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幕間2

別荘にて(後)

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 一日目は近所の林を散策した。
 別荘が見えない位置に行ってはいけないと言うのに、すぐに光一が行方不明になりそうになる。 光一にはGPSが取り付けられた。肇は啓一にくっついているので大丈夫だ。陽菜ちゃんは俺にくっついている。
 光一は兄が見てくれて、肇と啓一は裕志が見ている。陽菜ちゃんは俺と諒さんを両側に従えて嬉しそうだ。

「諒さんは、お花を見つけてね。健吾さんは木の実よ」
「かしこましました、姫」

 諒さんがニコニコしながら花を探している。大きめの木ばかりで草も少ないから、花も木の実も見つけられない。

 兄と光一がカブトムシを見つけてきた。
 啓一と肇に「いいな!」と言われて得意気だ。
 祐志は……顔がひきつっている。もしかして虫が苦手なのかな。でも、子供達に悟られないように頑張っている。
 頑張れと心の中でエールを送っておいた。

 はっとして横を見ると、諒さんが悪い顔で笑っていた。そっくりな顔で陽菜ちゃんも。
 この親子……。
 話を変えたほうが良さそうだと判断して、他の話題を振った。

「二人とも、夜ご飯は何が食べたい?」
「カレー!」

 陽菜ちゃんが答える。きゅっと繋いだ手を離さないようにする。

「諒さんも、食べたいよね?」

 ニコニコと念を推しておく。
 約束したからね。裕志をいじめたらご飯は作らないと言ってある。

「食べたい……」
「じゃあ先に戻って手伝ってもらおうかな」
「うん!」

 陽菜ちゃんは料理に興味があって、いつも手伝いをさせている。
 将来はいいお嫁さんに……はぁ。お嫁さんになった方が良いんだろうけど、寂しいな。
 別荘に戻って陽菜ちゃんと料理した。諒さんは林の中で何かを感じたらしく、パソコンを開いてデザインを始めていた。

 夕飯は夏野菜たっぷりのカレーにした。大量に作ったのに、子供達の食欲がすごくて一気になくなってしまって驚いた。皆大きくなりそうだ。


 久しぶりに陽菜ちゃんと長い時間を過ごして、啓一と光一が女の子だったらどうだったのかなと考えた。
 ……外に出せない。
 変な男に目をつけられたら困る。

 二人とも出産時に入院してたから血液型も第二性もわかってる。
 アルファで良かった。ベータでも良いけど。オメガは駄目だ。心配で外に出せない。
 二人ともアルファの男の子で良かった。

「健吾、どうした?」

「ん? 陽菜ちゃんが可愛いから、女の子がいたらどうだったのかなって考えてた」

「その割に険しい顔だったけど……」

「女の子だったら心配過ぎて外に出せないなって考えてたんだ」

「健吾に似てたら出せないけど、啓一と光一ぐらいな感じなら大丈夫だろう」

「何言ってるんだよ。今でもあんなに可愛いのに、変な奴に目をつけられたらどうするんだ」

「健吾は俺の目がおかしいっていつも言うけど、健吾も大概だと思うよ」

 啓一と光一は祐志のミニチュアだ。
 ものすごく可愛い。俺に似なくて良かった。自分の顔はどうも辛気臭くて好きになれない。

 お互いの顔の方が良いと言いあって、一日目の夜は更けていった。


 ◇


 二日目は午後から小川遊びをして、やっぱり光一だけが転んだ。光一は笑いながら服を脱いで、乾かすと言って全裸で走り回っていた。二日目にして野生が目覚めたようだ。
 啓一もいつの間にか一緒に走っていて、肇も混ざって走り回っていた。最後は陽菜ちゃんも参加していて、楽しそうだった。
 ここに来て良かった。
 走り回る子供達を見ていると、いつの間にか兄が横にいた。懐かしい話を振ってみる。

「俺が川で転んだら兄さんが着替えさせてくれたよね。泣きそうにしてたら飴までくれて……嬉しかったのを覚えてるよ」

「健吾は要領が良くなかったからな。たすくも転んだりしていたけど、父の前ではしなかった」

「そうなの? 鈍臭いの、俺だけだと思ってたよ」

「そんなことはない。子供の頃は皆、大差なかった」

 そうなんだ。俺は自分だけが駄目だと思ってた。少しだけ心が軽くなった。

「休みに便乗させてくれて、ありがとう。俺も祐志も子供達がこんなに山を楽しむとは思ってなかったよ」

「子供は何でも楽しむ。諒が我が儘言って悪かったな。料理は手抜きで構わない。疲れたら休めよ」

「うん。もう子供達は子供達同士でやってくれるから、ずいぶん楽になったから大丈夫。ご飯楽しみにしてて」

 兄とこんなに話すのは初めてだ。いつも短文しか話さない人がこんなに話すなんて、兄も楽しいのかもしれない。


 ◇


 夜はとても早かった。
 夕飯を食べて風呂に入った子供達は、布団に乗った途端に眠ってしまった。ピクリとも動かない。
 別荘の風呂は、温泉を引っ張ってきて露天風呂風の設えになっている。浴槽も広いし、かなり贅沢だ。
 兄夫夫ふうふに了解を取って先に入らせてもらった。

「立派な風呂だな」
「うん……」

 祐志にもたれて、天窓に映る星空を眺めようとしたけれど、湯気で見えなかった。

「……あれ設計ミスかな」
「窓を開けてないからじゃないか?」

 そういうことか。
 でも、明日もあるし今日は疲れた。祐志が窓を開けてくれようとするのを止めて、目を閉じた。

「健吾? 寝たのか。お疲れ様」

 俺は翌朝までぐっすり眠ってしまった。
 朝は祐志がとても嬉しそうにしていた。祐志は俺のお世話をするのが好きなんだそうだ。いつもは主夫だし、俺が世話をしているから、たまに俺の世話ができると喜ぶ。


 ◇


 別荘での休暇も残すところあと一日になった。

 啓一と肇は薪や落ちていた枝を使って、小さな家を使った。秘密基地だそうだ。完成した家は、子供にしては良い出来で、二人共天才じゃないかと思った。

「あれ取っておきたいなぁ……」
「そうだね。とりあえず写真写真」

 諒さんが楽しそうに写真を撮りまくっている。兄も肇を褒めている。ほとんど啓一が作ったとはいえ、肇も頑張っていた。

「大きくなったらけーちゃんと住むんだ!」
「僕は運命の番と結婚するから駄目だよ~」
「ぼくがけーちゃんの運命じゃないの?」
「違うよ。肇には肇の運命がいるよ」
「やだー! けーちゃんがいい」

 びっくりした。
 啓一、そんなこと考えてたんだ。いつ運命の番なんてことはを知ったのだろう。

 ……運命ねぇ。よくわからないな。
 俺は祐志が好きだけど、運命かと言われると微妙だ。運命は本能的なものだから、出会ったら発情待った無しだと聞いている。そもそも滅多に聞かないし。
 家を撮り終わった諒さんが木の根に躓いた。兄が諒さんを抱きとめて、様子がおかしくなった。

「健吾、片付けは大体終わったから……あ」
「祐志ありがと。どうしたの?」
「子供達、帰れるな! 車は借ります」

 急に祐志が帰ると言いだした。
 うちの車では子供達全員は乗れない。兄の車は七人乗りの大きな車だから、そちらで帰るらしい。でも何で帰るのかと思ったら、兄が手招きした。まだ諒さんを抱きとめたままだ。

発情期ヒートだ。悪いな。予定より早かった」
「はっ……健吾、ごめん」

 熱に浮かされたような諒さん。
 体に力が入らないようだ。俺は他人の発情ヒートを見るのは初めてだった。諒さんがこの状態だと、兄もかなり辛いだろう。

 まず子供達を車に押し込んで、荷物を運び出す。子供達が車に入った段階で、兄が諒さんを抱き上げて別荘に入った。俺は子供達と車で待機だ。祐志が施錠して、慌ただしく別荘を後にした。

「帰りは一緒で嬉しい!」
「そうだね。しばらくうちに泊まっていくと良いよ」
「やったー!」

 無邪気な肇の声が車に響く。陽菜ちゃんが後ろから内緒話みたいに、話かけてきた。みんなに聞こえてるけど。

「あのね、パパと諒くんは運命のつがいなのよ」
「え、そうなの?」
「うん。諒くんが教えてくれたの。でもパパには内緒よ」
「何で内緒なの?」
「諒くんは、パパに愛されてるかんじがいいんだって。運命ってわかったら、諒くんがパパを大好きなのがばれちゃうから駄目なんだって」

 すごく分かったような言い方をしてるけど、陽菜ちゃんは絶対わかってない。諒さんの言葉をそのまま言ってるんだろう。「良く知ってるね」と言ったら満足そうに席に戻っていった。何事もなかったように子供同士で話している。
 諒さんと兄さんは仕事関係で出会ったとしか聞いていない。兄が諒さんに惚れ込んで結婚したとしか聞いていなかったから、諒さんの言葉は意外だ。

 子供達の話題も運命の番って何?なんてことになっている。
 啓一が説明していて、陽菜ちゃんが愛よ!なんて茶々を入れてて面白い。
 子供でも恋愛の話には興味あるんだね。

 楽しい長期休暇だった。


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