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三章
3-8 解決策は
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週末が来て、健吾と一緒に侑のところへやってきた。
結局、健吾には薬のことを言い出せなかった。
「あれ、何か問題ありましたか?」
「祐志? 侑のとこに来たの?」
「え、いや……」
あっさりと侑の台詞で相談済みということがバレてしまった。
健吾が怒りながら、経緯を侑から聞き出している。
田中は薬のことまでは言ってなかったので、かなり怒っているようだ。
「もう、俺だっていつまでも精神薄弱じゃないんだよ。いいおじさんなんだよ。最初に相談するべきだろ!」
「健吾がおじさん……」
怒られたことよりも、おじさんという言葉に衝撃を受けてしまった。
俺の中で、健吾は初めて会った時からあまり変わっていない。
そういえば同い年なんだから、俺がおじさんなら健吾もおじさんだ……。
「はぁ、それで、その薬で祐志はフェロモンに惑わされなくなるの?」
「そう。フェロモンがなくなる訳じゃないけどね」
侑の意味深な言葉。
薬のことを聞いた時には考えなかった裏側。
「それは……相手には運命と思われ続けるってことか?」
「そうです」
では、知らずに出会えば相手は発情し苦しむのに、俺は全く影響されないということか。
それは良いことなのか?
良い訳がないよな。
「それなら、祐志と同じ薬を相手にも飲ませないと意味がないんじゃないの?」
「独身なのにそんなの与えたら、番を得られなくなるよ。発情期セックスで番が成立するためには、お互いのフェロモンを感じることが必要だから」
侑の言葉には事実しかないけれど、何て重い……。
健吾も安易な考えでは駄目だと分かっている。
「相手の子が平穏になるためには、どうしたらいい?」
「絶対に出会わない土地に住んで、適当なアルファと番になるのが一番だね。オメガの場合は番がいれば余程の事がなければ、運命に左右されない」
「何で?」
「番は一回しか作れないから」
オメガはアルファとは違う。番になったら一生そのアルファの虜だ。
「あー……」
「相手に事情を話して納得してもらって、遠くで暮らしてもらうのが一番かな。感情的に納得するのは難しいから、ま、解決法はお金になるだろうね」
浮気をしたわけじゃないけれど、知ってしまったからには無視するわけには行かない。
間接的にだが、運命の彼の不幸に一枚噛んでしまっている。
慰謝料? それとも示談金? 何と言えばいいのだろう……。
「お金で済むなら、今まで貯めたぶんは全部渡すよ。……本当にそれで良いのかな」
「さあ、それを決めるのは相手だ。でもそれ以外に誠意の見せようがないだろ。祐志さんを譲れるの?」
「嫌だ。祐志は、駄目だ……。駄目だよ……。ごめん、祐志」
健吾が泣きそうになる。
今まで俺の前では強い様子を見せていたけれど、平気なはずないよな。
「俺だって健吾以外の番はいらない。下衆と言われても構わない。和久さんにも相談して、良い弁護士を紹介してもらえることになった。だから、迷わないよ」
健吾が覚悟を決めているのに、俺が揺れていては駄目だ。
最初から健吾しか守れないと分かっている。
守りたいのも健吾だけだ。
結局、まとまったお金を彼のために用意して、事情を話して遠くで暮らしてもらうように交渉することになった。
交渉には弁護士が当たることになったが、健吾が弁護士に同行して会いに行くと言い出した。
「駄目だ。やめてくれ。健吾が矢面に立つ必要はない」
「祐志、でも彼は傷ついてるんだよ。突然弁護士からお金の話だけをされて、納得なんていくの? もしどうにかして祐志に辿りついても、祐志にはもう分からないんだ。また彼は苦しむことになってしまう」
「……そこを納得させるのが弁護士の仕事だ」
「俺が彼に会いたいんだ」
「健吾……」
「会うのは病院だし、弁護士さんも同席する。大丈夫だよ」
子供のような年齢の彼が、酷い目にあったことを健吾が悲しんでいたことを知っている。
俺だって何かできるならしてやりたい。でも俺だけは彼に近付いてはいけない。
仕方ない、そう思って健吾を送り出した。
結局、健吾には薬のことを言い出せなかった。
「あれ、何か問題ありましたか?」
「祐志? 侑のとこに来たの?」
「え、いや……」
あっさりと侑の台詞で相談済みということがバレてしまった。
健吾が怒りながら、経緯を侑から聞き出している。
田中は薬のことまでは言ってなかったので、かなり怒っているようだ。
「もう、俺だっていつまでも精神薄弱じゃないんだよ。いいおじさんなんだよ。最初に相談するべきだろ!」
「健吾がおじさん……」
怒られたことよりも、おじさんという言葉に衝撃を受けてしまった。
俺の中で、健吾は初めて会った時からあまり変わっていない。
そういえば同い年なんだから、俺がおじさんなら健吾もおじさんだ……。
「はぁ、それで、その薬で祐志はフェロモンに惑わされなくなるの?」
「そう。フェロモンがなくなる訳じゃないけどね」
侑の意味深な言葉。
薬のことを聞いた時には考えなかった裏側。
「それは……相手には運命と思われ続けるってことか?」
「そうです」
では、知らずに出会えば相手は発情し苦しむのに、俺は全く影響されないということか。
それは良いことなのか?
良い訳がないよな。
「それなら、祐志と同じ薬を相手にも飲ませないと意味がないんじゃないの?」
「独身なのにそんなの与えたら、番を得られなくなるよ。発情期セックスで番が成立するためには、お互いのフェロモンを感じることが必要だから」
侑の言葉には事実しかないけれど、何て重い……。
健吾も安易な考えでは駄目だと分かっている。
「相手の子が平穏になるためには、どうしたらいい?」
「絶対に出会わない土地に住んで、適当なアルファと番になるのが一番だね。オメガの場合は番がいれば余程の事がなければ、運命に左右されない」
「何で?」
「番は一回しか作れないから」
オメガはアルファとは違う。番になったら一生そのアルファの虜だ。
「あー……」
「相手に事情を話して納得してもらって、遠くで暮らしてもらうのが一番かな。感情的に納得するのは難しいから、ま、解決法はお金になるだろうね」
浮気をしたわけじゃないけれど、知ってしまったからには無視するわけには行かない。
間接的にだが、運命の彼の不幸に一枚噛んでしまっている。
慰謝料? それとも示談金? 何と言えばいいのだろう……。
「お金で済むなら、今まで貯めたぶんは全部渡すよ。……本当にそれで良いのかな」
「さあ、それを決めるのは相手だ。でもそれ以外に誠意の見せようがないだろ。祐志さんを譲れるの?」
「嫌だ。祐志は、駄目だ……。駄目だよ……。ごめん、祐志」
健吾が泣きそうになる。
今まで俺の前では強い様子を見せていたけれど、平気なはずないよな。
「俺だって健吾以外の番はいらない。下衆と言われても構わない。和久さんにも相談して、良い弁護士を紹介してもらえることになった。だから、迷わないよ」
健吾が覚悟を決めているのに、俺が揺れていては駄目だ。
最初から健吾しか守れないと分かっている。
守りたいのも健吾だけだ。
結局、まとまったお金を彼のために用意して、事情を話して遠くで暮らしてもらうように交渉することになった。
交渉には弁護士が当たることになったが、健吾が弁護士に同行して会いに行くと言い出した。
「駄目だ。やめてくれ。健吾が矢面に立つ必要はない」
「祐志、でも彼は傷ついてるんだよ。突然弁護士からお金の話だけをされて、納得なんていくの? もしどうにかして祐志に辿りついても、祐志にはもう分からないんだ。また彼は苦しむことになってしまう」
「……そこを納得させるのが弁護士の仕事だ」
「俺が彼に会いたいんだ」
「健吾……」
「会うのは病院だし、弁護士さんも同席する。大丈夫だよ」
子供のような年齢の彼が、酷い目にあったことを健吾が悲しんでいたことを知っている。
俺だって何かできるならしてやりたい。でも俺だけは彼に近付いてはいけない。
仕方ない、そう思って健吾を送り出した。
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