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魔王の手綱を握れと言われましても 3

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 王様はまだ話したい様子だったが、カイン王子に止められて不機嫌そうに黙った。楽しそうに話しているうちは親しみやすそうなのに、黙ると冷たそうな印象を受けてしまう。良い人っぽいのに。

「ディアヴの件は婚約者であるロン・ビチュードが管理するということでよろしいですね、陛下」
「ああ。滅ぼしたくなったら魔王にしてもいいから。そうなったらカインが勇者になって戦うのかな。親友同士が世界の命運をかけて敵対するって王道。この世界に生きているものとして願うのは、人を殺すときはなるべく苦しませずに」
「陛下」

 王様の感覚がやけに俺と近い感じがする。この世界で勇者なんて言葉を初めて聞いたのに、そうそう、そういう展開あるよねみたいな。

「王道……って、あの、あれ?」

 待って、王道って王様が言うと変な感じだけど、そうじゃなくて。展開? この世界……他の世界を知っている?
 この場には王様とカイン王子とボウ王子とディアヴと俺しかいない。俺の変な発言も王様が怒らないから、カイン王子にさえぎられなければ許されている。もし、王様が俺の味方になってくれるなら、ディアヴをどうにかするための知恵をくれるかもしれない。

「陛下! 俺、前世の記憶があるんですが!」
「童貞で死んだ?」
「はい」

 王様が玉座から下りてきた。手を上げられて反射的に上げた手にハイタッチ。仲間発見!
 カイン王子とディアヴが王様にしっしと追い払われた。ディアヴの顔が怖い。カイン王子がディアヴに何事か耳打ちして出て行く。王様と二人っきりになった。
 俺の身に起きたおかしなことの対処法を聞けるかもしれない。王様は芝居がかった動作で両手を広げた。

「ようこそ、このクソBL世界へ」
「え、クソ……?」
「オレはヤンデレと変態と触手に捕まって産卵までした。頑張れよ!」

 いい笑顔で肩を叩かれて、王様の言葉全てに衝撃しかなかった。クソBL世界……。女の子もいるのに、BL世界だから男に犯されまくる生活になったのか。

「あの、俺、急にエロ大好きボディになっちゃったんですけど、治りますか?」
「この世界の仕様だな。治らない」

 きっぱりと言われて、がっくりと肩を落とす。クソBL世界ぃ……。

「あげられるアイテムも力もないけど、ボウ連れていく?」
「……考えさせてください」
「ん。童貞卒業したら教えてくれ」
「陛下は……」
「聞くなよ」

 遠い目をした王様の横顔が切ない。
 クソBL世界ですもんね。泣ける。

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