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3 生きたいのかもしれない
しおりを挟む結論からいって、僕は死ななかった。
だけど、自力で移動する力のない僕がおかしな場所で倒れていたことは大騒動になったらしい。
高熱を出して生死の境を彷徨っていたから、僕は何も知らない。
ただ、僕を発見したのが父だったらしく、ものすごく取り乱したらしい。
姉が憎憎しげに教えてくれた。
なんでいまさら父が取り乱すのか僕にもわからないのに。
どうも父は罪悪感から僕に会えなくなっていたらしい。
幼い自分に無茶を強いたせいで、僕を死と隣り合わせの生にしてしまったのを直視したくないとか。
そんな可愛げのある父なのだろうか。記憶が遠すぎてわからない。
姉は成人と同時に婿養子にちょうどいい男を捕まえて、僕はお役御免だから僻地に療養に出された。
もっと早くそういう決断をしてくれたら、僕は家の中で両親や姉に悶々として過ごさなくて良かったんじゃないかな。
ちなみに僻地に着くまでの移動だけでも死にかけたけど、やっぱり生き延びた。
僕、意外にしぶといんじゃない?
僻地では僕を知る人間がほとんどいないこともあって、好きにするようにした。
身体が弱く死にかけていることで同情をひいた。これはとてもうまくいった。
使用人たちは僕のことを、ただ虚弱体質でいつも死にかけているとしか知らなかった。
心が軽くなったせいか、熱を出すことも少なくなった。
嫌なものを嫌だといえる生活は快適だった。
気付けば、屋敷の庭を散歩できるまで回復して、僕は成人の歳を迎えた。
「懐かしい花」
あの日、最期に綺麗なものを見せてもらえたと思った色とりどりの花が咲いていた。
庭を囲むように植えられている。不思議なことに、この花は年中咲いている。
香りが強く、野生動物を寄せ付けないらしいことから、神の加護という大層な名前がついている。
いい気分で見ていると、花壇の端に人間の足が出ていた。
まるで数年前の自分が横たわっているようで、頭が混乱する。
実は僻地にいるのは夢みたいなもので、僕はあの時死んでて幽体離脱していたのか?
とりあえず顔を確認しようと近づくと、僕ではないことが確定してホッとした。
着のみ着のまま逃げてきましたといった風情の精悍な顔立ちの青年だ。
服の仕立ては良さそうだから、どこかの貴族か……いや、王族? 政変でも起きたのだろうか。
近付き過ぎて何かされても怖いから、お気に入りの棒を持ってきた。杖にもなりそうないい感じの棒だ。
それで倒れている男をつついてみる。
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