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二章
2-11 反抗期
しおりを挟む最近、中学生になった子供たちは反抗期のようだ。
教育の賜物で最低限の挨拶はするけれど、それ以外はほとんど話をしなくなった。寂しいけれど、成長しているのだから仕方がないと黙っている。もちろん、おかしな方向へ行こうとしたら止めなければならないから気を付けているけれど、基本は信じているしかない。
そんな子供たちのうちの一人、光一がふっと俺に聞いてきた。
やけに挑戦的な表情だ。
「健吾は、父さんのどこが良かったの?」
「え、わからない。気付いたら好きだったよ」
「はあ? 顔とか性格とか何かないの?」
「うーん、強いて言えば顔?話したことなかったし」
「それって、オメガだから?」
「さあ?わからない。誰かを好きになったのも初めてだったから」
「ふーん。で、発情期を使ってモノにしたの?」
「何それ」
光一がイライラとした様子で、俺を睨みつける。言いがかりをつけたいのかな。
第二性は二人ともアルファだった。アルファとしての教育を受けられる学校に入ったのだから、オメガの発情期で自分がどうなるかもしっかり習っただろう。第二性の結果が出た時に祐志と話していたし、何でオメガにこんな含みのあるような言い方をしているのだろう。
俺の実家はおかしかったけれど、世間のオメガに対する偏見は表立ってはいない。心の中で嫌がっていても、それを口にだすことはタブーだという風潮になっているからだ。
なのに、どうして光一はこうも偏見に満ちた物言いをしているのだろう。
「発情期でうまいこと俺たちを妊娠したから、父さんと結婚できたんだろ」
「だから何」
俺たちは見合い結婚のようなものだから、そういう駆け引きのようなものはないと思う。お互いにいい関係を築けているし、俺は祐志が好きだから今の立場に不満もない。
「オメガって卑怯だよな。フェロモンで俺たちを無理やりモノにする」
「……モノにされたの?」
ちょっとドキッとした。光一がどこかのオメガのフェロモンに惑わされてしまったなら、大変な問題になる。
「はっ、俺がそんなのに引っかかるかよ」
「じゃあ何」
「別に」
もしかしてオメガの好きな子でもできたのだろうか。
妙な信念で相手を傷つけたらいけない。
「光一、法律わかってるよね」
「うるさいな」
「光一!」
何か嫌な感じがして、光一の腕を掴んだ。
けれども、とっくに俺より力が強くなっていた光一が腕を払って、タイミングが悪く俺は吹っ飛んだ。
壁に思いっきり叩きつけられて、一瞬、意識が飛んだ。
脳震盪を起こしているのか、目が開いても立ち上がれない。目の前が暗い。
ぼんやりと見えるのは光一の足……?
これは、誰の足?
暗く……。
埃臭い……?
痛い。
体が、痛い。
心が苦しい。
苦しい。
壊れて、しまいたい。
誰でもいい。
俺を、壊して。
目を覚ましたら、兄がいた。
手土産みたいなのを置こうとしている。何だろう。
ちょっと見ないうちにやけに老けている。
「にい、さん」
「健吾、起きたか。……今日が何日かわかるか?」
「え、四月、十五日……?」
「寝てろ。医者を呼ぶ」
「え?」
そして医者が呼ばれて、俺は記憶喪失だと診断を受けた。
兄が老けているはずだった。
十五年経っていた。
俺は結婚して子供が二人いるらしい。
子供たちは双子で中学生。
面会に来てくれた。俺には似てない。父親似なのかな。
よく似た二人は、一人が頬を腫らしていた。
父親に殴られたらしい。
父と息子ってそんなに激しいものなのか。
というか、俺の夫なんだよな。
殴る人には見えなかったけど。
頬を腫らしている方が俺を突き飛ばして、運悪く俺が頭を打ってしまい記憶喪失になったようだ。
記憶がない以外は検査したけど異常はなかった。
記憶に関しては、一時的なものなのか、ずっと失われたままなのかはわからないという。
「健吾、ごめんなさい」
うなだれて泣きそうな少年に、思い出せない申し訳なさが先に立つ。
「いいよ。大丈夫。ごめんな、みんな忘れちゃったんだ」
「っ、ごめんなさい」
そのまま泣き出してしまったので、よしよしと頭を撫でた。この子の名前は光一だという。
何かモヤモヤするな。泣いて欲しくない。
可愛い子供だからかな。
その辺本能的に覚えているのかな。
もう一人の子供は啓一というらしい。
光一に対して相当怒っている。
「健吾、甘やかすなよ。誰が聞いても光一が悪いんだから」
厳しい。
「う、うん。でも、本人こんなに反省してるし。もうやらないよな?」
「こんなこと、絶対しない」
「俺以外の相手にもだぞ」
「約束する」
「よし」
素直でいい子じゃないか。
中学二年だって言うから、きっと反抗期だな。
反抗期的に何か親子喧嘩にでもなったのかな。
子供達は中学二年にしては大きいけど、アルファかもしれない。
アルファなら基本的に発育がいい。
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