25 / 44
二章
2-11 二度目の……
しおりを挟む
俺の夫だという宮園祐志は毎朝病院に顔を出して、仕事帰りにも顔を出す。
緩めの病院だから面会時間はあってないようなもので、短時間ならお目こぼししてもらえるようだ。
「健吾、明日は退院だけど、うちに来て大丈夫?」
「うん……多分。先生もいつも通りにしてたら思い出すかもしれないって言ってたし。ただ、その、祐志、と結婚してるっていうのが実感なくて」
「うん、大丈夫だよ。何も無理強いしないから。家には健吾のつけてた家計簿とか色々あるから、見てみて。子供達はもう自分のことは自分でやれる年だし、健吾はのんびりして」
「ありがと」
俺と祐志は三十六歳だという。
実感はないけど、俺の中には、この人と過ごした十五年がどこかにあるはずだ。
退院して、祐志が当たり前のように俺の肩を抱いた時は驚いた。
あ、そうか、俺のダンナってこと。
蕩けるような表情で「早めに退院できて良かった」と笑う祐志に、顔が熱くなる。
そうか、俺、ちゃんとこの人が好き、みたいだ。
俺はオメガとして自分が家庭を持つなんて考えたこともなかった。
一生発情期を抑えて、誰とも深く付き合えないまま終わるのだと思っていた。
一体何がどうなって、こんな普通の家庭になったんだろう。
家は真新しい一戸建てだった。
都会の住宅地に、ちょうどいい大きさで、落ち着いた雰囲気の家だ。
「健吾が節約を頑張ってくれてね、子供達の教育費もある程度貯まったから家を買ったんだよ」
「へ、へえー」
節約?
節約は好きだけど、俺、どういう立ち位置にいたんだろう。
働いてなかったのかな。
「あの、俺さ、働いてなかったの?」
「ああ、そうだよ。俺が、健吾に外に出て欲しくなくて専業主夫をしてもらってたんだ」
「そうだよね……外に出ないほうがいいよね」
俺みたいなのが番だなんて恥ずかしいだろう。オメガは綺麗な人が多いのに、どうして俺はこうしょぼくれた感じなんだろう。
「健吾は綺麗だから、番持ちだって分かってても寄ってくる奴がいるから」
「へっ!?」
「記憶がない健吾には負担になるかもしれないけど、俺は健吾が好きだよ。愛してる」
キラキラと輝きながら語ってくる祐志に、顔を真っ赤にして何も言えなかった。
やばい、これは何かとんでもないことになってる気がする。
俺があわあわと答えられないでいると、頬に軽いキスを落として、祐志が家の説明をし始めた。
「ここは健吾の拘りのアイランドキッチンだよ。前に住んでいたとこもアイランドキッチンだったんだけど、作業場所が狭いのが気になってたらしくて、広いのを探して取り付けたんだ」
嬉しそうにキッチンの説明をする祐志。
キッチンの裏はパントリーとランドリールームがあり、広いユニットバスがあった。
ユニットバスが広いのも拘りらしい。
説明をするたびに、いちいち祐志が色気を振りまいて
いるような気がしてならない。
何だろう……。
子供達には個室があって、そこはもう親は立ち入り禁止らしい。お年頃だな。
あとは主寝室が一つ。
祐志は家に仕事は持ち込まないそうで、書斎コーナーは俺が家計簿とかをつけるためのものらしい。
そこにはいくつかのノートがあって、中を見たら確かに俺の字でレシピやスーパーの食材価格が書いてあった。
専業主夫……そうだ、やるならこれぐらいはこなすべきだ。自分がここで地に足をつけて生活していたことに納得した。
主寝室には大きなベッドがどん!と置いてある。
ここが祐志と俺の部屋ということは、一緒に寝てたんだよな……。
さらにウォークインクローゼットの奥には、シャワールームがこっそりつけてあった。
子供たちはこのシャワールームの存在を知らないそうだ。
生々しい…………。
どうしよう、何か、祐志と俺は相当ラブラブだったようだ。
妙な汗が出る。
そもそも発情期さえまともに経験してないのに、突然結婚十五年とかハードルが高すぎる。
「健吾、一緒に眠るのが不安なら俺は一階で布団を敷いて寝るから。本当は健吾の側にいたいから、この部屋に布団を敷かせて貰えると有難いんだけど、無理強いは絶対にしない」
なにこのイケメン。
どうしよう、格好いい。
俺、すごい。こんな人と結婚してるなんて。
アルファなんて、とか男なんて、とか全部吹っ飛んだ。
祐志と俺、一体何があったんだろう。
「えっと、祐志、祐志も疲れてるだろうからベッドで寝て欲しい。申し訳ないんだけど、祐志と結婚してたの忘れちゃったから、その、夫婦、生活的なのはできないけど、それで良ければ……」
恥ずかしくて顔を見れないでボソボソと伝えた。
何も言われないので、そっと見上げると祐志が顔を真っ赤にして両手を広げて固まっていた。
抱きつこうとしたのを我慢しているみたいな。
……これ、うん。これぐらいなら。
俺は祐志の腕の中にそーっと入った。
「ありがとう、健吾」
ギュッと抱きしめられて、囁かれて頭がクラクラした。
緩めの病院だから面会時間はあってないようなもので、短時間ならお目こぼししてもらえるようだ。
「健吾、明日は退院だけど、うちに来て大丈夫?」
「うん……多分。先生もいつも通りにしてたら思い出すかもしれないって言ってたし。ただ、その、祐志、と結婚してるっていうのが実感なくて」
「うん、大丈夫だよ。何も無理強いしないから。家には健吾のつけてた家計簿とか色々あるから、見てみて。子供達はもう自分のことは自分でやれる年だし、健吾はのんびりして」
「ありがと」
俺と祐志は三十六歳だという。
実感はないけど、俺の中には、この人と過ごした十五年がどこかにあるはずだ。
退院して、祐志が当たり前のように俺の肩を抱いた時は驚いた。
あ、そうか、俺のダンナってこと。
蕩けるような表情で「早めに退院できて良かった」と笑う祐志に、顔が熱くなる。
そうか、俺、ちゃんとこの人が好き、みたいだ。
俺はオメガとして自分が家庭を持つなんて考えたこともなかった。
一生発情期を抑えて、誰とも深く付き合えないまま終わるのだと思っていた。
一体何がどうなって、こんな普通の家庭になったんだろう。
家は真新しい一戸建てだった。
都会の住宅地に、ちょうどいい大きさで、落ち着いた雰囲気の家だ。
「健吾が節約を頑張ってくれてね、子供達の教育費もある程度貯まったから家を買ったんだよ」
「へ、へえー」
節約?
節約は好きだけど、俺、どういう立ち位置にいたんだろう。
働いてなかったのかな。
「あの、俺さ、働いてなかったの?」
「ああ、そうだよ。俺が、健吾に外に出て欲しくなくて専業主夫をしてもらってたんだ」
「そうだよね……外に出ないほうがいいよね」
俺みたいなのが番だなんて恥ずかしいだろう。オメガは綺麗な人が多いのに、どうして俺はこうしょぼくれた感じなんだろう。
「健吾は綺麗だから、番持ちだって分かってても寄ってくる奴がいるから」
「へっ!?」
「記憶がない健吾には負担になるかもしれないけど、俺は健吾が好きだよ。愛してる」
キラキラと輝きながら語ってくる祐志に、顔を真っ赤にして何も言えなかった。
やばい、これは何かとんでもないことになってる気がする。
俺があわあわと答えられないでいると、頬に軽いキスを落として、祐志が家の説明をし始めた。
「ここは健吾の拘りのアイランドキッチンだよ。前に住んでいたとこもアイランドキッチンだったんだけど、作業場所が狭いのが気になってたらしくて、広いのを探して取り付けたんだ」
嬉しそうにキッチンの説明をする祐志。
キッチンの裏はパントリーとランドリールームがあり、広いユニットバスがあった。
ユニットバスが広いのも拘りらしい。
説明をするたびに、いちいち祐志が色気を振りまいて
いるような気がしてならない。
何だろう……。
子供達には個室があって、そこはもう親は立ち入り禁止らしい。お年頃だな。
あとは主寝室が一つ。
祐志は家に仕事は持ち込まないそうで、書斎コーナーは俺が家計簿とかをつけるためのものらしい。
そこにはいくつかのノートがあって、中を見たら確かに俺の字でレシピやスーパーの食材価格が書いてあった。
専業主夫……そうだ、やるならこれぐらいはこなすべきだ。自分がここで地に足をつけて生活していたことに納得した。
主寝室には大きなベッドがどん!と置いてある。
ここが祐志と俺の部屋ということは、一緒に寝てたんだよな……。
さらにウォークインクローゼットの奥には、シャワールームがこっそりつけてあった。
子供たちはこのシャワールームの存在を知らないそうだ。
生々しい…………。
どうしよう、何か、祐志と俺は相当ラブラブだったようだ。
妙な汗が出る。
そもそも発情期さえまともに経験してないのに、突然結婚十五年とかハードルが高すぎる。
「健吾、一緒に眠るのが不安なら俺は一階で布団を敷いて寝るから。本当は健吾の側にいたいから、この部屋に布団を敷かせて貰えると有難いんだけど、無理強いは絶対にしない」
なにこのイケメン。
どうしよう、格好いい。
俺、すごい。こんな人と結婚してるなんて。
アルファなんて、とか男なんて、とか全部吹っ飛んだ。
祐志と俺、一体何があったんだろう。
「えっと、祐志、祐志も疲れてるだろうからベッドで寝て欲しい。申し訳ないんだけど、祐志と結婚してたの忘れちゃったから、その、夫婦、生活的なのはできないけど、それで良ければ……」
恥ずかしくて顔を見れないでボソボソと伝えた。
何も言われないので、そっと見上げると祐志が顔を真っ赤にして両手を広げて固まっていた。
抱きつこうとしたのを我慢しているみたいな。
……これ、うん。これぐらいなら。
俺は祐志の腕の中にそーっと入った。
「ありがとう、健吾」
ギュッと抱きしめられて、囁かれて頭がクラクラした。
13
お気に入りに追加
496
あなたにおすすめの小説
消えない思い
樹木緑
BL
オメガバース:僕には忘れられない夏がある。彼が好きだった。ただ、ただ、彼が好きだった。
高校3年生 矢野浩二 α
高校3年生 佐々木裕也 α
高校1年生 赤城要 Ω
赤城要は運命の番である両親に憧れ、両親が出会った高校に入学します。
自分も両親の様に運命の番が欲しいと思っています。
そして高校の入学式で出会った矢野浩二に、淡い感情を抱き始めるようになります。
でもあるきっかけを基に、佐々木裕也と出会います。
彼こそが要の探し続けた運命の番だったのです。
そして3人の運命が絡み合って、それぞれが、それぞれの選択をしていくと言うお話です。
あなたの隣で初めての恋を知る
ななもりあや
BL
5歳のときバス事故で両親を失った四季。足に大怪我を負い車椅子での生活を余儀なくされる。しらさぎが丘養護施設で育ち、高校卒業後、施設を出て一人暮らしをはじめる。
その日暮らしの苦しい生活でも決して明るさを失わない四季。
そんなある日、突然の雷雨に身の危険を感じ、雨宿りするためにあるマンションの駐車場に避難する四季。そこで、運命の出会いをすることに。
一回りも年上の彼に一目惚れされ溺愛される四季。
初めての恋に戸惑いつつも四季は、やがて彼を愛するようになる。
表紙絵は絵師のkaworineさんに描いていただきました。
【完結】『ルカ』
瀬川香夜子
BL
―――目が覚めた時、自分の中は空っぽだった。
倒れていたところを一人の老人に拾われ、目覚めた時には記憶を無くしていた。
クロと名付けられ、親切な老人―ソニーの家に置いて貰うことに。しかし、記憶は一向に戻る気配を見せない。
そんなある日、クロを知る青年が現れ……?
貴族の青年×記憶喪失の青年です。
※自サイトでも掲載しています。
2021年6月28日 本編完結
噛痕に思う
阿沙🌷
BL
αのイオに執着されているβのキバは最近、思うことがある。じゃれ合っているとイオが噛み付いてくるのだ。痛む傷跡にどことなく関係もギクシャクしてくる。そんななか、彼の悪癖の理由を知って――。
✿オメガバースもの掌編二本作。
(『ride』は2021年3月28日に追加します)
運命だなんて言うのなら
riiko
BL
気が付いたら男に組み敷かれていた。
「番、運命、オメガ」意味のわからない単語を話す男を前に、自分がいったいどこの誰なのか何一つ思い出せなかった。
ここは、男女の他に三つの性が存在する世界。
常識がまったく違う世界観に戸惑うも、愛情を与えてくれる男と一緒に過ごし愛をはぐくむ。この環境を素直に受け入れてきた時、過去におこした過ちを思い出し……。
☆記憶喪失オメガバース☆
主人公はオメガバースの世界を知らない(記憶がない)ので、物語の中で説明も入ります。オメガバース初心者の方でもご安心くださいませ。
運命をみつけたアルファ×記憶をなくしたオメガ
性描写が入るシーンは
※マークをタイトルにつけますのでご注意くださいませ。
物語、お楽しみいただけたら幸いです。
【完結・ルート分岐あり】オメガ皇后の死に戻り〜二度と思い通りにはなりません〜
ivy
BL
魔術師の家門に生まれながら能力の発現が遅く家族から虐げられて暮らしていたオメガのアリス。
そんな彼を国王陛下であるルドルフが妻にと望み生活は一変する。
幸せになれると思っていたのに生まれた子供共々ルドルフに殺されたアリスは目が覚めると子供の頃に戻っていた。
もう二度と同じ轍は踏まない。
そう決心したアリスの戦いが始まる。

林檎を並べても、
ロウバイ
BL
―――彼は思い出さない。
二人で過ごした日々を忘れてしまった攻めと、そんな彼の行く先を見守る受けです。
ソウが目を覚ますと、そこは消毒の香りが充満した病室だった。自分の記憶を辿ろうとして、はたり。その手がかりとなる記憶がまったくないことに気付く。そんな時、林檎を片手にカーテンを引いてとある人物が入ってきた。
彼―――トキと名乗るその黒髪の男は、ソウが事故で記憶喪失になったことと、自身がソウの親友であると告げるが…。
皇帝にプロポーズされても断り続ける最強オメガ
手塚エマ
BL
テオクウィントス帝国では、
アルファ・べータ・オメガ全階層の女性のみが感染する奇病が蔓延。
特効薬も見つからないまま、
国中の女性が死滅する異常事態に陥った。
未婚の皇帝アルベルトも、皇太子となる世継ぎがいない。
にも関わらず、
子供が産めないオメガの少年に恋をした。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる