リセット

爺誤

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幕間2

引っ越し作業(後)

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 胃がキリキリと痛む。
 引っ越しは明日だ。
 ほとんどの荷物はダンボールに詰めた。
 俺のクローゼットの奥には宝箱がそのままにしてある。このまま放置していきたい。
 でも放置したら、引っ越し業者に見られてしまうかもしれない。次の住人が見つけるかもしれない。

 普通に考えて、中身を確認しないはずがない。
 食欲の失せた俺を健吾が心配している。でも健吾に失望されたくない。
 あんなオモチャで健吾をどうこうしたいなんて思った事は……ない。多分。ないと思う。ない……。

 この家での最後の夜だ。
 感動的なはずなのに俺は何をしているんだろう。

「祐志、全部荷造りできた?」
「……ああ」
「どうした? なんか詰めにくいものでもあった?」
「あっ!?」

 健吾が俺のクローゼットを開けてしまった。
 一つ残された宝箱がまるでスポットライトでも当たっているかのように、チープな輝きを放っている。

「宝箱?」
「そ、それは」
「どっかで見たような……」
「え?」
「あーっ、懐かしい!」

 え、何?
 まさか健吾だったの?
 いや、そうだよな。俺じゃなかったら健吾しかいないよな。

「昔、友達のとこから貰ったんだよ。面白そうだったから!」
「と、友達?」
「うん。桐生院浩君。家庭内のトラブルになりかけてたから引き取ってきたんだ」
「え、誰かの使用済み?」

 色々衝撃過ぎて何に反応していいかわからない。

「使用済みっていえば使用済みかな?」
「え」
「俺も使ってみたよ。意外に良かった」
「えー……」

 誰かと共有したの?
 まさかの不倫発覚……。
 涙が出た。

「えっ!? 祐志何泣いてるの!?」
「健吾が、不倫……うっ」
「あっ! 違う! 違うよ祐志!」
「だってそれを誰かと使って気持ち良かったって」
「浩君だって。浩君が旦那さんのクローゼットから発見して、ブルブルするから肩こり用のマッサージ器的に使ったの! 俺も肩に当ててみただけ!」

 健吾が何を言ってるのかわからない。
 涙が止まらない。
 健吾それ大人のオモチャだよ。
 ブルブルするって、それは入れてからブルブルさせるんだろ?

「えっと、初めは、桐生院さんが友達に結婚祝いで貰ったんだって。でもひろしに使えないからしまいこんでたのを浩が見つけて、興味本位で動かしてみたの! 振動がマッサージに良さそうだったから肩こりに使ってみたんだよ。ここからは俺も意味不明なんだけど、散歩中に宝箱をリサイクルショップで買って、これを入れておいたんだって。旦那さんへの悪戯だったらしいよ! でもそれで旦那さんも混乱して揉めそうになってたから、俺が引き取ってきたの! ちょっと面白かったから祐志のクローゼットに仕込んで、忘れてた! ごめん!」

 健吾が珍しくまくし立てるように話した。桐生院家はご主人が和久さんの同窓で、世間知らずのオメガの奥さんがいるから健吾に友達になってほしいとか言われて仲良くなっていたやつだろう。あちらは子沢山で忙しいから、たまに健吾が遊びに行っているだけだ。
 訳がわからないけど、健吾の勢いで涙は止まった。
 とりあえず、入れてないらしい。

「もしかしてこれのせいで食欲なかった?」
「うん……」
「ごめん。祐志。楽しい引っ越しになるはずだったのに」
「いや……俺が見つけてすぐに健吾に聞けば良かったんだ。健吾じゃなかったらどうしようとか、子供達だったらどうしようとか無駄に考えすぎてたよ……」
「祐志……あ」

 健吾が俺の頭を抱きしめて、声をあげた。

「なに?」
「ごめん……ごめん祐志。十円ハゲが、できてる」

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