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26 冷静になろう
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「ほら、ぼさっとしてないで、これからが本番だ。今日中に乾燥場まで運ぶんだ。まずはいらない枝を落として、運びやすい長さに切る。言われていたより短くすると話にならないからな!」
「はい!」
俺だってきこりとして熟練ってほどじゃない。子供のころから教わったといってもせいぜい十年ほどだ。なのにラウルに教えて、自分がすごく偉くなったような気がしてしまう。これも、きっと良くない。いつか俺はできるんだからって気が緩んで大変なことをやらかしそうだ。
自分の命なら自分のへまで失くす分には仕方がない。でも、それにラウルを巻き込むのは嫌だ。
そっか、俺、自分が一人で残されて寂しかったから、ラウルにそんな思いをさせたくないだけなんだ。
なんとか木をギリギリ運べる大きさに調整し、専用の荷台に乗せて馬に引かせる。方向転換や段差には人間が対応しなければならないから、かなりの重労働だ。きこりの仕事の中で一番大変な作業かもしれない。
今はラウルがいるから、なんとかなっているが、これと同じだけの仕事を一人で受けるのは難しかっただろう。神殿からの依頼がそうそうあるとは思えないが、ラウルがいなくなったらウードに人を融通してもらわなければならない。
木材の乾燥場まで木を運べたら、あとは置き方を工夫して風通しを良くして時間が経つのを待つだけだ。
「ラウル、お疲れさん。よく頑張ったな」
「サク……僕、きこりって名乗っていい?」
「もちろん。お前は立派なきこりだよ」
頭の布を取り、首筋の汗をぬぐう。今日最後の日差しが、ラウルをきらきらと輝かせていた。すごく綺麗だ。
「サク?」
「乾燥してる間に、これからのことを話そう」
「うん」
頭のいいラウルに話をさせると、言いくるめられてしまう。ラウルが望むならそれでもいいと思ってしまうけど、先のことを考えたら言いくるめられていてはいけない。
だってラウルの知っている常識は貴族のもので、庶民の当たり前ではないんだ。
「ラウル、俺は普通に嫁さんをもらって、子供を育てて、子供のうちの誰かががきこりになってくれたら嬉しいんだ。お前に子供は産めないだろう?」
「子供は神殿に孤児がたくさんいる。子供のうちから引き取ってもいいし、神殿を出る年から預かってきこりの仕事を教えてもいい」
性別を盾にするのは卑怯だと思ったのに、するりと解決法を示される。そんな手があったか……いやいやいやいや。
「し、仕事はどうでも、お前が他の誰かを好きになったら俺はどうしたらいいんだよ……」
どう見ても選ぶのはラウルだ。きこりの仕事は安定しているけれど、町から離れた家に俺と二人きりの生活を喜んでくれる嫁なんてきっとすごく珍しい。
「サクしか好きじゃない」
「それは、お前が他のやつを知らないからだ」
「私だって、以前はいろんな人と関わっていたわ。何も知らない雛鳥じゃない」
ぐっと肩を両手で掴まれて顔を覗き込まれる。気持ちと逆の体格差が落ち着かない。
「俺にとってはお前はいつまでたっても雛だ」
「……どうしたらわかってくれる?」
「半年、ウードのとこで働け。納品は二回ある。その間、町でいろんな人と関わって来い」
取り繕うときは完璧に表情を作れるのに、今は全身で不満を訴えている。俺の傍を離れたくないと思う心は嬉しい。俺だって、ラウルがいるのに嫁が欲しいなんて思えないほどには、満たされてしまっているんだ。
「半年、町で働いても気持ちが変わらなかったら、結婚してくれる?」
「……真面目に考えてやる」
「わかった。頑張る」
神殿への最初の納品の時、ラウルは木材と共に町に行った。
「はい!」
俺だってきこりとして熟練ってほどじゃない。子供のころから教わったといってもせいぜい十年ほどだ。なのにラウルに教えて、自分がすごく偉くなったような気がしてしまう。これも、きっと良くない。いつか俺はできるんだからって気が緩んで大変なことをやらかしそうだ。
自分の命なら自分のへまで失くす分には仕方がない。でも、それにラウルを巻き込むのは嫌だ。
そっか、俺、自分が一人で残されて寂しかったから、ラウルにそんな思いをさせたくないだけなんだ。
なんとか木をギリギリ運べる大きさに調整し、専用の荷台に乗せて馬に引かせる。方向転換や段差には人間が対応しなければならないから、かなりの重労働だ。きこりの仕事の中で一番大変な作業かもしれない。
今はラウルがいるから、なんとかなっているが、これと同じだけの仕事を一人で受けるのは難しかっただろう。神殿からの依頼がそうそうあるとは思えないが、ラウルがいなくなったらウードに人を融通してもらわなければならない。
木材の乾燥場まで木を運べたら、あとは置き方を工夫して風通しを良くして時間が経つのを待つだけだ。
「ラウル、お疲れさん。よく頑張ったな」
「サク……僕、きこりって名乗っていい?」
「もちろん。お前は立派なきこりだよ」
頭の布を取り、首筋の汗をぬぐう。今日最後の日差しが、ラウルをきらきらと輝かせていた。すごく綺麗だ。
「サク?」
「乾燥してる間に、これからのことを話そう」
「うん」
頭のいいラウルに話をさせると、言いくるめられてしまう。ラウルが望むならそれでもいいと思ってしまうけど、先のことを考えたら言いくるめられていてはいけない。
だってラウルの知っている常識は貴族のもので、庶民の当たり前ではないんだ。
「ラウル、俺は普通に嫁さんをもらって、子供を育てて、子供のうちの誰かががきこりになってくれたら嬉しいんだ。お前に子供は産めないだろう?」
「子供は神殿に孤児がたくさんいる。子供のうちから引き取ってもいいし、神殿を出る年から預かってきこりの仕事を教えてもいい」
性別を盾にするのは卑怯だと思ったのに、するりと解決法を示される。そんな手があったか……いやいやいやいや。
「し、仕事はどうでも、お前が他の誰かを好きになったら俺はどうしたらいいんだよ……」
どう見ても選ぶのはラウルだ。きこりの仕事は安定しているけれど、町から離れた家に俺と二人きりの生活を喜んでくれる嫁なんてきっとすごく珍しい。
「サクしか好きじゃない」
「それは、お前が他のやつを知らないからだ」
「私だって、以前はいろんな人と関わっていたわ。何も知らない雛鳥じゃない」
ぐっと肩を両手で掴まれて顔を覗き込まれる。気持ちと逆の体格差が落ち着かない。
「俺にとってはお前はいつまでたっても雛だ」
「……どうしたらわかってくれる?」
「半年、ウードのとこで働け。納品は二回ある。その間、町でいろんな人と関わって来い」
取り繕うときは完璧に表情を作れるのに、今は全身で不満を訴えている。俺の傍を離れたくないと思う心は嬉しい。俺だって、ラウルがいるのに嫁が欲しいなんて思えないほどには、満たされてしまっているんだ。
「半年、町で働いても気持ちが変わらなかったら、結婚してくれる?」
「……真面目に考えてやる」
「わかった。頑張る」
神殿への最初の納品の時、ラウルは木材と共に町に行った。
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