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二章
2-14 反抗のあとに 光一
しおりを挟む大人は自分よりも大きいと思ってた。
イライラして、大人は何を言って も頑丈で大丈夫だからと、止まらなくて言いがかりをつけた。
父親は強すぎて何を言っても負けてしまうから、健吾に当たり散らした。
姑息な自分すら、判断力があって頭が良いとすり替えていた。
言い返されて、腕を掴まれてカッとして振り払ったら、思ってたよりもずっと軽く吹っ飛んでしまった。
そのまま動かない。
予想もしていなかった事態に立ち竦んでいたら、啓一が帰ってきた。
「健吾!? 光一、何やってる!?」
「あ……俺、わざとじゃ」
「救急車!」
健吾はすぐに目覚めたけれど、何もかも忘れてしまっていた。
俺たちのことも。父さんのことも。
経緯を聞いた父に生まれて初めて殴られて、やっと事態を飲み込んだ。
泣いて謝る俺に、謝る相手が違う、と厳しい声で言われた。
馬鹿な俺に、健吾は忘れてしまっていても優しくて、忘れてごめん、と言ってくれた。
健吾が帰ってきてからは、家の中に父の威嚇フェロモンが常に漂っていて怖かった。
健吾の件から、最近はあまり話さなくなっていた啓一とよく話すようになった。
「自業自得。イライラするのは分かるけど、人に当たるのは違うだろ」
「……ん。反省、してる」
「はーっ。光一はマザコン過ぎるんだよ。健吾に甘えすぎ」
「う……」
「父さんがこんなになるとは思わなかった。俺までとばっちりでキツいだろ」
「健吾はどうして平気なんだろ」
「そりゃ父さんの番だから、むしろ父さんのフェロモンがあったら安心するだろ」
「そっか……」
退院した健吾は戸惑う様子を見せたけど、家計簿とかレシピノートを見て、いつも通りのご飯を作ってくれる。
それに安心していつも通りに話をしようとすると、戸惑った様子でごめんと言われてしまう。
辛かった。
「おい光一、健吾が心配してる。お前が被害者ヅラすんな」
「だって……」
「お前がウジウジしてると健吾が心配して、その健吾を心配した父さんの威嚇が激しくなるんだよ。寮に入るにも高校からしか入れないし……」
「啓一、寮に入るのか?」
「このままだったら寮に入る。父さんの威嚇がキツすぎる」
今まで俺たちは子供扱いだったから、父は俺たちも庇護対象に置いていた。
でも健吾を傷付けられて、俺たちを一人前のアルファとして認識したということだろう。
「一緒に生まれたのに、何で啓一はそんなに落ち着いてるんだ?」
「性格の差だろ。諒さん曰く、しっかり者の啓一とうっかり者の光一だもんな」
「うっかりって酷くねえ?」
学校じゃそれなりに評価されてると思う。
啓一には負けるけど、成績も運動もトップクラスだし。
「うっかり健吾を吹っ飛ばして救急車沙汰だろ。うっかりじゃなかったら身内だろうが警察突き出すぞ」
「歳が足らないだろ」
「健吾はオメガだ。アルファがオメガを傷つけたら普通より罪が重いのは知ってるだろ」
「ん……」
そうだ。
アルファは色々な能力が高く生まれつく。
それは先天的なものだから、自分の努力で得たものじゃない。
アルファ教育の中で、生まれつきの能力に溺れることがないように、としつこいぐらいに言われるのに。
オメガについても同様だ。
先天的に体力が低めになってしまうからといって、オメガが劣等種という訳ではない。
オメガがいなければアルファの出生率だって落ちるし、アルファの本気を引き出せるのもオメガだけだ。
俺だって馬鹿じゃない。
イライラしていた理由はわかっている。
啓一のクラスのオメガ。どこか健吾に似た雰囲気のあいつが、気になって仕方がない。
あいつに近付いてみたくて、できなくて、健吾に当たった。
祖父のようにオメガを劣等種だなんて思ったことはない。
そんな事を言ったのは、健吾を人として認めないようなクソジジイ。数年前までは、父に言われたからだけじゃなくて、あいつから健吾を守らなきゃって思ってたのに……。
健吾はいつだって優しくて、一生懸命に俺たちのことを考えてくれている。
それなのに、訳の分からない苛立ちで健吾を貶めた。
自己嫌悪で落ち込んで、父のフェロモンでどん底だ。
「光一、キャンプ行くだろ? ちょっと家から離れるいい機会だよ。家は父さんの威嚇フェロモン過多でゆっくりできないしさ」
「そうだな。啓一も、ごめん」
「うん。田中も来るって言ってたよ」
「な、何言ってるんだよ! 田中なんて関係ないだろ!」
「へー。俺は田中のどこが健吾に似てるか分からないけど、光一は似てるように思えるんだろ。光一はマザコンだからな」
俺とよく似た顔がニヤニヤと笑っている。
啓一がこんな顔をするのは身内の前だけだ。外だと完璧なエリートアルファの顔をしている。
顔はほとんど同じなのに、何でこんなに違うんだろう。
啓一の方が数分早く生まれただけなのに。
キャンプは楽しかった。
田中と話す機会もあった。
「田中は自分がオメガとか、気にするか?」
「ああ? 何だよ急に。僕はオメガだけど、別に気にしてないし。宮園、そういう質問は無神経過ぎて引く」
「あ、ご、ごめん」
純粋な疑問のつもりだったけど、嫌な虫でも見るような目で見られた。
後から啓一に話したら爆笑された。
「お前っ、俺と同じ顔であんまりアホなこと言うなよ! ……まあ初恋は実らないっていうし、残念だったな」
取って付けたような慰めに、俺の初恋だったの? と後から気付いて泣きたくなった。
傷心を抱えて家に帰ると、健吾の記憶が戻っていて、記憶を失う前よりも両親がラブラブになっていた。
啓一と二人で、高校から寮に入る事を決めた。
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