君に望むは僕の弔辞

爺誤

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8 思いがけない

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 苦悩するアドニンとは裏腹に、僕の心はどんどん元気になっていった。
 それでも何度も熱を出して伏せってしまったが、その度にアドニンが自分のほうが死んでしまいそうなほど心配してくれるから、嬉しかった。

「薬を飲んで寝ていれば治るから」
「少しでも食べなければ体力がもたない」

 全く喉を通りそうにないのに、果物や柔らかくしたパンを口に運ばれるから、無理矢理嚥下した。
 だけど、そうしたら熱が下がるのも早く、体力が戻るのもいつもよりも早かった。
 回復の早さに調子に乗って、すぐにまた熱を出してしまったが大きな発見だった。

 僕に新しい考えをたくさん与えてくれたアドニンには、半年ほどで迎えが来た。
 別れ際に長い本名を教えてもらったけれど、アドの響きがあったことしか覚えていない。
 本名に掠っているなんて、僕もなかなか勘がいい。

「元気で」
「ああ、君も」
「アドニン、最後に「よい旅路を」と言って」

 二度と会えない。たとえアドニンが落ち着いてから会いにきても、僕の寿命は尽きているだろう。
 だから、あの日、言われて嬉しかった言葉が欲しかった。

 だけどアドニンは、泣きそうな顔で「嫌だ」と言った。

「落ち着いたら、色々話しに来るから、待っていてほしい」

 正直、彼の話は僕には難しくて半分ぐらいしか理解できない。
 でも落ち着いた声と話し方が好きだった。
 僕が眠ったあとに撫でてくれる手が好きだった。
 待っている、なんて僕には難しい話だけど、弔いの言葉よりずっと良い言葉だ。

「僕に、聞いてほしいの?」
「聞いてくれ。俺の物語を。必ずハッピーエンドにするから」
「しょうがないなあ。頑張ってね」
「君も」

 僕は男なのに、まるでお姫様のようだった。
 アドニンが僕の頬に口付けて、ぎゅっと抱きしめられる。
 そうして、パッと離すと振り返らずにアドニンは去っていった。
 僕は呆然と執事に尋ねた。

「ねえ、僕って男だよね?」
「左様のはずでございます」

 執事も驚いたみたいで言葉がおかしくなっていた。
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