多分社交辞令だろうし、実際は2度と会わないだろ。大丈夫か。
しかし、数ヶ月後に日本語をマスターした面々と再び会う事になるのは、また別のお話。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
このメンバーなので長くなるかな?と思ったので殿下とエルビスに絞りました。ダリウスファンの方すいません。
相当長くなりそうだったとの、収拾つけるには誰かに絞らないとキツかったのです。楽しんで貰えると良いのですが。真面目にお仕事させたので文字数が多いです。
エルビスが好きな方のリクエストなので、最初殿下のチューでしたが変更してエルビスに頑張って貰いました。滅多に無い積極的なエルビスでした。
ちょっとだけ歩夢も出せて満足です。
今回書けなかったリクエストは、上手く書けたと思ったらどこかでアップしますね。すいません!
次回からまた本編です。よろしくお願いします。
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