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一章

6 仕切り直しのお見合い?

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 兄と諒さんが指定したのは、有名なホテルの庭園での食事だった。外だけど人目もそこそこあって話しやすいけど。
 真昼間から、男二人でコースランチ……。
 双子が保育園の間ならちょうどいいか。
 着慣れないスーツが少し苦しい。

「えっと、知ってるみたいだけど、榊原健吾です」
「宮園祐志だ」

 …………沈黙。

(なんか喋れ)

 思いが通じたのか、意を決したように宮園が話し始めた。

「……同じ大学だった」
「え? 英勝大?」
「そう。学食で、よく見かけてた」

 そうなのか。こんなに目立つ奴、どうして俺は覚えていないのだろう。

「名前も知らなかったけど、オメガだっていうのはすぐにわかった」
「そういうもの?」
「ああ、アルファならわかる。でも健吾は、いつもアルファの奴と一緒にいただろ? あいつが恋人なのかと思ってた」

 陽介のことか。
 陽介は俺がオメガだって知ってるのかな。あ、知ってたな。あれは……あれ? どこで?

「でも、榊原さんから婚約話が出て、オメガの息子とアルファの娘がいるけどどっちにするか聞かれて、写真を見て健吾だったから受けたんだ」

 親父、適当だな。
 妹の方にはちゃんと話を通してたんだろうけど。こいつが例えオメガでも男を選ぶなんて思わなかったんだろうな。

「健吾が知らないなんて思わなかった。だからわざと聞こえるように話題にして反応を見たりしてたんだけど、全然気にも留めてくれない感じでさ」

 そうなのか?
 そもそも学食で会ってたのも知らない、……?
 俺が良く行ってた学食は高台の上の高い建物の上にあって景色が綺麗で……。景色を見て……?

「あんな風に無視されるなんて思わなかったから、頭に血が上ってたのもある」

 俺が無視?
 祐志は格好いい。何かリアクションされて無視できるレベルじゃない。

「健吾が、フラフラ歩いていって、急に発情して、何も考えられなかった。俺のだから好きにして良いって言い訳して、どうせあいつとやりまくってるんだろうと思って……」

 うーん、多分何か嫌になって自暴自棄で外で発情起こしたんじゃないかな。自分で言うのも何だけど、俺結構病んでるし。最悪のタイミングで祐志は巻き込まれたんじゃないか?
 ということは、やっぱり俺が悪いんだよ。
 俺が考え込んでる間に、祐志は下を向いてた。

「……ごめん。ごめんなさい。謝ってどうにかできることじゃないけど」

 公園で会った時の様子が嘘のように萎れてしまった祐志。罪悪感が半端ない。

「いいよ。気にしないで。俺、覚えてないし。俺さ、俺がオメガっていうのが嫌だった。だから、オメガの原因が無くなって良かったと思ってる。だから、そんなに……うわっ。泣くなよ。ちょっと……」

 泣いてるよ。どうしよう。
 人目が気になる。
 あ、ここホテルじゃん。兄さんから家族カード預かってる。ブラックカード。借ります!
 俺は部屋を取って、祐志を連れ込んだ。
 あー……連れ込んじゃった。
 ツインの部屋で、並んだベッドを椅子代わりに向かい合う。祐志はグスグス言いながら俯いている。
 
 アルファって心身ともに強いイメージなんだけど、祐志は泣き虫なんだな。泣いているよりも、笑っている方が絶対いいのに。きっと祐志の笑顔はキラキラで。
 俯いたまま祐志がぼそぼそと話し始めた。鼻をすするのが気になってベッドサイドのティッシュボックスを手元に置いてやれば、礼を言う。育ちがいいのだろう。

「榊原の、男のオメガ嫌いは有名だ……。でも、縁談で持ってくるぐらいだから、それなりの扱いはされているんだと思ってた。オメガの原因って何だよ。なくしていいものじゃ、ないだろ」

 この榊原は父親のことだな。
 俺の腹には、臍から下にざっくりと残る傷跡がある。
 まだ痛むけど、かなりましになった。どうせ誰かに見せる予定もない体だ。傷跡なんてどうでもいい……でも、言ったらまずそうだ。

 止まらない涙に鼻を鳴らしながら言いながら、祐志が俺の両手を掴んだ。懺悔するように、額を当てる。
 そのまましばらく落ち着くのを待ってると、祐志が深い息をついた。

「最低だけど、健吾と二人っきりだと思うと、辛い……」

 額から口元に持って行かれて、口付けられた。
 ゾワっと背中に何かが走る。嫌じゃない。
 
 
 番……。


 子供なんて絶対にできない。
 子宮がないんだから大丈夫。
 なにが?
 頭が痛い。
 でも。

「いいよ。好きにして」
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