5 / 79
魔法学園のモブに転生、した? 5
しおりを挟む
寮は狭いとはいえ個室だ。学生は全て平等という理念から、王子も寮に入る以上個室になった。内装は自由にできるという逃げ道を作ることで、建前を守っている。
高位貴族は従者と隣同士で二室をキープし、壁をぶち抜いて従者の部屋をさらに狭くして主人の部屋を広く保つ。
俺は従者もいないしそう金持ちではないから、部屋も至ってノーマルだ。部屋の鍵をポケットから取り出されて、さっさと簡素な寝台に下された。
ディアヴが自分のネクタイを俺に渡す。伯爵家の紋章が端に入っている。
これは婚約中の女生徒に、この子は自分のものだから手を出すなというアピールだ。俺は女生徒じゃない。
「つけていろ。命令だ」
ウッ、叔父に対して命令口調……。前世の俺はムカッ腹を立てているが、今世の俺は素直にこうべを垂れている。だってこの世界や身分は絶対だ。
このネクタイの刺繍は微妙に見える場所に入れられているから、地味な俺の家の刺繍とは違う派手なハイクォーリ家の紋章が入ればバレバレだ。
俺がディアヴのお手つきになったと宣伝して回るような。俺の返事を待たずにディアヴは部屋を出ていく。命令し慣れているお貴族様め。
きっとこれは悪い夢だ。
前世の記憶が蘇って、姉の腐った本と現実が混ざってしまっただけだろう。目が覚めたらいつも通り。ネクタイもいつも通りのはずだ……。
なーんて希望はあえなく潰えた。
目覚めたらいくぶん軽くなった身体と、着替えなかったからグシャグシャの制服、そして派手な刺繍の入ったネクタイという現実が待っていた。
「まじか……ケホッ」
死ぬほど悩んで、俺はいつものタイをつけて部屋を出た。朝食の時間には間に合わなかったから、部屋に常備していたビスケットと水をとりあえず腹に入れる。
そういえば、いつも朝催す便意がなかった。昨日散々やられたから感覚がなくて漏らしたりしてないと思うんだが、大丈夫だろうか。ちょっと不安だ。
そーっと廊下を覗いて、誰もいないのを確認してからゆっくりと授業に向かった。走って行きたかったけれど、腰と足がガクガクしてとても走れる体調じゃなかった。
「すいません、遅刻しました。失礼、します……」
授業の始まっている教師の後ろの扉から、そーっと入ると教室中の視線が集まった。
ディアヴがさっと立ち上がって、俺の近くに来る。目が、目が怖い!!
「今日は休んでいい。ネクタイはどうした」
「え、いや……その……」
同級生のヒソヒソと囁き合う声が広がり始める。注目されるのは慣れていないし、あらぬ誤解を受けていそうで冷や汗がダラダラと流れ出す。
「すごい汗だ。具合が悪いんじゃないか? ディアヴ、お前の叔父だろう。寮まで送ってやれよ」
「え、叔父?」
「叔父さん?」
「殿下、わかりました。先生、よろしいですか」
「もちろんだ。ビチュード、治ってから課題を与える」
自分が王子に認知されていたなんて思いもよらなかった。王子とディアヴは友人だから、ありえなくもない。
最悪のタイミングでディアヴとの関係をクラス中に知られてしまった気がする。刺さる視線に大きなダメージを受けて、すごすごとディアヴに付き添われて教室をあとにした。
その日は何事もなく一日を寝て過ごし、翌日はかなり回復して授業に向かった。
ディアヴが部屋に来た時に侍従(侍従も生徒だ)に命じて、俺のネクタイを全部回収させた。全てハイクォーリ家の刺繍入りネクタイに替えていったから、選択の余地はない。
高位貴族は従者と隣同士で二室をキープし、壁をぶち抜いて従者の部屋をさらに狭くして主人の部屋を広く保つ。
俺は従者もいないしそう金持ちではないから、部屋も至ってノーマルだ。部屋の鍵をポケットから取り出されて、さっさと簡素な寝台に下された。
ディアヴが自分のネクタイを俺に渡す。伯爵家の紋章が端に入っている。
これは婚約中の女生徒に、この子は自分のものだから手を出すなというアピールだ。俺は女生徒じゃない。
「つけていろ。命令だ」
ウッ、叔父に対して命令口調……。前世の俺はムカッ腹を立てているが、今世の俺は素直にこうべを垂れている。だってこの世界や身分は絶対だ。
このネクタイの刺繍は微妙に見える場所に入れられているから、地味な俺の家の刺繍とは違う派手なハイクォーリ家の紋章が入ればバレバレだ。
俺がディアヴのお手つきになったと宣伝して回るような。俺の返事を待たずにディアヴは部屋を出ていく。命令し慣れているお貴族様め。
きっとこれは悪い夢だ。
前世の記憶が蘇って、姉の腐った本と現実が混ざってしまっただけだろう。目が覚めたらいつも通り。ネクタイもいつも通りのはずだ……。
なーんて希望はあえなく潰えた。
目覚めたらいくぶん軽くなった身体と、着替えなかったからグシャグシャの制服、そして派手な刺繍の入ったネクタイという現実が待っていた。
「まじか……ケホッ」
死ぬほど悩んで、俺はいつものタイをつけて部屋を出た。朝食の時間には間に合わなかったから、部屋に常備していたビスケットと水をとりあえず腹に入れる。
そういえば、いつも朝催す便意がなかった。昨日散々やられたから感覚がなくて漏らしたりしてないと思うんだが、大丈夫だろうか。ちょっと不安だ。
そーっと廊下を覗いて、誰もいないのを確認してからゆっくりと授業に向かった。走って行きたかったけれど、腰と足がガクガクしてとても走れる体調じゃなかった。
「すいません、遅刻しました。失礼、します……」
授業の始まっている教師の後ろの扉から、そーっと入ると教室中の視線が集まった。
ディアヴがさっと立ち上がって、俺の近くに来る。目が、目が怖い!!
「今日は休んでいい。ネクタイはどうした」
「え、いや……その……」
同級生のヒソヒソと囁き合う声が広がり始める。注目されるのは慣れていないし、あらぬ誤解を受けていそうで冷や汗がダラダラと流れ出す。
「すごい汗だ。具合が悪いんじゃないか? ディアヴ、お前の叔父だろう。寮まで送ってやれよ」
「え、叔父?」
「叔父さん?」
「殿下、わかりました。先生、よろしいですか」
「もちろんだ。ビチュード、治ってから課題を与える」
自分が王子に認知されていたなんて思いもよらなかった。王子とディアヴは友人だから、ありえなくもない。
最悪のタイミングでディアヴとの関係をクラス中に知られてしまった気がする。刺さる視線に大きなダメージを受けて、すごすごとディアヴに付き添われて教室をあとにした。
その日は何事もなく一日を寝て過ごし、翌日はかなり回復して授業に向かった。
ディアヴが部屋に来た時に侍従(侍従も生徒だ)に命じて、俺のネクタイを全部回収させた。全てハイクォーリ家の刺繍入りネクタイに替えていったから、選択の余地はない。
53
お気に入りに追加
1,233
あなたにおすすめの小説
【完結】もふもふ獣人転生
*
BL
白い耳としっぽのもふもふ獣人に生まれ、強制労働で死にそうなところを助けてくれたのは、最愛の推しでした。
ちっちゃなもふもふ獣人と、攻略対象の凛々しい少年の、両片思い? な、いちゃらぶもふもふなお話です。
本編完結しました!
おまけをちょこちょこ更新しています。
第12回BL大賞、奨励賞をいただきました、読んでくださった方、応援してくださった方、投票してくださった方のおかげです、ほんとうにありがとうございました!
異世界転生先でアホのふりしてたら執着された俺の話
深山恐竜
BL
俺はよくあるBL魔法学園ゲームの世界に異世界転生したらしい。よりにもよって、役どころは作中最悪の悪役令息だ。何重にも張られた没落エンドフラグをへし折る日々……なんてまっぴらごめんなので、前世のスキル(引きこもり)を最大限活用して平和を勝ち取る! ……はずだったのだが、どういうわけか俺の従者が「坊ちゃんの足すべすべ~」なんて言い出して!?
完結·助けた犬は騎士団長でした
禅
BL
母を亡くしたクレムは王都を見下ろす丘の森に一人で暮らしていた。
ある日、森の中で傷を負った犬を見つけて介抱する。犬との生活は穏やかで温かく、クレムの孤独を癒していった。
しかし、犬は突然いなくなり、ふたたび孤独な日々に寂しさを覚えていると、城から迎えが現れた。
強引に連れて行かれた王城でクレムの出生の秘密が明かされ……
※完結まで毎日投稿します
小悪魔系世界征服計画 ~ちょっと美少年に生まれただけだと思っていたら、異世界の救世主でした~
朱童章絵
BL
「僕はリスでもウサギでもないし、ましてやプリンセスなんかじゃ絶対にない!」
普通よりちょっと可愛くて、人に好かれやすいという以外、まったく普通の男子高校生・瑠佳(ルカ)には、秘密がある。小さな頃からずっと、別な世界で日々を送り、成長していく夢を見続けているのだ。
史上最強の呼び声も高い、大魔法使いである祖母・ベリンダ。
その弟子であり、物腰柔らか、ルカのトラウマを刺激しまくる、超絶美形・ユージーン。
外見も内面も、強くて男らしくて頼りになる、寡黙で優しい、薬屋の跡取り・ジェイク。
いつも笑顔で温厚だけど、ルカ以外にまったく価値を見出さない、ヤンデレ系神父・ネイト。
領主の息子なのに気さくで誠実、親友のイケメン貴公子・フィンレー。
彼らの過剰なスキンシップに狼狽えながらも、ルカは日々を楽しく過ごしていたが、ある時を境に、現実世界での急激な体力の衰えを感じ始める。夢から覚めるたびに強まる倦怠感に加えて、祖母や仲間達の言動にも不可解な点が。更には魔王の復活も重なって、瑠佳は次第に世界全体に疑問を感じるようになっていく。
やがて現実の自分の不調の原因が夢にあるのではないかと考えた瑠佳は、「夢の世界」そのものを否定するようになるが――。
無自覚小悪魔ちゃん、総受系愛され主人公による、保護者同伴RPG(?)。
(この作品は、小説家になろう、カクヨムにも掲載しています)
【第1章完結】悪役令息に転生して絶望していたら王国至宝のエルフ様にヨシヨシしてもらえるので、頑張って生きたいと思います!
梻メギ
BL
「あ…もう、駄目だ」プツリと糸が切れるように限界を迎え死に至ったブラック企業に勤める主人公は、目覚めると悪役令息になっていた。どのルートを辿っても断罪確定な悪役令息に生まれ変わったことに絶望した主人公は、頑張る意欲そして生きる気力を失い床に伏してしまう。そんな、人生の何もかもに絶望した主人公の元へ王国お抱えのエルフ様がやってきて───!?
【王国至宝のエルフ様×元社畜のお疲れ悪役令息】
▼第2章2025年1月18日より投稿予定
▼この作品と出会ってくださり、ありがとうございます!初投稿になります、どうか温かい目で見守っていただけますと幸いです。
▼こちらの作品はムーンライトノベルズ様にも投稿しております。
美少年に転生したらヤンデレ婚約者が出来ました
SEKISUI
BL
ブラック企業に勤めていたOLが寝てそのまま永眠したら美少年に転生していた
見た目は勝ち組
中身は社畜
斜めな思考の持ち主
なのでもう働くのは嫌なので怠惰に生きようと思う
そんな主人公はやばい公爵令息に目を付けられて翻弄される
普通の学生だった僕に男しかいない世界は無理です。帰らせて。
かーにゅ
BL
「君は死にました」
「…はい?」
「死にました。テンプレのトラックばーんで死にました」
「…てんぷれ」
「てことで転生させます」
「どこも『てことで』じゃないと思います。…誰ですか」
BLは軽い…と思います。というかあんまりわかんないので年齢制限のどこまで攻めるか…。
学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語
紅林
BL
『桜田門学院高等学校』
日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ
しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ
そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる