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31 こんなときも順調に外堀が埋められていく

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 奥の食堂に通される。いくつもの長机を合わせて、上に布を敷いてなんとなく豪華そうに見せているところに、ラウルもどきとラウルが座っていた。飲み屋から先に帰っていたウードが、彼らの横で途方に暮れたように立っている。俺の顔を見て、表情がぱあっと明るくなった。ラウルも顔が緩んでいる。

「サク、えっと、殿下、こちらが私の夫である、きこりのサクです」

 夫!? いや、ここでは否定し辛い。ラウルがフローリアだと知っているのは俺とこのラウルもどきだけのはずだ。

「それより、なんでラウルがこの……方と一緒にいるんだ?」
「ラウルは私の遠縁で、家が不幸な事故でなくなってしまってから行方が知れなくなっていた。再会して今どうしているのか聞きたくてついてきた」

 椅子の上でふんぞり返って説明するラウルもどき。家が没落して彷徨っていたところを俺に助けられたと言うラウルの設定が生きているようだ。ラウルの都合に合わせてくれているなら、悪いやつでは、ないのか?

 周りに他人が多いから、どうしていいかわからない。無意識で力が入っていたようで、奇妙な呻き声とともに腕にかかる重量が増した。連れてきた男が気絶してしまった。

「その男は?」
「ああ、フローリア様に石を投げたという男だ、です」
「フローリアに? 手配書に石を投げよと書いてあったからか。……王にこの男に罪があるか否かを確認しよう。その結果が今後の我が国の指針となるだろう」

 言っている意味がわからない。

「……前の王の命令に従ったものを、今の王の基準で遡って罪にするかどうかを決めるんだと思う」
「そういうことだ」

 ラウルが俺の疑問に気付いて答えてくれた。仕返しはいいのだろうか。あんなに悔しい思いをしていたのに。

「ケツに石……」
「ふふっ、それはまた別の機会に」

 ラウルが笑っている。もう気にしていないのなら良い。ラウルもどきの取り巻きに男を引き渡した。

「私はディール・エン・ウィード・グロウル。今はこの国の王太子だ」
「はぁ。それはどうも。で、ラウルを連れて行くんですか」

 余裕の態度がむかつく。育ちのいいラウルがきこりの生活をするのは可哀想だと思っていたけれど、苦しいときに助けなかった奴に連れていかれてしまうのは悔しい。家族が迎えに来て良かったなと言えばいいのに、無性に暴れたい。
 こんな言い方をしたらディールや、そのお付きの奴らが許さないだろうが、ラウルがいなくなるなら全部失くすのも一緒だ。
 視界の端でウードが口に手をあてて慌てている。落ち着け、と大袈裟な身振りをしていて、お前のほうが落ち着けと少しだけ冷静になる。

 見せたことのない好戦的な態度にラウルも驚いたようで。

「サク!? 私は行かないわ!! サクと結婚するんだから!」

 ウードのところでラウルが女言葉を使ったことはない。勢いで出てしまったのだろう。どうみても立派な男のラウルの女言葉に、ウードが驚いて「え、そっち!?」と小さく叫んでいる。そっちとは何だ。
 でも、そうか、ラウルは行かないのか。荒れた心が凪いでいく。
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