上 下
23 / 37

24 考えるだけだから

しおりを挟む
 じっと顔を見ていると、ラウルがふいっと目を逸らした。当たりか。

 三年の間、俺はラウルにきこりの仕事を教え、ラウルは俺に物事の考え方を教えた。会話の裏を考えることが当たり前だと、貴族って怖いと思いながら聞かされてきたのがここにきて役に立っているようだ。

「もしかして、その女言葉も計算か?」
「……計算というよりは、こちらの言葉遣いのほうが落ち着くの。気持ちわるい?」
「いや、慣れてるからべつに」

 顔も性格も良いけど、言葉遣いがいまひとつというのはある意味愛嬌があっていいと思う。

「ラウルなら町に行けば相手なんてよりどりみどりだ」
「サク以外の人なんてどうでもいい」
「俺はどうでもよくない。せっかく貴族じゃない生活ができるのに楽しまないのか?」
「サクときこりをするのが楽しいもの」

 好きだ好きだとしがみついている幼児を思い浮かべていたが、考えが少し冷えた。
 目の前にいるのは成人した男で、きこり見習いだ。一度も納品していないのに一人前のような顔をするのは違う。恵まれた山の生活に満足して働かないのは違う。このままじゃ、ラウルは俺にくっついてきこりの真似事をしているだけの駄目な奴になってしまう。
 ここしばらくは気候も穏やかで危険がないが、山が荒れたら酷いことになる。俺がずっと生きていられるわけじゃない。母は身体が強くなくて、すごく寒い冬が来た時に耐えきれなくて死んでしまった。丈夫だった父も母が死んで気力を失い、些細な病気であっけなく死んでしまった。残される者の気持ちはよくわかっている。

「まだ一回も納品したことがないくせに、知った風な口をきくな」
「サク……」
「まずは今回の仕事をしよう。大きな木だから、倒すのも今までよりも難しい。寝かせ方も二通りだから勉強になるだろ。納品してから、完成品を見せてもらおう。そうしたらお前の甘ったれた考えも変わるさ」

 思わず表情もきつくなってしまったが、頭のいいラウルなら俺の言いたいことがわかるはずだ。

「この山は俺たちが生活するのに十分だけど、いつでもこんなに穏やかじゃない。新しい王様は大丈夫だって言ったみたいだけど、出て行けって言われたら出ていくしかないんだよ。そうなったときに、どうやって生きていくか考えなきゃ。俺はお前が一人前の男になってくれるのが嬉しい」

 こんなに恵まれた山だけど、父の兄弟も祖父の兄弟も、どんどん山を下りて町で暮らすことを選んでいった。母が山の素材を売ることを提案しなかったら、木材だけで生活し続けていて、もっと貧しい生活だっただろう。生活に余裕があるのは、最近なんだ。

「サク、ごめんなさい。他人が来て、ついサクが取られるんじゃないかって不安になった」
「鳥の雛は卵から孵って最初に見たものを親だと思うらしいけど、お前も似たようなもんだ。いろんなものを見て、それでも俺がいいって言うなら考えてやる」
「絶対よ!!」
「考えるだけだぞ」

 ウードとシテムの誤解を解くにも、何事もなければ次に会うのは半年後だ。のんびりとした時の流れが当たり前すぎて、半年の間に町では俺とラウルの結婚がすっかり知れ渡っているなんて、思いもよらなかった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

鬼上司と秘密の同居

なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳 幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ… そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた… いったい?…どうして?…こうなった? 「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」 スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか… 性描写には※を付けております。

騎士団長の秘密

さねうずる
BL
「俺は、ポラール殿を好いている」 「「「 なんて!?!?!?」」 無口無表情の騎士団長が好きなのは別騎士団のシロクマ獣人副団長 チャラシロクマ×イケメン騎士団長

社畜だけど異世界では推し騎士の伴侶になってます⁈

めがねあざらし
BL
気がつくと、そこはゲーム『クレセント・ナイツ』の世界だった。 しかも俺は、推しキャラ・レイ=エヴァンスの“伴侶”になっていて……⁈ 記憶喪失の俺に課されたのは、彼と共に“世界を救う鍵”として戦う使命。 しかし、レイとの誓いに隠された真実や、迫りくる敵の陰謀が俺たちを追い詰める――。 異世界で見つけた愛〜推し騎士との奇跡の絆! 推しとの距離が近すぎる、命懸けの異世界ラブファンタジー、ここに開幕!

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

親友と同時に死んで異世界転生したけど立場が違いすぎてお嫁さんにされちゃった話

gina
BL
親友と同時に死んで異世界転生したけど、 立場が違いすぎてお嫁さんにされちゃった話です。 タイトルそのままですみません。

馬鹿犬は高嶺の花を諦めない

phyr
BL
死にかけで放り出されていたところを拾ってくれたのが、俺の師匠。今まで出会ったどんな人間よりも強くて格好良くて、綺麗で優しい人だ。だからどんなに犬扱いされても、例え師匠にその気がなくても、絶対に俺がこの人を手に入れる。 家も名前もなかった弟子が、血筋も名声も一級品の師匠に焦がれて求めて、手に入れるお話。 ※このお話はムーンライトノベルズ様にも掲載しています。  第9回BL小説大賞にもエントリー済み。

本日のディナーは勇者さんです。

木樫
BL
〈12/8 完結〉 純情ツンデレ溺愛魔王✕素直な鈍感天然勇者で、魔王に負けたら飼われた話。  【あらすじ】  異世界に強制召喚され酷使される日々に辟易していた社畜勇者の勝流は、魔王を殺ってこいと城を追い出され、単身、魔王城へ乗り込んだ……が、あっさり敗北。  死を覚悟した勝流が目を覚ますと、鉄の檻に閉じ込められ、やたら豪奢なベッドに檻ごとのせられていた。 「なにも怪我人檻に入れるこたねぇだろ!? うっかり最終形態になっちまった俺が悪いんだ……ッ!」 「いけません魔王様! 勇者というのは魔物をサーチアンドデストロイするデンジャラスバーサーカーなんです! 噛みつかれたらどうするのですか!」 「か、噛むのか!?」 ※ただいまレイアウト修正中!  途中からレイアウトが変わっていて読みにくいかもしれません。申し訳ねぇ。

祝福という名の厄介なモノがあるんですけど

野犬 猫兄
BL
魔導研究員のディルカには悩みがあった。 愛し愛される二人の証しとして、同じ場所に同じアザが発現するという『花祝紋』が独り身のディルカの身体にいつの間にか現れていたのだ。 それは女神の祝福とまでいわれるアザで、そんな大層なもの誰にも見せられるわけがない。  ディルカは、そんなアザがあるものだから、誰とも恋愛できずにいた。 イチャイチャ……イチャイチャしたいんですけど?! □■ 少しでも楽しんでいただけたら嬉しいです! 完結しました。 応援していただきありがとうございます! □■ 第11回BL大賞では、ポイントを入れてくださった皆様、またお読みくださった皆様、どうもありがとうございましたm(__)m

処理中です...