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二章

2-13 リスタート

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 記憶が戻った翌日は宿から出なかった。
 発情期は無いはずなのに、まるで発情しているかのように寝食を忘れて祐志と致してしまった。

「あっ、あ、あぁっ、祐志そこ、中に、中に、ちょうだいっ」
「健吾、っは。あ」
「あぅぅっ、あ、出てる。なか、あっ」

 熱に浮かされたように、祐志に縋り付いて、境界なんてなくなって溶け合ってしまえたら良いのに、と思う。
 祐志が体勢を整えるために身体を離そうとするのが悲しくて、嫌々と手足を絡める。

「お願い、はなさないで、あっんぅっ、んっ、はぁっ」
「離さない。健吾、離すわけない」
「ぅああっ……!」

 祐志が乱暴な動きで中を抉って、苦しいのに、その苦しさが良くてまた絶頂する。
 出すものがなくなっても貪るのをやめられなくて、ただ身体をビクビクと震わせるだけになっていく。

「ぁっ、は……、あ……あう……う、ふ……」
「はっ、健吾、んーっ」
「ふ、ぁ……」

 幾度目かわからない祐志の吐精を奥に感じて、目を閉じた。





 夢の中で、小さな俺が泣いていた。

「おとうさんは、ぼくがオメガだからいらないって」

 そうだね。
 父さんはオメガの男が何より嫌いだね。

「に、にいさんもぼくがオメガだから、はなしもしてくれない」

 小さな頃は仲良くしてたけど、早熟な兄さんには俺がいつまでも鈍臭くて意味不明だったんだと思うよ。

「あやもたすくも、おれよりなんでもできて、おれ、おせわしてあげたかったのに」

 妹の絢香あやかも弟のたすくも、俺のこと馬鹿にしてたなぁ。何でもすぐにできて、俺が教えてあげられたことなんてほとんどなかった。
 二人ともアルファだった。

「こんな、オメガのぼくなんて、いらないんだ」

 そうだね。家族には必要として貰えなかったね。
 でもね、小さな健吾おれ、大丈夫だよ。

 オメガだったから、俺を見つけてくれた人もいたんだよ。
 可愛い子供達のお世話だってできたよ。
 酷いことをしたのに、俺がいないと生きて行けないみたいだよ。
 こんなみすぼらしい俺のことも綺麗だって言ってくれるんだ。

「そんなの、ゆめだよ」

 そうだね。何度も逃げ出してしまった。
 いらないって言われるのが怖くて、逃げてばっかりだった。
 俺を愛してくれる人からも、逃げてしまった。

 祐志は俺を守ってくれるんだって。
 俺のせいでめちゃくちゃにしてしまったのに、俺が必要だって言ってくれる。
 もう逃げる必要なんて、ないよね。

「ひとりじゃない?」

 ひとりじゃないよ。祐志がいる。
 祐志がいつでもいてくれる。
 俺は俺の全部で祐志を愛したいんだ。
 いつまでも蹲って泣いてないで、こちらにおいで。

「うん……っ」

 小さな俺が俺に飛びついてきて、俺の最後のピースが揃った。





 髪を撫でられる感触に、ゆっくりと目を開く。
 視界いっぱいの祐志が「起きた?」と微笑んでいる。

「おはよう、祐志。大好きだよ」

 嬉しくて笑って言うと、祐志の目から涙が落ちた。

「えっ!? 祐志どっか痛い?」
「違う。俺、ずっと健吾とこうしたかった。大学の時に、告白して、デートして、健吾の発情期には噛ませて貰ってって……好きだよ、健吾」

 布団に横になったままなのを、モゾモゾと起き上がる。身体中痛いけど、今は我慢だ。
 横に落ちていた浴衣を羽織って、少しだけ体裁を整えた。
 真っ直ぐに祐志を向いて、今更だけどドキドキして言った。

「祐志、好きです。学食で見てました。付き合って、ください」

 俺が何をするのかじっと見ていた祐志も起き上がって嬉しそうに笑った。

「喜んで」

 触れるだけのキスをして、寄り添って幸せな気持ちを満喫した。
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