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番外編 1

100話記念リクエストSS 侍従の1日

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 このお話は、1章の後半、『それぞれの道』『祭前夜』辺りのお話です。
リクエストのキャラクターの1日を描いてみようと思ったのですが、メインキャラが波乱万丈すぎて平和な1日を見つけるのが大変でした(苦笑)架空も厳しいと言う…。

みんな苦労かけてごめんねと思う作者です。
キャラは当方お任せだったので、エルビスの1日です。リンクさせたので、ジュンヤ視点では分からなかった穴埋めパートも組み込んでみました。
そちらを読み返していただくと、色々思い出されるかと思います。

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AM 6:00 
 
 起床。
洗顔等して今日1日に備え身だしなみをチェック。夜番のヴァインとノーマを交代させ、ヴァインに仮眠を命じる。日中はノーマがお仕えする。
 そのまますぐに調理場へ行き、ハンスに今日のメニューを確認する。ジュンヤ様の体調に合わせ対処できる様に、料理長とも打ち合わせをする。
                      

AM6:30

 朝食検分
 エリアス殿下の護衛、ケーリー殿とソウガ侍従長と会う。毒味役の部下を連れている。彼は毒に特化した訓練を受けており、カルマド伯の子飼いの毒味役と共に毎日チェックしてくれているので安心してお出しできるのだ。
 出来立てを差し上げたいが、賊が入った事もあり更に厳重になった。

「おはよう、エルビス殿」
「ケーリー殿、ソウガ侍従長、おはようございます。殿下のご機嫌はいかがですか?」
「それが、昨日のあの騒ぎがあってピリピリすると思っていたが、何やらカルマド伯から受け取ったらニヤニヤしておられる。……あんな殿下の顔を見たのは初めてだ」
「何を受け取ったのでしょう?」
「分からん。まぁ、ジュンヤ様絡みだろうなぁ。あんなお顔を見る日が来るとは。我が殿下にもようやく春が来たな。おっと、エルビス殿もだったな」
「私は、侍従でありながら高貴な方と……とんでもない事をしてしまった気がします」
「何を言う。ジュンヤ様がリラックスしていられるのはエルビス殿の力だ。堂々としたら良い」
「そうだ。殿下のあんな晴れやかなお顔を見る事が出来て、私は侍従冥利につきる。殿下がそなたを認めたのだからな?」
「ケーリー殿、ソウガ侍従長、ありがとうございます」

 そうこうしているうちに全ての毒味は終わり、今日も安心な様だ。この2人はそのままカルマド伯の騎士と共にここを見張り、配膳まで食事に手を出されない様警護をしてくれる。
 ソウガ侍従長と途中まで同行し、それぞれ殿下、ジュンヤ様を起こしに行く。


 AM 6:50

 打ち合わせ 1
 ノーマと今日のジュンヤ様の衣服をセットする。どれが一番美しさを引き立てるか話し合う。もっと黒を増やして差し上げたいが、旅の途中なので様々な色と組み上げた腰紐や小物でバリエーションをつけている。だが、なかなか難しい。

「エルビス様。今日のジュンヤ様は昨日お辛いことがあったので、、少しでも明るいお色をお召しになって貰いませんか?このアイスブルーが爽やかな気分になるのではないでしょうか?」
「ふむ、そうだな。それだと腰紐が合わないな。装飾を工夫するか。これが良いだろう」

カルマド伯が多数寄贈してくれたタイ留めやブローチは、多色の宝石が組み込まれているので、大抵の着るものに合う様に出来ている。気が利いた贈り物だ。


AM7:00

 ジュンヤ様起床
 ジュンヤ様を起こす。今日は仕立て屋のパラパが納品に来る事を告げると、微妙なお顔をなさった。まだ私がパラパと何か起きると思っているのだろうか?何やら考えていらっしゃる様子だ。
 確かに彼は美しいかもしれないが、ジュンヤ様の煌めく美しさの前には霞んで何も見えないくらいだ。ジュンヤ様なら、たとえ霞や靄の中にあっても輝いているに違いない。

 お顔を洗ったジュンヤ様のお着替えを手伝い御髪を梳く。ここに来られた時より少し伸びて、曝け出されていたうなじが隠れる様になってくれた。本当に良かった。もう少し伸ばして頂かないと。
 この美しく色っぽいうなじに、何人もの男の目線が注がれている事にジュンヤ様は全く気がつかないのだ。ああ、今すぐ吸い付いてしまいたい。しかし、今の私は侍従の務めを果たさなくては!


7:20頃

 朝食
 食堂にて殿下のお出ましを待つ。来られた殿下とカルマド伯とお食事する様をチェックし、食欲はあるか、お口に合わないものはあるかを観察する。今日は全て召し上がり何よりだ。


8:00

 打ち合わせ 2
 ジュンヤ様をお部屋に戻し、ダリウスや護衛の騎士と今日の打ち合わせをする。地図を出し、綿密なルートを確認する。最も重要な仕事だ。安全を確保しながら、護衛の重圧を与えない様にして差し上げたい。事前に市民に紛れて警護する人員をカルマド伯が貸してくれて助かっている。

「うーん、ジュンヤは広場に行くって? あそこは放射状に道が広がっているから人数いるよなぁ。四ヶ所全部に配置して、それから……」

 ヤリチンクソ団長も最近はジュンヤ様一筋になり、ヤリチン団長程度に格上げしてやった。私の中では。だがジュンヤ様にいやらしい責めをして、あんな声を出させて羨ま……いや破廉恥な奴め!
 だがまぁ、仕事はちゃんとするから良しとしよう。

「どうした?」
「なんでもない、続けてくれ。まだ狂信者が残っている可能性もあるので、ジュンヤ様には真っ直ぐお帰り頂いた方が良いだろうか」
「いや、もう直ぐ旅だ。見たいといえば俺達がガードしてゆっくり見せてやろう」
「良いのか?」
「少しぐらい自由な時間をやりたいだろう?」

 ダリウスが請け負ったので、追加で頼んだ騎士達と更に詰めて貰い出発前に再確認に来る事にした。


9:30

 仮合わせ
 仕立て屋のパラパが納品に来て、頼んだ通りの素晴らしい仕上げのジレを用意してくれた。ダブレットはまだ途中だが、経過を見せに持ってきていた。刺繍が完成すればジュンヤ様の気品が更に引き立てられるだろう。
 ジュンヤ様が助手と刺繍について話していた時だった。小声でパラパが話しかけて来た。

「エルビス様。神子様、前にも増してお美しいわ。誰のせいかしらぁ?」

 流し目をして来るが迷惑だ。またジュンヤ様が誤解したらどうする!いや、またヤキモチを妬いてくれるかもしれない……

「あら、ふふ、良いことがあったのですねぇ?」
「あなたには、関係のないことでっ!」
「うふふ、あの騎士様も夢中みたいですから、頑張ってくださいね?」
「余計なお世話です」

 パラパは意味深な笑顔でジュンヤ様の方へと行き、希望を聞いたりし始めた。頑張ると言っても殿下は王位継承第一位、ダリウスは公爵家。私の実家は伯爵だ。爵位の壁はなかなか破れない。


10:20

 打ち合わせ 3
 一度部屋に戻っていただくと殿下がご用があるとの事で、私はダリウスとの打ち合わせに向かった。ご希望に添える様に柔軟に動ける配置になっており、満足してお迎えに向かった。
 アユム様は今後もケローガに滞在すると聞かされ、アリアーシュは? マテリオは?と焦ったのだが、アリアーシュは魔道具で支援すると約束し、マテリオはこのまま同行する事になった。ダリウスは非常に不服そうだった。理由を聞いても答えなかった。


11:00

 広場到着
 屋台ギルドが用意してくれた配給のための屋台は既に組み上がり、下ごしらえを始める者達もいた。野菜の皮むきは当日では間に合わない。エリアス殿下とカルマド伯がマジックバッグを貸してくださり、早く調理をしても保存できる様にしてくれたのだ。

 ジュンヤ様がとても楽しそうに笑いながら仕込みをしている。治癒ではどうしても辛いものを見てしまう。元気になるのを見る事で笑顔を見せてくださるが、屈託のない笑顔が一番——好きだ。キリリと凛々しいジュンヤ様も美しいが、子供の様に笑って頂けると幸せな気持ちなれる。

「俺、おまけじゃなくなったんだよなぁ」

 ふとジュンヤ様が誰に言うともなく呟いた。だがそれは私にもダリウスにも聞こえていた。ああ、そうだ。そんなことは望んでらっしゃらなかったのに。それでも浄化の為に受け入れてくださったが、やはり辛いのだろうか?

「不本意ですか?」

 私の問いに、私達に会えて良かったと言ってくださったその笑顔は本物だった。ダリウスにも分かったろう。
 泣き出したい様な喜びを押し殺して、私達は笑った。


12:30

 昼食
 昼食が出来たのでみんなで食事をする。騎士は交代制だ。ダリウスが私を睨んでいる。ジュンヤ様は、私達と隣り合って食べる事を望まれる。だから私はいつもお隣に座らせて頂いている。

 羨ましいだろう? お前は護衛が仕事だ。大人しく指をくわえて見ていろ。
 ジュンヤ様に気づかれない様にニヤリと笑うと眉間に皺が寄ってイラついている様だ。ふふっ。

「エルビス、これギルドのおじさん所のチーズだって。美味しいね。この蕩けるのが良いなぁ~量産できる様になると良いのに。」

 そんな私達に気がつかず、いつも無意識に何かを生み出そうとしているジュンヤ様が好きだ。年上だが可愛い。だが驚くほど度胸もあり、惚れ惚れする程凛々しい時も有る。そのギャップにどうしようもなく惹かれる。

 好きだ、好きだ、好きだ……

 いけない。今は侍従。愛しさは、お部屋に呼んで頂いた時にお伝えしよう。

 食後も浄化を行き渡らせる為に仕込みを手伝っているジュンヤ様。そんなジュンヤ様の周りは、とても良い香りがする。一ヶ所に留まれば留まる程香りが濃くなるので、周囲はうっとりとしている。とても癒され優しい気持ちになれるのだ。


16:30

 作業終了
 暑さでジュンヤ様が消耗しない様に多めに休憩を入れたせいか遅くなってしまった。日が傾きかけている。だが、少し歩きたいと仰った。ダリウスが許可を出したので少し散歩をする。

「みんな、いつもありがとう。この先も長いけどよろしくな」

 そのお言葉に、護衛全員が感激している。神兵など特にだ。彼らは死んだ仲間の様に、ジュンヤ様の為なら殉死を厭わないだろう。葬儀の後の神兵達の士気の高さは凄まじいものだった。
 だが、それをジュンヤ様は望まない。今後も共に行動する彼らに、それを伝える必要があると強く思った。生きてこそ喜んでくださる事を、いずれ話すとしよう。


17:30

 屋敷に到着。
 殿下に呼ばれ居室へ向かうと、全員の色が入ったピアスを贈られ驚いた。ダリウスも知らなかった様だ。
全員揃って付けたいとジュンヤ様が仰ったそうだ。嬉しい。互いの色を身につけるのは婚約も同然だ。

 殿下が装着する時に、耳朶を弄びながら嗜虐的な微笑みで装着するのが気になった。
最近の殿下は何やら新しい悦びを見つけてしまった様だ。ジュンヤ様が酷い目に遭わない様に気をつけなければ。


19:00

 夕食
 ジュンヤ様が夕食をとっている間、ノーマと交代したヴァインとベッドメイク、入浴準備だ。終わってから軽食を急いで取る。
 今日は立って作業されておみ足が疲れた筈だ。湯に血行の良くなるハーブ、香りの良い花弁も散らす。マッサージもして差し上げよう。


20:30

 入浴
 食後ゆったり過ごされた後に、入浴をお手伝いする。浴衣を纏っているジュンヤ様。薄絹の向こうに透けるお身体が艶めかしい。

 汗をかいた御髪をヴァインが洗い流し、お身体は私が洗う。うっかり反応しない様に気をつけながら、絹でそっと擦る。
 湯を浴びて張り付いた布越しに、愛らしいピンクの乳首が……ゴホッゴホッ。

 湯に浸かり気持ち良さげなジュンヤ様。ニホンジンはとにかく湯に入るのが好きなのだとか。それでは旅はお辛いだろうと心が痛む。
せめて入れる時はゆっくりして頂こう。


21:30

 お手入れ
 湯から出てマッサージをして差し上げていると、眠くなられたのか、ウトウトとされていた。
今日は頑張ってましたものね。そっとシーツをかけ下がろうとした時だった。

「エルビス……」

 ジュンヤ様が、ベッドのご自分の隣をトントンと手で叩いた。
 そ、それは——つまり。

「くっついて寝よ?」
「はい……」

 本来なら、控えの間で寝るのが侍従。しかし今はジュンヤ様の恋人として呼んで下さった。
体を重ねなくても、こうして抱き合っているだけで幸せだ。私はやはり侍従で良かった。2人には内緒な事が、こうやって増えていくのだから。

 ジュンヤ様とキスしてから、そっとお身体を撫でていると、すぐに寝息を立て始めた。
 お揃いのピアスを見つめ幸せな気持ちで一杯だ。


21:45

 就寝
 おやすみなさい、愛しい方。髪にキスをして、私も目を閉じた。



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 エルビスの1日は書き始めると驚くほどサクサク書けました。こんな感じで良かったでしょうか?こっそり腹の中ではヤラシイ気持ちになったり毒も吐くのですが、基本真面目なエルビスさんでした。
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