人を生きる君

爺誤

文字の大きさ
32 / 33

32 仕切り直しの儀式

しおりを挟む
 オサヒグンラの試練を終えて中庸の地に戻ったトーカは、一日を潔斎に当ててから神格を得ることにした。
 沐浴するトーカの周りを、リナサナヒメトがいつでもいいのにとブツブツ言いながらうろうろしていた。
 トーカは、その長い髪がぎりぎりで水につかないのは神様だからだろうかと不思議に思った。猫の時は無頓着に地面でも池でも擦ってゴミや毛玉をつけていたのに。

「ここまで五年かけたのに、最後に雑になるのは嫌なんだ」
「トーカが望むなら仕方がない」
「不満?」
「五年も禁欲させられているからな」
「禁欲させられているのはおれでしょ」

 ふっと笑ったリナサナヒメトが、トーカの正面で足を組んで座った。

「トーカの前で格好をつけていただけだ。というか、ずっと我慢できないから危険だと言っていたはずだが」
「人間のままじゃ耐えられないってやつ? 小出しにしたらいいのに」
「それができるなら、トーカの身体が大人になる前に手を出していただろうさ」
「愛か」
「そうだ、愛だ」

 トーカがリナサナヒメトの気持ちを疑うことはなかったから、このような会話も遊びの一環になっていた。それもこれが最後だと思うと感慨深かった。


 ◇


 儀式の地では、最初に出会ったそのままのオサヒグンラと青髪の神が待っていた。トーカは五年前に戻ったような気になった。

「試練を乗り越えたこと、褒めてつかわす」
「きさまに褒められる筋合いはない。オサヒグンラ」

 オサヒグンラがトーカに話しかけてきたのを、リナサナヒメトが冷ややかに返した。しかし、オサヒグンラは慣れているから気にしない。

「リナサナヒメトの嫁、トーカはどうだ」
「うん、褒められて嬉しい。これでおれにも神格をくれるよね?」
「認めよう」

 青髪の神が口を開いて、そのまま続けると、オサヒグンラとリナサナヒメトが続いた。

「その命が尽きるまで神と同じ力を与えよう」
「リナサナヒメトと同じ時、同じ世界を歩む力を与えよう」
「我がつまトーカに、祝福を」

 温かい風がトーカを包む。
 それだけだった。

「あれ? おわり?」
「ああ。もとより、そう大層な儀式ではない。三柱の神が承認すれば終わるだけの話だ」
「へぇ。ありがとうございました。オサヒグンラ様、と……」
「カカエチウだ」
「カカエチウ様!」

 名を呼ばれて、わずかに微笑むと同時に天上の神カカエチウは姿を消した。

「ふむ、相変わらず気取っている。トーカ、気が向いたらまた遊ぼう」
「オサヒグンラ様、おれ、もうぬるぬるしたのは嫌だよ」
「何を言う、ああいうのが淫靡でいいと人気だというのに。リナサナヒメトと一緒に触手の池で泳ぐがいい。地下にはデズグルのような素朴なものだけではなく、様々な形状の触手がある。快楽地獄が味わえるぞ」
「嫌だってば」

 触手を表現しているらしい、オサヒグンラの髪がにょろにょろとトーカに伸ばされるのを、リナサナヒメトが踏みつけた。

「オサヒグンラ、トーカはお前の狙い通りにはならない」
「嫁御はまだまだ脇が甘い。楽しめる罠を仕掛けておいてやろう」

 ヒヒヒと笑い声を残して、オサヒグンラも姿を消した。

「オサヒグンラはずいぶんトーカを気に行ったようだ。カカエチウもそうだが……」
「へー。光栄だね。でも、おれはヒメサマに好かれるだけでいいよ」
「トーカ!」

 がばっと抱きしめてきたリナサナヒメトに抱きしめ返したトーカは、一瞬で移動して、中庸の地の屋敷の布団の上にいることに気付いた。神の力の無駄遣いと思えなくもないが、無駄とは言えないほど身体は昂った。現金な身体の反応に気付いたときには着ていた服も消えていた。
 この五年間、頑なに下半身を見せなかったリナサナヒメトも全裸だ。それに気づいたトーカは、組み敷かれていた体勢を入れ替えた。リナサナヒメトは抵抗しなかった。
 トーカに馬乗りにされて笑いながらリナサナヒメトが言う。

「準備は十分だ。トーカ、愛し合おう」
「望むところだ」

 トーカはリナサナヒメトの頭を掴んで唇を押し付けた。今までは息苦しくなって唇を離してしまうことがあったけれど、神格を得たおかげか、全く苦しくならない。舌が喉奥までなぞってきても、ぞくぞくとするばかりだ。
 慌てて唇を離した。

「なにこれ、やばいよ、ヒメサマ。気持ちイイしかない」
「それは何より。今はそうだが、以前のような身体がよければ自分で調節できるようにもなる。だから、トーカ。何をしても、大丈夫」

 トーカの腰を掴んで、猛ったものを狭間にごりっと擦りつけられた。

「あ、ああっ……んっ、止められない」

 それが気持ちよくて、トーカは自分から腰を動かした。狭間をぬるぬると滑るリナサナヒメトのものが嬉しくて、ソレのことしか考えられなくなっていく。

「あっ、あっ、あ、ヒメサマ、入れたい、入れたいっ」
「今なら大丈夫だろうが、さんざん焦らされた俺の気持ちも少しは味わってほしい」
「え、ぁ、ぁああっ」

 ぐいっとリナサナヒメトの胸元を跨ぐようにさせられ、指の腹で後孔を撫でられたと同時に、雫を垂らしていた前を口に含まれた。リナサナヒメトの口元を汚したこととあっという間に昇りつめたことへの羞恥で泣きながら首を横に振ったトーカだったが、その後孔にぐりっと指が挿入されて高い声を上げた。

「ひぅ!」
「まだ、ひぃひぃ言うには早い」
「ぁあっ、ヒメサマ、ぁう、そ、そこだめ、ィイ! いっ、ああっ」

 男同士はそこを使うと知ってから、ずっとそこに触れられるようにして慣れてきたつもりだったのに、本気になったリナサナヒメトの指は容赦がなかった。
 反応を示すところを的確に責めるから、トーカはそこから溶けていくような感覚になった。
 必死の思いで、まともな言葉が出なくなる前に懇願する。

「ぁ、は、ああっ……ヒメサマ、ヒメサマ、いれ、入れて、ひとつに、なりたい」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

完結·氷の宰相の寝かしつけ係に任命されました

BL
幼い頃から心に穴が空いたような虚無感があった亮。 その穴を埋めた子を探しながら、寂しさから逃げるようにボイス配信をする日々。 そんなある日、亮は突然異世界に召喚された。 その目的は―――――― 異世界召喚された青年が美貌の宰相の寝かしつけをする話 ※小説家になろうにも掲載中

ざまぁされたチョロ可愛い王子様は、俺が貰ってあげますね

ヒラヲ
BL
「オーレリア・キャクストン侯爵令嬢! この時をもって、そなたとの婚約を破棄する!」 オーレリアに嫌がらせを受けたというエイミーの言葉を真に受けた僕は、王立学園の卒業パーティーで婚約破棄を突き付ける。 しかし、突如現れた隣国の第一王子がオーレリアに婚約を申し込み、嫌がらせはエイミーの自作自演であることが発覚する。 その結果、僕は冤罪による断罪劇の責任を取らされることになってしまった。 「どうして僕がこんな目に遭わなければならないんだ!?」 卒業パーティーから一ヶ月後、王位継承権を剥奪された僕は王都を追放され、オールディス辺境伯領へと送られる。 見習い騎士として一からやり直すことになった僕に、指導係の辺境伯子息アイザックがやたら絡んでくるようになって……? 追放先の辺境伯子息×ざまぁされたナルシスト王子様 悪役令嬢を断罪しようとしてざまぁされた王子の、その後を書いたBL作品です。

世界を救ったあと、勇者は盗賊に逃げられました

芦田オグリ
BL
「ずっと、ずっと好きだった」 魔王討伐の祝宴の夜。 英雄の一人である《盗賊》ヒューは、一人静かに酒を飲んでいた。そこに現れた《勇者》アレックスに秘めた想いを告げられ、抱き締められてしまう。 酔いと熱に流され、彼と一夜を共にしてしまうが、盗賊の自分は勇者に相応しくないと、ヒューはその腕からそっと抜け出し、逃亡を決意した。 その体は魔族の地で浴び続けた《魔瘴》により、静かに蝕まれていた。 一方アレックスは、世界を救った栄誉を捨て、たった一人の大切な人を追い始める。 これは十年の想いを秘めた勇者パーティーの《勇者》と、病を抱えた《盗賊》の、世界を救ったあとの話。

前世が教師だった少年は辺境で愛される

結衣可
BL
雪深い帝国北端の地で、傷つき行き倒れていた少年ミカを拾ったのは、寡黙な辺境伯ダリウスだった。妻を亡くし、幼い息子リアムと静かに暮らしていた彼は、ミカの知識と優しさに驚きつつも、次第にその穏やかな笑顔に心を癒されていく。 ミカは実は異世界からの転生者。前世の記憶を抱え、この世界でどう生きるべきか迷っていたが、リアムの教育係として過ごすうちに、“誰かに必要とされる”温もりを思い出していく。 雪の館で共に過ごす日々は、やがてお互いにとってかけがえのない時間となり、新しい日々へと続いていく――。

【完結済】虚な森の主と、世界から逃げた僕〜転生したら甘すぎる独占欲に囚われました〜

キノア9g
BL
「貴族の僕が異世界で出会ったのは、愛が重すぎる“森の主”でした。」 平凡なサラリーマンだった蓮は、気づけばひ弱で美しい貴族の青年として異世界に転生していた。しかし、待ち受けていたのは窮屈な貴族社会と、政略結婚という重すぎる現実。 そんな日常から逃げ出すように迷い込んだ「禁忌の森」で、蓮が出会ったのは──全てが虚ろで無感情な“森の主”ゼルフィードだった。 彼の周囲は生命を吸い尽くし、あらゆるものを枯らすという。だけど、蓮だけはなぜかゼルフィードの影響を受けない、唯一の存在。 「お前だけが、俺の世界に色をくれた」 蓮の存在が、ゼルフィードにとってかけがえのない「特異点」だと気づいた瞬間、無感情だった主の瞳に、激しいまでの独占欲と溺愛が宿る。 甘く、そしてどこまでも深い溺愛に包まれる、異世界ファンタジー

完結・オメガバース・虐げられオメガ側妃が敵国に売られたら激甘ボイスのイケメン王から溺愛されました

美咲アリス
BL
虐げられオメガ側妃のシャルルは敵国への貢ぎ物にされた。敵国のアルベルト王は『人間を食べる』という恐ろしい噂があるアルファだ。けれども実際に会ったアルベルト王はものすごいイケメン。しかも「今日からそなたは国宝だ」とシャルルに激甘ボイスで囁いてくる。「もしかして僕は国宝級の『食材』ということ?」シャルルは恐怖に怯えるが、もちろんそれは大きな勘違いで⋯⋯? 虐げられオメガと敵国のイケメン王、ふたりのキュン&ハッピーな異世界恋愛オメガバースです!

【完結】かわいい彼氏

  *  ゆるゆ
BL
いっしょに幼稚園に通っていた5歳のころからずっと、だいすきだけど、言えなくて。高校生になったら、またひとつ秘密ができた。それは── ご感想がうれしくて、すぐ承認してしまい(笑)ネタバレ配慮できないので、ご覧になるときはお気をつけください! 驚きとかが消滅します(笑) 遥斗と涼真の動画をつくりました! もしよかったら、お話と一緒に楽しんでくださったら、とてもうれしいです。 インスタ @yuruyu0 Youtube @BL小説動画 プロフのwebサイトから飛べます! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!

異世界にやってきたら氷の宰相様が毎日お手製の弁当を持たせてくれる

七瀬京
BL
異世界に召喚された大学生ルイは、この世界を救う「巫覡」として、力を失った宝珠を癒やす役目を与えられる。 だが、異界の食べ物を受けつけない身体に苦しみ、倒れてしまう。 そんな彼を救ったのは、“氷の宰相”と呼ばれる美貌の男・ルースア。 唯一ルイが食べられるのは、彼の手で作られた料理だけ――。 優しさに触れるたび、ルイの胸に芽生える感情は“感謝”か、それとも“恋”か。 穏やかな日々の中で、ふたりの距離は静かに溶け合っていく。 ――心と身体を癒やす、年の差主従ファンタジーBL。

処理中です...