君に望むは僕の弔辞

爺誤

文字の大きさ
上 下
3 / 10

3 生きたいのかもしれない

しおりを挟む

 結論からいって、僕は死ななかった。

 だけど、自力で移動する力のない僕がおかしな場所で倒れていたことは大騒動になったらしい。
 高熱を出して生死の境を彷徨っていたから、僕は何も知らない。
 ただ、僕を発見したのが父だったらしく、ものすごく取り乱したらしい。
 姉が憎憎しげに教えてくれた。
 なんでいまさら父が取り乱すのか僕にもわからないのに。

 どうも父は罪悪感から僕に会えなくなっていたらしい。
 幼い自分に無茶を強いたせいで、僕を死と隣り合わせの生にしてしまったのを直視したくないとか。
 そんな可愛げのある父なのだろうか。記憶が遠すぎてわからない。

 姉は成人と同時に婿養子にちょうどいい男を捕まえて、僕はお役御免だから僻地に療養に出された。
 もっと早くそういう決断をしてくれたら、僕は家の中で両親や姉に悶々として過ごさなくて良かったんじゃないかな。
 ちなみに僻地に着くまでの移動だけでも死にかけたけど、やっぱり生き延びた。


 僕、意外にしぶといんじゃない?




 僻地では僕を知る人間がほとんどいないこともあって、好きにするようにした。
 身体が弱く死にかけていることで同情をひいた。これはとてもうまくいった。
 使用人たちは僕のことを、ただ虚弱体質でいつも死にかけているとしか知らなかった。

 心が軽くなったせいか、熱を出すことも少なくなった。
 嫌なものを嫌だといえる生活は快適だった。
 気付けば、屋敷の庭を散歩できるまで回復して、僕は成人の歳を迎えた。

「懐かしい花」

 あの日、最期に綺麗なものを見せてもらえたと思った色とりどりの花が咲いていた。
 庭を囲むように植えられている。不思議なことに、この花は年中咲いている。
 香りが強く、野生動物を寄せ付けないらしいことから、神の加護ターリミンコルマッシという大層な名前がついている。

 いい気分で見ていると、花壇の端に人間の足が出ていた。
 まるで数年前の自分が横たわっているようで、頭が混乱する。
 実は僻地にいるのは夢みたいなもので、僕はあの時死んでて幽体離脱していたのか?

 とりあえず顔を確認しようと近づくと、僕ではないことが確定してホッとした。
 着のみ着のまま逃げてきましたといった風情の精悍な顔立ちの青年だ。
 服の仕立ては良さそうだから、どこかの貴族か……いや、王族?  政変でも起きたのだろうか。

 近付き過ぎて何かされても怖いから、お気に入りの棒を持ってきた。杖にもなりそうないい感じの棒だ。
 それで倒れている男をつついてみる。

しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

目覚めたそこはBLゲームの中だった。

BL
ーーパッパー!! キキーッ! …ドンッ!! 鳴り響くトラックのクラクションと闇夜を一点だけ照らすヘッドライト‥ 身体が曲線を描いて宙に浮く… 全ての景色がスローモーションで… 全身を襲う痛みと共に訪れた闇は変に心地よくて、目を開けたらそこは――‥ 『ぇ゙ッ・・・ ここ、どこ!?』 異世界だった。 否、 腐女子だった姉ちゃんが愛用していた『ファンタジア王国と精霊の愛し子』とかいう… なんとも最悪なことに乙女ゲームは乙女ゲームでも… BLゲームの世界だった。

出戻り聖女はもう泣かない

たかせまこと
BL
西の森のとば口に住むジュタは、元聖女。 男だけど元聖女。 一人で静かに暮らしているジュタに、王宮からの使いが告げた。 「王が正室を迎えるので、言祝ぎをお願いしたい」 出戻りアンソロジー参加作品に加筆修正したものです。 ムーンライト・エブリスタにも掲載しています。 表紙絵:CK2さま

別れの夜に

大島Q太
BL
不義理な恋人を待つことに疲れた青年が、その恋人との別れを決意する。しかし、その別れは思わぬ方向へ。

さよならの合図は、

15
BL
君の声。

6回殺された第二王子がさらにループして報われるための話

あめ
BL
何度も殺されては人生のやり直しをする第二王子がボロボロの状態で今までと大きく変わった7回目の人生を過ごす話 基本シリアス多めで第二王子(受け)が可哀想 からの周りに愛されまくってのハッピーエンド予定

彼の至宝

まめ
BL
十五歳の誕生日を迎えた主人公が、突如として思い出した前世の記憶を、本当にこれって前世なの、どうなのとあれこれ悩みながら、自分の中で色々と折り合いをつけ、それぞれの幸せを見つける話。

【側妻になった男の僕。】【何故か正妻になった男の僕。】アナザーストーリー

selen
BL
【側妻になった男の僕。】【何故か正妻になった男の僕。】のアナザーストーリーです。 幸せなルイスとウィル、エリカちゃん。(⌒▽⌒)その他大勢の生活なんかが覗けますよ(⌒▽⌒)(⌒▽⌒)

帰宅

papiko
BL
遊んでばかりいた養子の長男と実子の双子の次男たち。 双子を庇い、拐われた長男のその後のおはなし。 書きたいところだけ書いた。作者が読みたいだけです。

処理中です...